[ファイトクラブ]7冠アカデミー賞『エブエブ』から考える映画国際潮流とマット界at once

 ポール・トーマス・アンダーソン監督(通称PTA)の秀作『マグノリア』の群像劇になぞらえ、映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(22)、『トップガン マーヴェリック』(22)、『ザ・エージェントJerry Maguire』(96)、『ザ・ファーム 法律事務所』(93)、『その土曜日、7時58分』(07)、1973年が舞台の『リコリス・ピザ』(21)、『追いつめられてNo Way Out』(87)、『ギルバート・グレイプ』(93)、『スリングブレイド』(96)、『グーニーズ』(85)の紹介を軸に、社会を映す鏡である第95回アカデミー賞、新日とImpactの合同興行、スターダム、最新AEW情報を絡め、すべてがAll at Onceに繋がる絶妙なる構成と編集賞ものの、渾身の一撃となるシュート活字委員会による対談長編が満を持して入稿。

 ボーナス特典として、1971年が舞台の映画『ラスベガスをやっつけろ』(98)と、そのFear, and Loathing in Las Vegasをバンド名にした神戸のラウドロックのこと。さらにNHKアナザーストーリーでも紹介された『ラスベガスをぶっつぶせ』(08)についての記事を巻末収録した。


[週刊ファイト3月23日号]収録 [ファイトクラブ]公開中

▼7冠アカデミー賞『エブエブ』から考える映画国際潮流とマット界at once
 タダシ☆タナカ+シュート活字委員会編
・プロレス挿入-編集賞受賞 『トップガン』上回る音響効果 練られた脚本
・新日Impact3・30マルチバース結実ジェイミー・リー・カーティス選出考
・プレゼン役ロック様からの中継と洋画局に降りてきた『マーヴェリック』
・業界救ったトム・クルーズ~フィリップ・セイモア・ホフマン息子初主演作
・マリッサ・トメイが脱ぐ『その土曜日、7時58分』’07『レスラー』’08重厚
・映画街バーバンク73年舞台青春群像『リコリス・ピザ』 ボウイ火星生活
・若きKコスナーNo Way Out追い詰められて イマンのちのDボウイ妻
・NHK BS『ギルバート・グレイプ』ジョニー・デップJルイス Lディカプリオ
・棚橋弘至?愛してます映画『スリングブレイド』それは心に突き刺さる刃
・映画評論とプロレス底なし沼の愛し方!深く知った方が長く楽しめる論
・Dynamite、Rampageに続きAEW3つ目番組制作発表とお寒い日本
・Fear and Loathing in Las Vegas恐怖と嫌悪BワイアットWhite Rabbit
・ラスベガス映画2本と1985年『グーニーズ』の子役キー・ホイ・クァン


オフレコ 第95回アカデミー賞が世界に中継され、Everything Everywhere All at Onceが作品賞、主演女優賞ミシェル・ヨー、助演男優賞キー・ホイ・クァン、助演女優賞ジェイミー・リー・カーティスと、主要部門を含む7冠となった。

―― マット界の専門媒体が取り上げるのには意味があります。PPVが開始して以来、アカデミー賞のある現地日曜の夜にはPPVはありません。ボクシングもWWEもAEWもやりません。これは不文律ですから、本誌の今週号はグローバル目線では大きな大会がないのだから、「映画とマット界」を取り上げるのも自然となります。

オフレコ ミシェル・ヨーは現在60歳だと調べたら出てくるが、やはりカンフーやってた少女のイメージがあったので、映画館で『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』見たときは、おばさん顔なのは当然なんだが・・・。日本で字幕版の中継をWOWOWが放送しているちょうど裏番組のNHKでは2000年公開の『グリーン・デスティニー』流していたから、念のため思い出しながらまた途中まで見たら、やはり昔のミシェル・ヨーなのであって・・・(笑)。

―― でも、あのスピーチで「”旬を過ぎた”なんかない!」とピシャとやりましたからね。とにかく通称『エブエブ』が圧勝だった事実は残りました。

オフレコ どこのジャンルであれナンタラ賞だのに異論が出るのは普通なんであって、マット界にせよ本誌なら『鷹の爪大賞』こそ本物と胸を張ってる訳だから、アカデミー賞にしても投票時期の時代の空気に大きく左右されてしまうのは仕方がない。

