侍ジャパンに続け! プロレス人気に復活の兆し!?

トップ画像:photo by George Napolitano

 第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は、日本代表(通称:侍ジャパン)が3度目の優勝を飾ったのは周知のとおりだ。普段は野球に興味のない人たちまでがWBCに注目し、日本列島は侍ジャパン・フィーバーで沸き返った。

 そんな侍ジャパンの人気にあやかりたいのがプロレス界である。プロレスだって昔は力道山、ジャイアント馬場、アントニオ猪木らのファイトに日本中が酔いしれた。
 果たして、プロレス界がかつての栄光を取り戻す日が来るのだろうか。

17年前の第1回WBCは、全く関心を持たれなかった

 WBCの開催中、情報番組はどのチャンネルも侍ジャパンだらけ。WBCの放映権があった地上波はテレビ朝日とTBSだけだったのに、日本テレビやフジテレビは他局の視聴率稼ぎにせっせと協力していた。
 もちろん、侍ジャパンが快進撃を続け、最終的には優勝したということもあっただろう。だが、それだけではない。WBC開催前から、侍ジャパンのキャンプ地である宮崎は既に大盛り上がりで、テレビでも侍ジャパンの一挙手一投足を報道していた。
 筆者は、とても信じられない思いだ。なぜなら、かつてはこんな状態ではなかったからである。

 今から17年前の2006年、第1回WBCが開催された。筆者はこの時、東京ドームで行われた1次ラウンドの全試合を生観戦したのだ。
 日本にとって初戦である中国戦、東京ドームのスタンドはガラガラだった。第2戦の台湾戦では中国戦よりはマシだったものの空席が目立ち、第3戦の韓国戦でようやく満員になったとはいえ、チケット完売とはいかなかったのである。それに、WBCに関する報道も少なかった。
 今年の場合、大谷翔平やダルビッシュ有らがいたから注目を集めたのでは、と思われるかも知れないが、第1回の時だってイチローや松坂大輔といったスーパースターが出場していたのだ。

▼2006年の第1回WBC、東京ドームでの韓国vs.中国。日本戦ではないので客がほとんどいない

 その4年前の2002年に日韓共催で行われたサッカーのワールドカップ(W杯)とは全く違う。サッカーW杯は日本全国どこでも大盛況、もちろんテレビでも連日W杯の話題で持ち切りだった。
 サッカーはワールドワイドなスポーツなのに対し、野球は国際試合には全く興味を持たれていないのか、と思ったものである。しかも、第1回WBCの2年前には球団削減騒動(注1)が勃発し、野球危機が叫ばれていた。そんな中で始まった第1回WBCも、全然盛り上がらない。

 その状況が一変したのが、アメリカで行われた2次ラウンド。アメリカvs.日本でボブ・デービッドソン事件(注2)が起きた。世紀の大誤審と言われたこの事件を各局のワイドショーがこぞって取り上げ、日本は敗れたものの皮肉なことに却ってWBCへの関心が一気に高まったのである。
 2次ラウンドは1勝2敗となった日本だったが、失点率で奇跡的に準決勝進出。韓国とキューバを撃破し、日本は第1回WBC優勝を飾った。開催前の閑散とした雰囲気がウソのように、日本中がWBC優勝で興奮の坩堝と化したのだ。

 そして、今年のWBCでは日本戦は全てチケット完売。東京ドームで行われた準々決勝のキューバvs.オーストラリアは、日本戦ではないのに3万5千人の大観衆が詰め掛けた。
 日本戦の視聴率は全試合40%超え(以下、全て関東地区)。最高は準々決勝のイタリア戦で48.0%、決勝戦のアメリカ戦では平日の午前中だったにもかかわらず42.4%を記録した。日本人の4割はサボリーマンだったらしい。
 野球離れ、テレビ離れが叫ばれる昨今、それらを完全に覆す数字となった。

 試合内容も、劇的なシーンの連続。準決勝のメキシコ戦では、絶不調だった“村神様”こと村上宗隆が奇跡の逆転サヨナラ打を放つ。決勝のアメリカ戦、最後は大谷翔平がマウンドに上がり、スーパースターで同僚でもあるマイク・トラウトを三振に斬って取り優勝を決めるという、水島新司が描くマンガみたいなラスト。
 もし野球にプロレスのようなブッカーが存在したら、素晴らしいドラマを生み出した名ブッカーとして称えられるか、ベタ過ぎるダメ・ブッカーと罵られるかのどちらかだろう。

 さて、そのプロレス界はどうか。野球人気復活にあやかり、プロレス人気も復活といきたいところだが、昭和の終わりにプロレス定期放送が全国ネットの地上波ゴールデンから撤退して、平成時代には一度も復帰せず、令和になってもその気配すらない。
 だが、プロレス人気復活を思わせる、興味深いデータがあったのだ。

