[週刊ファイト7月17日期間]収録 [ファイトクラブ]公開中
▼タダ券バラ撒きは崩壊への序曲!? 無料イベントの功罪
by 安威川敏樹
・GWを含む約1ヵ月に17万人を無料招待したJリーグ
・タダ券バラ撒きに、これだけあるデメリット
・実券の枚数を把握できるようになり、連日満員になったプロ野球
・第二次UWFの東京ドーム6万人伝説
・チケットを売るより無料イベントの方が損はしない? 奇妙なカラクリ
以前の記事では、税金に頼る危うさをサッカーJリーグの例を挙げて書いた。そして、今回はもう一つ、タダ券バラ撒きについても追及する。
無料でイベントを見られるなんて、ファンにとってはこんなに有難いものはない。その一方で、タダほど怖いものはないという。政治利用・税金・タダ券は、まさしく諸刃の剣3点セットだ。
▼プロレス界発展のため、政治と税金の利用……は諸刃の剣!
▼プロレス界による税金使用の危うさと、効果的な利用方法とは?
GWを含む約1ヵ月に17万人を無料招待したJリーグ
今年の春ごろ、Jリーグ関連のテレビCMが目立っていた。それは、Jリーグの試合を無料でご招待、という内容だ。特定のチームの試合ではなく、Jリーグ全体である。
今年の場合、合計170,000人を無料招待したようだ。1万7千人と思ってよく見たら、なんと17万人である。
しかも、これは1年間の数字ではない。4月16日~5月25日の、僅か1ヵ月強だ。言うまでもなく、この期間はゴールデン・ウィーク(GW)の真っ只中である。
GWと言えば、あらゆるイベントにとって書き入れ時だ。普通なら、ほっといても客は集まりそうなものだが、そんな時期に敢えて無料招待を増やしているのである。
ちなみに、開幕した頃の春休み時期には13万人を無料招待した。そして、夏休みにも15万人を無料招待するという。1年間で40万人を無料招待した年があったが、今年は45万人も無料招待する計算だ。
さらに言えば、この数字はJリーグ全体のサービスであって、各クラブの無料招待は含まれていない。それまで含めると、どれだけの無料客がいるんだろうと思ってしまう。
もちろん、無料招待券にもメリットはある。一番大きいのは、そのイベント(Jリーグの場合はサッカー)をより多くの人に知ってもらうことだ。
Jリーグの例で言うと、それまでサッカーには見向きもしなかった人が、生観戦によってサッカーの魅力に気付き、その後はリピーターになるという効果である。特に、子供に対してはかなり有効だろう。
スーパー・マーケットの試食品のようなもので、タダで自慢の食品を食べてもらい、購入意欲を掻き立てるわけだ。Jリーグで言うと無料招待することで、将来的には大きな利益を得ることができる。
サッカーに興味のない人が、いきなりカネを払ってJリーグを観に来るわけがない。それなら、無料招待をキッカケにして今後のサポーターを育てるのである。
もう一つのメリットは、スタンドを満員にできることだ。満員のスタンドは人気の証しだし、流行っている感を出すことができる。
テレビや動画配信で満員のスタンドを見れば、そんなに人気があるのなら一度は行ってみたい、と思うのが人情だろう。
タダ券バラ撒きに、これだけあるデメリット
しかし、タダ券にはメリットよりデメリットの方が遥かに多い。
まず一つ目は、タダ券に慣れてしまうとカネを払ってまで観戦したくない、という感情が芽生えることである。せっかくタダで観られるのに、なんでカネを払わなアカンの? と思ってしまうのだ。
つまり、チケットを買うのがもったいないと思うのである。ましてや、タダ券バラ撒きとなると、わざわざチケットを買うより、また無料招待キャンペーンの時期を待った方が得だ、と考えるのだ。前項ではメリットとしてリピーターを生むと書いたが、実際にはそんな人は少ない。
二つ目は、チケットを買って観戦している人が、バカバカしく感じることである。俺はせっかく前売りチケットを買ったのに、タダ券をバラ撒くのなら損をした、という怒りに変わるのだ。
要するに、タダ券客を増やしたばかりに、実際にチケットを買う人が減ってしまうのである。これでは主催者側は損するだけで本末転倒だ。商売どころか単なるボランティアになってしまう。
三つ目は、主催者側が集客努力を怠ることだ。カネを払ってくれる客を呼ぶために、スタジアムを魅力ある空間にしなければならないのに、タダ券をバラ撒くことによって簡単に集客できるので、それ以上の企業努力をサボるのである。
スタンドを満員にして流行っている感さえ出せれば人気があるように見えるし、チケットが売れなくても広告料や親会社からの赤字補填あるいは税金でなんとかなるさ、と考えてしまうのだ。
四つ目は、選手にプロ意識が育たないことである。プロ・スポーツである以上、客から入場料を貰って、そのカネが選手のギャラ(年俸)になるのが本来の姿。しかし、タダ券ばかりでは、お客様からギャラをいただいて、プレーを見せるという基本から外れてしまうのだ。
やはりタダ券は最小限に留めて、チケットを売って集客するべきだろう。そうすれば、選手もフロントも、自ずからプロ意識が芽生えるはずだ。
実券の枚数を把握できるようになり、連日満員になったプロ野球
Jリーグを例に出したが、本題はここからである。比率的に言えば、Jリーグ以上にタダ券をバラ撒いてきたのがプロレス界だ。
年に1回ぐらいのスタジアムでの大イベントで、チケットが3万枚売れて大成功、1万枚はタダ券で集まったのは計4万人、さらに水増し発表が当たり前だった時代は観衆4万5千人なんて大ウソがまかり通っていたのである。