[ファイトクラブ]必殺・バックドロップ投げ! 故・水島新司先生の格闘技観

[週刊ファイト2月3日号]収録 [ファイトクラブ]公開中

▼必殺・バックドロップ投げ! 故・水島新司先生の格闘技観
 by 安威川敏樹
・水島新司とあだち充は全く違う
・『ドカベン』は連載当初、野球漫画ではなく柔道漫画だった
・影丸のバックドロップと岩鬼のフロント・スープレックスが激突!
・ドカベン最強の必殺技『持ち上げ一本!!』
・アントニオ猪木がルスカを葬ったのは『ドカベン』を参考にした⁉
・水島新司のライバル、梶原一騎


 先日、漫画家の水島新司先生が亡くなった。筆者は水島漫画を読んだ世代のド真ん中で、この訃報に関し追悼記事を書きたいと思っていたが、『週刊ファイト』にはあまり馴染みのない漫画家ということで、今回は執筆を見送ろうと思っていたのだ。
 ところが、本誌のメイン・ライターであるタダシ☆タナカ氏が「あだち充と水島新司の区別が出来てなかった」と語っていたため、さすがにそれはイカンでしょう、というわけで、予定を変更して水島先生について書こうと思ったわけである。

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『ドカベン』は連載当初、野球漫画ではなく柔道漫画だった

 水島新司と言えば野球漫画、野球漫画と言えば水島新司、というイメージが完全に定着していた。あだち充の『タッチ』や『H2』なども野球漫画には違いないが、野球ファンにとっては「野球漫画かどうか」意見の分かれるところだ。あだち充の描く野球漫画は恋愛に重点が置かれ、どちらかと言えばラブ・コメディー漫画に近いからである。
 その点、水島先生の描く漫画は純粋な野球漫画。若い頃は野球漫画以外も結構描いていたのだが、売れっ子になってからは野球漫画一本に絞っている。

 水島先生の描く野球漫画の特徴は『リアリティ』の一語に尽きると言えよう。水島先生以前の野球漫画では、主人公が常人では実現不可能な魔球を編み出して、ライバルとの一騎討ちに勝利するという、団体スポーツである野球とはかけ離れたものだったが、水島漫画の場合は作戦の駆け引きや、『ルールブックの盲点』で勝敗が決まるなど、野球に精通していないととても描けないシーンが溢れていたのである。
 筆者が成人して、独立リーグの公式記録員を務めるようになってから改めて読むと、水島漫画も結構ツッコミどころが満載だったのだが、それでも野球ルールの奥深さを教えてくれたのは水島先生だった。

 そんな水島先生の大ヒット作と言えば、なんと言っても『ドカベン』だろう。それまでの野球漫画と言えば、主人公は例外なくピッチャーだったが、水島先生は敢えて日陰者であるキャッチャーに焦点を当てたのである。
 そこには、当時は南海ホークス(現:福岡ソフトバンク ホークス)の監督兼捕手だった野村克也の存在があったのだろう。剛速球を投げたり、鋭い変化球を駆使したりして打者を牛耳るピッチャーよりも、それをリードするキャッチャーの方が野球の要と水島先生は捉えたのだ。

 そんな『ドカベン』も、連載当初は野球漫画ではなく柔道漫画だった。後にはやがて野球漫画に移行するという雰囲気を匂わせながらも、鷹丘中学に転校してきた『ドカベン』こと主人公の山田太郎は、人気の野球部には入らずに、弱小だった柔道部に入部する。
 一応は柔道漫画らしく、当時の世相を反映して、アントン・ヘーシンクやウィリエム・ルスカの名前も登場した。日本のお家芸である柔道が、オリンピックでヨーロッパ勢に敗れるようになったのだ。

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影丸のバックドロップと岩鬼のフロント・スープレックスが激突!

 山田が入部した鷹丘中学柔道部は地区大会に参加する。優勝候補は、主将の影丸隼人を擁する花園学院。高校進学後は、山田の後を追うように野球へ転向し、クリーン・ハイスクールのエースとなり『背負い投げ投法』を会得して、山田を苦しめ抜く影丸だったが、中学時代は柔道に命を懸けていた。

 そんな影丸の必殺技は『バックドロップ投げ』。つまり、プロレス技を得意技としていたわけだ。
 もっとも、バックドロップも元々は柔道技である。柔道技の『裏投げ』から派生したのがバックドロップだ。
 現在の『裏投げ』というと、馳浩やショータ・チョチョシビリの投げ方を連想するが、元祖はバックドロップに近い投げ方だったのである。

 山田の鷹丘中学は、影丸の花園学院と対戦。しかし、5対5の団体戦で、山田はチームの勝利のために影丸との対戦は敢えて避けた。打倒・影丸は、チームメイトの岩鬼正美に託したのである。野球転向後は『悪球打ち』で名を馳せる、あの岩鬼だ。
 大会前、影丸の噂を聞き付けた岩鬼は影丸に野試合を申し込み、影丸のバックドロップ投げであえなく返り討ちに遭っている。それ以降、岩鬼は『打倒・影丸』特訓に明け暮れた。そんな岩鬼以外に影丸は倒せない、と山田を含む鷹丘中学の柔道部員は考えたのだ。

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