[ファイトクラブ]プロレス界による税金使用の危うさと、効果的な利用方法とは?

[週刊ファイト4月17日]期間 [ファイトクラブ]公開中

▼プロレス界による税金使用の危うさと、効果的な利用方法とは?
 by 安威川敏樹
・公金を当てにすると、負の遺産ループに陥ってしまう
・Jリーグはプロ・スポーツの理想的ビジネス・モデルだった筈が……
・魅力ある空間を作り出すため、球場経営に本腰を入れたプロ野球
・FC大阪による花園ラグビー場問題で東大阪市議会が紛糾
・ノア、DDTの親会社が悲痛の訴え「税リーグを何とかしろ」


 前回の記事で筆者は、『政治と税金の利用は諸刃の剣』と書いた。日本プロレスリング連盟(UJPW)が発足して政財界との窓口ができたことは素晴らしいが、一つ間違うと諸刃の剣になるという内容である。
 この記事では、オリンピックやプロ野球(NPB)を例に挙げて、スポーツが政治家に利用されると危うくなると説いたが、税金の方は書かなかった。そこで、今回は税金を当てにし過ぎるとそこから抜け出せなくなる、という点を追及してみたい。

▼プロレス界発展のため、政治と税金の利用……は諸刃の剣!

[ファイトクラブ]プロレス界発展のため、政治と税金の利用……は諸刃の剣!

公金を当てにすると、負の遺産ループに陥ってしまう

 いきなりだが、プロレスやスポーツとは関係のない話から書く。日本には『原発村』と呼ばれる地域があって、要するに原子力発電所によって潤っている自治体のことだ。
 原発村は、他に資源がなく資金力に乏しい田舎で、電力会社の要請によって原発を造ることを承認する見返りに、多額の原発マネーを得ている。もちろん、そこに政府の意向が含まれているのは言うまでもない。

 だが、これには重大な副作用を伴う。それが顕著に表れたのが、2011年3月11日に勃発した東日本大震災だ。この時、福島県にあった原発が大事故を起こしている。
 そもそも、この原発は東京電力のもので、福島県民は東北電力の電気を使用しているため、この原発が作り出している電力は使っていない。いわば、首都圏の電力安定供給のために、全く関係のない福島県民が犠牲になったのだ。

 それでも、原発村は原発から抜け出すことができない。なぜなら、原発マネーに頼り切った体質に染まっているため、他に生きていく手段がないからだ。もはや、原発がいかに危険だとしても、原発が無くなれば資金源が断たれるため、原発村にとっては生命線まで失ってしまう。
 結局は、原発が無くなっても地獄、原発が事故を起こしても地獄だ。電力会社が原発の安全性をいくら謳っても、東日本大震災でその安全神話が崩れてしまったし、仮にどんな大地震にも耐えられる原発を造ったとしても、たとえば北朝鮮が放つミサイルが日本海側に林立する原発に命中すれば、核爆弾を積んでなくても周囲に放射性物質が撒き散らされる。

 そして、こんな日本の形を作って来たのが、他ならぬ日本政府だ。政府の政策により、日本は一極集中化を加速させ、首都圏はより繁栄し、地方はますます弱体化している。
 忘れてはならないのは、こんな政府を選んできたのは、我々日本国民ということだ。有事の際、真っ先に犠牲となるのは地方や弱い立場の人間で、それを推進する政治家を有権者が選び、日本は少子高齢化時代を迎え、国際競争から乗り遅れるという事態を招いてしまった。

Jリーグはプロ・スポーツの理想的ビジネス・モデルだった筈が……

 スポーツ界にも、税金依存から脱却できない組織がある。それがサッカーのJリーグだ。Jリーグと言えば、平成の世になった1993年に開始された、日本では団体球技としてはプロ野球(NPB)に次ぐ2番目のプロ・リーグである。
 Jリーグの発足以来、日本では大サッカー・ブームが巻き起こった。若者はJリーグに熱狂し、プロ野球はオヤジだけが観るオワコン・スポーツとみなされたのである。

 事実、Jリーグの発足以来サッカーは順調に成長を続け、今や国民的スポーツになった。2002年の日韓共催FIFAワールドカップでは、プロ野球が日程を変更したほど日本中がサッカーに酔い痴れたのである。プロレス黄金時代の1980年代は、誰もサッカーなど見向きもしなかったが、90年代に入って立場は完全に逆転した。プロレスは地上波ゴールデンから撤退したが、サッカー中継は高視聴率を誇っていたのである。
 プロレスと同じ道を歩んだのがプロ野球で、2004年には球団再編騒動が勃発した。人気が低迷したプロ野球は、10球団1リーグ制に縮小し、さらには8球団まで削減しないと、とても経営が持たないと言われたのである。この頃はプロレス界でも格闘技ブームの煽りを受け、氷河期に突入していた。プロレスとプロ野球は、同類の扱いだったのだ。