―― 非白人投票者の割合が倍増されたとか、バットマンの『ダークナイト』がノミネートすらされなかったから、作品賞指名は10作品に増えて1位を10点、2位を9点・・・とする計算法に変える。最後に50%以上になるまで下位の作品を外していくようにシステムも改められました。

オフレコ すると芸術作品というか、好き嫌いが分かれるような作品が落ちてしまう欠点の反面、大衆にも受けた『アバター』や『トップガン』の各続編、さらに『ELVIS』もちゃんとノミネーション10作品には入ることになった。

―― (アントニオ猪木の理論である)環状線の外側にある、大衆受けもあった「文句の出にくい作品」が消去法で選ばれる傾向に変わりました。

オフレコ 賛否両論があるのは自然のこと。我々、専門媒体としては「この作品も良い。推薦である」と後半にたっぷりやるとして、アカデミー賞の意義としては、「ほう、こんな事前の網にかからなかった作品があったのか」と気づかせる役目の方が大きい。確かに『エブエブ』は家族のこと、親からの目線など”今”を切り取っている秀作には違いない。

―― コンビのファーストネームが両方ダニエルなんで、ダニエルズ(ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート)による脚本・監督作なんですが、ドナルド・トランプが当選して最悪な気分になった時から執筆が始まったそうです。「元気をくれる人たちを称える話になった」と(笑)。

プロレス挿入-編集賞受賞 『トップガン』上回る音響効果 練られた脚本

オフレコ なるほど。予告編だの簡単な紹介文を目にしただけなら、「メタバースの世界で起きる善と悪の死闘」とか、SFファンタジーのカテゴリーにされているけど、実際に見てみるとゲームの世界ではない。まさに劇場で見るもの凄い数の素早いカット割りで構成されていて、その辺りもコロナ終結で映画館に客足を戻す観点から、アカデミー会員の評価を集めたんだろう。実際、編集賞の受賞が注目点になるし、『トップガン』よりも音響効果が凄いと感じた。もっとも、アカデミー賞大本命として公開されたのに、日本の劇場は正直ガラガラだったのが残念かなぁ。

―― デジタル撮影、デジタル編集ならではの映画作りと、主人公ミッシェル・ヨー&キー・ホイ・クァン熟年夫婦の生身の肉体を使ったカンフー・アクションが合成されています。簡単な紹介を目にして「ゲームの実写版」?の先入観になったなら、大きな間違いだったと気づかされます。

オフレコ その熟年夫婦がマルチバースの世界では岩になって会話する泣かせる名場面がある。谷のある山での撮影場面であり、カメラのレンズに太陽光が映り込んでしまう光のノイズが目に入るが、昔の映画作り文法ではミスとなって撮り直しになった。近年は逆にそれを生かしてもアリにはなったが、それこそデジタル処理で修正出来るのに、そのままにしている。

―― リアルな情景とマルチバース世界へのジャンプのブレンド具合が絶妙で、また画面上part 1テロップの出る際の『リコリス・ピザ』(後述)など、様々な伏線がpart 3でAll at Onceになる展開もまた、アカデミー脚本賞の評価に繋がりました。アニメやゲームの実写版のチープな出来とは、物語の練られ方が半端ではありません。

新日Impact3・30マルチバース結実ジェイミー・リー・カーティス選出考

オフレコ 現地3月30日、ロサンゼルス開催の新日本プロレス&インパクト・レスリングの『マルチバース・ユナイテッド』合同興行も、映画『エブエブ』のヒットから命名された。国内プロレスだけのファンには、本誌しか指摘しないからなんのことかもわからないだろう。

―― 大日本プロレスの「岡林裕二vs.大門寺崇が大変良かった」とちゃんと意見を書くのと一緒で、良品を紹介していくのも専門媒体の使命になります。どっちが勝ったか上辺を知りたいなら、今の時代は全文公開の無味無臭サイトでどうぞ・・・ですから。

オフレコ プロレスとの関連なら、税金庁の太った老職員を演じるジェイミー・リー・カーティスがバック・ブリカーで背中を痛めつけるのと、あとパイル・ドライバーの場面では受け役がルチャの覆面になっていた。プロレス技という強調なんだろうが、メキシコでは(現地名)マルチーネは禁じ手にされていたんだけど(笑)。

―― プロレス入ってます。確かに関連作品です。井上譲二記者のお気に入りがジェイミー・リー・カーティスでしたっけ?

