新日本プロレス ハロルド・ジョージ・メイ新社長就任の深淵

何故、新日本プロレスにハロルド・ジョージ・メイ新社長就任なのか?それは当然、北米進出へ向けての切り札といえる。
1963年生まれのメイ新社長は8歳の時にオランダから来日。日本語も英語も話せない孤独を紛らわせる為に遊んでいた1台のトミカがきっかけで馴染む事ができ、その後14歳まで日本で過ごしたという大の日本通。

動画でお解りのように流暢な日本語で、かつてリプトンの紅茶やコカコーラゼロをヒットさせた財界では有名な経営者の1人。3年前に乞われてタカラトミーの社長に就任、トミー創業家外から初の社長となり、海外事業を立て直し、国内でも改革を断行して低迷していた業績をV字回復させた。その後3倍に続伸した同社株価が、辞任が報じられた翌日には11%も急落したともいわれる。
タカラトミーの社長辞任が発表されたのは11月7日だが、翌月12月10日のKNOCK OUT両国大会のリングサイドで木谷オーナーと並んで観戦しているのを本誌ではキャッチ。

マスクを被っての入場を見つめるメイ新社長

せっかく円安や法人減税で蓄えた資金を海外事業に注ぎ込んだ挙げ句、巨額損失を被る羽目になったとのニュースがお馴染みの多くの日本企業からしてみれば三顧の礼で迎え入れたい逸材といえる。その腕利きの経営者が新日本プロレスの社長就任となればプロレス界のみならず経済的な大ニュースであり、東スポのスクープを日経電子版が後追いするという、プロレスファンとしては痛快な事態にもなった。
ヘッドハンティングというには、売り上げ高1600億円超の上場企業から、最高益更新といいながらも売り上げ46億円の新日本プロレスでは規模や桁が違いすぎる。
クリス・ジェリコよりはるかに招聘の難しいメイ社長をどうやって口説き落としたのか、木谷オーナーの今後の発言が注目されるところ。71年〜77年に滞在といえば丁度新日の旗揚げ〜モンスターマン戦辺りの猪木黄金期で、同世代の木谷オーナーとプロレスの話で大いに盛り上がった可能性もある。

メイ社長には当然、新日本プロレスの北米進出成功が託されようが、新日本プロレスと合わせて『バンドリ! 』『ヴァンガード』の3本の矢で、ブシロード一丸となって北米で展開するのには、キャラクタービジネスの経験のあるメイ社長はうってつけ。さらにもう一つ、やはり社外からの、ましてや欧米人社長ということで、しがらみなく現場にトップダウンで改革を断行できる強みもある。
北米進出に関して本誌では再三指摘している『カミングアウト』問題にしても、メイ社長が「必要」となれば現場としても認めざるを得ないであろう。
また、試合内容では勝るとも劣らないストロングスタイルの試合をやっているのに、WWEに比べると物足りないアングルで損をしている点に関しても、日本には世界に冠たるマンガ・アニメの有能なストーリーテラーが大勢いるのだから、起用すれば一気にレベルアップするはず。
それも木谷オーナーとしては解っていても現場への配慮ということで出来なかった改革であろう。

この夏を過ぎる辺りから、いよいよブシロードの3本の矢が北米に着弾、WWEは無論、カードゲームの絶対王者『マジック:ザ・ギャザリング』のウィザーズ、オブ・ザ・コースト社、キャラクタービジネスのマーベルコミックやウォルトディズニーといった世界的大企業を相手に真っ向勝負を挑む図式が展開される事になる。

現政権肝煎りの官民協業によるコンテンツビジネス『クールジャパン』は、税金をペーパーカンパニーの空疎な企画書に浪費させられるだけの無残な結果に終わりつつある。だがブシロードの北米進出こそは、ゲームでの任天堂以来、ようやく戦闘力のある、日本発のコンテンツビジネス展開だといえる。
かつてコミックマーケットの故・米沢代表は、増殖するコミックマーケット=マンガ・アニメ・ゲームのおたく文化を牽引しての最終目標を訪ねられて
「世界征服」
と冗談半分で応えていたが、いよいよ北米に日本流のおたく=OTAKUによる本格侵攻が始まるといってもいい情勢なのである。
マンガの縦書き右綴じや、日本のままのストロングスタイルのプロレスを有り難がるマニアだけでなく、マーベルコミックやディズニー、WWEなどを楽しむ大衆を相手にして始めて真っ向勝負する日本初のエンターテインメント企業といえるブシロード。当然、今後も目が離せない。