3月1日、漫画家の鳥山明さんが急逝した。68歳という若さである。
鳥山先生は『Dr.スランプ』の大ヒットで一躍人気漫画家となり、続く『ドラゴンボール』は世界中で読まれるなど日本を代表する漫画となった。
特に『ドラゴンボール』は、連載当初こそ冒険物語だったものの、その後はバトル漫画にシフトしたように、鳥山先生は格闘技が好きだったようだ。
また『Dr.スランプ』もギャグ漫画とはいえ、主人公のアラレちゃんはロボットだったこともあってウルトラパワーを発揮し、強い相手に遭遇すると大喜びする性格だった。つまり、ギャグ漫画でありながらバトル漫画の要素もあったわけだ。
スタン・ハンセンが『Dr.スランプ』のトビラ、女子高生が大興奮
鳥山明先生がプロレス・ファンだったことを示す証拠に、『Dr.スランプ』のトビラにスタン・ハンセンが描かれたことがある。トビラというのは漫画雑誌の場合、作品の最初に描かれるページのことだ。つまり、その漫画にとっての表紙、即ち顔ということになる。
トビラでは、ハンセンとアラレちゃんが共にロングホーンのポーズを取っていた。その絵の上手さは、プロレスラーを描かせたら右に出る者がいない(と思われる)原田久仁信先生も顔負けである。
ハンセンの思わぬ登場に反応したのが、当時のとある女子高生。この頃『Dr.スランプ』を発行していたジャンプ・コミックスの巻末には読者投稿コーナーがあって、投稿したその女子高生はハンセンが『Dr.スランプ』のトビラになったことに興奮した様子だった。
なんでもその女子高生はプロレスの大ファンで、ハンセンの他にボブ・バックランド、ダスティ・ローデス、アントニオ猪木らが好きだったそうだ。
1980年代初頭でのことで、プロレス黄金時代の真っ只中。それまで、プロレスといえばオッサンの見るスポーツだったが、この頃から女性ファンも増えていった。
列挙されたプロレスラーの顔ぶれから推測すると、彼女は新日本プロレスのファンだったようだ。ハンセンがまだ、全日本プロレスに移籍する前のことである。
この女子高生も、今では還暦近くだろう。その後もプロレスを見続けていたのだろうか?
ちなみに、この時の物語はハンセンが登場するわけでもなく、プロレスとも全然関係がない。なぜハンセンをトビラに起用したのか、全くのナゾである。
この時のお話は、アラレちゃんを製作した則巻千兵衛博士が、片思い相手である山吹みどり先生の裸を見るべく、アラレちゃんの体内に映像送信機を取り付け、アラレちゃんを山吹先生と一緒に入浴させるという作戦を敢行した。
作戦は成功寸前だったものの、風呂に入った時にアラレちゃんのメガネが湯気で曇ってしまい、メガネを外したため山吹先生の裸がボヤけてほとんど見ることができなかった。
千兵衛さんは悔しがるが、なぜアラレちゃんに映像送信機を取り付けたとき、アラレちゃんの視力を治そうとしなかったのだろう? そもそも、アラレちゃんを造った時に視力が悪いことが発覚したのだが、千兵衛さんは目を修繕しようともせずアラレちゃんにメガネをかけさせるという、人間と同じアナログな方法を採らせたのが最大のナゾだ。
『ドラゴンボール』とプロレスの共通点
一方の『ドラゴンボール』は連載当初、あまり人気がなかった。しかし、冒険物語からバトル漫画に移行すると、人気が爆発する。
特に、悪の宇宙人であるフリーザが登場して、主人公の孫悟空らを圧倒するようになってからは、バトル漫画としての地位を確立した。
悟空は地球人ではなく戦闘民族サイヤ人で、千年に1人しか現れないという超(スーパー)サイヤ人として覚醒、フリーザを倒す。
しかしその後、悟空のライバルであるベジータ、ベジータの長男のトランクス、悟空の長男の孫悟飯、次男の孫悟天が、次々と超サイヤ人になった。ベジータの言葉を借りれば『超サイヤ人のバーゲンセール』である。
また、敵キャラもフリーザが死亡してからは人造人間のセルが登場。セルの強さはフリーザ以上で、悟空やベジータらが超サイヤ人になっても歯が立たず、地球は窮地に追い込まれる。
だが、まだ子供だった悟飯が超サイヤ人2となり、セルを倒した。
セルの脅威から解放されると、今度は魔人ブウが現れる。ブウの強さはフリーザやセルとは比較にならず、当然のことながら超サイヤ人2ではとても勝てない。
今度は悟空が超サイヤ人3となって、最後には超元気玉(地球人類みんなの力を借りた悟空の必殺技)でブウを撃退した。
このように『ドラゴンボール』では敵キャラも悟空らも強さのインフレ化がどんどん進み、フリーザの強さはいったい何だったの? というレベル。ジンバブエ並みのハイパーインフレだ。
もし、フリーザの頃に魔人ブウが現れていたら、悟空らはひとたまりもなかっただろう。もっとも、死に直面したらトンでもなく戦闘力が向上するというサイヤ人の特性により、悟空はいきなり超サイヤ人3になったかも知れないが。
プロレスでも、強さのインフレというか、技のインフレは存在する。かつては、神技と言われたジャーマン・スープレックスが飛び出すと、必ずピンフォールを奪えていた。
しかし、ジャーマンもいつしか2カウントで返されるようになっていく。藤波辰巳(現:辰爾)vs.長州力の『名勝負数え歌』あたりから、藤波のジャーマンを長州が返すことが当たり前になった。
ちょうどその頃、第一次UWFに移籍した前田日明が「ジャーマンをワン、ツーで返すのはプロレスではない」と言い放つ。必殺技はあくまでも必殺技だ、と。
だが、プロレスでも『ドラゴンボール』よろしく技のインフレ化が進んでいく。かつての必殺技が必殺技ではなくなり、どんどん危険度が増していったのだ。
その顕著な例が、1990年代の全日本プロレスでの『四天王プロレス』だろう。三沢光晴の必殺技だったタイガー・ドライバーでフォールを奪えなくなり、相手の後頭部を直接マットに打ち付けるタイガー・ドライバー’91を使用。さらにはエメラルド・フロウジョンを開発した。
三沢自身も、自分の後頭部にダメージを残す相手必殺技を多く受け、確実に肉体を蝕んでいく。そして三沢は、リングの上で帰らぬ人となった。
その点『Dr.スランプ』のトビラに登場したスタン・ハンセンはさすがだったと言える。必殺技のウエスタン・ラリアットは他のレスラーにマネされる流行技となったが、ハンセン自身はラリアットを乱用せず、あくまでも一撃必殺に拘った。
ラリアットを放ったからには、必ずフォールを奪う。安易にラリアットに替わる必殺技は開発せず、あくまでも『最強のラリアット』というイメージを貫いた。プロレスの必殺技とは本来、そうあるべきなのだろう。
それはともかく、鳥山明先生の漫画は、プロレスや格闘技の人気に大きく貢献したのは間違いない。
謹んでご冥福をお祈りいたします。
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