4月3日(金)からBS朝日で『ワールドプロレスリング リターンズ』が、午後8時からの1時間番組として始まった。既に本誌でお伝えした通り、新日本プロレス中継の『ワールドプロレスリング』が“プロレス・タイム”の金曜夜8時に帰ってきたのである。
地上波ではないとはいえ、BS朝日は普通に無料視聴が可能。金曜夜8時は34年ぶり、ゴールデン・タイムとしては32年ぶりのプロレス定期放送となるわけだ。
『晩御飯を食べながら一家団欒、茶の間でプロレスを楽しもう』というのがコンセプトだが、果たしてその狙い通りになったのか。この原稿を書いている時点では、金曜夜8時の放送は4月3日と10日の2回だけで、この段階での評価は『時期尚早』かも知れないが、放送を見た感想を述べてみよう。
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苦肉策にせよ3週連続で2ヶ月前の1つの大会を放送に追い込まれ
金曜夜8時からの放送となった『ワールドプロレスリング リターンズ』、放送内容は以下の通りになっている。
4月3日放送=2月9日、大阪城ホール IWGPヘビー級・IWGPインターコンチネンタル ダブル選手権 内藤哲也vs.KENTA
4月10日放送=2月9日、大阪城ホール ①スペシャル8人タッグマッチ ジュース&フィンレー&棚橋&飯伏vs.トンガ&ロア&裕二郎&オーエンズ ②IWGPジュニアヘビー級選手権 高橋ヒロムvs.リュウ・リー
4月17日放送(予定)=2月9日、大阪城ホール ①スペシャルシングルマッチ SANADA vs.ジェイ・ホワイト ②IWGPジュニアタッグ選手権 SHO&YOH vs.エル・デスペラード&金丸義信
つまり、3週連続で2ヵ月前の大阪城ホール大会の試合を放送するわけだ。プロレス放送が30分番組なら、1つの大会を3回に分けて放送するのは珍しくないが、せっかくの1時間番組、しかもゴールデン・タイムでの放送で、3回に分けるのはちょっとやり過ぎという気もする。
もっとも、これは新型コロナウイルスの影響であろう。新日本プロレスは2月26日の沖縄大会を最後に、興行は中止だ。ひょっとすると、3月31日に開催されるはずの東京・両国国技館大会の試合を放送する予定だったのかも知れないが、大会日程が当面白紙となった。
しかし、最初から大阪城ホール大会を3回に分けて放送する予定だったようにも見えてしまう点はどうなのか。あまりにも、放送内容に工夫が感じられないからだ。
もちろん、高橋ヒロムのコメントを新規収録して放送するなど、選手の声を追加発信して独自に焼き直していることは判る。これからも、選手のインタビューを加えていく方針のようだ。ただ、それが新規ファンを取り込むのに、どれだけ効果があるのかは判らない。
実際に、この放送を見たプロレス初心者が、プロレスに興味を持ったのかは少し疑問だ。筆者の感覚は、世間とはズレていると自覚しているが、本当に『プロレスは面白い!』とビギナーが感じたのだろうか? もちろん、『面白い』と感じた人が多いのかも知れないし、そこは判らない。
評判が悪かったとはいえ、かつての『ギブUPまで待てない』のように、人気タレントを起用してスタジオで解説する方が、今の視聴者には判りやすかった可能性も捨てきれない。
『ワールドプロレスリング リターンズ』はブシロードの1社提供
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もう一つ、気になったのは番組のスポンサーだ。今回のBS朝日『ワールドプロレスリング リターンズ』はブシロードの1社提供である。ブシロードとは当然、新日本プロレスの親会社だ。
したがって、番組の途中に流れるCMはプロレス関係ばかり。あるいはBS朝日の番宣だ。
もちろん、CMがプロレス関係ばかりというのは、プロレスに興味を持たせる効果がある。その反面、プロレスばかりでくどいと言わざるを得ない。米国は日本以上の戦時下であり、空いた番組枠を埋めるために昔のヒューストンのNWA番組を、あえてCM入りのまま流すとか、無茶というか、これがかえって好評という話も聞いた。その大笑いのCMには、ポール・ボーシュ=プロモーターのカリフラワー耳にイヤリングをつけさせた地元の貴金属店のCMがハードコア層に再注目されているという。つまり、「あの汚い耳にもイヤリングなんだから、貴方も奥方やガールフレンドにプレゼントしてみてはいかが?」という宣伝効果を狙っており、実際プロレス好きでその店は繁盛したのだという。一見関連がなさそうに見えて、ものは考えようということだ。
今では『サザエさん』ですら1社提供ではなくなった。いくらBSとはいえ、ゴールデン・タイムの1時間番組で、1社提供とはいささか無理があるような気がする。しかも、スポンサーはプロレス団体の親会社だ。言い換えれば、プロレス関連の会社以外は、スポンサーにならなかったということである。
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要するに、一般企業はプロレス番組などにカネは出さない、ということなのか。これはプロレス界にとって、あまりいい状況とは言えない。実際、コロナ汚染が始まってプロ野球選手が感染を公表し、力士や報道アナウンサーの感染はニュースになるのに、プロレスは忘れられたマイナー・ジャンルだから取り上げられておらず、選手や団体も隠していると聞いた。
もし、本当にプロレスがブームなのなら、一般企業もスポンサーとして手を挙げるはずだ。ところが、広告料が全国地上波に比べて遥かに安いBSですら、プロレス関連企業のブシロードしか、プロレス番組のスポンサーにはならないのである。
これはシュート活字委員会担当の記事に、元凶が日本のケーフェイを守る教育にあることが詳細されているので本稿では繰り返さないが、堅物信者相手の趣味ジャンルに落ちてしまった指摘は必要であろう。
’20年02月20日号新日大阪城 金曜8時 WWE 諸岡告訴 スターダム 全日W1 KnockOutNKB
筆者が常々思っているのは、あるスポーツがメジャーになるためには、決してマスターベーションになってはならない、ということだ。しかし、プロレス界が今の状態では、いくらプロレス・ブームだとプロレス業界内で叫んでも、世間には全くその声は届いていない。
プロレスの定期放送が、BSとはいえ無料でゴールデン・タイムに見られるというのは、非常に良いことである。この絶好のチャンスを、プロレス界は絶対に逃してはならない。
逆に言えば、このチャンスを逃すと、もうプロレスが世間に認知される機会はなくなるということだ。地上波と違い、視聴率が振るわなかったからと言って半年で放送終了となることはないだろうが、それでも一度掴んだ視聴者を手放さない工夫が必要である。
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