オフレコ 昔の綺麗なおっぱい晒すシュワちゃん主演のとか、コメディやれる女優となった『大逆転』や『ワンダとダイヤと優しい奴ら』なら監督コメンタリー特典付きのBD版で買い直して揃えているけど、さらに昔の、ボクですら知らないホラー映画の特派員時代に購入した英語版VHSまで「もう要らないから」と、ごっそり貰ったことがある。

―― 生まれて3歳の時に離婚している両親トニー・カーティスとジャネット・リーが捕れなかったオスカーを64歳で受賞です。もっとも、選考方法の欠点というか、主演女優賞、助演男優賞が夫婦役の中国系を投票したので、恐らくバランス感覚で助演女優賞が貰えた感は否めません。

オフレコ 東スポ大賞ならMVPでなかった選手を敢闘賞だの技能賞に回すのと一緒やな(笑)。確かに『エブエブ』の助演で光ったのは、悪役の娘ステファニー・スーの方なんであって・・・。

―― Nothing matterですか。メタリカじゃないかと(笑)。レズビアンの相手は白人娘でした。

オフレコ ジェイミーが老人になってからの演技なら、2019年の『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』のほうが良かったのに、アカデミー賞は運と社会情勢のタイミングやな。ところで夫のクリストファー・ゲストが隣で喜びわかちあっていながら、白髪の容姿に正直アカデミー賞の中継中はピンと来てなくて、あとから調べたらあの1984年の古典『スパイナル・タップ』のナイジェル役じゃぁありませんか。ジェイミーの夫とは知らなかった。そもそも「幼少期はイングランドで過ごす」とwikiで調べて、英国人と思い込んでいたもののアメリカ人だったのかぁと。もう一人の『スパイナル・タップ』マイケル・マッキーンは、TVシリーズ『Better Call Saul』の弁護士チャック役(ジミー役ボブ・オデンカークの兄)で、こちらはスグにわかったんだが・・・。

プレゼン役ロック様からの中継と洋画局に降りてきた『マーヴェリック』

―― 『アバター』や『トップガン』がもの凄い製作費なのは明白なんですが、こちらの『エブエブ』、広報上は2500万ドル、実際はわずか1450万ドルで仕上がった低予算作品なんだそうで、その観点からも7冠は痛快でしょう。

オフレコ もっとも中継でトーキング・ヘッズのデビッド・バーンが出てきたんで、彼が『エブエブ』唄ってたんだっけ?と、あとから調べて納得というのもあった。耳に残ってなかったなぁ。

―― 彼女こそ受賞すべきのステファニー・スーと一緒に、かのソーセージ指でのパフォーマンスだったんで、ステフが報われた面もあるかと思います。

オフレコ スパイク・リー監督と組んだ映画『アメリカン・ユートピア』のパフォーマンスは記憶に新しいけど、バーンはもう70歳になるのか。彼もニューヨーク在住の英国人なんだけどな。

―― アカデミー賞中継に戻れば、ニュージャージーのイタリア系レディ・ガガが、今回はわざとTシャツと黒ジーンズだけで唄ったんですが、1986年『トップガン』の名曲揃いのサントラ・レコードがバカ売れからしたら、『マーヴェリック』の挿入歌はエンドクレジットに流れるだけで、これまた印象に残りません。インド映画『RRR』のダンス曲♪Naatu Naatu受賞は順当でしょう。

▼過小評価とは何か? 反トランプのアカデミー賞とマット界

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▼アカデミー賞とマット界格言「プロレスは社会を映す鏡」、そして社会情勢

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▼12・2公開ドウェイン・ジョンソン主演『ブラックアダム』タイムズスクエア

12・2公開ドウェイン・ジョンソン主演『ブラックアダム』タイムズスクエア

オフレコ 昨年の司会者選びがドタバタ劇になり、ロック様ことドウェイン・ジョンソンにまで打診があったものの、俳優としての稼ぎランキングでは世界No.1であっても、作品賞とかの評価とは無縁のアクション映画畑なんで、すでに撮影スケジュール入ってるとの返答に添えて、来年はアカデミー賞週末の契約を入れないと丁重に断った手前、第95回はプレゼンテイターの最初の登場になった。

