[Fightドキュメンタリー劇場59]猪木vs.バックランドWWF戦の怪!結末も記録も不透明過ぎる2連戦

[ファイトクラブ]先行公開 [週刊ファイト9月19日号]収録

[Fightドキュメンタリー劇場59] I編集長の喫茶店トーク
▼猪木vs.バックランドWWF戦の怪!結末も記録も不透明過ぎる2連戦 
 by Favorite Cafe 管理人
・シン乱入、混乱の中で猪木のバックドロップ、WWF王座奪取
・リターンマッチ、ふたたびシンの試合妨害、バックランドの反則
・WWF権限一任ウィットネス新間寿「無効試合」宣告権限行使は当然
・I編集長「旧プロレスの弊害、不透明試合で名勝負をぶち壊すな!」
・来てるお客さんより逃げていったお客さんを呼び戻すことが大事なんだ
・WWFパンフレット、WWFヘッドクォーターは東京・青山の新日プロ事務所
・“反則プレー規制”今こそ、ルールをきっちりと決め直すべきだ


■ 闘いのワンダーランド #050(1997.2.12放送)/#071(1997.3.13放送)
「I編集長の喫茶店トーク」より
1979.10.02 大阪府立体育館/1979.10.04 蔵前国技館
 WWFジュニアヘビー級選手権試合
 藤波辰巳 vs. 剛竜馬

1979.11.30 徳島市立体育館/1979.12.06 蔵前国技館
WWF世界ヘビー級選手権試合
アントニオ猪木 vs. ボブ・バックランド

徳島でのタイトル奪取を報じる週刊ファイト(1979年12月11日付け)

 I編集長・井上義啓)1979年(昭和54年)11月30日、徳島でWWFヘビー級戦が行われました。ボブ・バックランドがチャンピオン、チャレンジャーが猪木ですね。その試合で不透明ながら、猪木が勝利してWWFタイトルを奪取したんです。何が不透明かと申しますと、シンなんかが乱入してきましてね、猪木が気を取られている、そういった状況のドサクサで、バックランドが猪木を押さえ込んでカウントスリーが入ってしまったように見えたんです。

タイガー・ジェット・シンが乱入して、名勝負をぶち壊した

 I編集長)レフリーのレッド・シューズ・ドゥーガンというのは、「ワン、ツー、スリー」と勢いでマットを叩いてしまうんですね、この人は。肩が上がったとしても、スリーの手を止めないんですよ。ただ、マットを叩く手は「ワン、ツー、スリー」と行くんだけども、やっぱり猪木の肩が上がっているから、言葉では「ワン、ツー」とまでは言って、「スリー」はジェスチャーだけで「スリー」とコトバには出してないんです。

 それをバックランドは「スリー」が入ったんだと思って、レッド・シューズ・ドゥーガンに「スリーだな」と念を押したわけです。しかしドゥーガンは、そうじゃないと言う。そんなやりとりをしている無防備なバックランドの背後に回って、猪木がバックドロップをかましたわけです。当たり前ですよね、まだ試合は終わっていないんだから。それで猪木が勝ってタイトルを手にするという展開でした。

勝利者インタビューを受ける猪木、抗議するバックランド

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 WWF権限一任ウィットネス新間寿「無効試合」宣告権限行使は当然

 I編集長)そして一週間後の12月6日に蔵前国技館で再戦が行われました。この試合も、またまたシンが乱入してきました。今度は猪木が気をとられている隙にバックランドが猪木を抱え上げて、猪木の股間をトップロープに「ガーン」と打ち付けたわけですよ。アトミックドロップのような形で。

 これは明らかに反則なんですね。ただレフリーもシンとかの乱入で混乱していましたから、バックランドの反則攻撃に気がついていないですからね、そのまま試合が続行されてしまうわけです。その結果、猪木がスリーカウントをとられてしまったでしょ。猪木はもう股間を痛打して動けなくなっていましたからね。形としては、バックランドがスリーカウントでタイトル奪回ということになったんです。

 I編集長)しかし、そこで新間さんがイチャモンをつけたわけですよ。結局協議した結果、この試合は無効試合になりました。新間さんの言い分としては、「バックランドがアトミックドロップの体勢で猪木の股間をトップロープに打ち付けるという、誰が見ても分かる大きな反則をやった。あそこでこの試合は反則で終わりの筈だ。

 「あの段階で終わりにすべきであって、その後猪木がバックランドをフォールしようが、バックランドが猪木をフォールしようが、関係無い。あの段階で反則決着で猪木のタイトル防衛なんだ」ということですね。

