スタン・ハンセン、戦慄のブルーノ・サンマルチノ首折り事件!

「ギブ・アップせんと背骨が折れるぞ!」
「ノ…ノーッ!! やはり折れるのは………あんたの……首だッ!」
「グエエ~ッ!!」

『ブレーキの壊れたダンプカー』の交通事故は偶然じゃない?

 その日、ニューヨークのファンは王者ブルーノ・サンマルチノに大声援を送り、挑戦者スタン・ハンセンには罵声を浴びせた。
 しかし、ハンセンはサンマルチノを挑発する。
「ヘーイッ! 人気だけのチャンピオン!! あんたのツラはもう見飽きたぜ。つまり古いんだッ! 俺が処刑してやるぜ!」

 ハンセンの言葉にファンは怒った。
「ほざくなッ、田舎っぺ!! 田舎の悪役め、ニューヨークじゃおよびじゃないぞ!! われらのブルーノ、侮辱のお返しに背骨をヘシ折ってやれ!!」
「ファンの言うとおりだ………フフフッ……」
 サンマルチノが余裕の笑みを浮かべる。
 だが、ハンセンも負けていない。
「いや、違うな。折れるのはあんたの首だぜ!」

 試合では、サンマルチノが必殺技のベア・ハッグでハンセンを抱え潰そうとする。
「ギブ・アップせんと背骨が折れるぞ!」

 苦しむハンセンだが、最後の力を振り絞った。
「ノ…ノーッ!! やはり折れるのは………あんたの……首だッ!」
「グエエ~ッ!!」
 ハンセンのウエスタン・ラリアートが炸裂、サンマルチノはマットに倒れる。そして、首の骨折により救急車で運ばれた。

 今から47年前の1976年4月26日、アメリカ合衆国ニューヨークのマジソン・スクエア・ガーデン(MSG)でWWWFヘビー級タイトル・マッチが行われ、チャレンジャーのスタン・ハンセンがチャンピオンのブルーノ・サンマルチノの首を折ってしまうという事件が起きる。
 ハンセンは、
「『ブレーキの壊れたダンプカー』の交通事故は偶然じゃねえッ! 人気があって英雄ぶってる奴を狙い撃ちするんだ!!」
 と嘯いた。

 ……というのは、とっくにお気付きの通り、漫画『プロレススーパースター列伝』(原作:梶原一騎、作画:原田久仁信)での一幕だ。この漫画では、サンマルチノが首を骨折したのは、ハンセン必殺のウエスタン・ラリアートの威力が凄まじかったからだと描かれている。
 いや、当時はそう信じられていた。つまり、梶原一騎による創作とも言えなかったわけだ。

 しかし、実際にはサンマルチノの首が折れた原因はウエスタン・ラリアートではなく、ボディースラムだったのはご存知の通り。だが、皮肉なことにこの事故がハンセンを出世させた。

▼S・ハンセンvs.B・サンマルチノの首折り事件が起きたマジソン・スクエア・ガーデン

ブルーノ・サンマルチノがいたからこそスタン・ハンセンはブレイクした

『列伝』の中では、ブルーノ・サンマルチノが英雄ぶっていたので、それを憎んだスタン・ハンセンがウエスタン・ラリアートで故意にサンマルチノの首を折ったことになっているが、もちろんそんなことはない。ハンセンはサンマルチノを憎むどころか尊敬していた。
 ハンセンの自伝『魂のラリアット』(双葉社)によると、ハンセンをWWWF(現:WWE)にブッキングしてくれたのはサンマルチノであり、つまりハンセンにとって恩人でもあったわけだ。

 不幸な事故で長期欠場を余儀なくされたサンマルチノだったが、WWWFの大ボスであるビンス・マクマホン・シニアに対し「スタンを責めないで欲しい」と“加害者”のハンセンを庇っている。
 ハンセンも、サンマルチノの欠場中にその穴を埋めるべく、大ヒールに徹して客を引き留めた。

