元週刊ファイト編集長・井上譲二の精魂の筆!『「つくりごと」の世界に生きて・プロレス記者という人生』はプロの視点、批評眼にうならされる好著だ!

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 プロレスの試合はショーであって競技ではなくあらかじめ決められた結果に支配されているのは動かしがたい事実であると、それを氏は「これはカミングアウトの是非を問う」という意味ではなく、「栄華を誇ったプロレスがなぜいまや世間に届かないジャンルになってしまったのか」という観点から、自身の個人史的側面も踏まえた上で書かれた正直な回顧録である。

 安易な暴露本的体裁とはならず、今や数少ないマスコミ第一人者と言える氏の、業界に対する提言が軸となった。自身が関わったかつ知りえた事象を、当時私はこの事に対してどう思ったのかを考察しており、真の愛好家にとっては「さすがこの道のプロは違う」と唸らされる必読の書なのである。

 活字プロレスに先ずこの人ありと謳われたⅠ編集長こと週刊ファイト紙編集長・井上義啓氏の「時間という名の魔術師」というフレーズ。それは〈プロレスとは、ある時間が経たない事には本当のことを明らかにしようとはしない。プロレスは携わった人たちも真実を語ろうとはしない。だがもう一つの意味がある。時間という魔術師が人の世の悩み、憎しみ、カーッ!となった感情などを平静な水の流れを変えるということである。

 「その事が今になって私にもよく理解できるようになった」という氏は、こうも言う。「プロレスの持つ独特の性質から本当の事が書くことができなくなってしまっており、一般のライターが特に真剣勝負ではない!という前提において書いた著作の方が面白かったりしたものであったりする」、と……。そして「今や私自身が、肝心な事を書き記して見せよう」という決意が本書には漲っているようだ。

 氏の経歴は、週刊ファイト紙で記者生活をスタートとした1972年の時点で「プロレスというのはこういうものだ」という確信に近いものを既に持っており、そのことに関してどの様に折り合いをつけていくかを考えたという。とにかく「プロレスは真剣勝負ではないというのを考えないでおこう」というのが、自身の職業訓とせざるを得なかった。
 正式入社後には、海外特派員としてアメリカのニューヨークへ単身旅立った。行った本人のみならず、送りだしたI編集長にせよ、これが日本のプロレス報道史上、画期的な決断であったことは述べるまでもない。
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左からブルース・クリッツマン、ビル・アプター、ジョージ・ナポリターノ、筆者、フランク・アマロ 1980年8月9日ニューヨーク旧シェイ・スタジアム 撮影:テレ朝プロデューサー栗山満男
時効!昭和プロレスの裏側②ザ特派員:今だから書ける米マットの真実

 以降はフランク井上特派員のペンネームで、語学力を駆使して精力的に取材活動を始める。国内の様々な制約を受けない、本物のプロレス記者がついに誕生したことになろう。力道山時代のプロレス記者は、広報係りだったと切って捨てる以前に、そもそも取材する側が何ら舞台裏まで知らなかった事実も記録に残っている。知った途端に、それまで書いてきたものが恥ずかしくなり、辞めてしまった者も少なくない。そんな知られざる報道史をも踏まえるなら、週刊ファイト躍進の原点は、能力を兼ね備えた人材派遣による、まっとうな海外取材の成果にあったのだ。

 タイトル移動劇、チャンピオン同士のダブルタイトルマッチの背景、初来日レスラーの直前インタビュー等、これぞファイトと言える先取り情報、スクープを連発して他社を出し抜くという週刊ファイトイズム全開の黄金時代の幕開けは、この時代からの事となりえた。

 日本のプロレスは、真剣勝負であるとの前提での報道が続く。特に新日本プロレスでは、かつて度々あった茶番めいた試合展開にはマジになって観客が怒り、抗議行動で暴動を起こしてしまう。作りごとの世界なのに、この異常さは日本ならではの光景だ。リングサイドで取材しているとその狂気ともいえる熱気が感じられ、とんでもない殺伐とした状況に立ち会ってしまっていると、それとは別種の興奮が脳内に駆け巡っていたのかもしれない。そんな揶揄の箇所もある。

 その後日本に帰って第一線で活躍、前述した井上義啓氏の次に編集長になったS氏の後を受け週刊ファイト編集長になり、2006年9月の廃刊になるまでその任を果たす。

 氏は、プロレスに学んだのは「許し」であるという事であるのが特に印象に残る。
 それは真のカリスマレスラー、アントニオ猪木の私生活上の都合の悪い記事を表に出してしまい本人を怒らしてしまった事が氏にも伝わり、直接、猪木本人に詫びの連絡を入れるも「それはまるでなかったことになってしまった」という。天龍源一郎がいうところのいい加減(この場合適当、手抜きというよろしくない意味ではなく、程良い加減という意味であろう)な反則が5秒間認められる、何でも取りこんでしまうという許容範囲の広さもあり、これもまたプロレスの魅力なのだ。

 人を許すという心をスターレスラー猪木から学んだ。これだけでプロレス記者になってよかったという述懐がある。これで読者のプロレスマニアもまた、救われた気になる按配だ。

 ファイト!ミルホンネットでは井上譲二氏の「マット界舞台裏」が付録付きで毎週ダウンロード販売している。人気企画だったコーナーの後続版のように思っておられる向きもあろうが、いざ読まれてみたら皆さん驚かれる。週刊ファイト紙面では制約もあって書けなかった事でも、後を継ぐ形となったミルホンネット版では、もはやタブーはない。アップダウン予想についても存分に書かれており、業界関係者はもとよりプロレス中毒患者の皆様には無視できない盛りだくさんの内容となっているのだ。
 ぜひご愛読の程よろしくお願いいたします。

 きっと当時の「週刊ファイト」愛読者だった方は、ラストの白黒ページのマット界舞台裏のコーナーが楽しみで、そのページから最初に読んでいた方は多かったと思われる。何倍にもパワーアップしたスクープの連続に、ファイト魂は死なず! きっとご満足していただけることでしょう。

 最後にあえて強調しておきたい。
 井上譲二(フランク井上)著作には、はずれなし!
                                レトロ狂時代

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この書評のノーカット全長版は、『マット界舞台裏4月1日号』に収録されます。
なお、『マット界舞台裏』銀行振込みによる定期購読10000円(1200円換算)をお申込みの方に限っては、井上譲二先生の双葉社刊『闘魂の呪縛』、あるいは本著・宝島社刊『「つくりごと」の世界に生きて~プロレス記者という人生』をもれなくプレゼントいたします。振込金額をサイン入りポーゴ本+映像セット3000円や別冊ミルホンネット購入等に充当されても構いません。
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