2022年から2023年へ。プロレス復興に待ったなし!

 2022年、最も注目を集めた出来事はカタールで行われたサッカーのワールドカップ(W杯)だろう。夏季オリンピックをも凌ぐと言われる世界最大のビッグ・イベントは、世界中の話題をかっさらっただけではなく、日本代表が強豪国であるドイツやスペインを破り決勝トーナメント進出を果たしたとあって、日本でも連日サッカーW杯が報道された。
 思えば1980年代、Jリーグが影も形もなかった頃、サッカーW杯は当時から世界一のスポーツ・イベントだったにもかかわらず、日本代表のW杯出場が夢また夢だったこともあって、日本でサッカーW杯が話題になることはほとんどなかった。サッカーは全くの不人気スポーツだったのだ。

 そう、1980年代までは……。

世界に目を向けたサッカーと野球、内向きとなったプロレス

 1980年代、日本でスポーツの王様と言えばプロ野球(NPB)だった。と言っても、全国的な人気があったのは読売ジャイアンツ(巨人)だけで、他の球団は巨人戦での収入と親会社の援助がなければ生き残れない状態だったのだ。
 この頃、プロ野球に勝るとも劣らない人気を誇っていたのが、他ならぬプロレスである。プロレスの定期放送は全国ネットの地上波(と言っても、当時は衛星放送などなかったが)ゴールデン・タイムで毎週のように視聴率20%を誇り、プロレス中継の翌日は学校や職場ではプロレスの話題で持ちきりだったものだ。

 当時、男子学生がよく読んでいたアイドル雑誌では、好きな番組のアンケート調査があったが、プロ野球中継よりもプロレス中継の方が上回っていたのだ。もちろん、アイドル雑誌なのだからページのほとんどが可愛い女の子アイドルで占められていたのだが、その中間ページにはムクつけきヤローのプロレスラーの写真が掲載されていたのである。
 しかも、アイドル雑誌にもかかわらず、プロレス専門誌も顔負けの解説まで書かれていたのだ。何しろ、あるアイドル雑誌では初代タイガーマスク(佐山聡)のライバルだったブラックタイガーの正体として、マーク・ロコの写真が掲載されていたぐらいである。
 アイドル雑誌を購入する少年は、当然のことながら可愛いアイドル写真を見るのが目的だが、そんな雑誌にむさ苦しいプロレスラーの写真まで載っていたということは、それだけプロレスの需要があったということだ。

 この頃のプロレスは、豪華な外国人レスラーが来日し、それを実力的にも引けを取らない日本人レスラーが迎え撃つという図式。そのスケールの大きさに、ファンは酔いしれていた。

 しかし、1980年代中盤から日本のプロレスは日本人対決が主流になり、そのシビアなファイトが一時的に大人気を得るも、徐々に一般人からの興味が薄れていく。ちょうどその頃、プロレスの本場であるアメリカではWWF(現:WWE)の全米侵攻によりテリトリー制が崩壊して、日本のプロレス団体は世界チャンピオン・クラスを容易に招聘できないという事情もあった。
 そして元号が昭和から平成に代わる頃、プロレス中継は地上波ゴールデンから撤退する。それでも1990年代はドーム球場を満杯にするなど、プロレス人気は何とか保っていたが、21世紀に切り替わる頃には、プロレスはオタクしか見ないマイナー・スポーツに成り下がってしまった。

 逆に、1980年代にはマイナー・スポーツに過ぎなかったサッカーは、1993年に日本初のプロ・サッカー・リーグとなるJリーグを発足。世界的なスーパー・スターがJリーグでプレーすることにより、日本サッカーのレベル・アップに成功、サッカーは日本で人気スポーツになると共に、W杯に常時出場できるほどの実力を身に付けた。
 そして、サッカー人気に押されていた野球も、巨人人気に依存する体質から脱却し、世界に目を向け始めて北米のメジャー・リーグ(MLB)で活躍する日本人選手が続出。さらには2006年に始まった野球世界大会のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本代表が2連覇するなど、人気回復に成功した。

 その間も、プロレス界は日本国内での争いに終始し、オタクを相手にした内向き志向は相変わらず。世界に目を向けたサッカーや野球人気に大きく水を開けられてしまったと言えよう。

▼日本でブレイクしたものの、WWF世界ヘビー級王座に就いたハルク・ホーガンは来日が激減した

一般企業から相手にされないプロレス界

 現在の日本での地上波プロレス中継は、業界最大手の新日本プロレスがテレビ朝日で『ワールドプロレスリング』を深夜に30分番組を細々と続けているだけ。
 無料テレビでのゴールデン・タイムと言えば、BS朝日が金曜日夜8時に『ワールドプロレスリング・リターンズ』を放送している。