(注1) 球団削減騒動……2004年、不人気だったパシフィック・リーグの大阪近鉄バファローズがオリックス・ブルーウェーブとの合併を発表(それが現在のオリックス・バファローズ)、それを機に各球団オーナーが球団削減を画策し、1リーグ8球団制へ一気に加速。しかし、ファン無視の暴挙にファンが猛反発、さらに選手会もストライキを断行し、新球団の東北楽天ゴールデンイーグルスが誕生して2リーグ12球団制が維持された。以来、パ・リーグ各球団は親会社への依存から脱却し、球団経営を真剣に考えるようになり、セントラル・リーグに負けない人気を博すようになる。

(注2) ボブ・デービッドソン事件……第1回WBCのアメリカvs.日本、3-3の同点で迎えた8回表の日本の攻撃で、外野フライにより三塁走者の西岡剛が生還し、日本が勝ち越したかに思えた。アメリカ側はアピールを行うも塁審の判定はセーフ。しかし、さらにアメリカの監督が抗議すると、球審のボブ・デービッドソンは西岡の離塁が早かったとしてアウトを宣告した。スローVTRで見ても西岡は正規のタッチアップをしており(当時はリプレイ判定がなかった)、塁審が一旦セーフと判定したにもかかわらず球審がそれを覆したこと、さらにデービッドソンがアメリカ人だったこともあってアメリカに贔屓したのでは、と日本中に怒りが渦巻いた。結局、日本はサヨナラ負けを喫する。

去年の終盤からゴールデン・タイムでプロレスが躍動!?

 現在、ローカル番組を除き無料テレビでプロレス中継を見られるのは、テレビ朝日の『ワールドプロレスリング』と、BS朝日の『ワールドプロレスリング・リターンズ』のみ。
 地上波の『ワープロ』は深夜の30分番組、しかも地域によって放送日時はバラバラである。そこへいくとBSの『リターンズ』は全国一斉放送、さらにゴールデン・タイムの1時間番組だ。つまり、地上波の『ワープロ』よりも、BSの『リターンズ』の方が一般人の目に触れやすい。

 その『リターンズ』は、去年(2022年)の終盤まで、無料BSのスポーツ部門ランキングに一度も週間トップテンに入ったことがなかった。ちなみに、無料BSのスポーツ部門で圧倒的に強いのはゴルフ番組。ゴルフの大会だけではなく、ゴルフのレッスン番組も大人気だ。無料BSの視聴者は年齢層が高いと言われるが、それを裏付ける結果となった。
 さて、『リターンズ』がようやく週間トップテンに顔を出すのは10月28日の放送。去年の10月と言えば、プロレス界で何が起こったか憶えているだろうか。

 そう、アントニオ猪木さんが亡くなったのだ。そして、11月11日の猪木追悼スペシャルでは7位にランクインし、ポイントは40.3%を記録した。なお、BSの視聴ポイントは地上波の視聴率とは異なり、1位を100%とし、それ以下の順位はその相対指数となっている。
 12月30日の年末3時間スペシャルでは昨年最高位タイの6位、ポイントは昨年最高の45.2%を叩き出した。ちなみに、トップテンに入った時の『リターンズ』のポイントは、だいたい20%超ぐらいだ。

 昨年の52週のうち『リターンズ』がトップテンに入ったのは7回だけ。その7回が10月28日以降に集中した。
 今年に入ると『リターンズ』は、3月12日までの10週で既に6回もトップテン入りしている。昨年は終盤まで一度もトップテン入りしていなかったのとは対照的だ。
 今年と言えば、武藤敬司が引退した。武藤の引退試合はまだ『リターンズ』では放送されていないが、プロレスに関心を持たれるキッカケになっただろう。
 猪木さんの逝去と武藤の引退という、プロレス界にとって寂しいことが、却って一般人の興味を煽ることになったのだ。

2023年がプロレス人気復活元年

 本誌でも書いたことがあるが、戦後の日本で最も先進的なスポーツはプロレスだった。昭和の中頃までは『巨人・大鵬・卵焼き』の時代で、プロ野球ファンの大半は巨人ファンであり、読売ジャイアンツが日本一になるとそれで満足。日本人選手がメジャー・リーグに挑戦するなど夢また夢だった(唯一の例外が日本人初のメジャー・リーガー、“マッシー”こと村上雅則投手)。

