[Fightドキュメンタリー劇場33] “化け物”退治!! 壮絶「猪木vs.グレート・アントニオ」

〝化け物〟退治「グレート・アントニオ戦」(週刊ファイト1977年12月20日号)
[週刊ファイト7月28日号]収録 [ファイトクラブ]公開中

▼[Fightドキュメンタリー劇場33] 井上義啓の喫茶店トーク
 “化け物”退治!! 壮絶「猪木vs.グレート・アントニオ」
 by Favorite Cafe 管理人


 この試合は単なる短期決戦で猪木が蹴りまくってグレート・アントニオをKOしたというだけで無く、見た人が自分で考えて構築しなければならない要素が沢山含まれている。3分49秒の意味が何なのかを深く考えると「キラー猪木とは何か」にたどり着くのだ。後半にはI編集長の口癖「ゆうたら悪いんだけども・・・」も飛び出す。長年の週刊ファイト愛読者ならこれは購入しかないのだ(笑)。

■ 闘いのワンダーランド #039(1997.01.28放送)「I編集長の喫茶店トーク」
 1977.12.08 蔵前国技館
 坂口征二&ストロング小林 vs. スティーブ・ライト&パット・パターソン
 アントニオ猪木 vs. グレート・アントニオ

新日本プロレス 大会パンフレットより

(I編集長) 今日の放送は昭和52年12月8日、「密林男」と呼ばれましたグレート・アントニオと猪木との、まあ、死闘とまでは行かないですが、やっぱり喧嘩マッチですね、これ。見ていただいた通りの壮絶な流血試合。この試合について、3つか4つのポイントを上げてお話したいと思います。

(I編集長) ご存知の方も多いと思いますけども、猪木は自分の方から仕掛けていくことをしない男なんです。流血戦にしたって、反則を仕掛けてきた選手への制裁にしたって、必ず相手が動いて、それに対するリアクションとして猪木が動く、これが猪木のパターンなんですね。
 ところが、この試合を見ますと、グレート・アントニオは反則もしていなけりゃ、椅子で殴ってきたわけでもない、それなのに猪木が「カーッ」となって相手を血ダルマにしてしまいますわな。しかも顔面を「ガンガン、ガンガン」蹴って、もう、うつ伏せになって「助けてくれ!」と言っているアントニオの後頭部をストンピングで蹴り上げているんですよね、これ。この時の猪木の剣幕は尋常じゃ無いですよ。
 なぜ猪木がそんなルール破りと言うか、プロレスの定義を破った試合をしたのか、これに気付かなかったら、ハッキリ言ってダメですよ。通常の猪木の闘い方は、そうじゃない筈ですよね。どんな試合でも、「来い、来い」と言って、先に攻撃させておいて、それから「カーッ」となって出ていくのが猪木の闘い方なんだから。こんな何もしない相手をね、しかも無防備というか、なんかもう「密林男」とか何とか言いますけど、16年前に力道山と闘ったあの頃の面影なんて、全く無いグレート・アントニオに対してですよ。

(I編集長) グレート・アントニオは昭和36年のワールドリーグ戦に来日しましたけどね。これ、本当はあの頃でもハッキリ言って酷かったですよ、この男は。カール・ゴッチなんかと一緒の来日でした。当時ゴッチはカール・クラウザーと名乗っていましたね。その時に、アントニオが満員のバスを4台引っ張って見せたり、色んなパフォーマンスをやりました。そういうことが評判になって、これを一般紙までが書き立てるほどの話題になったんですよ。

 この男は会場では「ウォッ、ウォッ」と吠えましてね、荒れ狂うもんだから、みんな本気にしたんですね、これ。本気にして、コイツの試合はリングサイドに座っていたのでは危ないとなったんです。だから、リングサイドの券が売れないんですよ。リングサイド券が売れなくて、おかしな事に2列目、3列目から後ろが売れていくという、面白い現象が起きたんですよ。

(I編集長) それで、力道山が嬉しそうに言ってましたよ。グレートの、アントニオとは言わなかったですね、力道山はこの男のことをグレートと呼んでいたんです。「グレートのおかげで、リングサイドが全く売れねえんだよ」と嬉しそうに話していましたよ。あの力道山というのは興行でも本当にプロなんですよね。だからデストロイヤーに足4の字を掛けられて、「ダーン」と場外に落ちた時には、力道山の足がこんなに腫れ上がったんですよ。
 普通の人だったら「あーっ、もうたくさんだ」となりますね。ところが力道山はそれが嬉しいんですよ。控え室に戻ると集まった記者たちに「この足を見ろ、この足を見ろ」と。ところがその足がこんなに腫れ上がってますから、タイツが脱げないんですよね。それで猪木に「おい、アゴ」、アゴって呼んでいたんですよね。「持って来い」と、ハサミを持って来させて、力道山の黒いタイツを「ザーッ」と切らせて「見ろ、こんなに足が腫れ上がってる、こんなに紫色だ。凄いだろデストロイヤーは。どうだ凄いだろう」ともう喜々としてね、「凄いだろう、凄いだろう」と言って回るわけですよね。そういったところがあったんです。だから力道山が「グレートのおかげで、リングサイドが売れねえんだよ」ってね、このことも嬉しそうに笑って話していましたよ。

