[週刊ファイト6月9日号]収録 [ファイトクラブ]公開中
[Fightドキュメンタリー劇場 26] 井上義啓の喫茶店トーク
▼アンドレの全盛期と終焉/ジャイアント・タッグ結成
by Favorite Cafe 管理人
「アンドレ・ザ・ジャイアント vs. ジャイアント馬場」 凄まじい闘いになるはずのこの試合を今やらなかったら、このカードは永久に埋没してしまう。“この試合はやるべきだった”と後悔する時が必ず来る。どんなことがあってもやるべきだ。I編集長は、週刊ファイトに書き続けた。
■ 闘いのワンダーランド #033(1997.01.20放送)「I編集長の喫茶店トーク」
1977.06.01 愛知県体育館
アントニオ猪木 vs. アンドレ・ザ・ジャイアント
(I編集長) 今日は昭和52年6月1日に愛知県体育館で行われた猪木vs.アンドレ戦を見ていただきました。これはご覧になった通りで、猪木が大変苦戦したNWFヘビー級選手権試合です。ここ愛知県体育館で行われた猪木vs.アンドレの試合となると、みなさんの中には「あの変形腕折りでアンドレをギブアップさせた名古屋での試合かな」と思われた方も多かったんじゃないですかね。ところが最後まで見たら、腕折りの決着じゃないんだと、そこで気付かれた方もあったかと思います。今日放送された試合は腕折のずーっと前の試合ですよ。昭和52年です。猪木が腕折りで勝つシーンが出てくるのは、この試合からは9年後、昭和61年ですね。
1977年6月1日 愛知県体育館
(I編集長) 今日見ていただいた試合のアンドレは、もうほんとに絶頂期と言いますか、一番凄い時のアンドレですよ、これ。だから「あー、アンドレはこんなにも凄いレスラーだったんだな」と分かっていただければ、それで十分ですよ。アンドレの強さ、凄さが今日の試合によく出ていますよ。猪木も絶好調なのに、とにかくてこずっているというか、こんなにも四苦八苦して闘っている、そこらへんが非常に面白い見所ですよね。
ボーアンドアローを仕掛けるが、うまくいかない
(I編集長) 猪木が本当にてこずった対戦相手というのは、何人かおりますね。ホーガンもそうだし、ブロディ、絶頂期のハンセンなんかもそうです。それでもやっぱり私が一番印象に残っているのは、アンドレ・ザ・ジャイアントなんですよね。
(I編集長) 古い話ですが、力道山がどうにもならなかった相手は、ミスター・アトミックなんです。このレスラーはとにかく力道山がてこずった外国人レスラーだったという印象がありますね。それと同じことが、猪木にとってのアンドレにも言えると思います。
力道山、ミスター・アトミック、猪木
▼秘蔵写真で綴る浪速のアントニオ猪木#14 1969年9・28覆面3選手アトミック他
▼[Fightドキュメンタリー劇場④]モンスター・ロシモフが新日プロへ移籍
(I編集長) 今日の猪木とアンドレの試合をビデオで見ていましたら、やはり最初に今申し上げた9年後の名古屋での試合、変形腕折りの試合のエピソードが、私の頭にも浮かんで来ましたね。そのアンドレが初めてギブアップ負けした夜のことを高橋レフリーが私に話してくれたことがあるんです。試合が終わった夜、高橋レフリーは「こりゃあ、今夜のアンドレは荒れるだろうな」と思っておったらしいんです。そりゃあそうでしょうね、アンドレ・ザ・ジャイアントに名前が変わってから、初めてのギブアップ負けですからね。それまでのモンスター・ロシモフ時代には、勝ったり負けたりもあったですよ、そりゃそれでいいんです。
国際プロレス時代のモンスター・ロシモフもド迫力
(I編集長) アンドレ・ザ・ジャイアントに名を変えてからギブアップ負けしたのは、フォール負けも含めてこの試合が初めてなんですよ、天にも地にもね。当時高橋レフリーは外人係もやっておったわけで、その晩も一緒にメシを食いに行くことになったんです。高橋レフリーは、「今日は大変だろうな」と、そう思いながら一緒に席についたんですね。
ところがアンドレは全然荒れないんですね。全然荒れない。とにかく乾杯しようということになって、こんなちっこいね、アンドレが持つと普通のコップはこんな小さくなるので、とってもおかしいんですけどね。
アメリカのスポーツ誌の記事(週刊ファイト1983年1月11日号)
(I編集長) またコレ話がちょっと離れますけど、馬場さんがタバコを吸うんですが、キューバ産の葉巻とか、そういったものを吸ってる時はいいんですよ。あの大きな手で大きな葉巻を握ってるのは、とても似合ってるんです。ところが、あの人はどういう訳か知らんが、たばこはショートホープを吸うんですよ。ショートホープってのはこんなに短いでしょ、こんなちっこい箱をね、あんな大きな手でこうやって開けて口にくわえるんです。普通の人がショートホープを口にくわえても不思議でもなんでもないんだけども、馬場さんがそれをやると、もの凄くおかしいんですよね、これ。もうタバコがこんなに小さくなるんですよ。
(I編集長) アンドレの話に戻しますが、いつもなら生ビールでも瓶のビールでも「ドーン」と大ジョッキを置いて、いっぱいに注いで飲むんですよ。ところが、この時はなぜか普通のコップにビール注がせて、あの大きな手で小さなコップを持ってカンパイしたので、高橋レフリーはとてもおかしかったと言ってましたね。
(I編集長) なんと、そこでアンドレは「猪木にカンパイ」と言って、ニコッと笑ったと言うんです。だから高橋レフリーが「あれっ?」って思ってアンドレをもう一度見たらしいです。何なんだろう、どうしたのかなと高橋レフリーも首をひねったと言うんですね。この話を聞いた私も本当のアンドレの胸の内まではわからないけれども、おそらくアンドレは猪木に乾杯したのでは無いのだと思います。アンドレは言葉では「猪木にカンパイ」と言いましたけれども、本当は「今日で自分のプロレスが終わった、今日でアンドレ・ザ・ジャイアントが終わった」という気持ちで、自分のプロレスの終焉に対する乾杯をしたのだと思うんです。アンドレが自分に対して「今日まで、アンドレ・ザ・ジャイアント、お前はよくやった。俺は今日一生懸命闘ったけども猪木に負けた。アンドレ・ザ・ジャイアントの時代は終わる。自分に乾杯!」と、そういった乾杯だったと私は思うんですね。そういったことを感じさせる試合だったわけですよ。
▼[Fightドキュメンタリー劇場⑩] 井上義啓の喫茶店トーク
そもそも、ロシモフを「バケモノ」扱いしたことが間違いですよ。