プロレス文化研究会は、レトロ愛好家なら全員集合だ!

 7月7日の例会レポートでお伝えしたように、関西を基盤とする「プロレス文化研究会」は、この愛すべきジャンルを学究対象として長い歴史を誇るユニークなサークルである。第29回に関しては、筆者を含めて二次会などでもレトロマニアが集結していた印象があった。そこで私事で恐縮ながら、レトロ・ビデオ「ストロングプロレスの巨人たち」(全10巻)が東映ビデオ株式会社から発売された際の随想を記してみたい。
 あれは1984年当時であったか、当時まだビデオデッキは高価な商品であった。DVDが主流となった今、LDとともにビデオテープは過去の遺物になった感がある。この作品は1本9800円、各編収録は1~5試合、35分~53分しかない。それでも、厚紙ケース仕様のビデオテープを借金してでも購入した全国のプロレスマニアは、かなりの割合でおられたかと思う。初めての「レトロ・タイトル」だったからだ。
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 パッケージにある、体を鍛え上げたレスラーが膝を曲げてしゃがんで右腕でバーベルをあげている小さいイラストは素晴らしい。各巻の試合が流れる前の、アップテンポのテーマ曲もまた耳に残っている。収録試合についても貴重なものばかりだ。1961年6月30日、シカゴ・コミスキーパークでの、記録的なすさまじい大観衆を集めたNWA世界ヘビー級王者交代劇パット・オコーナー対バディ・ロジャース戦は、活字でしか知らなかった伝説をついに見たという満足感があった。
 この時代に最高の遺恨試合だったフリッツ・フォン・エリック対ホイッパー・ビリー・ワトソン戦の映像(同年1月21日)も残されている。レフェリーは元プロボクシング、ヘビー級世界チャンピオンのロッキー・マルシアノだ。当時から、外部の大物をレフェリーに迎えるギミックは遂行されていたのである。ホイッパー・ビリー・ワトソンと言えば、ロックの王者エルビス・プレスリーが若き日のカナダ・トロント公演バックステージで、紳士然としたワトソンと記念写真を撮ったことが知られている。ミルホンネット発売のTOSHI倉森氏による『カリフラワーレスラーの誇り』という写真集には、エルビスがプロレスリングのファンであることに触れられており、かの写真はこちらにも収録されている。対するエリックのセコンドは、のちのNWA世界王者ジン・キニスキーだった。
 1954年9月30日の黄金カードは、アントニオ・ロッカ対ハンス・シュミット戦だ。レフェリーは、これまた元プロボクシング世界ヘビー級チャンピオンのジョー・ルイスである。1963年5月30日のNWA世界ヘビー級タイトル戦ルー・テーズ対アントニオ・ロッカ戦をはじめとして、選手リストは「貴重」というにはもったいない豪華な陣容のビデオだ。未来日の強豪ドン・イーグル、ベアキャット・ライト、フレッド・アトキンス、ムース・ショーラック、素顔の頃のザ・デストロイヤー=ディック・ベイヤー、未来日の強豪ユーコン・エリック、クラッシャー・レジー・リソワスキー、正当派時代のフレッド・ブラッシーに悪役専科のミスターモト、さらには兄ビルと同様シューター!ダン・ミラーまで映っている。ちなみにもう一人の兄弟ビッグ・エド
・ミラーに関してはギミック用の兄弟であり、大物フリッツ・フォン・エリックに対して大善戦している試合が収録されている。
 キラー・コワルスキーは、のちに道場師範としてHHHを鍛え上げた。その他おなじみのボボ・ブラジル、スカイ・ハイ・リー、エドワード・カーペンティア、バーン・ガニア、ウィルバー・スナイダー、デューク・ケオムカ、ショーマン派の元祖ゴージャス・ジョージ、ザ・シーク、未来日の超大物バロン・ミッシェル・レオーネなど、そうそうたる面子の伝説的なファイトを観れたのは本当に感激であった。特に、テレビ・プロレスの元祖であるゴージャス・ジョージのパフォーマンスは何度繰り返し観たことか!
 現在は、とうの昔に海外版のレトロプロレスのVHSテープまで入手可能になった。例えば東映ビデオ版のオコーナー対ロジャース戦はところどころカットしてあり、試合後のロジャースのインタビューも収録されていないが、海外版にはノーカットで収録されている発見もあった。また、開局10年になるファイティングTVサムライの出現によって、映像の価値に限っては薄れた感もある。しかしながら、レトロプロレスの映像がキチンとした形で観れると待ちに待って購入して、即ビデオテープを再生して食い入る様に観た最初の感動に勝るものはない。それはかつて、テレビの音楽公演の番組を(旧式の)テレコで録音しては擦り切れるくらい聴いたということと同等のものだと思う。
筆者にとって、厚紙ケース仕様の10本のテープは今をもってレトロプロレスマニアの証として、手放すことはありえないほど大事なものなのだ。唯一、店頭に置いていたチラシによって発売を知ったわけであるが、そのチラシを紛失してしまったのが至極残念でならない。
 プロレス文化研究会の二次会の席では、隣に座った方から「ストロングプロレスの巨人たち」の映像を見たとの話題が出た。普段はなかなか話すことの出来ないレトロプロレスの話が思う存分出来て思わずうれしくなった。このサークルにはレトロ愛好家が集結しているようで、同好の士にはお勧めの集いなのだ。
 最後に筆者がレトロプロレスに特に魅せられた理由は、アニメや漫画のタイガーマスクの影響に加え、月刊ゴングで見た往年の名レスラーの写真に響くものがあったからである。自分の理想のレスラー像は入場シーン、そしてリングに立っただけで絵になる千両役者的な存在、かつ往年のジャズ・ミュージシャンのように、背広にネクタイ姿がピシっと決まった、ただずまいのあるレスラーです。 
                                レトロ狂時代