2023-24の年末年始、プロレス界には様々な動きがあるが、最も激震が走ったのは本誌の既報どおりオカダ・カズチカの新日本プロレス退団だろう。オカダがアメリカに活躍の場を移すのは決定的で、日本のプロレス界はスーパースターを失うことになる。
日本プロレスリング連盟の設立、棚橋弘至の新日本プロレス社長就任、全日本プロレスの選手大量離脱など、日本のプロレス界はどの方向に向かうのだろうか?
※月額999円ファイトクラブで読む(クレジットカード、銀行振込対応)
▼S活字今週の肝:日米差広げるWWE放送権高騰 オカダ・カズチカ退団
日本人選手のメジャー・リーグ流出で、日本プロ野球は空洞化した?
2023年の暮れに最も注目されたニュースは、大谷翔平のロサンゼルス・ドジャースへの移籍だろう。総年俸は10年契約で7億ドル(1015億円)、年俸に直すと約100億円という、日本プロ野球(NPB)では絶対に有り得ない金額だ。
もし、大谷がNPBに残っていたとすれば、年俸はせいぜい10億円(せいぜい、と言ってもかなりの高額だが)。つまりメジャー・リーグ(MLB)の市場価値は、NPBの約10倍ということになる。
大谷の場合は、MLBでも他に類を見ない二刀流として活躍し、昨年度もホームラン王&二桁勝利で二度目のMVPと実績も充分なので納得できるが、オリックス・バファローズからドジャースに移籍した山本由伸投手に関しては、まだMLBで1球も投げていないのに12年契約で3億2500万ドル(465億円)、年俸だと約39億円という破格の待遇である。
昨年度、山本のオリックスでの年俸は推定6億5千万円、ドジャースに比べると約6分の1だ。
これだけ日米の年俸格差があると、よく言われるのが「MLBにスター選手を根こそぎ持って行かれるので、NPBは空洞化するのではないか」という指摘である。
現役時代は安打製造機と呼ばれたお爺ちゃんが、日曜朝の番組で、MLBを目指す日本人選手に「喝!」を入れいていたのは、まさにこのNPB空洞化を心配してのことだ。
ただ、日米で投手として活躍した長谷川滋利によると、MLBがNPBを飲み込むことはない、と指摘する。それは、NPBの歴史と人気が、あまりにも重すぎるからだという。
日本の野球は、プロ野球のみならず高校野球や大学野球、社会人野球など、アメリカとは全く違う独自の発展をしてきた。それを凌駕するのは、MLBとて容易ではないということだ。それならば、日本での野球人気を持続させて、有力選手をMLBでいただくという方が賢明だろう。
そもそも、1995年に野茂英雄がドジャースに移籍した当初から、NPBがMLBに食われるのではないか、ということが心配されていた。野茂以前にも、その約30年前にマッシーこと村上雅則がMLBのマウンドに立っていたが、日本人メジャー・リーガーが本格化したのは野茂以降のこと。それ以来、日本人選手が次々とMLBへ巣立って行った。
しかし、野茂のMLB挑戦から約30年経った現在でも、NPBは空洞化していない。スター選手がMLBに羽ばたくと、代わりの選手がNPBのスターになっているのだ。たとえば、ダルビッシュ有がMLBに移籍すれば、大谷翔平がヒーローになるという具合である。
MLBの日本人スターが現れると、少年たちはそれに憧れて野球を始めるわけだ。さらに、NPB球団としても、スター選手がいなくなれば代わりの有望選手がチャンスを得て、新たなスターになることも有り得る。
それに、いくら少年たちがMLBに憧れようと、いきなりMLBに挑戦するのは現実的ではない。大谷だって、高校卒業後は直接MLB入りを希望していたが、ドラフト指名した北海道日本ハム ファイターズが数々の例を挙げて粘り強く説得し、入団に漕ぎ付けた。もし大谷がいきなりMLBに挑戦していたら、二刀流をさせてもらえなかったばかりか、マイナーで潰れていた可能性もある。
しかも、これだけの巨額なマネーを生み出すMLBでも、アメリカでの人気は頭打ち。アメリカン・フットボールのNFLには大きく水を開けられ、バスケットボールのNBAに抜かれ、アメリカは不毛の地と呼ばれたサッカーのMLSには追い付かれようとする始末。大谷が出場するMLBの試合映像を見ると、スタンドはガラガラ。阪神甲子園球場をはじめとする日本の球場の方が、遥かに多くの観客を集めている。
それでも、MLB球団がこれだけの多額な年俸を選手に支払っているのは、莫大な放映権料があるからだ。それは海外にも広がり、主な収入源は日本。日本人メジャー・リーガーが、他のMLB選手の高額年俸を支えているとも言えるだろう。
▼連日、超満員となる阪神甲子園球場のような光景も、今のMLB球場では見ることはできない