 そもそもJリーグは、プロ野球を反面教師に作られた組織である。1980年代以前のプロ野球は、読売ジャイアンツ(巨人)一極集中の状態だった。テレビの全国ネットがあるのは巨人戦だけ、巨人以外のセントラル・リーグの球団は巨人戦の放映権料頼みの経営状態。巨人戦のない、不人気のパシフィック・リーグ球団は親会社から赤字補填してもらい、何とか食い繋いでいたのだ。
 それに対しJリーグは、親会社に頼らない経営理念を掲げ、チーム名に企業名を冠することを禁止した。地域密着を重視し、自治体名をチーム名に入れるという欧米型のスポーツ・リーグを目指したのである。

 そして、2004年にプロ野球で勃発した球界再編騒動。スポーツ・ライターたちはこぞって親会社依存のプロ野球型スポーツ・リーグの欠陥を指摘し、地域密着のJリーグこそ理想的なプロ・スポーツの在り方だと絶賛したのだ。
 だが筆者は、この論調に違和感があった。それはこの時期に、あるJリーグ・チームの関係者から、苦しい胸の内を聞かされていたからである。

 そのJリーグ関係者は、チーム経営の難しさを吐露していた。Jリーグはプロ野球と違い降格制度があるので、J1からJ2に落ちると収入が激減してしまう。そうならないために、Jリーグのチームでは若手選手を育てる余裕がなく、外国人選手や他チームからの移籍選手に頼らざるを得ない。その結果、選手の顔ぶれが毎年変わり、ファンはチームに感情移入できないという。
 しかし、プロ野球では降格制度がないため、今年は優勝できる戦力はなくても、数年後は優勝争いに加わるチーム力を着けるため、育成重視の方針を立てることができるのだ。しかも、充実したファーム組織があるので、選手を育てる環境が整っているのである。そういう点では、本当の意味でプロ・スポーツと呼べるのはやはりプロ野球だと、そのJリーグ関係者は語っていた。

 さらに筆者は、Jリーグの経営状況に愕然としたのだ。Jリーグは地域密着を掲げながら、実際には親会社からの赤字補填と、スポンサーからの広告収入に頼り切ったビジネス・モデルだったのである。チケット収入は極僅かで、それに関してはプロ野球の方が遥かに多かった。
 結局、親会社頼みだったのはプロ野球ではなく、Jリーグだったのである。そして、2004年の球界再編騒動以降、プロ野球の各球団は親会社の損失補填に頼らず、自力で黒字化できるよう経営努力した。その結果、プロ野球は1球団の年間143試合で、平均約3万人もの大観衆を集める、お化けコンテンツに成長したのである。

魅力ある空間を作り出すため、球場経営に本腰を入れたプロ野球

 プロ野球の本拠地球場は、どのように建てられるのだろうか。大まかに分けて、①自前で建設する、②私企業が建てた球場を借りる、③公営の球場を借りる、という3つのタイプがある。

 ①の自前での球場は、阪神タイガースの本拠地である阪神甲子園球場がそうだ。このタイプは建設時に多額な費用が掛かるものの、それ以降は球場内で発生する利益が球団に還元されるため、資金力さえあればメリットが大きい。また、球場を球団事情に合わせて造り替えるのも自由だ。
 ②の私企業が所有する球場は、巨人の本拠地である東京ドームが該当する。このタイプでは建設費がかからないものの、高額な使用料を払う必要があるため、ランニングコストがかかってしまうのが難点だ。ただ、球場を保有する企業も利益を得る必要があるので、球場経営のノウハウを熟知しており、球団側からの不満はさほど生じない。
 ③の公営球場を借りるタイプは、②と同じく使用料が発生するものの、私企業に比べて格安なのが魅力だ。広島東洋カープの本拠地であるマツダスタジアムがこれに当たり、カープは親会社を持たない独立採算制の球団なので、球場を安く借りる代わりに指定管理者となって、利益を広島市に還元している。球団の意向が、球場経営に反映されるのだ。

