『リターンズ』は、プロレス人気復活の起爆剤になり得るのか!?

 BS朝日『ワールドプロレスリング リターンズ』の金曜夜8時放送が始まって半年が過ぎた。番組改編の10月になっても放送時間は変わらず、同慶の至りである。
 以前、筆者は『リターンズ』を含むプロレス中継に関して苦言を呈した。『リターンズ』は2020年度下半期に入り、どう変わったのだろうか。

▼緊急事態宣言下『ワールドプロレスリング リターンズ』金曜夜8時船出

緊急事態宣言下『ワールドプロレスリング リターンズ』金曜夜8時船出


※月額999円ファイトクラブで読む(クレジットカード、銀行振込対応)
▼『ワールドプロレスリング』2020年度下半期はどうなる!?

[ファイトクラブ]『ワールドプロレスリング』2020年度下半期はどうなる!?

2020年度下半期、『リターンズ』に進歩はあったか?

 11月6日(金)の『リターンズ』で放送されたカードは以下の通り。

●飯伏幸太vs.ジェイ・ホワイト(9月23日、北海道:北海きたえーる)
●鷹木信悟vs.ウィル・オスプレイ(9月27日、兵庫:神戸ワールド記念ホール)
●オカダ・カズチカvs.ジェイ・ホワイト(同上)

 いずれもG1クライマックスの公式戦だ。そして、全部1ヵ月以上前のカードである。
 前回の記事で『リターンズ』に関して筆者は「2ヵ月前の試合を放送してどうするのか」と書いたが、それよりマシになっているとはいえかなり前のカードだ。

 もうG1は半月前の10月18日で閉幕したのに、未だに公式戦を放送しているとはどういう了見なのだろう。普通だと決勝戦を放送するところだ。いや、本来なら前々回放送の10月23日(金)に決勝戦を放送すべきである。
 11月初めの段階で、まだ9月終わりの公式戦を放送しているようなら、決勝戦の放送は早くても11月下旬、普通のペースなら12月に入ってしまう。これではあまりにも遅すぎる。G1が始まる前の試合を放送する必要があったのだろうが、2ヵ月遅れ放送のツケが回って来たのだ。

 ちなみに、G1が開幕した翌週、9月25日(金)の『リターンズ』では、NEVER 6人タッグを放送。せっかく年に一度のG1が開幕したのだから、NEVER 6人タッグはブッチして公式戦を放送しても良かったのではないか。そもそも7月3日には生中継を実施したのだから、この時に放送の遅れを調整しておけば良かったのである。
 10月2日(金)の放送は、IWGPヘビー級&インターコンチネンタルのダブル選手権だったから、これは外せなかっただろうが、こんなビッグ・マッチを1ヵ月も放置する方が悪い。ダブル選手権を前倒しして放送すれば、遅くともG1決勝を11月6日には放送できたはずである。それによって、放送されない試合も増えるが、これは無料テレビという性質上やむを得ないだろう。

 そして、本家のテレビ朝日『ワールドプロレスリング』は『リターンズ』よりもっと酷い。11月7日(土)は9月20日、24日、29日、10月14日の試合を放送。なんと、30分番組に4試合も詰め込んでいる。
 まあ、10月14日の試合を放送するのは『リターンズ』よりもマシだが、それでもこれは関東地区のテレ朝での話。他の地域では、ヘタすればこれよりも1ヵ月遅れなのだ。

 さらに、前の記事では『リターンズ』の番組スポンサーについても書いたが、これも上半期と変わらず新日本プロレス、ブシロード、吉野家、鈇田クリニックと新日関係ばかり。つまり、吉野家(15秒CMを2本だけ)を除く一般企業は、相変わらずプロレス番組のスポンサーにはなろうともしない。地上波ゴールデンなら、半年はおろか1クール(13回)で打ち切りとなるだろう。
 ただ、番組構成としてはある程度の工夫は感じられた。あまり間延びせず、最初の2試合をコンパクトにまとめ、メインとなるオカダ・カズチカvs.ジェイ・ホワイトをノーカットで見せて、視聴者に飽きさせない放送にはなっている。前の記事では『構成力が足りない』と批判したが、今回は修正されていたので、その点は評価しなければなるまい。

▼この日の『リターンズ』の放送で、ジェイ・ホワイトがオカダ・カズチカを破る

非常に似ている、プロレスとプロ野球

 10月30日(金)、プロ野球では読売ジャイアンツ(巨人)がセントラル・リーグ優勝を決めた。ところが、この試合は巨人の本拠地である東京ドームで行われたにもかかわらず、巨人と密接な関係の日本テレビでは生中継しなかったのである。
 既に巨人のマジックは1になっており、優勝を決める可能性が極めて高いのに、本拠地ゲームを日テレで放送しないのは、以前では考えられなかったことだ。

