武藤敬司vs.三沢光晴、もし闘わば……

 2023年2月21日、東京ドームで武藤敬司が引退した。昭和の終わり頃にデビュー、平成では№1レスラーとして君臨し、令和まで3つの時代を駆け抜けたスーパースターである。
 圧倒的な身体能力と抜群のセンス、イケメン・アイドルから悪の化身までありとあらゆるキャラクターを演じた超天才だった。

 ただ、惜しむらくは故・三沢光晴とのシングル・マッチを実現できなかったことか。タッグ・マッチでは対戦したものの、この頃は両者とも全盛期を過ぎており、さらに武藤は全日本プロレス、三沢はプロレスリング・ノアの社長を務めていたため、レスラーとして専念できない状態だった。
 全盛期での両者のシングル対決を見たかったのは、プロレス・ファンの総意だろう。

 どちらも1962年生まれの同い年、新日本プロレスのエース武藤と全日本プロレスのエース三沢、共にヘビー級ながら空中殺法を得意とし、必殺技はジャーマン・スープレックス、さらにはグレート・ムタとタイガーマスク(二代目)という仮の姿を持っていることまで共通していた。
 武藤は内藤哲也との引退試合でも、三沢のオリジナル技だったエメラルド・フロウジョンを繰り出すなど、三沢を意識していたのは明らかだ。そして、最後のリングとなったのが、三沢が創設したプロレスリング・ノアだったというのも何かの因縁か。

 もし、武藤と三沢がシングルで闘っていたら、どんな試合になっていたのかシミュレーションしてみよう。もちろん両者の全盛期、武藤がIWGPヘビー級チャンピオンで、三沢が三冠ヘビー級チャンピオンだった頃の設定だ。
 1995年12月31日、鎖国を続けていた全日本プロレスが突如として開国し、東京ドームで新日本プロレスとの対抗戦を開催する。メインはもちろん、2ヵ月前にUWFインターナショナルの高田延彦を破った武藤敬司と、三冠王者の三沢光晴というIWGP&三冠のダブル・タイトルマッチだ。勝った方が四冠王となり、翌年1月4日に高田延彦の挑戦を受ける。つまり、三沢が勝てば三沢光晴vs.高田延彦が実現するかも知れないのだ。ちなみに、高田も同い年である。

 筆者はここまで書いた時点で、どんな結末にするのか全く決めていない。脳内にいる武藤敬司と三沢光晴のファイトに期待しよう。


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▼トップに立てなかった天才、武藤敬司~マット界をダメにした奴ら

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▼20世紀、全日本プロレス中継に新日本プロレスのレスラーが登場すること自体が大事件だった

悪の化身vs.正義のヒーロー

 1995年の大晦日、東京ドームには2ヵ月前の新日本プロレスvs.UWFインターナショナル全面対抗戦を上回る7万人の大観衆が詰め掛けた。そして、日本テレビがゴールデン生中継する。
 いよいよメイン・エベント。今回は全日本プロレスがホストということで、ビジターである新日本プロレスのIWGP王者・武藤敬司が先に入場だ。

 ところが、東京ドームに流れるのは三味線の音。そして、入場してきたのは武藤敬司ではない。なんと、グレート・ムタが現れた! どよめきの後、大歓声に包まれる東京ドーム。
 ムタがリングに上がり、次に流れてきたのは『スパルタンX』ではなく「白いマットのジャングルに~♪」のメロディーが……。そう、二代目タイガーマスクの登場だ。

 ゴング前、握手を求めるタイガーに、ムタは応じるふりをしていきなり毒霧! ところが、これを読んでいたタイガーは素早くかわし、バックに回ってタイガー・スープレックス’85をお見舞いした。ムタはかろうじてカウント2で跳ね返す。
 タイガーは立ち上がったムタにドロップキック。ムタは場外に転げ落ちる。タイガーは場外のムタに向かって、ラ・フィエラ戦で見せた一回転してのプランチャ! ようやく起き上がり、リングに戻ってきたムタに対し、今度は風車式バックブリーカーを叩き込む。さらに、倒れたムタにタイガーはセントーン。完全にタイガー時代の動きだ。

My beautiful picture

 一方的なタイガーのペースに、ムタはグロッキーとなった。タイガーマスクのまま、グレート・ムタに引導を渡してやる、とばかりにトップロープへ駆け上ったタイガーは、倒れているムタに必殺のダイビング・ボディ・プレス!
 ところが、飛び降りてくるタイガーの顔面に、ムタは毒霧を一閃! あれだけタイガーの猛攻を受けながら、ムタはまだ口の中に毒霧を忍ばせていたのか!?

