ペイジ実話感動の必見作! 映画『ファイティング・ファミリー』11月から全国公開

 WWEスーパースター、ペイジの実話をもとにした映画がついに日本でも11月からTOHOシネマズ日比谷などでロードショー公開される。なにしろこの作品、ロック様ことハリウッドで最も稼げる俳優になったドゥエイン・ジョンソンが、実人生ペイジの憧れの一員だったのは本当のこと。ロック様は最初から喜んで出演こそ快諾していたが、なかなか資金が集まらず、撮影は2017年だったが結局はロック様がプロデュースする側にも回って完成させたのである。ところが、ふたを開けてみればマジに大好評。北米の辛口評価サイト他、あちこちで絶賛されてヒット作になるという、世の中わからないものなのだ。
 作品を堪能させていただいたが、予想を上回る感動作になっており、最後は泣かせてくれたのだから専門媒体としても大推薦しないといけない。プロレスに興味あるなしにかかわらず、物語としても良くできた映画好きを満足させる作品に仕上がり必見作であった。

 なにしろ、これはペイジの実話がベースなのだ。暴力で刑務所から出てきた父親も、スウィート・サレヤのリングネームである程度知られ米国でもチャンピオンになっている母親も、二人の兄もプロレスラーの題名通りレスリング・ファミリー(原題Fighting with my family)なのである。英国の田舎(ノーフォーク州ノリッジ)で地方のインディー団体を主宰する一家なのだ。
 長男は長らく塀の中生活。ちょうどペイジがブレイクする頃に出てこれることもあるが、物語の軸は次男のゾディアックと末娘ペイジの、ともにWWEでチャンピオンになることを夢見る兄妹が主役。このゾディアックを演じるジャック・ロウデンが素晴らしい。『ダンケルク』が紹介されているが、すでに主演作もあり、今後が楽しみな演技派である。
 ペイジ役の主演フローレンス・ピューに関しては、あとから調べてリーアム・ニーソン主演の『トレイン・ミッション』に出ていて、つい最近も洋画専門チャンネルでやっていたから「あれかぁ」と顔の一致をみたものの、まだまだ知られてない部類だろう。それより、製作段階から報道してきた本誌にしてみれば、ややchubbyとかchunky(ぽちゃり系)で本物ペイジと似てないとか、当初は役の選出に懸念の声も上がっていたのを覚えている。ところが成長物語でもあるから、最後には「横顔なんかペイジに見える」となるのだから、これぞ映画芸術の魔法であろうか。もっとも、プロレス場面のスタントはテッサ・ブランチャードなのだが・・・。

英国出身ステファン・マーチャント脚本&監督(最新作は『ローガン』)を囲むナイト家と主演フローレンス・ピュー(左から2番目)

 こういう映画化の場合、なにが難しかとなればプロレス自体にはまったく興味ない、「ペイジって誰? 有名なの?」という方をも納得させないといけないこと。ミッキー・ローク主演の『レスラー』がいかに超A級作品となり、ゴールデングローブ賞以下、世界中の賞を総なめして称賛されたかを持ち出すまでもなく、知識のない層にも普遍性があるか否かなのだが・・・。これは実話ベースながら話を単純化するだけでなく、『Wrestle Mania 30』の翌日RAW(2014年4月7日)でいきなりNXTから上がったペイジが長期政権だったAJリーからDIVA王座を奪取するところがクライマックスに。専門媒体としてはリアルタイムで見ているから、実際は夫である元WWE王者CMパンクの離脱騒動があり、AJリーの去就が取り沙汰されるようになって、無理やり王座交代となった次第。本当のペイジ成功物語はそこではなく、それからあとの話になるんだが、まぁそれはいいじゃないかと。作る側に立って考えるなら、チャンピオンになってhappy Endingにするのが筋道なのである。
 ちなみに、WWEスタジオ提携作品だからロック様だけでなく、今ちょうど、いつのまにか引退になっていると噂のダブリン出身シェイマスやミズ、大巨人ビッグ・ショーなどWWE選手もカメオ程度でアチコチ出ていれば、ロック様などの試合映像も権利の問題なく使われているのだが、さすがにペイジの試合となるとそうはかない。また、ジェリー・ローラーは自分役で『マン・オン・ザ・ムーン』に出ていたが、AJリーも無理となってゼリーナ・ベガがスキップする入場からAJをやっているのは笑える。実生活ではオランダ出身アリスター・ブラックと結婚した。試合実況も、当時やっていた内容とは明らかに違うんだが、重ねて詳しいこと知らない一般客にわかるように直すのが映画なのである。ちなみに最後のエンド・クレジット見たら、ゼリーナとすると客が混乱するからなのか、一回試写室で見ただけなのだが本名のテア・トリニダードがAJリー役の表記だったと記憶する。