 無料のBS日テレでは生中継したが、何と夜9時で放送終了。サブチャンネルでは放送を続けたものの、メインチャンネルでは巨人の優勝を伝えられなかったのである。しかも、今年のセ・リーグはクライマックス・シリーズがないため、この試合で日本シリーズ進出が決まったのだ。
 ちなみに、夜9時から放送していたのは『ゴルフサバイバル』という、若手女子ゴルファー(アマチュアを含む)によるBS日テレのお手盛り大会。全英オープンとかならともかく、こんなマイナーなゴルフ番組が、巨人の優勝&日本シリーズ進出決定試合よりも優先されたのである。

 プロレスとプロ野球では、人気の推移が非常に似ているのではないか。プロレスもプロ野球も、テレビと共に発展してきた。プロレスでは、力道山が日本で始まったテレビ放送を上手く利用して国民的人気を得たのだ。プロ野球も、それまでは東京六大学野球に人気の面で後塵を拝してきたが、テレビ時代になるとその人気を逆転したのである。
 力道山の死後、日本プロレスはジャイアント馬場とアントニオ猪木の『BI砲』時代となり、プロ野球では巨人の王貞治と長嶋茂雄の『ON砲』が一世を風靡した。そして、昭和で言えば40年、1965年から巨人の9連覇が始まるのである。

 しかし、プロレスとプロ野球の黄金時代は、BI砲や巨人V9真っ只中の昭和40年代ではない。この時代のプロレスは、国際プロレスというライバル団体があったとはいえ、実際にはBI砲を擁する日本プロレスの1強だった。プロ野球でも、9連覇中の巨人の独壇場だったのである。
 だが、プロ野球でいえば、当時の巨人の本拠地だった後楽園球場の映像を見てみると、必ずしも満員ではなかった。日テレでの巨人戦中継も、夜8時からが普通だったのである。

 プロ野球が黄金時代を迎えるのは、1980年代だ。1980年を最後に、王が現役引退、長嶋も巨人の監督を事実上の解任となって、ONがいっぺんにいなくなった(王は巨人の助監督に就任)。ONが揃って去ることに、プロ野球人気低下を真剣に心配する関係者が大勢いたのである。もちろん、この頃には既に巨人9連覇も終わっていて、『巨人が優勝するもの』という認識は薄れていた。
 ところが、そんな80年代にプロ野球人気が爆発したのである。巨人V9初年度の1965年、ドラフト会議が始まった。戦力均衡のドラフト効果が出始めた頃に巨人V9も終わり、プロ野球は群雄割拠の時代を迎える。

 1980、84、86年は広島東洋カープ、1982、88年は中日ドラゴンズ、1985年は阪神タイガースがセ・リーグを制し、80年代は巨人が常勝ではなくなったにもかかわらず、ONがいなくなったにもかかわらず、プロ野球は大人気を博した。ペナントレースがスリリングになったからである。
 この頃は、日テレの巨人戦中継も夜7時からとなり、試合が長引けば放送も30分間延長した。視聴率も20%超えは当たり前、後楽園球場や後釜の東京ドームは常に超満員だったのである。
 パシフィック・リーグでは、西武ライオンズが黄金時代を迎えていた。巨人がセ・リーグでの激闘を制しても、日本シリーズでは西武が待ち構えており、何度も苦杯をなめていたのである。

 プロレスでも、BI砲が袂を分かった1980年代が黄金時代となった。馬場の全日本プロレスと猪木の新日本プロレスとのライバル関係が緊張感を生み、会場は満員となってゴールデン・タイムで高視聴率をマークしたのである。
 この時代、馬場や猪木はもちろん、ジャンボ鶴田や藤波辰巳(現:辰爾)、長州力やタイガーマスクら日本人レスラーはもとより、アブドーラ・ザ・ブッチャーやスタン・ハンセンなどの外国人レスラーも、プロレス・ファンではない一般人でも名前が知られていたのである。

 しかし1990年代、即ち昭和が終わりを告げて平成に年号が変わった頃、プロレスもプロ野球も人気に陰りが出始めた。プロ野球ではサッカーのJリーグ人気に押され、テレビ中継が徐々に減ってくる。20世紀が終わった2000年代に入るとその傾向が顕著になり、プロ野球中継は有料の衛星放送が中心となった。
 プロレスでは、昭和の終わりと共にテレビ中継はゴールデン・タイムから撤退。1990年代はドーム大会を連発して活況に見えたが、定期放送のゴールデン復帰には至らず、21世紀は格闘技ブームの猛吹雪をモロに受けて厳冬の時代を迎える。

プロレスは本当にブームなのか!?