―― 今年はジミー・キンメルの単独司会に戻りました。2年目のロシア・ウクライナ戦争は、毒殺未遂に遭った反体制派のアレクセイ・ナワリヌイ記者の『ナワリヌイ』がドキュメンタリー賞の箇所はともかく、全体としてはコロナ話も政治色もなく、ウィル・スミスのビンタ事件もありません(笑)から平穏無事ではありました。映画話やるなと言う方いますけど、あらゆるレベルでプロレス関連指摘が出来てしまいますから。

オフレコ そもそもやる側・作る側からプロレスも映画も見ているから、『トップガン』だと神風特攻隊が絶体絶命の時、「ああ、あの4人に選ばれなかったアイツ(役名ハングマン)が救援に来る」とか、先に先にストーリー展開が読めてしまう。
それが悪いわけではない。娯楽エンタメ大作なんだから、ご都合主義の物語設定なのは仕方がない。お約束の世界観であり「これでいいのだ」。

―― 36年振りの続編ですから、1986年のオリジナルに熱狂した者としては、泣かせてくれる場面が散りばめられているだけでも大満足。なにより現在60歳のトム・クルーズが普通にパイロットやれてるだけでも奇跡であり、感謝しないといけません。「プロレスと映画は長く見続けないと味わいと感動が2倍違ってくる」という・・・。

業界救ったトム・クルーズ~フィリップ・セイモア・ホフマン息子初主演作

オフレコ オリジナルのポスター女優だった現在65歳のケリー・マクギリスは、肥満体だけでなく容姿もすっかり変わってしまい、現在52歳のジェニファー・コネリーが恋人?というのか(笑)、シングルマザーの相手役に替えられたんやからな。

―― 「えええ? ミッシェル・ヨーがこんな婆さん顔になったの?」は、やはり禁句なんです(笑)。

オフレコ 『エルヴィス』や『マーヴェリック』は劇場でヒットのみならず、アカデミー賞の直前に洋画チャンネルにも降りてきてたから、見た方も少なくないだろう。

―― だから本誌の役割としては『エブエブ』プッシュで正解なんです。

オフレコ ただ、『マーヴェリック』テレビ解禁に合わせて一日中トム・クルーズ主演作を流した日があって、こっちはついつい見入ってしまった。キャメロン・クロウ脚本・監督のSHOW ME THE MONEY『ザ・エージェントJerry Maguire』1996年は、明らかに何度も放送されたんで完全に覚えていて、それでもまた見入った格好に。ところが1993年『ザ・ファーム 法律事務所』は、間違いなく当時見ているものの、あまり洋画チャンネルで見かけなかったのか、細部を忘れていた箇所が結構あって楽しめた。

―― アカデミー賞の季節は、前後に「過去の受賞作」とか、こじつけも含めた関連作品に出合えます。

オフレコ シドニー・ルメット監督の遺作となった『その土曜日、7時58分』(BEFORE THE DEVIL KNOWS YOU’RE DEAD 2007年)も、偶然チャンネルをそのままにしていて始まった。大好きなフィリップ・シーモア・ホフマン、イーサン・ホーク、マリサ・トメイまで出ているとなって「こんなの知らないよ」と。最初からトメイが超形のいいおっぱい晒しているのでビックリもある。

―― プロレス関連なら『レスラー』(The Wrestler 2008年)のストリッパー役があまりにも強烈でしたが、『その土曜日、7時58分』より先に脱いでたんですね。

オフレコ なにしろ1992年の『いとこのビニー』でいきなりアカデミー賞助演賞になって以来、当時ボクはマンハッタン在住なんで、いかにもブルックリンのイタリア系なんで地元の娘という応援もあったが、実は出演順の検索の過程で、おっぱいだけでなくアソコまで晒している写真があることを発見してショックを受けた。アカデミー賞云々より、個人的には一番大きなニュースだったかも。

―― 本誌はポール・トーマス・アンダーソン(通称PTA)監督作品の常連であるホフマンのことは、結構何度も取り上げてますね。グレート・サスケの教祖ギミックは映画『ザ・マスター』からなのが明らかです。

オフレコ さらに個人話を許されるなら、注射針を腕に刺したまま亡くなったホフマンのマンハッタンのアパートまで知っていて、訃報が流れたあとは入口に花束が寄せられていたと、仲間からスグに連絡も貰っている。直接会ったことはなくても、極めて身近なごく近所の敬愛する名優であり、洋画チャンネルに感謝というのがあった。また、その息子が『リコリス・ピザ』で俳優デビューという巡り合わせもある。

