バッドラック・ファレがシピ・タウを踊る!? パワーのルーツを探る

 今週号(9月26日号)が発売される9月20日(金)、ラグビー・ワールドカップが日本で開幕する。開幕戦は日本vs.ロシア(東京スタジアム)だ。
 ランキングでは日本の方が上とはいえ、昨年のテストマッチでは日本が勝ったものの32-27と大苦戦。ロシアは圧倒的なパワーを誇るだけに、決して侮れない相手だ。しかもトライ・ゲッターのWTB福岡堅樹(パナソニック)と、パワー抜群の№8アマナキ・レレイ・マフィが怪我でロシア戦は欠場するというのも、日本にとってマイナス材料である。

 さて、今回ご紹介するラグビー出身プロレスラーはバッドラック・ファレ。代表経験こそないが、日本のトップリーグでプレーした。

▼阿修羅・原がラガーマンとして光り輝いていた頃

阿修羅・原がラガーマンとして光り輝いていた頃

▼快足かつ巨漢のロックからプロレスラーへの転身! グレート草津

快足かつ巨漢のロックからプロレスラーへの転身! グレート草津

▼明治大学最後の黄金世代、重戦車FWの象徴だったKENSO

明治大学最後の黄金世代、重戦車FWの象徴だったKENSO


※月額999円ファイトクラブで読む(クレジットカード、銀行振込対応)
▼[ファイトクラブ]至高マッチレースは飯伏が初制覇 G1ファイナル武道館3連戦

[ファイトクラブ]至高マッチレースは飯伏が初制覇 G1ファイナル武道館3連戦

『大きいことはいいことだ』のトンガ出身。だが怪我でラグビーを断念

 1982年1月8日、バッドラック・ファレ(本名:ファレ・シミタイトコ)はトンガに生まれた。トンガはラグビー強国で、もちろん今回のW杯にも出場している。2011年のW杯では準優勝したフランスを予選プールで撃破した。

 トンガの人口は僅かに約10万人。日本で言えば小都市に過ぎない。街の道路には信号機すらないのだ。そんなトンガが、なぜラグビーが強いのか?
 それは、トンガの国技がラグビーだからである。子供たちの遊びはラグビーだ。その理由として、1900年にイギリスの保護領になったことが大きく影響している。イギリスからトンガにラグビーがもたらされたのだ。近くにある南太平洋のサモアやフィジーも同じような経緯を辿り、ラグビー強国となっている。
 もう一つ、大きな原因がトンガ人の体の大きさだ。何しろ『大きいことはいいことだ』という国民性で、女性ですら太っている方が美しいとされる。ダイエットに明け暮れて、1kg痩せたの太ったのと大騒ぎする日本人女性とは大違いだ。もちろん男性も、まさしく褐色の巨体だらけで、ラグビー先進国すらパワーで圧倒する。日本代表も、トンガには何度も苦杯をなめさせられた。

 とはいえ、トンガと日本の繋がりは強い。その原因は、以前のトンガ国王だったトゥポウ4世が、大変な親日家だったからだ。トゥポウ国王はトンガ人の巨体を活かし、日本の相撲部屋に若者を送り込んだ。その中の1人が元:福ノ島、後にプロレスラーとなったキング・ハク(プリンス・トンガ)である。
 さらにトゥポウ国王は日本のソロバンに目を付け、留学生を日本に送り出した。そして大東文化大学にソロバン留学したのが元:ラグビー日本代表のシナリ・ラトゥである。
 ラトゥの日本でのポジションは、大型選手が務めるフォワード(FW)のナンバー・エイト(№8)。ポジションの役割については、阿修羅・原編を参照されたい。
 しかし、トンガでのラトゥのポジションは、俊敏な動きが要求されるバックス(BK)のセンター(CTB)。ラトゥのような巨漢がトンガではCTBなのだから、トンガ人の大きさがわかるだろう。
 なお、今回の日本代表にも、トンガ出身者が5人も名を連ねている。

 ファレも3歳のときからラグビーを始めた。だが6歳のとき、ラグビー王国のニュージーランドに家族と共に移住している。そう考えると、ファレのルーツはニュージーランドと言えるのかも知れない。ファレはデ・ラ・セル・カレッジでもラグビーを続ける。
 卒業後、ファレは日本の徳山大学に留学した。徳山大はラグビーでは無名だが、ファレは頭角を現し、卒業後はトップリーグの福岡サニックス ブルース(現:宗像サニックス ブルース)に入団する。ポジションはFWのロック(LO)あるいはフランカー(FL)だった。
 だが、脚の故障のため、僅か2年で引退。しかし2009年、テストに合格して新日本プロレスに入団した。