(I編集長) ところが悪いことにその時にグレート・アントニオは「俺のおかげで会場が満員になっているんだ」と慢心するんですね。「リキドーゼンは俺のおかげで、ものすごいビッグマネーを手にしてる。俺がリキを儲けさせてやっている」と。そしてね、グレート・アントニオは控え室かなんかで自分からそれを言うんです。当時のレスラーは力道山とは言わなかったですね、「リキドーゼン」ですよ。

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(I編集長) 一般のファンの前で「今シリーズは俺の人気だ」と言うなら、それはいいですよね、パフォーマンスですから。それは許されるけども、あの男はバカだから、ファンも見ていなけりゃね、マスコミもいないところでですね、レスラー仲間に「これは俺のおかげだ、俺のおかげだ」と言って回るわけですよ。それでカール・ゴッチが怒ったんですよ。コノヤロウということで、ゴッチはグレート・アントニオを袋叩きにしてしまったんですね。ゴッチはああいう頑固な男ですからね、なにせ、バディ・ロジャースも袋叩きにしてしまった男ですから。

(I編集長) そういうことがあってグレート・アントニオは、横浜港から一人で貨物船に乗って帰ってしまったんですよね。あいつ一人だけで「ショボーン」と。私は無論見送りにも行きませんでしたから、ホントに貨物船に乗ったのかは知りませんよ。とにかくモノの本にはそう書いてある。今回、新日プロに来た、その16年も前にそんな経験があるわけですよ。そのことを覚えているなら同じ誤ちを犯したらダメなんですね、これ。

密林王は巨体だから貨物船?(貨物船はイメージです)

(I編集長) ちょっと頭のある男だったら、一回で懲りて同じことはしませんよ。野良犬だってそうですよ。一旦ボスとして君臨しておった犬がですね、下からのしがってきた犬に「ガーッ」とやられてしまったら、それまでのボス犬は、もう諦めますよ。二度と大きな顔をしてボスの座につくことはしないし、出来ないんですよ。猿でもそう、猿でも犬でもそうなんだから、人間がね、たとえ「密林」で育った男であろうがですね、あんな手痛いことをやられたんだから、分からなくちゃいけないんですよ。それを懲りずに新日プロに来日したときに、また同じことをやってしまったわけです。猪木が「カーッ」となって怒ったのはそこなんですよ。

(I編集長) グレート・アントニオは「俺のおかげで今シリーズはもってるんだ。この前広島の試合を見たか」と。「広島では猪木がショルダーアタックでぶつかって来てもビクともしない俺を見て観客が喜んだだろう。俺は猪木のタックルを受けたってビクともしない。猪木のアタックなんて子供みたいなもんだよ」と、自分から言うんですよ。それが回り回って猪木の耳に入る訳でしょ。だから猪木は「カチン」と来たわけですよ。
 たとえばブルート・バーナードがこんなふうに「ウォッ、ウォッ」とやって来た時の、それを見た猪木のあの表情をみなさん覚えておられますか? あの時も猪木はものすごく険しい顔をしてバーナードを見ていましたよ。猪木はシンを見る時でもなんでも対戦相手を見るときは、険しい顔をしますけど、猪木の険しい顔には二通りあるんですよ。一つは「これから闘いだ」という気合いが入っている時の険しい顔。
そしてもう一つはね、「こんなくだらんことをしやがって、この馬鹿野郎」というね、本当に嫌な気分の時のこの顔ですよ。バーナードが「ウォッ、ウォッ」とやった時に、あの額にシワを寄せた時の猪木の表情がそれなんですよ。グレート・アントニオのパフォーマンスにも、やっぱり同じ顔をしてますよ。

▼秘蔵写真で綴る浪速のアントニオ猪木#12
挑戦者はNWA王者ジン・キニスキーと人非人ブルート・ジム・バーナード

[ファイトクラブ]秘蔵写真で綴る浪速のアントニオ猪木#12(Gキニスキー1968年12・3)

