鷹の爪大賞2018~安威川選べばこうなった!?~

[週刊ファイト12月16日号](月曜12月10日発売)収録

▼鷹の爪大賞2018~安威川選べばこうなった!?~
 by 安威川敏樹
・MVPはカイリ・セイン! (一目惚れ大賞)
・ベスト・タッグ賞はSANADA&EVIL(プロレス・レポートは難しかったで賞)
・フリー部門MVPは大和ヒロシ(オールマイティ賞)
・女子プロレス部門MVPは里歩(インターナショナル賞)
・主演男優賞は棚橋弘至(ベスト・ファーザー賞)
・助演男優賞は長州力(ウルトラマン賞)
・カムバック賞は力道山夫人&マッハ文朱(まだまだ元気で賞)
・功労賞は輪島大士(黄金の左賞)
・新人王はトッド・クレバー(ビックリしたで賞)
・キャノン賞は甲斐拓也(同姓同名で賞)


 筆者が『週刊ファイト』のライターとなって1年余。去年はまだ書き始めて間もないということで参加しなかったが、今年は初めて本誌恒例の『鷹の爪大賞』を選ぶことになった。

 と言っても、筆者のコラムを読んでくださっている読者ならおわかりの通り、筆者はまともなプロレス記事など書いたことがない。大谷翔平のような165km/hの快速球を投げ込む本誌の本格派ライター陣の中にあって、筆者だけはマンガ『がんばれ!! タブチくん!!』に登場するヤスダ投手のセコい魔球みたいな記事ばかりだ。
 そのたびに本誌の上層部から「こんな下らん記事を書くな!」とお叱りを受けるのだが、筆者はヤスダ投手の魔球よろしく「見逃してください、見逃してください」と逃げている(わかる人だけわかればよろしい)。

 よって『鷹の爪大賞』も、筆者がまともな賞を選ぶはずはないが、そこはお許しいただきたい。あくまでも筆者の主観のみで、独断と偏見で選ばせてもらった。

▼[ファイトクラブ]鷹の爪大賞2017~新日一強~メイマク興行爆発Knock Out~ターザン山本

[ファイトクラブ]鷹の爪大賞2017~新日一強~メイマク興行爆発Knock Out~ターザン山本

MVPはカイリ・セイン! (一目惚れ大賞)

 筆者が選ぶ『鷹の爪大賞2018』MVPはカイリ・セインとなった。
 カイリはご存知の通り昨年、WWEと契約。渡米して間もなくWWEメイ・ヤング・クラシックトーナメント第1回大会に優勝し、アメリカでも一本立ちできることを証明した。
 そしてハイライトとなったのが、今年の8月18日に行われたNXT女子王座戦。シェイナ・ベイズラーを破って見事NXT王座を奪取したのである。

 今やアメリカのマットでも、カイリがリングに上がるとファンは熱狂する。10月28日の『エボリューション』ではリターン・マッチでシェイナ・ベイズラーに敗れて王座陥落したが、その活躍が色褪せることはない。

 ……と、もっともらしいことを書いているが、本当の授賞理由は、筆者が間近でカイリを見たから。8月31日のWWE大阪公演で、カイリは凱旋帰国。このときに、戸澤陽と共に記者会見を行い、筆者も立ち会った。
 そのときに見たカイリは……、可愛かった(笑)。しかも可愛いだけではなく、お色気もプンプン。筆者を魅了してしまったので、今回のMVPには『一目惚れ大賞』の副賞も付いた。

 まあ、そういうことは抜きにしても、日米を問わず人気者になったことは、充分に評価されてもいいのではないか。大阪公演でも第3試合だったにもかかわらず、カイリはメイン・エベントを食うほど光り輝いていた。
 本場WWEの観客も熱狂させたことも加え、『鷹の爪大賞』MVPに推す。

▼筆者が選ぶMVPは『一目惚れ大賞』も含めてカイリ・セイン!

ベスト・タッグ賞はSANADA&EVIL(プロレス・レポートは難しかったで賞)

 ベスト・タッグ賞にはSANADA&EVILのL.I.Jコンビを選んだ。『鷹の爪大賞』の選考期間は昨年の12月から今年の11月までということで、昨年の新日本プロレスWORLD TAG LEAGUE 2017で優勝を決めたのが12月11日だったため、ギリギリのノミネートである。
『タッグの全日本』ということで、昨年の世界最強タッグ決定リーグ戦で優勝した全日本プロレスの諏訪魔&石川修司を選びたかったが、個人的な理由でSANADA&EVILとした。
 実は、この決勝戦のSANADA&EVILvs. タマ・トンガ&タンガ・ロアが、筆者にとって初めてのプロレス・レポートだったからである。