母親のスウィート・サレヤ、ペイジ、兄の”ゾディアック”ザック・ナイト
▼ペイジの実人生をロック様が制作した映画『Fighting with my family』公開イベント潜入!

ペイジの実人生をロック様が制作した映画『Fighting with my family』公開イベント潜入!

 通常の映画評ではなく、専門媒体視点で語るなら、もちろん事実と異なる箇所は多々ある。ロック様とはロンドンO2アリーナでのSmackDown LIVE収録兼トライアウトの際に会ったことになっているとか、これは許容範囲だろう。プロレスなどの世間的には一部のファンしか詳しくない題材を扱う場合、いかに一般にもわかる普遍的な描き方にするかと並んで、もうひとつの難しい挑戦はマニア層をも満足させるか否かという、両極端の課題を成立させること。この映画が一般層に高評価だっただけでなく、WWEユニバースをも細かいディテールで納得させているのは見事だ。例えば、その英国でのトライアウト(実際は二度目に受かるんだが)で兄ゾディアックは落とされペイジだけ受かる場面があるが、一緒に受けた練習生には、のちにNXT UK王者として最長不倒記録を作るピート・ダンの今の風貌と明らかにそっくりな俳優がいたりと、決して説明なんかしないのだが、詳しいマニアがニンマリする史実も散りばめてあるからだ。

 また、実際ペイジが最初にフロリダに合流した時は、まだNXTではなくFCW(フロリダ・チャンピオンシップ・レスリング)だったのが、これも話をわかりやすくNXTにするならアリだろう。なにしろ番組の脚本には「WWE? なんだそれは。なんの略?」という世界最大の団体なのに知らない人は知らないという描写もあるから、そんなモンなのかも。あるいは、日本でこそ番組は紹介されなかったが、そのトライアウト過程をリアリティ・ショーとした『タフ・イナフ』をそのまま再現するような場面も挿入されている。米国ではチャンネルをカチャカチャ変えていたら、「プロレスラー養成のサバイバル番組もやっていた」程度は比較的知られているから、これも主人公の成長物語としてうまい伏線になっていた。ちなみにNXTブランドに統合されて2013年7月、ペイジが初代NXT女子王者になったことは紛れもない事実だが、それはより大舞台のRAWでいきなりDIVA王者になるクライマックスに邪魔だから、映画にはない。


2015年7月4日両国国技館、ペイジとタミーナ(ジミー・スヌーカ娘)が挑む3 way戦はニッキー・ベラの王座防衛だったが、メインこそ「怪物ブロック・レスナー上陸」も、隠された議題はNXT日本お披露目、いやWWEネットワークでの世界配信だった。

 そのプロレス信者を納得させる命題には、日本語字幕の難しさもある。こういうニッチなジャンルを扱う場合、英語堪能者が見たら「なんじゃこれは?」はよくあることだからだ。でも『ファイティング・ファミリー』はよくこなしていたと思う。ロック様がJUST BRING ITを言う場面、まぁ単なる決め台詞であってなんとでも訳せるんだが、ここでは前後の文脈もあり「(エッチ)やるか」になっていたのは正解か(笑)。
 また、今回のもう一人の重要な脇役は、スカウトマンにしてNXTコーチという、複数を一人で代表させたヴィンス・ヴォーンが演じるキャラだ。コメディアンとしても知られるヴォーンだが、厳しくも主人公ペイジを見守る役どころで助演男優賞をあげたいくらい。日本語字幕が難しいだけでなく、原文シナリオだって一般にわかるように最後の修正が大変だったハズで、兄ゾディアックのことを、「お前はjourneymanでしかない」と合格させないんだが、journeymanも隠語ながら、恐らく元はjobber、あるいはロック様用語ならジョブロニなんだと思う。しかしそれでは大衆にわからないから英語からして変えてあり、日本語字幕では「職人」にしていた。
 物語としてはロック様がクライマックス前にも登場。ペイジが厳しいヴォーンのことを知っているかと問うと、「もちろんさ。彼は俺様を輝かせるため金網頂上から落とされる負け役をやってくれた職人なんだよ」と答えるのだ。プロレスをわかってみている大人のファンは号泣するかも。ここで物語の点と線、伏線が全部繋がることになる。試合の勝った負けたはオマケでしかない。