(I編集長) あのブルート・バーナードを睨んでいた時以上にね、グレート・アントニオを睨みつけておるアントニオ猪木の額のシワがね、頬あたりがちょっと「ピクッ」と痙攣したりしてね。あれは猪木が相手をものすごく軽蔑して怒っている顔なんですよ。犬でもそうですよ。「ワンワン」吠えている時はそんなにね、恐ろしくもないんだけど、本当に怒った時の犬には額にシワが寄るんですよね。犬が額にシワを寄せて「ウーッ」と唸った時は危ないですよ、これ。だから猪木のそういった表情とかを「ジーッ」と見てちゃんと読み取らなきゃいけないですよ。

(I編集長) 猪木がこんな顔した時にはこうだ。馬場さんがね、こんな顔をして横を向いてね、葉巻をこうしたときには、口ではこう言ってるけども、こういう意味があるんだよと。馬場さんはすぐ「まあ、そうだろうな」と言いますよ。「そうだろうな」と馬場さんが言った時には三通りあると、僕はウチの記者に言ったんですよね。ホントの意味で「そうだろうな」と、お前は馬鹿なことを言ってるなぁという意味での「そうだろうな」と、もう一つは、ハッキリ言ってそんなことを聞くこと自体ナンセンスだよと不機嫌な「そうだろうな」なんですよ。だから同じ「そうだろうな」にしたって、3つあるよと。
 猪木に至っては、みなさん気は付いておられるかな、インタビュアと話をする時にですね、テレビ中継でもそうなんですけども、見とったらわかりますよ。インタビュアに応えて必ず「そうですね」から入ってくるんですよ、あの人は絶対に。絶対と言っていいですよ。でもそれは、質問に同意しているわけでは無いですよね。そしたら藤波も真似をしてるんですよ。だから藤波に色々話を聞いてごらんなさいよ。「そうですね」と、これから入って来ますよ。だからそういった癖をね、あの人はこうだ、あの時はこうだと、大学ノートに「ビシーッ」と書いておかなくちゃいけないんですよ、ホントは。

▼[Fightドキュメンタリー劇場⑯] 井上義啓の喫茶店トーク
 ハッキリ言えば取材拒否をくらった第一号は私(井上義啓)ですよ。

[Fightドキュメンタリー劇場⑯]ハッキリ言えば取材拒否をくらった第一号は私(井上義啓)ですよ!

(I編集長) 実は銀座に住んでいて競馬だけで飯を食っておる男がいたんですよ。ここで競馬の話はあまりしたくは無いけども、この人もプロレスファンだったから、私と話をすることがあったんですよね。その人は、一頭の馬につき、大学ノートを三冊持っているんですね。まあ、プロレスと関係無い話になりますど。それであの時の追い切りはこうだった、こういった色つやの時はこうだったとか、20日間間隔を置いて走ったときはこうだった、ポン駆けする馬はこうなんだとか、いろいろあるわけですよ、それを一頭あたり三冊の大学ノートに記録して持ってるんですよ。そこまでしないと競馬では勝てないですよ。普通の競馬好きは、競馬ブックかなんか買って◎○△×を付けてね、ポケットにさしてジャンパー着てね、ヒョコヒョコひょこひょこ歩いてますわな。絶対に勝てないですよ、そんなもん。私も競馬をやりましたけどね。どれだけ資料を集めたことか。こう来たときは、こうだ、というね、だから私は○とか◎とかを全然見ない、そんなものはあてにならないですね、ハッキリ言えば僕は競馬記者を信用しなかったですから。

初期の週刊ファイトには競馬の記事も

(I編集長) なぜなら自分でも競馬の予想記事を書いておったからですよ。その自分の書いている記事が、ええかげんなもんなんだから(笑)、ゆうたら悪いんだけども、他の連中がね、そんなもん当てるわけは無いと、そういった考えを持っていましたからね。だからいらん話をしてしまいましたけども、レスラーについてでもですね、ホントの記者というのは、自分のノートを持ってるはずなんですよ。持ってなかったらダメなんですね、これ。そしてプロレス者にも、これは同じことが言えるんじゃないかと、こう言ってるんですよ。
 「あなた達、ボーッとテレビを見てたり、週プロを読んだりするだけではダメなんだよ」と言うことですよ。プロレス者はそこからね、この記事はこう言っている、ここはこうなっている、だからどうなんだろうとね、自分の気づいたことを大学ノートに書くわけですよ。そして自分で統計も出して、週プロはこう言っている、ファイトにはこういう記事があるけども、これは井上が書いたことだとかね、これは井上が書いた記事じゃ無いけども、編集長の井上がちょっと手を入れたな、とか、そういったところをね、ちゃんと読み取ることができる人がプロレス者の中には居ますよ。

▼毒を食らわば皿までも 底無し沼論~井上義啓氏と週刊ファイト

毒を食らわば皿までも 底無し沼論~井上義啓氏と週刊ファイト


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