 筆者はかつてトラ番記者を務めたことがあって、阪神タイガースのホーム・ゲーム年間70試合以上の試合レポートをしていたが、野球レポートよりもプロレス・レポートの方が遙かに難しい。野球の試合は約3時間、このタッグ決勝戦はたった21分54秒だったにもかかわらず、である。
 野球は1球1球に間があり、また試合観戦しながらスコアブックを付けることができるので、試合終了後はスコアブックを見直すと試合展開が手に取るようにわかり、すぐに試合レポートを書くことができる。
 しかしプロレスでは、攻防が目まぐるしく変わり、一つ一つの技に意味があるので気を抜けない。逆に、意味のない技が続くのは三流の試合だ。
 しかも、全ての攻防を書くわけにもいかず、取捨選択して重要なポイントを書かなければならない。プロレスではスコアブックのようなものはなく、試合中にできるのはせいぜいメモ書き程度だ。さらに、試合の迫力を文字だけでどう伝えるか、その難しさは野球の比ではない。

 というわけで、ベスト・タッグ賞には『プロレス・レポートは難しかったで賞』の副賞を付けてSANADA&EVILとなった。

▼筆者がベスト・タッグ賞に選んだEVIL&SANADA

フリー部門MVPは大和ヒロシ(オールマイティ賞)

 フリー部門のMVPとして大和ヒロシを選出した。大和はインディーからメジャーまで八面六臂の活躍、しかもリング形式を選ばないオールマイティさが授賞理由となった。
 普通のリングはもちろん、居酒屋のような店に敷いたマットでも試合可能というレスラー。さらに、どの団体のリングに上がっても必ず、入場曲『進み続ける限り』を歌いながら登場するというブレなさはさすがである。

 ……と、またもやもっともらしいことを書いたが、これはインディーに詳しい友人の意見を参考にさせてもらった。全日本プロレス出身の大和はWRESTLE-1の旗揚げに参加したものの、今年の3月にフリーとなった。しかし、団体の後ろ盾を失っても活躍を続ける大和、フリーのMVPに相応しい。

▼フリー部門のMVPは大和ヒロシ

女子プロレス部門MVPは里歩(インターナショナル賞)

 こちらも前述のインディーに詳しい友人からの推薦。国内の女子プロレス団体で活躍するMVPは里歩となった。
 我闘雲霧(ガトームーブ)の絶対的エースとして国内のみならず、タイやイギリスでも活躍したということで、インターナショナル賞も合わせての受賞となった。

▼女子プロレス部門MVPの里歩

主演男優賞は棚橋弘至(ベスト・ファーザー賞)

『鷹の爪大賞』というより『アカデミー賞』になってしまうが、主演男優賞は棚橋弘至を置いて他にはいまい。映画『パパはわるものチャンピオン』に主演し、プロレス界のPRにも貢献した。

 先日はテレビ朝日系のクイズ番組『くりぃむクイズ ミラクル9』に棚橋は、息子役だった寺田心クンと一緒に出演。心クンは「プロレスラーになりたい」と将来有望なことを言っていた。
 棚橋には主演男優賞と共に、ベスト・ファーザー賞も贈ろう。

▼主演男優賞はもちろん棚橋弘至

助演男優賞は長州力(ウルトラマン賞)

 主演男優賞が棚橋弘至なら、助演男優賞は長州力で異論はあるまい。長州はNHK大河ドラマ『西郷どん』に来島又兵衛役で出演した。

▼出るかリキ・ラリアット!? 長州力、NHK大河ドラマ『西郷どん』に出演!

出るかリキ・ラリアット!? 長州力、NHK大河ドラマ『西郷どん』に出演!

 登場時間は僅か3分半だったが、大河ドラマで史実を無視してリキ・ラリアットを放つというインパクトの強さと、ウルトラマン並みの戦闘シーンの短さもあって『ウルトラマン賞』に認定する。

▼助演男優賞の長州力は『ウルトラマン賞』も受賞

カムバック賞は力道山夫人&マッハ文朱(まだまだ元気で賞)

 4月6日、筆者は大阪市此花区にある『観光プロレス居酒屋リングサイド大阪』で行われたトーク・イベントに参加した。そこでは、力道山夫人の田中敬子さんによるトーク・ショーが行われたのである。
 力道山より17歳も年下という田中敬子さんは、まだまだ元気。力道山にまつわる裏話も赤裸々に語った。

▼[ファイトクラブ]力道山夫人が『観光プロレス居酒屋リングサイド大阪』にやって来た!

[ファイトクラブ]力道山夫人が『観光プロレス居酒屋リングサイド大阪』にやって来た!