 厄介なのは、②と③の中間型である、第三セクターが建設した球場を借りる場合だ。球場建設には多額の費用が掛かるため、自治体と企業が出資した三セク会社が球場を建て、それを球団が使用するケースである。
 このタイプは、球場を比較的簡単に建設できるものの、私企業並みの高額な使用料が発生するため、球団経営を圧迫してしまう。それでいて、三セクはお役所仕事なので、球場経営に関してはド素人だ。球団は、高い使用料を払っても球場で自由に商売は出来ず、ファンに魅力ある空間を提供できない。

 そこで、最近では三セク球場を買い取る球団が増えている。オリックス・バファローズの京セラドーム大阪、横浜DeNAベイスターズの横浜スタジアムなどがそうだ。高額な使用料を払って自由な商売ができないなら、球場を買収した方が遥かに良いと判断されたのである。
 その顕著な例が北海道日本ハム ファイターズで、あまりにも高い使用料である札幌ドームに見切りをつけ、隣りの北広島市にエスコンフィールドHOKKAIDOを自前で建設し、大成功となった。

 では何故、日本ハムは札幌ドームを買い取らなかったのか? それは、Jリーグのコンサドーレ札幌の本拠地でもあるからだ。そのため、札幌ドームを買収しても、日本ハムの自由には出来ない。それならばと、莫大な費用が掛かっても自前でエスコンフィールドを建設したのだ。
 一方、札幌ドームは経営難に喘いでいる。稼働率が高い日本ハムに逃げられて、試合数の少ないコンサドーレだけではとてもやっていけない。2025年3月の決算で札幌ドームは黒字と発表されたが、これは多額の税金が投入されたのは明らかだ。

 Jリーグの本拠地は、ほとんどが②の公営によるスタジアムである。そして、多額の税金によって建てられているのは言うまでもない。しかもJリーグ規定により、数万人が収容できるスタンドや、観客席を覆う屋根の設置、天然芝を張る必要があるので、そのコストは膨大だ。
 膨大なのは建設費だけではない。維持費がベラボーに掛かってしまうのだ。特に天然芝の養生には、多額の管理費が必要である。月にたった2試合(Jリーグの公式戦は週1試合だが、ホーム&アウェイのためホーム・ゲームは2週間に1試合のみ)では稼働率が悪すぎて稼ぐこともままならず、試合以外の日は天然芝養生のため、一般市民が利用することもできない。図書館なら誰でも利用できるため公共性が保たれているが、Jリーグの本拠地スタジアムは一般市民が利用することはほとんどなく、ただただ税金を投入するだけで、公共性は皆無に等しいのだ。

FC大阪による花園ラグビー場問題で東大阪市議会が紛糾

 こうした結果、Jリーグは『税リーグ』と揶揄されるようになった。Jリーグは税金ばかり当てにし、市民の血税を吸い上げているからである。
 以前の自治体は、Jリーグのチームや建設業者と癒着があったのか、多額の税金を投入してサッカー専用スタジアムの建設に躍起になっていた。しかし、不況が続く世の中、さすがに批判されるようになり、Jリーグのチーム本拠地の建設がままならなくなったのである。

 その顕著な例が、花園ラグビー場問題だろう。東大阪市花園ラグビー場と言えば、全国高校大会が行われるラグビーの聖地だが、その指定管理者はJリーグのFC大阪だ。
 東大阪市が花園の指定管理者を公募したところ、ラグビー界と、当時はJリーグ昇格前だったFC大阪が手を挙げ、FC大阪が選ばれた。指定管理者となる条件は、花園の第2グラウンドを改修し、その第2グラウンドを本拠地とする、というもの。

 花園には第1グラウンドと第2グラウンドがあり(他には敷地外に、全国高校大会で使用される陸上競技場の第3グラウンドがある)、メインはもちろん第1グラウンド。
 第1グラウンドは収容人数が約2万7千人で、2019年のワールドカップ会場にもなった、まさしく聖地だ。第2グラウンドは収容人数が約1300人という小振りのスタンドで、全国高校大会の1,2回戦などで使用される。FC大阪は、第2グラウンドを5000人収容のスタジアムに改装する、と約束した。

 ところがFC大阪は公約を反故にし、第2グラウンドは改装どころか修繕もせず全くの放置、そして第1グラウンドを事実上の本拠地としている。ウソをついてちゃっかり指定管理者になり、カネを使わず聖地を乗っ取ろうとしたのだから、ラグビー界にとっては軒を貸して母屋を取られたようなものだ。
 しかも、FC大阪を指定管理者に選んだ東大阪市長は、FC大阪の相談役。どう考えても出来レースだ。蛇足ながらこの市長、統一教会のイベントで講演を行っている。

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