映画街バーバンク73年舞台青春群像『リコリス・ピザ』 ボウイ火星生活

―― ということで新作でやはり強烈だったのは『リコリス・ピザ』(Licorice Pizza 2021年)です。洋画チャンネルに降りてきて見たんですが、素晴らしい作品でした。

オフレコ なにも古い映画ばかりを取り上げても、今の新作をフォローしてないと「映画好き」を広言は出来なくなる。プロレスでも未だ昭和プロレスで頭が止まっている方が圧倒的多数派だから、日本の国内プロレスは新黄金時代を謳歌しているアメプロと巨大過ぎる市場格差になってしまっている現実にも繋がるのだが、これをやり出すと長くなるので本稿では止めておく。

―― 広義でのハリウッドになるサン・フェルナンド・バレーとバーバンク、映画産業の街です。ワーナーのスタジオ他、大小の撮影所があるし、俳優も大勢住んでいてスーパーで買い物していたら遭うという・・・。PTA監督はこだわってます。

オフレコ なんといっても『ブギーナイツ』(Boogie Nights 1997年)での衝撃の出会いがあり、続く『マグノリア』(Magnolia 1999年)にやられた。トム・クルーズが本人に近い宗教にはまっている教祖で、映画の子役だった奴とか男女9人の群像劇なんだけど、これもサン・フェルナンド・バレーだった。この当時付き合っていたのが、歌手のフィオナ・アップルであり、カップル両方が好きとなって、ますますのめり込んだ。もっとも、ある時クエンティン・タランティーノ監督が家に遊びにきて、二人でずるずるコカインやってるパッパラ姿見て嫌になって別れたんだそうだけど(笑)。

―― 現在は女優のマーヤ・ルドルフ(歌手ミニー・リパートンの娘)が伴侶なんですが、その義理の父親は笠井紀美子と再婚したんだそうで、だから『リコリス・ピザ』に出てくる日本人妻の名前がKIMIKO他、舞台は1973年なんですが、出てくる登場人物すべてにモデルがいる。映画好きには二重に笑える内容なんですが、そんな予備知識なくとも青春映画としてさわやかでした。

オフレコ そのPTA監督の5作に出演している故フィリップ・シーモア・ホフマンの息子クーパー・ホフマンと、10歳年上のお姉さんになるアラナ・ハイム(姉妹ロックバンド「ハイム」の一員でもある)との恋愛が軸なんだけど、タランティーノの2019年『Once Upon a Time in Hollywood』と同じく、PTAの青春時代を再現する内容になる。

―― 映画の予告ではデビッド・ボウイの♪Life on Mars?(火星の生活)が効果的に使われていて、これは見ないといけないとなりました。タランティーノの大作仕様より余韻が大きく、特典映像付きのBDを買い直して何度も見たいと思わせる秀作に仕上がってます。

オフレコ リコリス・ピザは当時のレコード・チェーン店名であって、それが『エブエブ』にも繋がってくるな。ネタバレしてもしょうがないんで、必見作だと推薦するにとどめるけど、今回取り上げたのは全部がAll at Onceにリンクするように選んだ。

若きKコスナーNo Way Out追い詰められて イマンのちのDボウイ妻

―― 繋がりでいくなら、『追いつめられて』(No Way Out 1987年)も洋画チャンネルのザ・シネマでやってたんで、久しぶりに見直した作品になります。若き日のケビン・コスナー主演作で、『ザ・ファーム 法律事務所』のジーン・ハックマン共演。『ブレードランナー』(Blade Runner 1982年)のレイチェル役があまりにも記憶に残るショーン・ヤングが相手役。それどころか、のちにデビッド・ボウイ妻となる当時ファッションモデルと女優兼業のイマンが親友役ですから(笑)。

オフレコ 昭和プロレスで時計が止まっている方ならサスペンス風味なんだけど、この時代の映画を今見直すと、こんなモンだったかなぁとなるのかな。当時は確かにヒット作だったし、ニューヨーク在住だったんでDVDも購入して、今、東京の手元にも残してある。日本語字幕はないけど(笑)。Region 1のDVDが再生できるプレイヤーは持っているからかけてみたら、今のワイドなTVだと画面が小さくなってしまい、ZOOMのボタンを使う羽目になった。時代を感じたよ。