ビジネスになっていない日本のプロレス団体
日本のプロレス界ではどうか。野球以上に、日米格差は広がっていると言えるだろう。
MLB球団のように、アメリカのプロレス団体だって日本のプロレスに注目しているのは間違いない。
日本のプロレスと野球で違うのは、プロレスの場合は本当に空洞化しそうな点だ。スター・レスラーを引き抜かれると、そのレスラーの代わりが出て来ない。NPBがいくらMLBに選手を輩出しても、代わりのスターが誕生するのとは大違いだ。
たとえば中邑真輔のように、アメリカで活躍する日本人レスラーはいるが、日本ではプロレス・ファン以外には全く知られていない。野球なら、大谷翔平に憧れて野球を始める少年は数多くいると思われるが、中邑に憧れてプロレスラーを目指す少年は極一部だろう。
現在はグローバル化の時代。かつての『巨人・大鵬・卵焼き』のように、日本国内で充足する時代は終わった。世界に目を向けなければ、日本でも人気を得ることはできない。
野球やサッカー、バスケットボールでは海外で活躍する選手が注目され、ラグビーでもワールドカップで好成績を求められる。プロレス界でもそれは同じで、オカダ・カズチカがプロレスの本場であるアメリカに活躍の場を移すのは喜ばしいことだ。
ただ、残念ながら、そのことは日本ではプロレス・ファン以外には話題にすらならない。中邑がいくらアメリカで活躍しようと、日本ではニュースにならないのだ。
これでは、プロレスラーになろうとする子供が増えるわけがない。希少なスター選手がアメリカの団体に引き抜かれると、日本のプロレス界の空洞化は避けられないのである。
かつての日本人レスラーでも、アメリカで活躍する選手はいた。その最大のレスラーはジャイアント馬場だろう。
馬場はアメリカでトップ・レスラーになりながら、日本プロレス所属の選手だった。当時のアメリカのプロレス界はテリトリー制だったため、日本のプロレス団体に所属しながら、アメリカでのファイトが可能だったのだ。
だが、現在はテリトリー制が崩壊し、プロモーターの集合体ではなく、団体が牛耳る興行形態。日本人レスラーがアメリカで活躍しようとすれば、元の日本の団体から離脱する必要がある。
日本人メジャー・リーガーやNBAの八村塁のように、アメリカでの日本人レスラーの活躍が報じられれば、プロレスラーを目指す子供たちも増えるだろうが、残念ながらそうはなっていない。
日本でプロレスの事が話題にならないうえに、スター・レスラーがいなくなれば、空洞化するのは必至だ。まずは日本のプロレス団体も経営のプロがトップに立ってビジネス化し、レスラーの待遇を改善する必要があるのに、年末年始のニュースでは時代に逆行することばかり。
筆者が期待した日本プロレスリング連盟の発足も、今のところは何も見えてこない。スター・レスラーがアメリカに流出しても、手をこまねいているばかりだ。
山本由伸投手はポスティング・システムでのMLB移籍のため、移籍金が発生する。その額は、なんと約72億円。山本の昨シーズンでの活躍を見ると、日本に残っていれば少なくとも年俸は8億円ぐらいにはなっていただろうから、その額を支払わなくて済むオリックスは、移籍金と合わせて約80億円は儲かったわけだ。その資金を、チームの強化に充てることもできる。
だが、日本のプロレス団体は、アメリカの団体にスター・レスラーが移籍しても、ただ搾取されるだけで全く儲からない。ビジネスになっていないのだ。
時代に逆行する現役レスラー社長就任に選手の大量離脱、ルール整備ができない連盟の発足。
日本プロレス界の明日はどっちだ!?
※月額999円ファイトクラブで読む
▼S活字今週の肝:日米差広げるWWE放送権高騰 オカダ・カズチカ退団
※600円電子書籍e-bookで読む
’24年01月25日号激震オカダ退団 渕正信70-全日騒動 Jペリー新日 双子ラウェイ 映画評
※月額999円ファイトクラブで読む
▼今週の要:RAW-Netflixカネの雨降らす日米格差オカダStardom全日
▼MLW小島聡サミ・キャラハン角田奈穂宮本もかマット・リドルAケイン組
▼AEWバレットクラブゴールドROHトリオ戴冠 サモア・ジョーHOOK奮闘
▼NXTダスティ・クラシックBコービンBブレイカー決勝Ava最年少GMに
▼AEW刺青ToniディオナSwerveジェフ撃破Aコープランド鈴木みのる
※600円電子書籍e-bookで読む(カード決済ダウンロード即刻)
’24年02月01日号RAW-Netflix7400億円 Gleat大阪 オカダ続報Stardom再編ONE 坂口征夫