 しかし、BS朝日での『リターンズ』でのスポンサーが少々問題だ。メイン・スポンサーは新日本プロレス、その他のスポンサーとしてブシロードが名を連ねている。言うまでもなくブシロードとは新日の親会社、要するに1時間番組を新日が丸々買い取っているわけだ。
 以前の『リターンズ』も似たような状況だったが、それでも新日と提携しているとはいえ吉野家も番組スポンサーとなっていた。それも今はない。
『リターンズ』の合間に流れているCMは、ほとんどプロレス関係ばかり。それ以外はスポットCMと番宣ばかりだ。つまり、一般企業はプロレス番組に出資などしないのである。
 新日レスラーが登場するCMが流されているが、そのCMは新日関連番組のCM以外に見たことがない。つまり、一般人には目の触れない、プロレス・オタク向けのCMに過ぎないのである。

 そして、2022年12月16日は、ボートレースによって『リターンズ』が飛ばされてしまった。プロレス中継が競艇に食われるなんて、以前では絶対になかったこと。
 というより、競艇番組が地上波ゴールデンの全国ネットで放送されることなど有り得なかった。競艇に対し、敢えて失礼な言い方をすると、プロレスが競艇ごときに負けるなんて考えられなかったのである。

 まあ、その翌週の12月23日に『リターンズ』は2時間生中継を放送したので、競艇に負けたことはチャラになったのだが。
 そして、2時間番組だっただけに、スポンサーは新日本プロレスとブシロード以外に、大手企業のサントリーも名を連ねていた。これは非常に有難いことだ。と言っても、サントリーは『ご覧のスポンサー』扱いで、プロレス中継に力を入れているとは思えなかったが。
 しかも、生放送とあって試合中にCMを入れるという大失態があった。今やサッカー中継では地上波でも最低45分間も試合中にCMを入れることはないのに、たかがBS放送でこの体たらく。事実上はプロレス団体が丸抱えの番組なのだから、CMを入れるタイミングなんていくらでも操作できただろう。

 翌週の12月30日のBS朝日では、プロレス関連番組を6時間放送。これはBS番組ならではの力業だ。
 そして、その前の12月25日、テレビ朝日『くりぃむナンタラ』では、新日本プロレスを特集。プロレス・ファンとして知られるお笑いコンビのくりぃむしちゅーの冠番組だけに、実に面白い番組となった。地上波のプライム・タイムで、これだけプロレスの宣伝をしてくれたのは、プロレス界にとって大きなプラスになっただろう。

 だが、それでもバラエティー要素がなければ地上波プライム・タイムでプロレスを取り上げてもらえないのも事実。お笑い芸人として超一流のくりぃむしちゅーが盛り上げてくれたから楽しい番組になったものの、そうでなければプロレス・オタクしか注目されない、ダメ番組の見本となっていたかも知れない。
 もはやプロレス単体で、深夜以外での地上波プロレス番組は夢なのだろうか。

2023年、プロレス界は正念場となる

 2022年は、新日本プロレスと全日本プロレスが共に創立50周年を迎えた。それだけに、両団体は数々のイベントを行っている。
 ただ、それが世間的な話題になったとは言えない。

 そして、2022年のプロレス界にとって最大のニュースとなったのは、新日の創始者であるアントニオ猪木さんの死去だろう。一般的な知名度も抜群で、ニュースでも大きく取り上げられた。

 人が亡くなってこういうことを言うのは不謹慎だが、プロレスをアピールするチャンスだったとも言える。いや、猪木さんなら、オレの死を利用してプロレス人気を復活させろ、と後輩たちに言いたかったのではないか。
 新日および全日の創立50周年と、プロレスラー最大のスターだったアントニオ猪木さんの死。この2つが重なっても、プロレス界は人気回復に繋げることはできなかった。

 2023年は、野球のWBCやラグビーのW杯が開催される。また、近年はBリーグ発足により人気急上昇中のバスケットボールのW杯が、沖縄を含めたアジア地域で開催予定だ。女子サッカーのW杯が行われるのも2023年である。
 そうなると、プロレスの話題はますます縮小されるだろう。しかし、各スポーツが世界に目を向ける中、プロレス界は国内のオタク層にしかターゲットが向けられていると言わざるを得ない。

 2023年、プロレス界は人気回復に待ったなし、である。


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