―― 検索してみたら、ブラッド・ピットの映画デビュー作でもあると書いてあるんですが、どこに出たのか気が付かなかったです。

NHK BS『ギルバート・グレイプ』ジョニー・デップJルイス Lディカプリオ

オフレコ 繋がり云々なら、つい先日NHK BSで『ギルバート・グレイプ』(What’s Eating Gilbert Grape 1993年)やってくれて、感動を新たにしたなぁ。なにしろジョニー・デップが、今のアリス・クーパーやジョー・ペリーとロックバンドやってることまで含めて、なんかずっと気になってるお気に入りの俳優になる。DVDでほぼ全作を買い直して収集しているんだけど、「これだ、これだ」と、最初のジョニー・デップ原体験の作品にようやく再会したことになったから。アメリカに長く住んでいたボクの場合、邦題が違うからタイトルがわからなくなることがあるし、いわゆる「入手困難DVD」になっていたこともあった。

―― ギルバート役ジョニー・デップの弟がレオナルド・ディカプリオであり、知的障害を持つ少年を演じてアカデミー助演賞に早くもノミネートされました。この作品の3年後にハンサム青年となって『タイタニック』に出ます・・・。もっとも、戦慄の印象だったのは不思議少女のジュリエット・ルイスになります。

オフレコ アカデミー賞繋がりなら、主演男優賞がブレンダン・フレイザーだったんだけど、こちらはまだ見てないんだが、その映画『ザ・ホエール』の題名通り、くじらのような肥満体型の主人公であって、『ギルバート・グレイプ』の母親役も、同じく家から一歩も出られない過食症の設定だった。ブレンダンと『エブエブ』のキー・ホイ・クァンは、ともに同じ映画の子役から出発したという奇遇もある。主な受賞俳優のカムバック物語がオスカー2023のハイライトだった。

棚橋弘至?愛してます映画『スリングブレイド』それは心に突き刺さる刃

―― 新旧の作品、洋画チャンネルにあったから見たというケースもあれば、ディスクユニオンやブックオフで、非常に安い値段で売ってる中古品を見つけてダメ元で買って帰ったら、感動作に心を打たれた場合もあります。映画『スリングブレイド』(Sling Blade 1996年)も、トールサイズのパッケージではなくCDサイズで販売されているDVDを見つけて、「棚橋弘至かよ」と思いながら再生してみると・・・。

オフレコ ああ、それは名作だよ。ビリー・ボブ・ソーントンが一人舞台として制作。のちに短編映画、さらにこの長編作が製作された経緯になり、ソーントンが脚本・監督だけでなく、母親とその愛人を殺害して精神病院に長く入れられていた主人公カールを演じて高く評価された。

―― 期間が過ぎてシャバ(外の自由な世界、一般社会)に戻されるんだけど、世間の目は冷たく・・・というところから物語が始まります。

オフレコ 少年レオナルド・ディカプリオが演じた知的障害のある弟役の『ギルバート・グレイプ』ともリンクする話やな。こちらの『スリングブレイド』のカールは、年齢は大人であり、心を開く少年とのつかの間の交流も心に突き刺さるんだけど。

―― 以降のネタバレは止めておき、これまた推薦とだけにしておきましょう。ビリー・ボブ・ソーントンはもう離婚しちゃったけど、『トゥームレイダー』主演の頃のアンジェリーナ・ジョリーと結婚していたと、あとから調べて知りました。

映画評論とプロレス底なし沼の愛し方!深く知った方が長く楽しめる論

オフレコ 今週は長々と映画紹介に費やしたけど、シュート活字の提唱する「卒業しない大人の楽しみ方」は、そのまま専門媒体による映画評論と同じということ。

―― なるほど。一億総評論家であり、SNSで好き勝手を書きなぐれる時代環境の変化もありますが、やはりプロの意見や試合の見方を指南する記事はカネを出して読みましょう。

オフレコ そもそも解釈自由で十人十色のプロレスなんだけど、「深く知った方が趣味の世界としても長続きしますよ」と、ガイドの役目を負っている。そりゃ試合結果や上辺の情報なら、全文公開のサイトで検索できる時代なんだけど、それではすぐに熱が冷めてしまう。

―― ここまで読まれた方は、是非、周囲のお仲間にも週刊ファイトのファイトクラブ会員と電子書籍ジャーナルの定期購読を推薦して下さい・・・という話ですね。

▼サポート会員年間3万円

サポート会員年間3万円

オフレコ 我々が映画の展開読めてしまうのと一緒で、トーナメント勝敗とか、わかってしまうのは当然なんだけど、どっちが勝った負けたのさらに向こう側に踏みこんで検証しているんだから、YouTube動画とかでわかった気になっている皆さんも、有料媒体を買って読まれて、底なし沼を深く味わって下さいという・・・。