 今回、日本代表に選ばれたツイ ヘンドリック(FL)とラファエレ ティモシー(CTB)は、ファレにとってデ・ラ・セル・カレッジの後輩。ファレは彼らにエールを送りながら、自らのプロレスラーとしての活躍を誓う。

迫力満点! 大型の選手たちが力勝負するFWのプレー

 ラグビーを見ていて、いちばん楽しいと思うのは、バックス(BK)が快足を飛ばしてトライを奪うシーンだろう。その反面、フォワード(FW)の密集戦は、判らないという人が多い。「ルールも判らないし、大きい人がボールの見えないところでゴチャゴチャやってるのはワケわかんない」と思う人もいる。バッドラック・ファレもFWで地味な仕事をこなしていた。
 しかし、密集戦こそラグビーの醍醐味だ。なぜなら、ボールを奪い合う球技なんて、おそらく他にない。
 サッカーは手を使えないからボールを保持できないし、手を使えるバスケットボールだってタックルがないから、ボールの争奪戦はほとんど起こらないのだ。
 では、ラグビーと同じくタックルがあるアメリカン・フットボールはどうか。アメフトはタックルが成立するとプレーが止まるので、ボールの奪い合いはない。ファンブル・リカバーではボールを奪い合っているように見えるが、実際にはボールを早く押さえた方に攻撃権が与えられるので、ボールの争奪戦というわけではないのだ。
 しかしラグビーでは、終始ボールの争奪戦が行われていると思っていい。大型の選手同士が力勝負を挑むので、迫力満点だ。そんなFWのプレーを説明しよう。

【スクラム】
 スクラムという言葉は誰でも知っているだろう。FWの8人同士が組み合い、力勝負を挑む。FW平均体重が100kgだとすると、800kg同士の肉弾がぶつかり合うのだ。
 スクラムは前から3-4-1の隊形で組む。レフリーの「クラウチ、バインド、セット!」の掛け声と共に、両チームのFWがスクラムを組み、権利があるチームのBKのスクラムハーフ(SH)がスクラムの真ん中にボールを入れる。掛け声よりも早くスクラムを押すとアーリー・プッシュという反則で、フリー・キック(FK)が相手に与えられる(反則による罰則はKENSO編を参照)。
 スクラムを故意に崩すとコラプシングという重い反則で、相手にペナルティー・キック(PK)を与えることになるのだ。実際には故意に崩しているわけではなく、スクラムの強いチームが弱いチームを崩しにかかっている。それがレフリーには、弱い方が崩していると見えるのである。
 スクラムが弱いと、試合は一気に不利になる。それだけ、スクラムは重要なのだ。

▼8人のFWが力勝負を挑むスクラム

【ラインアウト】
 ボールがタッチ・ライン(横方向に引かれている線)の外に出た場合、ラインアウトで試合が再開される、サッカーで言うスローインだが、サッカーと違い両チームのFWが1列ずつ並ぶのだ(場合によってはラインアウトを形成せず、すぐに投げ入れるクイック・スローインがある)。ボールは、ボールを出した反対側のチームが投げ入れる(PKの場合は逆)。
 並ぶ人数は、ボールを投げ入れる側が決める(2人以上)。ボールは真っ直ぐ投げ入れなければならず、ボールが曲がればノット・ストレートの反則で、相手ボールのラインアウトもしくはスクラムとなる(相手チームが選択)。
 ラインアウトは、背が高い方が絶対に有利で、飛び上がってボールを捕る人を、他の味方選手が下から支えてボールを捕りやすくする。ラインアウトのボール獲得率が勝敗を大きく左右し、マイボール・ラインアウトを確実に確保することが重要だ。もちろん、相手ボールを奪ったら大きなチャンスになる。

▼ボールがタッチラインの外に出たら、両チームのFWが並び、ラインアウトを形成する

【ラック】
 スクラムとラインアウトはセット・プレーと呼ばれ、それらのプレーを起点として試合が再開される。それに対し、密集プレーはルース・プレーと言い、イン・プレー中に起こる状態だ。
 密集プレーでも、地面にボールがある状態をラックという。連続攻撃を仕掛けるときに、ラックは非常に重要だ。一発で相手のディフェンス・ラインを突破するのは難しいので、アタックしてタックルを受けてもすぐに味方が集まり、ラックを形成してボールを確保する。そしてラックからボールを再び出して、タックルを受けてまたラック。これを繰り返すことにより、相手のディフェンス・ラインを崩していく。これを『フェイズを重ねる』という。
 ラックの中にあるボールは足で掻き出さなければならず、手を使えばハンドという反則で、相手にPKが与えられる。また、タックルを受けたとき、倒れたらボールを離さなければならないが、相手はボールを獲りに来る(これをジャッカルという)。そのとき、ボールを獲られまいとして抱え込んでしまうことをノット・リリース・ザ・ボールと言って、よく起きる反則だ(相手にPK)。
 この場合、ボールを離さなかった選手が悪いのではなく、早くサポートしない味方が悪い。現代ラグビーでは、ラックの連取が勝敗を分ける。

