本当に神様になってしまった猪木さん ケン・片谷

[猪木追悼⑪]
▼本当に神様になってしまった猪木さん
 by ケン・片谷
・初観戦は田園コロシアム
・猪木負けろ!
・北朝鮮『平和の祭典観戦ツアー』
・パラオ『闘魂猪木塾』
・神様降臨! 猪木さんとテーブルを囲む
・猪木の子どもたち


『アントニオ猪木逝去』

 この一報が入ったのは、10月1日㈯午前9:20頃。
 最初の印象は『ついにこの瞬間が来てしまったか・・・』でした。
 動画サイト等で、猪木さんの近々の病状はわかっていたので、覚悟はしていたものの頭のどこかで猪木さんなら必ずまた元気になって我々の前に姿を表してくれる。そして、“ダァー”をやってくれると信じていました。

 ですから、かなりの動揺は隠せませんでした。しばらくは手の震えと、バクバクという音が周囲の人にも聞こえるのではないかと思うほどの動悸が止まりませんでした。

 馬場さんの訃報の時もそうでしたが、強さの象徴であるプロレスラー、ましてや日本を代表とする巨頭が亡くなるというのは、にわかに信じがたいものがあります。
 しかし、現実は甘くありません。馬場さんも猪木さんも一人の人間です。悲しいですが、いつかはその命に終わりを告げる時がやって来るのですね・・・。

 猪木さんに影響を受けた人はたくさんいると思いますが、間違いなくオイラもその内の一人です。オイラがプロレスを見始めた頃は、新日本、全日本、国際の3団体時代でした。その中で、オイラは圧倒的な“新日派”でした。
 金曜8時は、『太陽にほえろが見たい』『金八先生が見たい』という家族の意見を抑え、10チャンネル(テレビ朝日)を死守しました。
もちろん、土曜5時半の全日本プロレスも、月曜8時の国際プロレスも見てはいましたが、それはあくまでプロレス界全体の流れを知るために過ぎませんでした。

 オイラが初めて新日本プロレスを生観戦したのは1980年8月24日。会場は、今はなき田園コロシアムでした。田園コロシアムといえば、伝説のスタン・ハンセンvs.アンドレ・ザ・ジャイアント戦が有名ですが、ちょうどその一年前の大会となります。
 メインイベントは、アントニオ猪木&ボブ・バックランドの“帝王コンビ”がタッグでスタン・ハンセンと激突! ハンセンのパートナーは、クラッシャー・バンバン・ビガロらを排出した『モンスターファクトリー』の生みの親、ラリー・シャープという超豪華なタッグマッチです! 生の迫力と、猪木さんの魅力を感じるのには十分な一戦でした。

 それ以来、寝ても覚めてもオイラの頭の中は猪木さんでいっぱい!
 倒れても倒れても、最後は必ず敵に撃ち勝つ姿に、いつも自分の人生を投影させていました。家庭用ビデオデッキが一般的でなかった時代、次の金曜日が来るのを指折り数えながらひたすら待ちました。学校に行っても教科書やノートの余白に『闘魂』の文字を書きまくりました。

 とにかく、強い猪木さんが大好きでした。しかし、日本人特有の判官贔屓というやつでしょうか、あまりに強すぎて『たまにはやられろ!』と勝手なことを思ったこともありました。
 1981年、国際プロレスが崩壊し、はぐれ国際軍団としてラッシャー木村さん、アニマル浜口さん、寺西勇さんの三人が新日本プロレスに殴り込みをかけました。猪木さんと木村さんの最初の一騎討ちが決まった際、実は木村さんを応援していたというのはナイショです(笑)。

 猪木さんの名勝負や名場面を挙げたらきりがありません。それはまた別の機会に話すとして、ここでは、プロレスファン時代に、試合会場以外で猪木さんに直接お会いした時のエピソードの数々をご紹介しましょう。
 就職し、自分で稼いだお金がある程度自由に使えるようになると、東京近郊の試合だけでは飽き足らず、地方会場まで追っかけることもしばしば。さらには、猪木さんを囲むイベントやツアーにも参加するようになっていました。

 初めて参加した海外ツアーは、1994年の『北朝鮮「平和のための平壌国際体育・文化祝典」』観戦ツアーです。
 日本と国交のない北朝鮮に行くことができ、なおかつ猪木さんをはじめ新日本プロレスや女子プロレスも観戦できるとあり、海外旅行とプロレスが大好きなオイラにとっては一石二鳥、いや、それ以上の願ってもないツアーでした!
 2日間にわたり開催された平和の祭典は、北朝鮮の首都平壌のメーデースタジアムに38万人の大観衆を集め、大盛況のまま幕を閉じました。
その後も猪木さんは何度も訪朝し、拉致問題解決に向けて尽力されたのは有名な話です。