 さらに、この日はサプライズ・ゲストとしてマッハ文朱さんが乱入。場は一気に盛り上がった。
 力道山夫人&マッハ文朱という強力なタッグには、カムバック賞と共に『まだまだ元気で賞』を贈呈する。

▼マッハ文朱&力道山夫人の強力タッグは『まだまだ元気で賞』

功労賞は輪島大士(黄金の左賞)

 今年もまた、プロレス界では様々な人がこの世を去った。そして『鷹の爪大賞』の締め切り間近になって、ダイナマイト・キッドの訃報が飛び込んできた。もちろん、キッドの訃報は今年の受賞期間からは外れている。

 今年の訃報で思い出されるのが、10月8日に70歳で亡くなった輪島大士だ。筆者は、大相撲では輪島のファンだった。史上初にして歴代唯一の学士横綱・本名横綱である輪島。得意技は『黄金の左』と称された左下手投げ。腕の自由が利く上手投げと違い、相手の上手に腕を極められている下手投げを得意技とした横綱なんて、今後も現れないのではないか。輪島は右上手から強烈に絞ることにより、芸術的な左下手投げを完成させたのである。

 輪島のライバルと言えば北の湖。若い頃の北の湖は、輪島の左下手投げにはカモにされていたが、筆者が相撲を見始めたのは輪島の晩年で、両者の力関係は逆転していた。その頃の両者の対戦は毎回、判を押したように同じ展開で、相四つのため差し手争いは起きない。がっぷり左四つになって、長い相撲となり、あとは北の湖が輪島のスタミナ切れを待つだけ。輪島の動きが止まったところを北の湖が寄り切り、こんな取組が何場所も続いた。
 輪島にとって最後の優勝となった1980年の九州場所。輪島は初日から12連勝と絶好調で迎えた北の湖戦では、いつもと同じ型になったものの、輪島の左下手投げが飛び出し、北の湖は『黄金の左』によって土俵に転んだ。『輪湖時代』を築いた両者の通算成績は、23勝21敗で輪島が僅かに勝ち越したのである。

▼1979年初場所の輪島(左)vs.北の湖(奈良県・葛城市相撲館『けはや座』より)

 引退後の輪島は花籠親方になったものの、借金問題により廃業。大相撲の引退から5年後の1986年、輪島は全日本プロレスに入団。デビュー戦の相手はタイガー・ジェット・シン、さらに当時は世界最高峰とされていたNWA世界ヘビー級王者のリック・フレアーに挑戦するなど、破格の扱いを受けた。しかし、その後は大相撲で格下だった天龍源一郎からフルボッコにされるなど、尻すぼみとなる。結局、輪島のプロレス生活は僅か2年間だった。
 だが、『黄金の左』を模した必殺技『ゴールデン・アームボンバーからのゴールデン・ギロチン・ネックブリーカー・ドロップ(要するにノド輪落とし)』を開発するなど、世間の目をプロレスに向けさせたということで、功労賞と共に『黄金の左賞』を贈る。

新人王はトッド・クレバー(ビックリしたで賞)

 新人王は、WWEと契約したトッド・クレバー。授賞理由は、今年のクレバーがどんな活躍をしたか、ということではなく、単純に筆者が今年のニュースの中で、最もビックリしたからである。
 4月25日、クレバーがWWEと契約したときには「ホンマかいな!?」と我が目を疑った。

 クレバーはラグビーのアメリカ代表(イーグルス)で、キャプテンを務めた選手。決してラグビー強国とは言えないアメリカの中で、クレバーは文句なくワールド・クラスのフランカーだった。世界最高峰と言われる南半球のスーパー・ラグビー(現在では日本からサンウルブズが参加)でプレーし、日本のトップリーグでもサントリー・サンゴリアスなどで活躍した。
 しかし、2015年のワールドカップでは、規律違反があったとしてアメリカ代表から外されてしまう。この大会で日本代表はアメリカ代表を破ったが、クレバーがいればどうなっていたかわからない。

 今年、最も驚かされた出来事としてトッド・クレバーを新人王に選んだ。

▼左の白いジャージが、トッド・クレバーがキャプテンとして率いていた頃のアメリカ代表

キャノン賞は甲斐拓也(同姓同名で賞)

 今年のプロ野球・日本シリーズでMVPに輝いたのが福岡ソフトバンク・ホークスの甲斐拓也捕手だった。甲斐は相手の広島東洋カープが仕掛けた6回の盗塁を全て刺し、その強肩ぶりから『甲斐キャノン』と呼ばれた。

 プロレス界にも『甲斐キャノン』が存在する。『闘う歯医者』ことワクチンファイト・プロレスリングの甲斐拓也だ。しかもソフトバンクとは関係があり、同球団の和田毅投手が慈善団体にワクチンを寄付していたことに感銘を受け、甲斐自身もワクチンの寄付を始めたのだという。
 余談ながら、かつてテレビ朝日系で放送されていた特撮ヒーロー・ドラマの『重甲ビーファイター』で、主人公のブルービートが重甲(変身のこと)する前の人間形態が甲斐拓也という名前だった。

 というわけで、ワクチンファイト・プロレスリングの甲斐拓也にはキャノン賞と共に『同姓同名で賞』も贈呈。なお、電気機器メーカーのCanonからは何も贈られない。Canonのカタカナ表記は『キャノン』ではなく『キヤノン』だし。

▼『甲斐キャノン』を生み出したソフトバンクのキャンプ地、宮崎市のアイビースタジアム

 以上が筆者の選ぶ『鷹の爪大賞』である。プロレス大賞でありながらベスト・バウトがないという異例の選出だが、そこは「見逃してください、見逃してください」。

▼ヤスダ投手の『見逃してください魔球』(6分7秒頃から)