―― 実際、AEWのPPV評の記事内ですが、こっそりと3月4日スターダムの代々木大会では、第6試合の上谷沙弥V15ワンダー王座戦、負け役の葉月が素晴らしかったと言及されてましたね。

▼AEW革命とは何か?サンフランシスコ沸騰!悪魔MJF防衛ブライアン

[ファイトクラブ]AEW革命とは何か?サンフランシスコ沸騰!悪魔MJF防衛ブライアン

オフレコ あの試合から一気に、代々木大会がレベルの高い国内での「年間最高興行賞」候補へと昇華していく。

―― 早くも・・・ですね。AEWの『REVOLUTION』PPV大会は、MJF対ブライアン・ダニエルソンの、「年間最高試合賞」候補というか、いわゆる60分(この場合は結局66分)のアイアンマン鉄人戦に限るなら、間違いなくプロレス歴史上の最高傑作でした。

Dynamite、Rampageに続きAEW3つ目番組制作発表とお寒い日本

―― なぜアメリカでは、アントニオ猪木の見果てぬ夢だった「プロレス市民権」が確固として浸透して、テレビ視聴率のデータからもアメプロ新黄金時代になっているのかという比較論にも直結してきます。

オフレコ 広報マスコミか、素人だらけのネット発信で事足りているとマイナーな小宇宙ジャンルに安住してしまい、まったくもって縮小してしまったマット界を、再び活性化させるにはシュート活字の啓蒙活動が必要ということ。世間の誤解と裏腹に、アメリカだと大人の楽しみ方をするインテリ層のファンがコアの土台を形成しているから、環状線の外側にも広がるビジネス市場としても巨大な産業になった事実は、何度強調しても足りないというこっちゃ。

―― 最新のニュースが、ワーナー・タイムワーナー・グループが、AEWにDynamite、Rampageに続く3つ目の番組制作を打診しました。

以下は対談ではなく、タダシ☆タナカがこの数週間に、もしも本数が足りない週があったら電子書籍ジャーナル収録にしようと、いわばストック原稿として書き貯めていた映画評となります。

Fear and Loathing in Las Vegas恐怖と嫌悪BワイアットWhite Rabbit

 映画『ラスベガスをやっつけろ』。原作はハンター・S・トンプソンの実録『Fear and Loathing in Las Vegas: A Savage Journey to the Heart of the American Dream』であり、音楽雑誌『Rolling Stone』に2度に渡って掲載され、ドラッグカルチャーの古典にして、トンプソンは元祖GONZO(ゴンゾ)ジャーナリストの評価を得た。

 舞台はテレビでベトナム戦争の悪夢が流されている最中の1971年である。つまり1970年代のLOVE&PEACEの夢破れ、作者のトンプソンとメキシコ系弁護士がひたすらベガスであらゆるドラッグに浸る。要するに「恐怖と嫌悪の旅(トリップ)」である。あの元モンティ・パイソン=テリー・ギリアム監督によって1998年に映画化され、トンプソンの風貌と服装そっくりに、あの、今やロッカーでもあるジョニー・デップが頭を剃り上げた役作りだけでなく、ベニチオ・デル・トロの役なんか体重を20kgも増量してモデルそのままを演じているので、映画マニアでないと最後のクレジット見るまで二人だと気が付かない方もいると思う。
 また、公開時点では評価は低く、興行的には失敗作のレッテルを貼られたものの、のちにカルト映画として奉られるパターンを辿った、その後、海賊のジャック・スパロウが当たり役になるデップなんだが、この時のイカレタ演技が海賊船長キャラを作ったとも言えるだけでなく、ちょこっと出てくるだけにせよキャメロン・ディアス、エレン・バーキン、トビー・マグワイアまで出てきたとか、テリー・ギリアム監督の配役選びの先見性も後年の再評価に繋がっている。

1970年6月、オランダで開催されたDutch WoodstockあるいはStamping Ground名義のブートDVDも出回っているが、Jefferson Airplaneの♪White Rabbitが印象的なのだ。

