ケン・片谷『メシとワセダと時々プロレス』⑪後ろ髪男とバギパンの頃～埼玉プロレス

長州さんを代表として、かつて後ろ髪、つまり襟足のところを伸ばすのが一流レスラーの象徴とされた時代がありました。

オイラも、そのヘアースタイル(？)に強い憧れを持ったプロレスファンの一人でした。
高校生の頃から、意識して後ろ姿を伸ばし始めましたが、当時柔道部に所属していたため、先輩に叱られては切り、隙を見てまた伸ばしを繰り返していました。
やがて就職し、教員になってからもその“クセ”は続きます。
入学式や卒業式、運動会などの行事が近づくと教頭先生に呼び出され『片谷先生、その髪型はちょっと…。』と注意されました。保護者が集まる場所ではNGだと言うことなのでしょう。

しかし、よく考えてみると猪木さんも馬場さんも、はたまた藤波さんも鶴田さんも一度も後ろ髪を伸ばした姿を見たことがありません。
後ろ髪を伸ばしているのが『一流レスラーの象徴』というのは錯覚で、余程長州さんのインパクトが強かったということだったのでしょうね。
それを裏付けるかのように、馳さんや健介さんなど後ろ髪を伸ばしていたレスラーは長州さんの影響を受けた選手が多いことに気付きます。

90年代のインディー系レスラーの中には、“後ろ髪男”がうじゃうじゃいました。当然、かく言うオイラもその一人でした。プロレスラーになった喜びとステイタスを後ろ髪に感じていたのでしょう。
ひと度リングに上がれば、もう誰も髪型を注意する人はいません。やがてオイラの後ろ髪は伸ばし放題になりました。MAXでは、背中の真ん中くらいまであったと思います。

オイラの後ろ髪の顛末については後ほど…。

後ろ髪とともに流行ったのがバギーパンツ、通称“バギパン”でした。
詳しいことはわかりませんが、元々はボディビルダーが履いていたものなのでしょうか？来日するマッチョ系のレスラーが身に付けていたのを強烈に覚えています。
やがて、みるみるプロレス会場に多くの“バギパン男”が現れるようになりました。
しかし、どこを探しても一般の洋服屋にバギパンは売っていません。では、みんなどこでバギパンを購入しているのか？　そう、雑誌の広告です！
プロレス雑誌の裏表紙を見ると、トレーニング機器やウェイト機器と一緒にバギパンが売られていました。
当時は、バギパン一本一万円近くで販売されていたと記憶しています。それでも『〇〇本まとめて買うとお得！』などのコピーに乗せられまとめ買いしていました。数年後、アメリカで$10以下で売られてているのを見た時は、さすがにショックを隠しきれませんでしたけどね(笑)！

ネット通販などこの世になかった時代。広告の電話番号に電話して在庫を確認、料金を現金書留で送ると商品が届く…。なんともアナログ過ぎる昭和のお話ですが、これでも“ナウい”ショッピング方法だったのです。

バギパンにウェストポーチ。これぞ90年代インディシーンの教科書ですね(笑)！

さてさて、話は戻りオイラの後ろ髪の顛末についてお話します。

プロレスのキャリアとともにどんどん伸びるオイラの後ろ髪…。
当時レギュラー参戦していた『埼玉プロレス』で、オイラはその日のメインに抜擢されました。
埼玉プロレスでメインを張るということは、同時に同団体主宰であるサバイバル飛田選手と試合することを意味します。
当時飛さんは、フィニッシュに火炎攻撃を多用していました(会場が緩かった)。
もうお分かりでしょう？
飛さんの放った猛火が、オイラを直撃！あまりの熱さに背を向けた瞬間、炎はオイラの後ろ髪に引火したのです！
哀れ、オイラの後ろ髪は真っ黒焦げとなりました！
皆さんご存じですか？　髪の毛が燃えると、チリチリとまとまり出すのです(笑)。長かったオイラの後ろ髪は、みるみる野球のボールくらいの固まりになってしまいました。

これはもう切るしかない…。

“その時”は突然やってきました。埼玉プロレスの会場の控え室で、急遽オイラの断髪式が執り行われたのです。

それ以来、一度も後ろ髪を伸ばしていないことは言うまでもありません(笑)。