 メジャーと対戦する場と言えば、オフ・シーズンに行われていた日米野球。しかし、観光気分で来日するメジャーの単独チームに、9連覇中の巨人や全日本チームは全く歯が立たなかった。日本のプロ野球は所詮、日本国内でしか通用しない井の中の蛙だったのだ。その頃から考えると、侍ジャパンが今回のWBCでガチのアメリカを敵地で破って優勝したのは感慨深い。
 大鵬が横綱だった頃の大相撲も日本国内のみの内向き興行。大鵬自身はハーフだったが、大相撲の国際化など絵に描いた餅だった。

 しかし、プロレスだけは常に世界へ目を向けていたのだ。ボクシングもそうだが、こちらは軽量級ばかりでヘビー級などとても手が届かず、世界的に有名なボクサーなんていない。
 だが、プロレスでは外国人の世界ヘビー級チャンピオンを日本に招き、あるいは日本人レスラーが海外遠征して王座に挑戦し、奪取していた。

 さらに、力道山の頃のプロレスでは正義の日本人レスラーが悪の外国人レスラーを倒すパターンだったのが、ジャイアント馬場&アントニオ猪木の時代になるとザ・ファンクス、ミル・マスカラス、アブドーラ・ザ・ブッチャー、スタン・ハンセンなどの外国人レスラーが日本で大人気を博す。彼らはプロレス・ファンのみならず一般人にも知られていた。
 しかも、ハルク・ホーガンのように日本で人気が出てから、本場のアメリカで史上最高のスーパースターにのし上がった例もある。日本のプロレスは実に国際的なスポーツだったのだ。

 それが、現在ではどうだ。野球では日本人メジャー・リーガーが当たり前の存在になりWBCでも3度の優勝、サッカーでは日本代表がワールドカップ常連で、大相撲の土俵には外国人力士が溢れている。ボクシングでは相変わらず軽量級が多いとはいえ、井上尚弥という世界的なスーパースターが誕生し、ミドル級では村田諒太が世界王者となり、重量級ボクサーも増えてきた。
 日本人アスリートは外国人選手に見劣りしないほど大型化し、今回の侍ジャパンのように力勝負で対抗できるようになっている。大谷翔平は160km/h台の剛速球を連発し、村上宗隆はアメリカ戦でメジャー顔負けの超特大ホームランを放った。日米野球ではいつもメジャーにパワーで圧倒されていた昭和の日本プロ野球とは隔世の感がある。今や世界で通用しないスポーツは、一般人に見向きもされない。

 ところがプロレス界は日本人対決が主流となり、前述のように昭和の終わりには地上波ゴールデンから撤退。日本人レスラーは小型化し、他のスポーツと比べて時代から逆行している。
 中邑真輔のようにWWEで活躍するレスラーもいるが、一般的な話題とはなっていない。日本のプロレスのスケール自体が小さくなっているのだ。

 おそらく、昭和のようにプロレス中継が全国ネット地上波ゴールデンで定期放送されることはないだろう。むしろ、地上波深夜か無料BSゴールデンという現在のスタイルの方がいいかも知れない。
 今の状況で無理やり全国ネット地上波ゴールデンの定期放送をすると、視聴率が取れずに僅か2クール(半年)で打ち切りになるのがオチだ。地上波深夜の30分番組か無料BSのゴールデンだからこそ、細く長く続けることができる。
 無料視聴が可能にもかかわらずBS放送のCM料は地上波に比べて格安だ。だからこそ、新日本プロレスとブシロードが番組スポンサーとなって放送を続けることができる。もっとも、そんな格安CM料ですら、一般企業がスポンサーにならないことが問題なのだが……。

 しかし、たとえBSでも無料でゴールデン・タイムでの放送を続けているなら、効果が出て来るかも知れない。去年の終盤から『リターンズ』が認知され始めたのも、その現れの可能性がある。
 実際、今年から棚橋弘至が出演する『MEGA BIG』のCMが地上波でガンガン流されていた。しかも、プロレスのシーン込みだ。注目される存在でなければ地上波CMに起用されることはないのだから、プロレスが世間に浸透され始めたとも言える。2019年にも中邑が『どん兵衛』のCMに出演したが、残念ながらこのCMではプロレスのシーンはなく、中邑がプロレスラーだとは一般人には知られなかった。

 地道にプロレスの認知度を広げていくと、全国ネット地上波ゴールデン定期放送は無理としても、ドーム大会を特別番組として地上波ゴールデンで生中継というのは有り得るかも知れない。まだまだハードルは高いのだが。
 とはいえ、前述したようにWBCだって第1回はほとんど話題にならなかった。それが今では、野球オンチのニワカまでがWBCに注目している。

 プロレスも、そうならないとは限らないではないか。2023年がその足掛かりになれば、と思う。


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