映画『アイアンクロー』4・5公開!ケビン軸に呪われたフォン・エリック家

■ 映画 アイアンクロー
公開:4月5日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
配給:キノフィルムズ
(c) 2023 House Claw Rights LLC; Claw Film LLC; British Broadcasting Corporation. All Rights Reserved.

 プロレスファンには説明不要、『フォン・エリック家の悲劇』を題材にした一般向けの娯楽大作である。冒頭に「実話を元にした作品」と断ってあるので、専門媒体記者が「そこは違うのに」とか言っても仕方ないのだ。ただ、ケビン、デビッド、ケリー他、役名はそのままだし、基本は「呪われた一家」の物語を、いかに「プロレスには特に興味ない。そのフォン・エリック家とか名前もよくわからない」という一般の映画ファンにも、「これは面白かった」と言わせるかどうか。
 その観点からはすでにいくつかの賞を受賞している、評論家のレビューも良いがすべてであって、「ゴチャゴチャ言わんでよろしい」が正解。プロレス格闘技ファンには、「4月5日からロードショー、必見作だから見るように!」と最初に記すことが最重要であることに尽きる。はい、年末・本誌の『鷹の爪大賞2024』の試験にも出ます。「見てない」では年間総括、許されません(笑)。

 同じくプロレスを題材にしたミッキー・ローク主演の『レスラー』の深い感動の余韻と比べるなら、やはり実話を元にした場合はドラマにするのが難しいことを痛感させられる。例えば記者はQUEENをリアルタイムで体験してアチコチ追っかけまでやった世代なので、ミュージカル版の『We Will Rock You』が上演されると聞けば、わざわざロンドンまで見に行ったのに「なんじゃこれは?」だった。映画『ボヘミアン・ラプソディ』は、エンド・クレジットに♪Don’t Stop Me Nowが流れたのは「ほう、これにしたか」だったけど、同じく「そこは違う、順番オカシイ」がどうしても気になってしまった。しかし、大ヒットして、新たにQUEENのファンになった方が世界にゴマンと増えたのである。決して悪く言ってはいけないのだ。

 イチバンの違和感は、映画評論家には好評となっているケビン・フォン・エリック役のザック・エフロンかも。『ハイスクール・ミュージカル』シリーズの彼が、「超人ハルクのルー・フェリグノかよ」というマッチョな肉体を作ってきて、顔が似てないは映画なんだから構わないのだが、身体つきと喋り方が、選手本人を現場で見てきた専門媒体的には「ちょっと違うだろう」と。

 日本で客死したデビッドは似ていたと評すべきなんだが、最もハンサムにしてカリスマ性があったからこそ、バイク事故で右足かかと失ってからもWWF(当時)のインターコンチネンタル王者にまでなれたケリー役は、何故人気あったかが体現出来てない。いくら映画とはいえ、かかとだけでなく、足の下の方全部が切断された義足になっていたのも、「いくらなんでもそれじゃ試合出来ない」と、リアルタイムで見てきた専門媒体としては疑問符が頭を過ってしまうのだ。

 こういう作品は、まずプロレスファンに気に入られなければいけない。それでいて大衆にも「良い作品だ。泣けました」とか認められなければならず、このバランスは、いざ「じゃぁお前が作ってみろ」と言われたら悩んでしまう。もっとも、(意外なことに)超満員だった試写会の会場に、恐らく気づいた方はいなかったと思うが、そのWWFからクリスマス休暇で戻って来たケリーに、「お前のタッグ・パートナーのヘルウィッグはダメだが・・・」と親父の一語が出るだけなんだが、もちろんアルティメット・ウォリアーのことである(笑)。
 その他、細かいところでちょっとだけ、あるいは一言だけ出てきて、「プロレスマニアをも満足させる工夫」はアチコチ配慮されてはいた。その最もたる場面が毎週日曜に家族で教会に行く絵なんだが、これまた詳しく知らない方には何の意味なのかわからなかったと思われる。この件はあえて最後に蒸し返す。

 良かったというか、映画見ていて興奮したのはサントラの選曲である。ダラスのスポルタトリアム(映画字幕 日本ではスポータトリアムが多い)に毎週、大勢のお客が集う場面に、ブルー・オイスター・カルトの♪(Don’t Fear) The Reaperが流れたこと。確かに時代がわかる。もっともMTVが始まる前であり、記者が当時住んでいたニューヨークなり、東海岸での人気はともかく、通称BOCが南部でもヒットしたとは記憶にないのだが・・・ユダヤ人バンドだからの選曲なんだろう。なんでこれを指摘するかなんだが、プロレスは各テリトリーに別れていた時代という説明がなかったから。音楽の流行も同じで、この時代はなんでも地域差ナシの全国区ではなかったのだ。

 重ねてプロレスに余り興味のない一般層に、「この実話を元にした作品は面白いだろう」と口コミ評判を広げたい照準作なんだから、くどくなってもいけないとの判断なのかも。それだけではない、通称「ダラス王国WCCW(World Class Championship Wrestling)」の話をやるなら、テキサス訛りや各種の南部プロレスらしい絵が不可欠なんだが、なにしろこの映画、みんな普通の米語を話している。それもそのハズ、なんと1981年生まれの監督ショーン・ダーキンは、カナダ生まれなのだった。なのでこの映画、南部プロレスが舞台という特徴は、意図的なまでに排除されている。

 もっともサントラ音楽、さらにカナダ繋がりならRUSHの♪Tom Sawyerがドカーンと鳴り響くのは正直嬉しかったのだが、実際はフリーバーズとの抗争におけるフォン・エリックスのテーマ曲ではない。ケリーのWWF時代の入場曲なんだが、まぁそれは許される範囲かも。ちなみにフリーバーズの入場曲、かの有名なレナード・スキナードの♪Free Birdは使われなかったのだから・・・。

