[週刊ファイト5月21日]期間 [ファイトクラブ]公開中
▼高校部活バス事故は日本社会の縮図か? プロレス界も同様の問題
by 安威川敏樹
・地方はますます疲弊し、東京一極集中が加速する構造
・富める者は富み、貧しい者は貧しくなる、日本の失われた40年
・ハルク・ホーガンが指摘していた、日本のプロレス界最大の問題点
・プロレスラーが引退したくてもできない、させられない深刻な理由
ゴールデンウィーク中に、痛ましい事故が起きた。私立北越高校(新潟)の男子ソフトテニス部の部員たちを乗せたマイクロバスが磐越自動車道でガードレールに激突、生徒が死亡したのである。亡くなった方およびご遺族の方には心よりお悔やみ申し上げます。
今年のGW中には別の高校でも、部活で移動中のマイクロバスで事故が起きている。
北越高校の事故に関しては、逮捕された運転手やバス会社および学校側の対応についてワイドショー等で盛んに報じているが、これは歪んだ日本社会の縮図ではないか。
そして、プロレス界や格闘技界にとっても、対岸の火事ではないような気がする。

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地方はますます疲弊し、東京一極集中が加速する構造
北越高校はバスを蒲原(かんばら)鉄道に依頼したという。蒲原鉄道が用意したのは、レンタカーであるマイクロバスと、件の運転手だった。
ここで両者の言い分が食い違う。蒲原鉄道は北越高校の要請によりマイクロバスと運転手を手配したと言い、北越高校はそんな依頼はしていないと主張している。ただ、北越高校はこれ以前にも何度も蒲原鉄道に遠征用のバスを依頼して、マイクロバスと運転手(今回の運転手とは違う)が蒲原鉄道から来たことがあったそうだ。
本稿では、どちらの言い分が正しいかとか、あるいは運転手の罪については問わない。部活の遠征による事故は全国各地で起きていることで、日本社会に巣くう病気のように感じるのだ。
北越高校と蒲原鉄道に共通している点がある。それは、カネに困っているということだ。
蒲原鉄道は、その社名とは裏腹に鉄道事業は行っていない。いや、元々は鉄道会社だったのだが、1999年に全路線を撤廃し、その後はバス事業者となっている。
以前は路線バスや高速バスも運営していたが、現在では規模を縮小して廃止、コミュニティバスの運行を受託している他は貸切バスが主な事業となった。つまり、台所事情はかなり苦しかったわけだ。
テレビ東京系の人気番組に『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』というシリーズがある。出演者が路線バスのみを乗り継いで遠くの目的地に行くというバラエティー番組だが、地方では年々路線バスが廃止されているのが視ていても如実に感じられた。
つまり、地方では公共交通の運営が成り立たなくなっている。この流れは、ますます加速するだろう。
もちろんモータリゼーションの影響も大きいが、東京一極集中により地方は過疎化して衰退するばかり、逆に東京周辺は人口の過密が酷くなっている。日本はどんどんアンバランスになっていっているのだ。
日本をこういう歪な形にしてしまったのは、我々有権者の責任でもある。一時期は『地方の時代』などと言われていたが、むしろそれからの方が首都圏と地方の差が広がり始めた。
今のままでは、地方はさらに住みにくくなるだろう。首都圏以外はますます不便になるので、若者は東京へ職を求めるようになり、地方は一層過疎化が進むという負のスパイラルである。
日本第二の都市圏である大阪府ですら、南東部の田舎を走っていた金剛バスが2023年12月に廃止された。現在では、富田林市をはじめ4市町村が運営するコミュニティバスとなっている。
余談ながら、金剛バスは大阪芸術大学へ行くことができる唯一の公共交通機関なので、同大学出身の本誌ライターである井上譲二氏も学生時代は恐らく利用していたはずだ。
▼2023年12月に廃止された、大阪府南東部を走る金剛バス