 2ヵ月後のシェイ・スタジアムでハンセンとサンマルチノが再戦する。この日、日本で行われるアントニオ猪木vs.モハメド・アリの異種格闘技戦がクローズド・サーキットで放映されたが、日本と違いアメリカでの人気はサッパリで前売り券の売れ行きが芳しくなく、サンマルチノはまだ試合のできる状態ではなかったにもかかわらず、集客のため復帰せざるを得なかった。
 サンマルチノは500㏄もの痛み止め注射を打って試合に強行出場、そのプロ魂にハンセンは感動している。

 後日、ハンセンはマクマホンからWWWF残留か新日本プロレス行きかの二者択一を迫られた。この時もハンセンはサンマルチノに相談し、サンマルチノは「このままWWWFにいても君の価値が下がるだけだからニュー・ジャパンに行った方がいい」とアドバイスしている。
 ハンセンは恩人の忠告に従い、新日行きを決意した。もし、サンマルチノの助言がなければ、ハンセンはブレイクすることもなかったかも知れない。

▼スタン・ハンセンが信頼した人格者のブルーノ・サンマルチノ

スタン・ハンセンのブレイクの影にジャイアント馬場の存在あり!?

 首折り事件の前年、スタン・ハンセンは初来日を果たしている。それは、後にブレイクする新日本プロレスではなく、全日本プロレスだった。
 しかし、全日の総帥であるジャイアント馬場の評価は低く、テキサス州アマリロで一緒にプロレス修業したジャンボ鶴田が既にメイン・エベンターに昇格していたのに対し、ハンセンは前座扱いに過ぎなかったのである。

 ところが、首折り事件後のハンセンが来日した新日本プロレスでは、様相が全く違っていた。普通なら、相手レスラーに大怪我を負わせたプロレスラーの評判は悪くなるが、ハンセンは『あの偉大なブルーノ・サンマルチノの首を折った強豪レスラー』と宣伝にすり替えられたのだ。
 もちろん、骨折の原因はボディースラムの失敗などではなく、必殺技のウエスタン・ラリアートによるものだということになった。

 当然、アントニオ猪木以外の新日レスラーは徹底的にハンセンのセールに回り、次々とラリアートの餌食になる。そして、御大の猪木への挑戦権を与えられ、フォールできなかったとはいえパワーで猪木を圧倒しギリギリまで追い詰めた。
 猪木も、アメリカでは受けないようなハンセンの魅力を存分に引き出し、自らのライバルに仕立てていく。ハンセンは猪木と闘うことによって、外国人№1の人気レスラーにのし上がった。

 そもそも、新日が不器用と思われていたハンセンの売り出しにかかったのは、ハンセンの素質もさることながら、ジャイアント馬場の存在があったからかも知れない。
 サンマルチノと言えば、馬場の親友でありライバルとしても知られている。そんな馬場のライバルでさえ、ハンセンは首を折ってイチコロで倒した、という印象を植え付けたわけだ。全日本プロレスに登場する外国人レスラーなんて所詮その程度、というイメージ戦略である。

 新日や猪木が『プロレスの神様』として崇め奉っていたカール・ゴッチがセメント最強と言われたのも、馬場が実際に闘い『世界最高のレスラー』と尊敬していたバディ・ロジャースを控室で襲撃した事件と無縁ではないだろう。もっとも、猪木はゴッチの自分勝手な試合ぶりは認めず、新日内にもゴッチに関しては賛否両論があったようだが。
 よく考えれば、控室でレスラーを襲う(しかもビル・ミラーと2人がかりで)なんてプロのやることではないのだが、この事件で猪木の師匠ゴッチは強過ぎるため王者から逃げられる最強レスラー、馬場が崇拝するロジャースは弱いショーマン派チャンピオンと日本では宣伝された。

 ちなみに『プロレススーパースター列伝』では、ブルーノ・サンマルチノもバディ・ロジャースも、人気だけで実力のないチャンピオンとして描かれている。
 ついでに言えば、サンマルチノは晩年のロジャースを僅か48秒で秒殺し、WWWF世界ヘビー級チャンピオンとなった。

▼ジャイアント馬場が『世界最高のレスラー』と絶賛していたバディ・ロジャース


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