お盆にプロレスファンが想う故郷は昭和のプロレスなのか?~岐阜市歴史博物館来訪記

 6月28日から7月29日までの間、岐阜市歴史博物館にて「岐阜とプロレスその知られざる魅力、プロレス博物館展」というイベントが開催されているのを知り、レトロプロレス愛好家の私としてはじっとしていられなくなった。
 ベースとなったのは、レトロプロレス・マニアには著名な蟹江敦氏のプロレスコレクションだ。すでに「日本のプロレス初期に活躍したヒーロー達展」など数回にわたり開催されている。今回はプロレス草創期の様子と岐阜との関わりをテーマに、往年のプロレスファンには懐かしい”火の玉小僧”と呼ばれた吉村道明氏(2003.2.15没。享年76歳)や、岐阜市のプロモーターでプロレスの発展に大きく寄与した林藤一氏(1981.5.31没。享年72歳)の逸品をはじめとする貴重な品々や資料等が公開されていた。

 岐阜市歴史博物館は岐阜公園内の入り口を入ってすぐ右手のところにあり、周りの景色がとてもきれいで散策するのにもってこいの場所である。テーマの展示コーナーは同館の2階の一角にもうけられており、その入口には赤い闘魂ガウン姿の”猪木引退”の太文字が入った引退記念ビデオシリーズの等身大ほどの告知パネルが飾られていた。

 壁沿いの左側よりスタンドガラスケースを順に観覧させていただいた。
「(プロレスからおもちゃまで)プロレスブームの広がり」のコーナーから、プロレスの歴史を語るのに外してはならないテレビとの関わりとして三菱製白黒テレビ受信機が展示されていたのが目を惹く。ほかにもナショナル家電電化のしおり、力道山がイメージキャラクターのナショナル強力バイブレーター(肩こりや疲労回復器具)や力道山パチンコ器具、かるた等が展示されており早々のプロレスブームが伺えるものがあまりある。

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 次は、相撲界や柔道界などから人材が集まった日本プロレスの誕生だ。
「力道山のデビューを起点にして」のコーナーに続き、力道山の日本プロレスから猪木の新日本プロレスまで、「日本を代表するプロモーター故、林藤一氏」のコーナーへと続く。新日本プロレス第2回MSGタッグリーグ戦・林藤一追善興行ポスター(共同企画)1981年は貴重な展示であった。

 IWGP構想以前の新日の最高峰リーグ戦が「MSGシリーズ」だ。5年に渡り開催されたが、81年大会直前、アンドレ・ザ・ジャイアントがキラー・カーン戦で衝撃の骨折、参戦不能になりWWWF傘下選手ではないタイガー・ジェット・シンが急遽呼ばれる。林氏が仕切った名古屋大会でのスタン・ハンセンとの肉弾戦(引分け)をはじめ、トップ外人の称号を譲ろうとしなかった『ワールド・プロレスリング』中継黄金期のシンの暴走の記憶がよみがえった。
 林藤一氏への感謝状盾1975.5.16「新日本プロレス第2回ワールドリーグ戦における協力と成功に対して」などの逸品は、生前の氏の功績がしのばれる。

 展示ケースは右へ移るまでの壁には往年の特にワールドプロレスリング中継を観ていた新日本プロレスファンには心地よい(懐かしい)響きの岐阜市民センター(1984.11.3岐阜市文化センターと改称)の興行12点ポスターが貼られている。ど真ん中の”急遽来襲”の太文字が躍る密林王グレートアントニオのバスを引っ張っている写真入りのミニポスターが特に目を惹いた。

 右側の展示ケースに移ると岐阜市出身でプロレス黄金期より活躍した吉村道明氏のコーナーだ。この人ありてエースレスラーが光る真の名脇役にして滅私奉公が信条の職人だった。岐阜の夏の風物詩、鵜飼のデザインと文字のガウンはマニア感嘆の逸品で昭和40年代には岐阜市講後援会から寄贈されたというもの。そして他には自伝『根性』(自費出版)やサイン色紙(これも氏の信条の忍という言葉が記されている)などが展示されていた。

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 壁沿いの最後の展示ケースには、岐阜出身のレスラーたち(橋本真也、棚橋弘至、山本尚史)の記念品が飾られている。破壊王のゼロワン時代の幅広サイズのウインドブレーカーがひときわ目立つ。壁沿いの展示コーナーをほぼ一周して入り口すぐ右手の個別のガラスケースには、テーマとは別枠としてメキシコCMLL世界ヘビー級チャンピオンベルトが飾られており、そこには「世界一重たいチャンピオンベルト 重量6㎏、初代モデル(現在は4代目)」と紹介されていた。

 最後に中央の四角い四面のガラスケースには、林藤一氏のプロモーターバッジや日本プロレス社員証、記念置物をはじめとする逸品が並ぶ。それにプロレス版宮本武蔵、カール・ゴッチ(2007年没)やルー・テーズ(2002年没)をはじめとする往年の名レスラーのサイン色紙や写真、また上田馬之助後援会設立記念号「一匹狼」vol1(表紙はカラー)がさりげなく展示されており、東スポ系の新聞で少し前に連載されていた”セメントのできる悪役レスラー伝”を愛読していた者には嬉しい。ファイト!ミルホンネットで販売されているTOSHI倉森著『カリフラワーレスラーの誇り』は、往年のハリウッド・スターやエルビス・プレスリー好きの人には、上田馬之助の金狼の遺言パートがさらに2倍楽しめる内容であった。

 なお、かつてデパートなどでお目見えすることもしばしばあったプロレス展示会が現在ほとんど開催されることはなく、このような催しは希少なので今後も催しがあれば行ってみることを是非お勧めしたい。聞くところによると、蟹江敦氏は地元東海市にアマレスからプロ転向者、鉄人テーズなどの往年の名レスラー達の記念品が展示されているアメリカ・アイオワ州のインターナショナル・レスリング・インスティチュート&ミュージアムのようなものを設立したいという生涯の夢があるという。その夢がかなう事、そして同好の士による協力、賛同が増えることをつとに願うばかりだ。
                                       レトロ狂時代