▼ラックでボールをキープし、連続攻撃で相手ディフェンスを崩していく

【モール】
 密集プレーでも、ラックと違いボールを誰かが持っている状態のことをモールという。キープ・ザ・ボールという点では、ラックよりも優れている。そのかわり、モールは常に動かし続けなければならず、2回停滞するとレフリーは「ユーズ・イット!」と叫び、そうなればボールをモールから出さなければならない。ボールを出せない状態になることをアンプレアブルと言い、そうなると相手ボールのスクラムとなるので注意が必要である。
 モールが威力を発揮するのは、敵陣ゴール前での攻防だ。このときにマイ・ボールのモールを押し込めば、トライへのビッグ・チャンスとなる。モールを押せそうなときは、FWもBKも関係なく、みんなでモールに参加するのだ。
 特に敵陣ゴール前でマイ・ボールのラインアウトになれば、ボールを捕るとそのままモールを形成して、トライを獲りに行くことが多い。相手ディフェンスにとって、ラインアウトからのモールを止めるのは難しいのである。

▼ゴール前でのモールはトライに繋がることが多く、見ている方も思わず力が入る

個性豊かな各国のウォー・クライ

 ラグビーの楽しみはプレーだけではない。特にW杯やテストマッチといった国際試合では、各国の文化に触れることができるのもラグビーならではだ。
 その中でも、試合前に行われる『勝利への舞い』は独特の緊張感を生み出す。これをウォー・クライと呼ぶが、どの国でもやっているわけではない。ウォー・クライを行うのは4ヵ国だけだ。

 特に有名なのがニュージーランド代表(オールブラックス)のハカだろう。ニュージーランドの先住民であるマオリ族の踊りで、『カ・マテ』と呼ばれる。ところが、2005年にオールブラックスは新しいハカ『カパ・オ・パンゴ』を披露した。現在では、その2種類のハカを使い分けている。
 最近では他のスポーツのニュージーランド代表もハカをやるが、やはりオールブラックスのハカがいちばん迫力があってカッコいい。

▼試合前に行うハカ(写真はマオリ・オールブラックス)

 バッドラック・ファレの母国であるトンガ代表のウォー・クライはシピ・タウと呼ばれる。もしファレが怪我をしなければ、トンガ代表に選ばれてシピ・タウを踊っていたかも知れない。
 他のウォー・クライには、サモアのシヴァ・タウと、フィジーのシンビがある。今回のW杯では、この4ヵ国は4組に分かれてしまったため、残念ながら予選プールでは試合前のウォー・クライ合戦は見られない。もちろん、決勝トーナメントでは見られる可能性もある。

▼W杯のトンガvs.ニュージーランドで実現した、試合前のシピ・タウvs.ハカ

各国代表チームの愛称

 ラグビーの特徴として、プロ野球の阪神における『タイガース』のように、代表チームにも愛称が付いている。

 最も有名なのが、ニュージーランド代表のオールブラックスだろう。全身が黒のジャージのためにそう呼ばれているように思われるが、実は様々な説がある。
 ある説では、戦前ニュージーランド代表がイギリスに遠征したとき、グラウンドを走り回るような試合をして、当時の新聞に「全員がバックス(BK)のよう、つまりオールバックスだ」と書き立てられたのが、いつの間にか変化してオールブラックスになったという。当時のニュージーランド代表のジャージはまだ、黒一色ではなかった。

 他に有名な愛称といえば、オーストラリア代表のワラビーズだ。これはジャージのエンブレムに描かれている、オーストラリア原産の動物のワラビーに由来している。
 オールブラックス、ワラビーズと共に世界3強の一角をなす南アフリカ代表の愛称はスプリングボクス。これもジャージのエンブレムの動物、スプリングボックから。
 面白いのはアルゼンチン代表で、愛称がロス・プーマスとなっているが、これはエンブレムの動物を見た外国の記者がピューマだと思い、愛称をスペイン語のロス・プーマスとした。ところが、エンブレムの動物はピューマではなくジャガー。つまり、記者の勘違いがそのまま愛称になってしまったわけだ。