富める者は富み、貧しい者は貧しくなる、日本の失われた40年
苦しいのは地方の交通会社だけではない。学校も同じだろう。少子化により生徒数は年々減り、多くの高校は経営難に陥っている。
私立高校は大学進学、あるいは部活を充実させて生徒獲得に必死だ。進学校ではない高校が、部活を強化するためには、他校との練習試合は欠かせない。特に地方の高校は、他県へ遠征することが多くなるので、どうしても長距離移動となる。
学校によっては、マイクロバスを保有していることも珍しくない。その場合、免許を持っている責任教師が運転することも多いだろう。もちろん、彼らは恐らく二種免許を持っていないので、安全とは言えない。だが経費がかからないため、こうした事例は横行していると思われる。
当然、学校だけではなく保護者の負担も考慮しなければなるまい。遠征費がかさんだら家計にも響き、子育てをする家庭も大変だ。
そうしたことも踏まえて、学校側がバス会社にできるだけ予算を抑えて欲しいと要望することも想像に難くない。バス会社側も、学校は有難い団体客なので、他のバス会社に顧客を奪われまいと出来るだけ要求に応えようとするだろう。
そこで、安い予算では貸切バスを差し出すわけにはいかないので、代替案としてレンタカーのマイクロバスを提供する。北越高校がレンタカーを要求しなかったとしても、蒲原鉄道がその予算ならレンタカーのマイクロバスで、と考えたのではないか。
さらに問題だったのは、北越高校にマイクロバスを運転できる免許を持っている人がいなかったため、蒲原鉄道は運転手を探した。多くのバス会社は、人件費高騰に悩まされながら、運転手不足という矛盾した構造を抱えている。
そこで、ようやく見つけたのが、今回の事故を起こした運転手だ。この運転手は68歳という高齢に加えて、二種免許を持っていないのはもちろん、直近の二週間で三度も事故を起こしているという、どう考えても大勢の生徒を乗せたマイクロバスを運転してはいけない人物である。
それに、教師の負担増大という問題も深刻だ。部活を担当する顧問や監督は、プライベートの時間がないほどの生活を強いられる。それでいて、給料は特別手当があっても少なく、ない学校も多い。
仮にマイクロバスを運転できても、その教師の負担はますます大きくなる。当然、事故を起こせばその教師に責任が及ぶという、全く割りの合わない職業だ。
東京一極集中に地方疲弊、深刻な少子化ながら高年齢層に仕事がなく、物価は上がり続け給料は上がらないデフレーションというよりスタグフレーション、格差社会による歪な社会構造、バブル崩壊以降の失われた30年、どころか40年……。もはや日本はかつての経済大国などではなく、先進国の中では最低レベルに陥っている。
今では「バブル時代は好景気で良かった」などと言われているが、当時から過労死が問題視されていたのを忘れているのだろうか。『KAROUSHI』は世界に通じるほどの言葉だったのである。
何度でも言うが、こういう日本を作り出したのは、我々有権者だということを忘れてはならない。そして、甘い汁を吸う政治家を助長させてしまった。
さらに、現在ではますます酷くなっている。政治家のレベルも有権者のレベルも下がる一方だ。

ハルク・ホーガンが指摘していた、日本のプロレス界最大の問題点
貧すれば鈍するというが、今回の事故はプロレス界にも当てはまる。どのプロレス団体も経営が苦しく、なりふり構わないのが現状だ。
1980年代のプロレス黄金時代のようにゴールデン・タイムでの地上波テレビ中継もなく、にもかかわらず多団体時代を迎えている。少ないファンを、多数のプロレス団体が奪い合っているのだから、経営難に陥るのは当然だ。
いや、プロレス黄金時代だって健全経営していたとは思えない。そもそもテレビからの放映権料がなければ経営が成り立たなかったのだから、ビジネスになっていなかったと言える。
スター頼りのプロレス経営で、そのスターを失えばテレビ局からソッポを向かれ、あっけなく崩壊していた。力道山が築き上げた日本プロレスだって、力道山の死後にエースとなったジャイアント馬場やアントニオ猪木がいなくなってたちまち会社が傾き、坂口征二が離脱するとテレビ放映がなくなって簡単に倒産している。