AEWジョン・モクスリーxジェイク・ヘイガー無観客会場収録王座戦の実験

(c) AEW

■ AEW Dynamite
日時:4月8日(現地放送時間)
会場:米南東の某所(実際はジョージア州QTマーシャルのジム)+非公開会場


 前回から撮り貯めしたカードが流れているが、当然今回も、現場からではなく以前に収録したジェイク・ロバーツがランス・アーチャーの脅威を語るところから。例の映画『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』をパクった野外の森林に囲まれたリングで次々に全員を叩き潰す怪物ぶりの映像も再挿入されたが、アンダーテイカーの「ボーンヤードマッチ」と比べてもインパクトあったなぁと改めて思う。


 ということで、TNT王座トーナメント1回戦からなんだが、NXTも戸澤陽とアイゼア・スコットのカードにしたように、最初の一回戦は非常に重要になる。スクワッシュにせず、対戦相手のコルト・カバナにも見せ場を与えており、それでいてちゃんと(当然なんだが)アーチャーが勝つようにデザインされている。よく練って考えてあった。カバナがリードしていたということだ。


 続く女子部門は、前週放送回でガチ流血にさせられた美人ブリット・ベイカーが、無名選手を短くスクワッシュするんだが・・・。歯医者オフィスからのプロモ映像とか、血まみれにされたことを逆手にとって、ちゃんとストーリー展開にしているところは高評価。彼女はしゃべれる。ヒールがいないとプロレスは成立しないのだ。志田光が王者になったら、当然抗争プログラムということになる。


 その前週からの特典というのか、実況席のクリス・ジェリコがやる側目線で好き勝手にしゃべるのが最高に笑える。子分のサミー・ゲバラとサージGはスクワッシュ試合なんだが、ジェリコの子分の褒めぶりが楽しく、「サミーはえげつないこともする」の予言通り、相手の体を浮かした上で顔面にヒザを叩き込むフィニッシュには説得力があった。

 
 キップ・セイビアンvs.チャック・テイラーは、収録できる日に集まった選手間でどんどん試合をさせた感もあるのだが、キップには当然ペネロペ・フォードがセコンドで最後に試合にも絡むのみならず、チャックにはオレンジ・キャシデイがついている。反対側のジミー・ハボックがサングラス男をのしてと、どうやらキップ、ペネロペ、ジミーはお仲間どころか、実況によれば3人で一緒に住んでいるらしいとか、まるでNXTのジョニー・ガルガノ&キャンディス・レラエにトマソ・チャンパじゃないかと内輪ジョークでも笑かせてくれていた。

 もっとも、無観客試合では試合時間は通常より短くすべきとの学習もあるのか、短いスクワッシュもどんどん挿入されており、ジョーン・スピアース会長がジャスティン・ロウ(LAWの綴り)とかいう無名相手のカードは、ジムの練習生を集めただけなのかも。


 さて、今週の目玉はAEW世界王座戦なんだが、これだけはある程度の大きさの会場を借りての収録。なので客席にもカメラが入るし、ノー・ホールズ・バード戦なので会場の通路でも3カウントが数えられる形式だ。また、現地に来てないことは明らかで、あとから自宅からの音声だけの追加にせよジム・ロスが一人で試合だけで30分あるメインを実況した。

 その前に、今回は全編を通じてMMA記者のアリエル・へルワニ以下、試合予想を語らせるセグメントが随所に挿入されるんだが、これは非常に面白い。なにしろ「UFCよりベラトールの方が面白い」、「RAWやSmackDownより水曜生TV戦争こそがダントツなのに」と思っているハードコア層にとっては、ニューヨークなのでフロリダに行けない柔道出身のTAZが、「ヘイガーのアーム・トライアングルは肩固めの変形であり・・・」と、ベラトール名物ジョン・マッカーシーの図解分析をまんまやるのである。全部見ている者には大笑いだろう。
 しかも、後半には本人ジョン・マッカーシーも、実況のマイク・ゴールドバーク、Bellator 172を最後に今年に入って引退を表明した元Strikeforce王者にしてPRIDEにも出ていたジョシュ・トムソンも出てくるのだから驚いた。今は、UFCのディナ・ホワイトだけが暴走発言で狂人扱い、ベラトールのスコット・コーカーは大会自粛を続けているのだが、ヘイガーの格闘技戦の時はWWE時代のMOXからバティスタまで大勢が会場に来ていたことは本誌拡大版に報道した通りである。今はAEWとは友好ということになろう。


 ただ。肝心の王座戦がどうだったかと言われたら、戦う二人は無論のこと、実況のジム・ロス独演会も必死だったものの、やはり無観客というのが可哀そうすぎる。当然MMAテイストを混ぜてグラップリング攻防から始まり、客席になだれ込んでは、スタンドのバリケードを使ってMOXが四の字を仕掛けるとか、最後はハードヒットに闘いとバラエティにも富んでいたんだが、観客の声援がないというのはやはり大きなハンディか。まして今回は、QTマーシャルのジムの両サイドにベビーとヒールが大声を出したり、試合に絡む仕様のと違って、あえて別の無観客会場で他に誰もいない。その前提からだと、これで尺をとらせてたっぷり30分以上も殴り合いさせるのには無理があったかも。


 最後はリングに戻って、パイプイスの攻防があるのだが、その椅子の上にパラダイムシフトが決まってフォールという結末。MMAテイストでも最後は3カウントにするとは踏んだ通りだったが、無観客試合の2020年、まだまだ試行錯誤の実験段階なのかもしれない。
 ニューヨークのMJFなど、フロリダに来れない選手やスタッフも少なくなく、『Double or Nothing』PPV大会は別会場になるものの予定通りに決行だそうだが、様々な観点からハンディも大きい点は割り引く必要があろう。重ねて質の高いエンタメ2時間番組を提供し続けている努力は評価しないといけない。実際、ROHやMLWなどは、ずっと新規収録が止まっている状態であり、MLWなどは小島聡が戴冠した昔の試合を流している現実があるからだ。


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