 バッドラック・ファレの母国であるトンガ代表の愛称はイカレ・タヒ。日本語として聞くとあまり良くない語感だが、これは海鷲という意味。ちなみにエンブレムは鳩とオリーブで、大男が多いトンガ人らしからぬ(?)平和なイメージだ。

 全ての代表チームに愛称が付いているのかといえば、そういうわけではなく、英国ホーム・ユニオン4ヵ国のうち、イングランド、スコットランド、アイルランドの3ヵ国には決まった愛称がない。こちらは敢えて愛称のないことが、伝統国の誇りといったところか。
 ホーム・ユニオンの中で唯一、愛称のあるのがウェールズで、レッド・ドラゴンズという。赤いジャージと、ウェールズの国旗(?)から名付けられた。
 ホーム・ユニオンという言葉が出て来たが、サッカーと同じくラグビーにも『イギリス代表』は存在しない(オリンピックの7人制ラグビーを除く)。グレート・ブリテン島を構成するイングランド、スコットランド、ウェールズと、隣りのアイルランドをホーム・ユニオンと呼ぶわけだ。
 ややこしいのがアイルランドで、これはアイルランド共和国のことではなく、アイルランド共和国とイギリスの一部である北アイルランドとの合同チーム、つまりアイルランド島代表とも言えるのだ。アイルランド共和国代表と北アイルランド代表に分かれているサッカーとは対照的である。
 このホーム・ユニオン4ヵ国は4年に1度『ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ』というオールスター・チームを結成し、南半球に遠征してオールブラックス、ワラビーズ、スプリングボクスとテストマッチを行う。

 さて、我らが日本代表に愛称はあるのか? 実はブレイブ・ブロッサムズという愛称が日本代表にもあるのだ。これは別に、日本協会が自ら名乗ったわけではない。
 2003年のW杯で日本代表は、強豪のスコットランド代表に敗れたとはいえ善戦した。このとき地元のメディアが「あの桜のジャージを着た男たちは、体が小さいのに勇敢なプレーをする。まさしくブレイブ・ブロッサムズ(勇敢な桜たち)だ」と称賛した。それから世界中で日本代表のことをブレイブ・ブロッサムズと呼ぶようになる。つまり、愛称が自然発生したわけだ。
 ところが、肝心の日本では愛称が長すぎるせいか定着せず、単に『ジャパン』と呼ばれることが多い。他のスポーツでも、監督名を頭に付けて『○○ジャパン』と呼ぶことがあるが、これは昭和40年代初頭のラグビー日本代表の通称、大西鐵之祐監督の『大西ジャパン』が最初だ。
 さて、自国開催の今回、ブレイブ・ブロッサムズはその名に恥じない、勇敢な桜ぶりを世界に見せ付けることができるか?

▼ワールドカップ開催のため、リニューアルした東大阪市花園ラグビー場

【日本戦および決勝トーナメントの放送予定】
9月20日(金)19:45 日本vs.ロシア(東京) 日本テレビ NHK BS1 J SPORTS1
9月28日(土)16:15 日本vs.アイルランド(静岡) NHK総合 J SPORTS2
10月 5日(土)19:30 日本vs.サモア(豊田) 日本テレビ J SPORTS2
10月13日(日)19:45 日本vs.スコットランド(横浜) 日本テレビ J SPORTS2

10月19日(土)16:15 準々決勝(大分) NHK BS1 J SPORTS2
10月19日(土)19:15 準々決勝(東京) 日本テレビ J SPORTS1
10月20日(日)16:15 準々決勝(大分) 日本テレビ J SPORTS2
10月20日(日)19:15 準々決勝(東京) NHK BS1 J SPORTS1
10月26日(土)17:00 準決勝(横浜) NHK BS1 J SPORTS1
10月27日(日)18:00 準決勝(横浜) 日本テレビ BS日テレ J SPORTS1
11月1日(金)18:00 3位決定戦(東京) NHK BS1 J SPORTS1
11月2日(土)18:00 決勝(横浜) 日本テレビ NHK BS1 J SPORTS1

※時間は試合開始時間、放送予定変更の場合あり


※490円電子書籍e-bookで読む(カード決済ダウンロード即刻、銀行振込対応)
’19年09月12日号8・31決戦AEW新日WWE MASTERS達人 猪木元気 DeepJewels 新日キック

’19年09月19日号MSG2連戦 ノアN1 猪木IWGP Impact移籍 ラガーマン DEEP イリエマン