舞台評『フィリピン人の父に投げっぱなしジャーマン』感動の嵐

 水色革命とレイナコーポレーションが協力する形で行われた舞台『フィリピン人の父に投げっぱなしジャーマン』を西日暮里の戸野廣浩司記念劇場で見てきた。
 この話は随分前からレイナがプロレスものの舞台をやるという企画で聞いており、それの演出を手掛けるMARUちゃんの手腕に期待していた。もう何本も感動する作品を手掛けてるので、作品作りの良さについては特に説明する必要もないかなと思う。

 まずこの舞台の主役に選ばれたのが朱里。MARUがこの企画にあたってレイナ関係で誰か演技できる女子プロレスラーはいるのだろうかとつぶやいてた時に、私は真っ先に彼女の名前を挙げていた。というのは実は朱里は昨年1月に改作 踊るやくざ『極道協奏曲~極道たちが奏でる哀愁のメロディ~』という舞台で、女組長役を熱演していたからだ。
 偶然私の友人が同じ作品に出演していたので彼女の芝居を見ており、意外とうまいことは実際に見て知っていた。今回初めて朱里の演技を見た人は「えっ、こんなに朱里って芝居できるの」って思った人もいたんじゃないかなと思う。

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 その朱里と姉妹役に床田菜摘(翔月なつみ)。同じプロレスラー同士だが、所属が違うため戦ったこともないどころか、同じ大会に出たのすら二回ぐらいしかない。ところが初顔合わせの二人が姉妹役はけっこうハマっていた。単に演技だけでなく身長差まで程よく姉妹みたいな感じであり、またプロレス絡みの関係者が多いせいか、朱里もリラックスして望めてたと思う。

 プロレスを題材にした作品は舞台でも映画でも割と多く見てきたが、私が予想していたのとはちょっと違っていた。もっとプロレスを前面に押し出した作品なのかと思いきや、家族愛や友情、人の死に向き合う様々な内容も含まれた話なので、あながちプロレスの言葉に縛られたお約束的なプロレス作品とは異なっていた。

偽善に聞こえそうなありきたりの言葉より、誰もが知る痛み

 舞台である以上物語のそのものがフィクションであるのだが、嘘から出た誠という言葉もあるように、ウソの中に幾つかのホントが紛れていると、どこまでがウソなのかどこまでがホントなのかわからなくなってしまう。それはプロレスに思い入れがより深い人ほどよくわかるものがあるのでは!?

 実際台詞の中にもあるんだかないんだかわからない曖昧な表現が含まれたりするが、現実の我々の生活でも白黒ハッキリ見えてるものってどれだけあるのだろうか!?
 私たちですらそんな得体の知れないグレーゾーンの中での生活をしているのだから、ウソの中にホントが混ざったこの作品は限りなく現実に近い真実かも知れない。この作品がいろんな人から絶賛されるのはそのあたりかもしれない。偽善に聞こえそうなありきたりの言葉より、誰もが知る痛みを伝えることがより現実に近い。

 もう床田菜摘の芝居を何度か見ているが、今回は特に痛みをリアルに感じた。一度でも大きな病気をしている者は痛みにより敏感なのだ。特に今回は作り手もレスラー、演者もレスラー。プロレスのリアルにかなり近い部分をここまで細かく描写した舞台もそんなにないと思う。

 それこそ20年以上前に長与千種の『リングリングリング』というつかこうへい作品の舞台からプロレス題材のを見始めてるから、より私なりにプロレスにこだわる部分もある。やっぱこれだけの人材を集め、これだけのものを現実化するMARUの手腕はある意味プロレス演出に限っていえばつかこうへいクラスの天才なのかもしれない。それはJd’時代から彼女を見て思った意見である。

「プロレスなめるな」という思いが代弁された台詞

 朱里はそんな作品の中にどう自分の立ち位置を見つけたのか、どうフィリピンとのハーフである自分の運命を芝居に絡みつけて演じたのか!? 話したいことはいろいろあったが、逆にいろいろ聞きたいことも多くあった。
 そこらへんMARUも、台湾人の血を引くだけにナショナリズムの苦悩では生粋の日本人に分かり得ないものが分かってる部分もあったんじゃないでしょうか?