 デビッドが日本で客死して、親父フリッツがスタジアムに3万人以上集客して盛大な追悼大会をプロモート。ケリーがリック・フレアーを倒してNWA世界ヘビー級王座を戴冠する実話なんだが、それを再現してスタジアムにエキストラ客も大勢入れてとなると、予算がエラいことになるとの判断なのか、はたまた「自分の息子の死までもビジネスにしてしまう悪魔のフリッツ」が当時から叩かれたこともあり、フリッツの妻ドリスが家でテレビを見ているという繋ぎだけにして、映画の見せ場にはしていない。まぁこれをクライマックスにしてしまうと、のちの悲劇と合わないこともあろう。

 先に、小出しヒントだけでマニアは納得なのは、妻ドリスはのちにフリッツと離婚するのだが、映画では家事を放棄して絵画ばかり描いている場面だけにしている。一般のファンはなんのことかもわからなかっただろうが・・・。
 ちなみに映画を通して、ドリスはプロレスに関わってないことになっている。冒頭、会場に夫を迎えに行って「外でブーイングだけ聞こえた」と言わせているんだが、これも事実とは異なる。だいたい、長男のハンスこと、ジャック・アドキッソン・ジュニアが不慮の事故により早世したのはともかく、ケビン、デビッド、ケリー、マイク、クリスと、6兄弟全員が男、そして生存するケビンを除き、全員が死去というのも、そりゃドリスを抜きに語るには無理がある。
 また映画では、兄と同じく拳銃自殺したクリスはなかったことにされている。しかし、通常の映画の尺”2時間以内”を超えて130分になっているので、省略、簡略化は仕方ないと考える。

 生存したケビンを軸にした作品なので、最後がハワイで大勢の孫たちに囲まれているケビンにしたのは仕方ない。もっとも、そのあとのテロップで、「フォン・エリック・ファミリーはのちにWWE殿堂入りした」と出てくるのは、名画エンディングを汚してしまっている。まったくのご都合主義選考で、なんの権威もないシロモノでしかないからだ。

 さて、実は「エリック家の悲劇」ドキュメンタリー作品はすでに4,5本はあり、記者は本誌のバックナンバー含みアチコチで詳細に書いているのだが、長くなるので本稿では紹介しないとしても、ではケリーの視点で描いたら、はたまたドリスの視点ならどうなるかとか、「呪われたファミリー」への興味は尽きない。しかしながら、専門媒体記者としてはやはり、フリッツ・フォン・エリックというエニグマこそ、究極の謎であることは疑う余地がない。

 ジャイアント馬場にアイアンクローを仕掛ける図こそ、力道山死去後の日本プロレスを象徴する絵であり、「ドイツはベルリン出身の残忍なナチ党員」という広報上の経歴だったのに、本名ジャック・アドキッソンにしてユダヤ人という、180度違っていた事実である。このため、映画では省かれているが、フォン・エリックス兄弟はイスラエルでも大人気だっただけでなく、この映画の制作者の名前に、AEWのMJFが資金提供までしていることは驚きに値しない。MJFはマクスウェル・ヤコブ・フリードマンのイニシャルであり、AEWの番組内でも「ユダヤ人協会のなんちゃら表彰を受けた」と、AEW世界王者の職権乱用というか、結構長い尺を取らせてユダヤ人であることを強調していたものだ。また、ケビン役のザック・エフロンがユダヤ人なのも、キャスティングの意図に納得するしかない。

 さて、実際はユダヤ人にしてクリスチャンであり、毎日曜、家族と教会に行っていた元悪役のプロモーターは、宗教をどう見ていたのか。なぜに教会は、こうも毎週、毎週、かくも大勢の庶民を教会に集わせ、宣教師の教義を有難く拝聴しているのか。
 これは、プロレスを作る側から見ている者なら永遠のテーマであり、宗教ほどプロレスと似ているジャンルはないからである。大衆感情操作によって平民を信じ込ませるプロレス。毎週スポルタトリアムに大勢の信者を集めるには、どのような教義(アングル)が効果的か。

 息子たちが亡くなって、のちに宣教師になったこともあったジャック・アドキッソンは、恐らく「プロレスの方が難しい」と愚痴っていたかも(苦笑)。この辺りは”シュート活字”を標ぼうする記者の十八番テーマであり、バックナンバーに「宗教とプロレス」、「呪われたフォン・エリックの悲劇」は多数の記事があるので本稿では紹介しない。もっとも、映画の冒頭に一家が教会に行く絵があったことは蒸し返しておく。

 未見なのだが、調べてみたら監督のショーン・ダーキン、デビュー作は”カルト教団による洗脳とトラウマ”を描いた『マーサ、あるいはマーシー・メイ』なんだそうだ。なるほど・・・。

監督・脚本:ショーン・ダーキン
出演:ザック・エフロン、ジェレミー・アレン・ホワイト、ハリス・ディキンソン、モーラ・ティアニー、スタンリー・シモンズ、ホルト・マッキャラニー、リリー・ジェームズほか
2023年/アメリカ/英語/130分/カラー・モノクロ/ビスタ/原題:THE IRON CLAW/字幕翻訳:稲田嵯裕里/G
(c) 2023 House Claw Rights LLC; Claw Film LLC; British Broadcasting Corporation. All Rights Reserved.
提供:木下グループ 配給:キノフィルムズ 公式サイト:ironclaw.jp


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