 バックランドの言い分は、「レフリーが確かにスリーカウントを入れたんだから、その前に何があったとしても関係無い。俺は確かに猪木をフォールした。だからベルトをよこせ」ですよ。

ベルトを放さないバックランド、取り上げようとする新間氏

 I編集長)ここで無効試合の判断となったのはどういう事かというと、この試合において新間氏はWWFから権限を一任されたウィットネスだったんです。新日のリングで最初にWWFのタイトルマッチをやったときには、ウィットネスとしてビンス・マクマホンが来日していましたね。

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 しかし、今回は都合によりマクマホンが来日できないから、新間さんにウィットネスの役割を託したんですよ。その権限があるから、新間氏の発言力が生きてくるんです。猪木のマネージャー、新日プロの営業本部長の立場じゃないんですよ。猪木の言い分、バックランドの言い分を聞いた上で、ウィットネスの新間氏が「無効試合」の判断を下したんです。

 コレには誰も文句が言えないですよ。全ての権限は新間さんにあったんですから。だから新日本プロレスの横やりでも何でも無いんです。

 I編集長)ここで私が申し上げたいのは、この2連戦の結末が非常に不透明だということですよ。猪木がタイトルを奪取した試合だって、バックランドがレフリーに非常に微妙なカウントを確認しているときでしょ。レッド・シューズ・ドゥーガンがマットを3回叩いたんだから、スリーカウントだとバックランドは思ったんです。

 ところがレッド・シューズ・ドゥーガンは、勢いで叩いただけで、言葉でスリーとは数えていないと言ったんですね。非常に微妙だったんですよ。プロ野球で言えば落合のハーフスイングと一緒ですよ。バットが回ったか回らないかで大違いですよ。非常に微妙だったんです。その隙をついて猪木が、バーンとバックドロップを決めてしまったわけでしょ。これはレッド・シューズ・ドゥーガンがスリーではないと言う限り、バックランドの勘違いとしか言い様がないですよ。ただ、見ている側からすれば非常に不透明に感じてしまうんですね。

蔵前国技館でのリターンマッチを報じる週刊ファイト(1979年12月18日付け)

 I編集長)そして蔵前のリターンマッチでも、シンとかの乱入があって、猪木と高橋レフリーが気をとられている隙に、バックランドの反則のアトミックドロップがあってのスリーカウントでしょ。それが覆って無効試合になった。これまた非常に不透明で私は気に入らないし、せっかくの名勝負が2つとも結末の部分で台無しになってしまったんですよ。それが昭和のプロレスとも言えるんですけどね、それは良くないことだから、平成のこの時代まで尾を引いて、ここで話をしなくちゃいけないことになっているんですよ。

猪木vs.バックランド、試合内容としては常に好勝負

 I編集長)WWFのヘビー級の権威のある試合なんだから、キッチリとした試合にして欲しかったですよ。そもそもビンス・マクマホンは本当はバックランドを日本に送り込みたくなかったんです。でもバックランドは、日本からオファーがあれば、猪木や藤波と本当の意味でのストロングスタイルの試合が出来るから、日本に行きたかったんですよ。だから、バックランドはマクマホンを振り切ってまで日本に来たんだから、良い試合をしたかったんです。それをシンが乱入して、混乱させてしまったんです。

[Fightドキュメンタリー劇場 37]井上義啓の喫茶店トーク
▼謎の“マクマホン指令”WWWFヘビー級戦 猪木vs.バックランド1978

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 I編集長「旧プロレスの弊害、不透明試合で名勝負をぶち壊すな!」

 I編集長)コレは猪木とバックランドの責任じゃ無いんですよ。明らかに乱入したシンの責任だし、それを許容していた体制の責任ですよ。それは昭和プロレスが、そういったことを容認して、それで試合を盛り上げたり、観客を熱狂させることに利用していたんです。それは旧プロレスの弊害ですよ。プロレス団体は、それに染まってしまっていたんです。だから新日本プロレスもそれを許していたんです。

 I編集長)この2連戦は、内容的には派手さは無くても非常に素晴らしい試合でした。だから、乱入が無かったら、キッチリとした試合になった筈です。そうすれば、猪木が勝とうが負けようが、名勝負として語り継がれたはずですよ、コレ。だけども、この2試合を誰も名勝負とは言わない。名勝負ベスト10の話をしたって、この試合は誰一人出しませんよ。だから今の若い人たちは、猪木vs.バックランドなんてあったことさえ知らないんじゃないですか?

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