 本人は特に気をつけてはいなかったようですが、この作品の台詞の節々にMARUが思う「プロレスなめるな」という思いが代弁されていたような気がする。私も時々それをなだめていたこともあるので、尚更感じやすかったからかもしれませんが…。
 とにかく話の本筋を記すとネタバレに繋がるので、こういった曖昧な書き方になってしまうが、これだけ共感できることが多い作品なので、役者もよりのめり込んだのではないかとさえ思う。

 床田菜摘はより演技に磨きがかかっていたので、助演となっていても、事実上ダブル主演と言っても差し支えない扱いだった。特にラストシーンはスターダムでの翔月なつみを知っていたら必見なのだ。
 またこの作品、脇を固める人たちにもプロレス関係者が多く、富山智帆、唯我、プリティー大田、味方冬樹と現役選手並びにリングアナがいて、なおかつ唯我と味方は役者経験においてもベテランとこれは頼もしく、これもまたリアルの味つけにひと味買っている。

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 個人的にはミゼットのプリティー大田さんと会えたのはすごく有意義だった。私も全女出身だけど彼とはスレ違いで一緒になったことがなく、実は会話したのが今回が初めて!! でも同じ全女にいて特に私はミゼットの歴史にも入れ込んだ時期があったので、しばらく話し込みました。
 聞いてびっくりしたのは夏樹★たいようの話が出て、夏樹は一応先輩になるんだけど彼は入門して即デビューのような扱いだったのでデビューした年が同じらしいのです。これは驚きました!! 人間いろいろありますよね。

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MARUと斉藤啓子

 プロレスの出演シーンにおいては乱丸、Ray、斎藤啓子、日向小陽、勝愛美、真琴、加藤遥らが参戦。特に床田と加藤はスターダムの同期。 出演していないもののMARUと斎藤の久しぶりのチームOKとそれぞれに再会もあった。
 プロレス関係者が多く出演していたからか、私が見た金曜4月11日だけでも富豪富豪夢路、山本SANと、直接会ってはいないが藤本つかさが見に来てて、他の日に来ていた選手も私が確認した話ではAKIRA、中島安里紗、広田さくら、松本都などが来ており、やはり役者経験を持つレスラーが多く来ていたようだ。それぞれに感じたものがあったのであろうか!?

是非映画化をお願いしたい感動の秀作

 レスラー以外の役者にも水色革命の天晴一之丞や関根慶人が安定感のある演技で脇を固め、MARUの昔からの女優仲間である大星圭子が彼女ならではの存在感で笑いを取り、なんと言っても水色革命においては良き大先輩となる女優藍とも子(代表作に『メカゴジラの逆襲』など)がさすがの演技で見事に家族愛を表現されていた。
 ここらへんは藍さんとMARUが参加していた真夏座で見てきたことが個人的に役に立った。これだけの名レスラーや名役者さんによるものがしっかりと一つにまとまっていたことにまず驚く。

 これだけ育った境遇が違いすぎる人が集まっておきながら、ちゃんと一つの題材に、良質な完成度を持った作品に仕上がってるのは演劇的に見てもスゴイことだと思う。安易に一言でスゴイとか面白いで片づけちゃいけないようなクオリティーの高さがあったんじゃないかと。

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 なんか見てて、これは映画の演出に近いのではとも感じた。連日決して大きくはない戸野廣浩司記念劇場が満員だったので、見れた人がごく限られたのはもったいないかと思う。これは映画化してもコンテンツとして面白くなるんじゃないかなと!! 個人的にな意見ではあるが、どこかしらのプロデューサーの方が見ていらしたら考えてもらいたいものだ。
 長々と個人的な意見を物申す形になってしまったが、とにかくプロレスと舞台の素晴らしいコラボ、いやタッグに感動された方が多くいた。映画化が無理だとしても、いつかはまたこの作品の再演を望むのである。
 次はもっと大きな劇場、もしくは会場でやってもいいんじゃないでしょうか!?

by A-rex

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