 舞台設定からも60年代後期のロックがガンガン流れるのだが、とりわけ印象的なのがグレース・スリックがトリップ体験を呪文のように唄いジェファーソン・エアプレイが演奏した♪White Rabbitである。なんとこの曲が2022年の9月からWWEの番組でしつこく流され、ブレイ・ワイアットの復帰予告となったのだが、1967年の曲なので、親父IRSことマイク・ロトンドがコカインにはまった時代があったとかからなのか。IRSって「人間から逃れられないのは死と善税金だけ」と説くキャラなんだが・・・(笑)。
 若いファンにはなんの音楽かもさっぱりわからなかったと思う。いや、むしろビンス・マクマホンの趣味というか、自身の70年代回顧と反省なのかも。なにしろ、子供の頃から知っているマイク・ロトンドを我が子のように可愛がっている逸話が実際にあるのだが、親父の趣味・趣向を子供に押し付けるのはどうなのかとも思ってしまう。那須川天心の入場曲が、矢沢永吉の♪止まらないHa〜Haのようなものか。

 上記画像の右が、神戸出身のラウドロック・バンドFear, and Loathing in Las Vegasの2013年のLIVEやPV集を詰め込んだ映像作品『The Animals in Screen』のジャケットである。映画に影響されてそのままバンド名にしたそうだが、麻雀最強決定戦で活躍したキラ☆アンのバンドもこの路線なんだそうだ。

▼週刊ファイト!麻雀マット界最強決定戦 ユニークなYouTube動画公開

週刊ファイト!麻雀マット界最強決定戦 ユニークなYouTube動画公開

ラスベガス映画2本と1985年『グーニーズ』の子役キー・ホイ・クァン

 ちなみに『ラスベガスをやっつけろ』はアマゾン・プライムの会員なら追加料金ナシで視聴出来るのだが、新品¥973だったのでBD版を購入したものの、監督の音声解説なり、削除場面などの特典映像はおろか、予告編すら入ってなかったのは残念。こういうカルト映画をわざわざ揃える理由は、特典映像にあると思うのだが・・・。
 その観点からなら、よく混同される2008年の映画『ラスベガスをぶっつぶせ』は特典映像が大変充実しており、こちらは購入する価値あり。ボストンの名門校MITのブラックジャックチームと、ラスベガスのカジノ側の対決の実話がベースであり、米国版のタイトルはズバリ『21』であってヒットしたのみならず、今年になってNHKが『アナザーストーリズ運命の分岐点』にて「ラスベガスVS.MITの天才 全米を騒然とさせた頭脳戦」として元ネタを取り上げていた。

 特典映像繋がりになるが、1985年の映画『グーニーズ』はBD版購入の価値ありだった。昔見たよなぁの作品にして、シンディ・ローパーが主題歌だけでなく、映画にも出てくるだけもプロレス関連映画になると思うが、特典映像にはPVの長尺版というのが入っていて、ロディ・パイパーやアンドレ・ザ・ジャイアントまで出てくるからだ。
 当然ながらシンディのPVにはあのデビュー曲♪Girls Just Want to Have Funからしてルー・アルバーノが父親役出てくることで有名であるが、当時ニューヨーク在住だった記者はMTVに直撃された世代ながら、レスラー総動員の長尺版が存在することはBD購入まで知らなかった次第である。

 ちなみにThe Gooniesで極めて印象的だったメカ好き少年(中国系ベトナム人)キー・ホイ・クァン(暫くはジョナサン・キーとも名乗っていた51歳)は、2022年の映画『Everything Everywhere All at Once』で見事なカムバックを果たし、ゴールデングローブ賞の助演男優賞を獲得した。子役イメージのままで俳優業を続けながらも、東洋人なのでキャスティングに恵まれてなかった過去を振り返ったスピーチが感動的だったのだ。今年になって(中古の値段が安かったこともあるが)BDを買ったのはこのためである。アカデミー賞は日本時間3月13日、要注目なのだ。
(2月末執筆時、原文ママ)

追記
 キー・ホイ・クァンのアカデミー賞のスピーチで感謝の名前を出したジェフ・コーエンは、調べてみたら『グーニーズ』の子役の一員で、その後は弁護士になり、以来、長年に渡って代理人を務めているそうだ。
 今や『メン・イン・ブラック3』のヤング・エージェントK役を引き継いだジョシュ・ブローリンもまた、なんと『グーニーズ』の子役が映画デビューなのであった。