実物ペイジはニューヨークでの公開イベントに来賓した。

 プロレス映画となると映画のサントラでどんなロックがかかるのかも事前の興味なんだが、アイアン・メイデンの再録でもヒットした♪Bring Your Daughter To The Slaughterが、オリジナルのブルース・ディケンソン版で流れる他、ロック通を満足させてくれている。
 ちなみに現在のペイジ、ケガでレスラーは引退して、アスカ&カイリ・セイン組カブキ・ウォリアーズのマネージャー役になっている。もっとも直近はまた再手術でテレビに一緒に出られなかったのだが、英国に戻り長男ロイとの写真がTwitterに投稿されていた。

 最後になったが映画でも大きく扱われているNXTが、この作品が日本公開となる頃には大変なことになっているだろう。本稿執筆時点で公式発表はされてないが、9月18日(水)から毎週2時間、東部時間のプライムタイム(日本表記ゴールデン)夜8時から10時に、長寿番組RAW中継で実績があり、ファンにも馴染みのUSA ネットワークから単独ブランド番組として放送される。
 これは、本年になって立ち上がった、新日本プロレスにいたケニー・オメガや元WWEのクリス・ジェリコを擁する新興プロモーションAEW(通称エリート)が、同じ水曜夜の同じ時間帯にライバル局TNTで10月2日から毎週番組を中継することに対抗するため。TNTは約20年前、現在はWWEに吸収されてしまったWCWを放送していた。これでその20年前の「月曜生TV戦争」ならぬ「水曜生TV戦争」が勃発、裏番組が正面からぶつかる全面開戦の熾烈な総攻撃が始まる。

 現在のNXTには日本の女子プロレスでNo.1、つまりは世界最高と認められている紫雷イオら、女子戦線も大きな売りである。述べるまでもなく、映画の主人公ペイジは初代NXT女子王者なのだ。彼女の時代では、まだ大舞台のRAWやSmackDown中継では、女子の扱いはレスリングの質よりも美形であることが最優先され、ペイジが映画のクライマックスで奪取する王座名もDIVAという名目のタイトルだった。そもそもペイジは、NXT時代に”Anti-Diva Army”つまり反美女同盟の一員として、可愛いだけの美系選手をやっつける役割だったのに。

 しかし、その映画のエンド・クレジットでもテロップが流れるように、やがてペイジらの活躍がDIVA名称の廃止と男子と同じ「女子王座への統合」という潮流を生み、それが「WWE女子革命」と称される大爆発に繋がる。そして2019年4月7日の『WRESTLE MANIA 35』では、ついに女子カードがメインイベントという集大成を迎えた。
 繰り返しになるが、ペイジの躍進と成功物語は、本当は映画の脚色が終わったあとから始まっている。映画は一般の映画好きにも推薦できる必見作だが、マット界がペイジの功績を忘れることはない。

■『ファイティング・ファミリー』 
2019年11月 TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
監督・脚本:スティーヴン・マーチャント
出演:フローレンス・ピュー、レナ・へディ、ニック・フロスト、ジャック・ロウデン、ヴィンス・ヴォーン、ドウェイン・ジョンソン
配給:パルコ ユニバーサル映画
原題:Fighting with My Family/2019年/アメリカ/英語/108分/シネスコープ/5.1ch
© 2019 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC., WWE STUDIOS FINANCE CORP. AND FILM4, A DIVISION OF CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION.
ALL RIGHTS RESERVED.
公式HP 

予告編 


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