 現在、BS朝日でゴールデン・タイムでのプロレス放送を無料で見られるのは、非常に良いことである。今すぐに効果が現れなくても、こういう地道な種まきが、後に人気爆発の糧にならないとも限らない。『鬼滅の刃』にしても、突然ブームになったわけではなく、漫画の連載から、東京ローカルの東京MXでアニメ化され徐々に人気に火が付いて、大ブームになったのである。

 ただ無料BS放送が、非常に高い年齢層をターゲットにしていることも忘れてはなるまい。他局の無料BSでも、時代劇や演歌、『笑点』の再放送など、お年寄り好みの番組ばかりだ。
 筆者が本誌でたびたび取り上げている、BS番組としては異例の大ヒットと言われる『クイズ!脳ベルSHOW』も、出演者は全て40歳以上と高齢者向きである。その番組に、よく出演するのが元プロレスラーだ。要するに、プロレス黄金時代の80年代に青春を迎えていたファンが泣いて喜ぶラインナップで、視聴者の多くは40歳以上である。

 現在の『リターンズ』も、80年代プロレス黄金時代のファンをターゲットにしているのだろう。しかし、どれだけの効果があるのかは疑問である。
 80年代と、現在のプロレスでは、明らかに異質だ。全く違うスポーツと言ってもいい。現在のプロレスが、80年代の黄金期を知っているプロレス・ファンに、どれだけ魅力が伝わるだろうか。

 21世紀に入り、プロレス界は厳冬時代に突入、業界最大手の新日本プロレスはユークスに売却されて子会社となった。それでも業績不振は留まらず、現在のブシロードにドナドナされる。
 その後、新日はV字回復を遂げ、2010年代にはプロレス・ブームと呼ばれるようになった。

 しかし、本当にプロレスはブームなのだろうか。少なくとも、筆者の周りでは『ブーム感』は全くない。昔は馬場や猪木、鶴田や藤波の名前など、プロレス・ファンではなくても誰でも知っていたものだが、今のプロレスラーはほとんど一般的には知られていないのである。
 2年前、筆者は30歳代のスポーツ好き男性と会ったが、彼に現在のプロレスについて訊いてみると「アントニオ猪木ぐらいしかレスラーの名前は知りません」ということだった。つまり、よほどのコアなファンでないと、今のプロレスなんて全く知らないのである。

 プロレス好きのモノマネ芸人も、モノマネするのは馬場や猪木、長州、藤波、天龍から、直近でもせいぜい武藤敬司ぐらいのもの。オカダ・カズチカや内藤哲也らのモノマネをする芸人などいやしない。おそらく、G1連覇を果たした飯伏幸太のことも知らないだろう。
 いや、ひょっとすると知っているかも知れない。だが、知っていたとしても、彼らは現在のプロレスラーのモノマネなどしないのだ。
 その理由は簡単、今のレスラーのモノマネをしても、ウケないのは判っているからである。お笑い芸人は、ウケるかウケないかの感性に関して、実に敏感だ。モノマネというのは、一般人の誰もが知っている人のマネをして、初めて笑いが成立する。逆に言えば、今のレスラーのモノマネでは、一般人は誰も知らないので、笑いが起きないのだ。内藤の、片目をおっ広げるポーズなんて、プロレス・ファン以外は誰も知らない。

 新日本プロレスがV字回復した理由は、親会社のブシロードが『プロレスが流行っている感』を出したことだ。これ自体は良い戦略で、事実ファンを多く取り込むことに成功した。
 だが、プロレス業界が『プロレス・ブーム』だと安穏してもらっては困る。プロレスは全然『ブーム』ではない。その事実を受け入れなければ、プロレス黄金時代の再来なんて絵に描いた餅だ。
 プロレスがブームなどと言っているのは、プロレス村の住人だけである。そのことを自覚しなければならない。

 プロレスはブームどころか危機的状況なのに、企業努力しているのはブシロードだけ。他のプロレス団体も努力はしているのだろうが、そんなことは企業として当然のことばかりだ。
 結果、現在の日本のプロレス界は新日本プロレス1強状態となっている。それも、井の中の蛙で。プロレスはハッキリ言って『ブーム』ではないのである。『リターンズ』に、一般企業のスポンサーが放送開始から半年経っても付かないのが、何よりの証拠だ。本当にプロレスがブームなら、一般企業からスポンサー依頼が殺到しているはずである。

 プロレスがブームだ、というのを外向きに宣伝するのはいいが、内向きにはそろそろ現状を見据えてみてはどうか。プロレスはブームではない、これが現実である。
 現実を直視する勇気がなければ、日本のプロレス界の未来はない。

▼飯伏幸太のG1連覇なんて、一般人は誰も知らないだろう


※500円電子書籍e-bookで読む(カード決済ダウンロード即刻、銀行振込対応)
’20年11月12日号米国分断とマット界 猪木発明 新日 DeepJewels 藤波辰爾 SEAdLINNNG


※月額999円ファイトクラブで読む(クレジットカード、銀行振込対応)
▼KオメガHペイジ+Jモクスリー防衛『FULL GEAR』DアレンTNT-YバックスAEWタッグ新王者に

[ファイトクラブ]KオメガHペイジ+Jモクスリー防衛『FULL GEAR』DアレンTNT-YバックスAEWタッグ新王者に

▼新日『権力闘争』大阪顛末~バイデン政権下のマット界~女子プロ未来

[ファイトクラブ]新日『権力闘争』大阪顛末~バイデン政権下のマット界~女子プロ未来

※500円電子書籍e-bookで読む(カード決済ダウンロード即刻、銀行振込対応)
’20年11月19日号PowerStruggle大阪 スターダム決勝 FullGear 虎軍神田明神 東陽片岡