 タイガーはたまらず花道へエスケープ。何とか立ち上がるも、ムタは花道の奥へ行き、蝶野正洋戦で見せた50mの助走をつけて花道ラリアット! 三沢は花道から場外へ転げ落ちた。

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本当の意味での武藤敬司vs.三沢光晴

 場外でうつ伏せになるタイガーマスクに、1人の男が忍び寄る。当時、聖鬼軍の一員として超世代軍の三沢光晴と敵対していた高校時代の後輩・川田利明だ。
 タイガーマスクに手をかけ、紐をほどき始める川田。そう、二代目タイガーマスクから三沢光晴に戻った時の再来である。立ち上がった三沢は、客席へ虎の仮面を投げ捨てた。

 リングに戻った怒りの三沢はムタの顔面に、タイガーマスク時代は封印していたエルボーの連打! みるみるムタのペイントが剥がれ落ちていく。
 リング上に倒れ、両手で顔を拭ったムタが立ち上がると、既に素顔が現れていた。いよいよ本当に、武藤敬司vs.三沢光晴の激突だ!

 自らロープに飛び、カウンターでエルボーを叩き込もうとする三沢に、武藤はフランケンシュタイナー! しかし、これを三沢はカウント2.5で跳ね返す。
 攻撃の手を緩めない武藤は、倒れている三沢にさっきのお返しとばかりフラッシング・エルボー。さらに、三沢を無理やり起き上がらせてコーナーポストに振り、スペース・ローリング・エルボー! まるで、最も美しいエルボーの使い手は俺だ、と言わんばかりだ。そして、フェイス・クラッシャーで三沢の顔面をマットに叩き付けた。

 さらに武藤は、シュミット式バックブリーカーで三沢の背骨を自らの膝に叩き付ける。武藤は素早くトップロープに登ると、必殺のムーンサルト・プレス! だが、三沢は間一髪でこれをかわした。後に判ったことだが、この時に膝を激しくマットに打ち付けたため、武藤は膝を本格的に痛めることになる。膝が人工関節になったのも、この時の影響か。
 息を吹き返した三沢は、武藤の顔面をフェイス・ロックで締め上げた。武藤の表情がみるみる歪む。が、武藤は何とかロープに逃れた。

 三沢は武藤を立ち上がらせ、スピンキックをお見舞いする。ところが、武藤は三沢の右足をガッチリ掴み、ドラゴン・スクリュー! そして休む間もなく足4の字固め、高田延彦を屠った必殺フルコースだ。
 武藤と同じく、膝に爆弾を抱える三沢は苦悶の表情。しかし、高田と違い足4の字固めの対処に慣れた三沢は、うつ伏せに返して難を逃れる。

 フラフラと立ち上がった三沢の顔面に、武藤がシャイニング・ウィザード! もっとも、この頃はまだそんな名称は付いてなかったが、偶然にも激突前に三沢は膝から崩れ落ち、難を逃れる。
 シャイニングは、三沢の後ろにいたレフェリーの和田京平に誤爆。和田レフェリーは完全に失神した。結局、シャイニング・ウィザードの初公開は5年後の太陽ケア戦まで封印される。

 千載一遇のチャンスを逃した武藤に背中から忍び寄った三沢は、投げっ放しジャーマン・スープレックス! さらに、三沢はとっておきのタイガー・ドライバー’91で武藤の後頭部をマットに叩き付けた。武藤、万事休すか!?

世紀のビッグ・マッチに待ち受けていた、まさかの結末

 フォールの体制に入った三沢光晴。いくら武藤敬司といえども、タイガー・ドライバー’91食らったらカウント3から逃れることはできないだろう。
 ところが、レフェリーの和田京平はそこにはいない。カウントを取る者がいなくなったのだ。

 リング上から本部席に対し、レフェリーの代役を立てろと訴える三沢。そこへ、ようやく起き上がった武藤が三沢の顔面に三度目の毒霧! タイガー・ドライバー’91を食らいながら、武藤の口の中にはまだ毒霧が残っていたのだ。
 リング上で悶絶する三沢。そこへ覆い被さる武藤。そして、サブ・レフェリーとしてリングに上がったタイガー服部がカウント3つを叩き、武藤が完全ピンフォールで四冠チャンピオンに輝く! いや、グレート・ムタが勝利したというべきか?

 騒然とする東京ドーム。超世代軍の小橋健太と菊地毅がリングに上がり、タイガー服部に詰め寄る。いや、小橋や菊地だけではない。超世代軍と敵対する聖鬼軍の川田利明と田上明もリングに登場、激しく抗議した。
 そこへ、橋本真也と蝶野正洋、そして佐々木健介もリングに上がる。まさしく一触即発の状態となり、事態は新日本プロレスvs.全日本プロレスの全面戦争へと発展した。

 ……と、この時代には既に新日マットからも全日マットからも姿を消していた、不透明決着というラストになってしまう。まさしく悪いマッチメイクの見本だ。
 本当にこんなことになっていたら、7万人のファンは大暴動を起こしていただろう。この記事を書き始めた時は、こんな結末になるとは筆者も全く想像していなかった。筆者はとてもマッチメイカーにはなれそうもない。

 とはいえ、想像の世界は楽しいもの。こんな楽しみ方ができるスポーツは、プロレス以外にはないだろう。


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