 北朝鮮の二年後、ロサンゼルスで行われた平和の祭典にも行きました。
 メインは、アントニオ猪木&ダン・スバーンvs.藤原喜明&オレッグ・タクタロフでした。
 引退間近の猪木さんが、プロレスラーとしての第一線を退き、格闘技路線へとシフトチェンジしていた頃でした。
 この時は、大会後の懇親会にも参加させていただき、猪木さんはじめ多くのプロレスラーと交流を持つことができました。ファンにとってはたまらない瞬間です。

 一風変わったツアーもありました。パラオ諸島に浮かぶ『イノキアイランド』に猪木さんと一緒に行くというものです。
 『闘魂猪木塾』と名付けられたこのツアーでは、猪木さんはじめ佐山聡さんやプロデビューしたばかりの小川直也さん、ケンドー・カシンこと石澤常光さんから直接格闘技の稽古をつけてもらえるという企画がありました。
 ちなみに、オイラが初めて“闘魂ビンタ”を食らったのもこのツアーです(笑)!

 これらのツアー客には、某バラエティー番組で『猪木と10分1本勝負』を獲得した大学教授から一般のサラリーマンまで、様々な職種の人がいました。中には歯科医や会社経営者、さらには現役の高校教師もいました…あっ、これはオイラのことです(笑)!

 共通の趣味を持ち、その趣味にどっぷり浸りながら寝食を共にするのですから、否が応でもすぐに意気投合してしまいます。
 誰が言ったか『俺たちは猪木の子どもたちなんだ!』。そう、我々は猪木の子どもたち、猪木Childrenなのです。
 異母兄弟の体には、熱い猪木さんの血が流れています。あれから30年近く経った今でも、兄弟の繋がりは続いています。猪木さんが繋げてくれた尊い縁ですので、これからも仲良くしていきたいと思います。

1996年12月1日 猪木フェスティバル(FIGHTING TV SAMURAI 開局特番)

 このように、さすがにこれだけ猪木さんの“追っかけ”をしていると、我々のグループも猪木さんに顔を覚えてもらえるまでになりました。そして奇跡は1996年12月1日、代々木第二体育館で行われた『猪木祭り』の試合終了後に起きたのです!
会場の外で選手の出待ちをしていると、そこにお待ちかねの猪木さんが姿を現しました。流石のオーラで、他の選手より一際目立っているのですぐにわかります。
 すると、次の瞬間信じられないことが起こりました。我々の存在に気付いた猪木さんが、突然『おいっ! (一緒に)行くぞっ!!』と待たせてあったタクシーに、我々も一緒に乗るよう促したのです!!
 我々は狐につままれた心持ちで、言われるがままタクシーに乗り込みました。
着いた先は六本木某所。なんと、我々は猪木さんに飲みに連れて行ってもらうというまさに夢の世界にトリップしたのでした。

 今まさに、お互いの息がかかるほどの距離に憧れの猪木さんがいます。昨日まで雲の上の存在であった猪木さんが目の前で話をしています。そして何度も猪木さんと目が合います。夢ではありません。これら全てが現実に起こっているのです!
 しかし、猪木さんが何を話されても、オイラは文字通りうわの空でただただ頷くばかり。2時間ほどお店にいたはずなのに、残念ながら会話の内容はほとんど覚えていません。それだけ緊張し、またフワフワとした何とも表現し難い特別なトランス状態にあった証拠でしょう。
それでも、優しい猪木さんの表情と語り口は、今もハッキリと覚えています。どこにでもいる、ただの一ファンに過ぎないオイラたちに対しても、決して見下すようなことはせず同じ目線で接してくれたように思います。

 スマホなんか無かった時代。突然のことでカメラも持っておらず、誰かがコンビニまで走って買ってきた使い捨てカメラで撮ったであろう一枚の写真。当時は紙焼きの写真しかありませんので、経年劣化ですっかり色褪せてしまっていますが、それも含めて良い思い出です。

 そんな猪木さんがこの世からいなくなってしまいました。
 引退試合の時もショックでしたが、その時はこれからは“プロレスラー”アントニオ猪木ではなく“人間”アントニオ猪木を崇拝しようと誓いました。
 人間であれば、崇拝というのは少し違うと思います。そう、猪木さんは我々にとって神様のような存在でした。
 オイラは(自分の)試合前、必ず“プロレスの神様”に手を合わせます。静かに目を閉じると、浮かんでくるのは猪木さんの顔です。
 生きていながら、神様と崇め続けてきた猪木さん。とうとう本当の意味で神様になってしまったのですね。

 猪木さんというあまりに大きな柱を失ってしまいました。明日から我々はどうやって生きていけばよいのでしょうか? 子どもたちは皆迷子になっています。
 でも安心してください。猪木さんの教えを守り、一人ひとりそれぞれの“闘魂”に火を灯しながら自分の足でしっかりと歩いてゆきます。
 ですから、どうか天国からあなたの子どもたちの生き様を見守っていてください。

 さようなら猪木さん。あなたからもらった闘魂を胸に、あなたのいない毎日をこれからも全力で生きてゆきます。
 たくさんの夢と勇気をありがとうございました。


CMAプロレスリング ケン・片谷


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