今秋はスポーツの『世界一決定戦』が集中、プロレス&格闘技は?

 日本中、いや世界中を沸かせたラグビー・ワールドカップ日本大会が終了し、多くの人が『ラグビー・ロス』に陥っているだろう。同大会が記録的な高視聴率を記録したのは、本誌でお伝えしたとおりだ。
 しかも、その興奮冷めやらぬ中、世界野球『プレミア12』が開幕した。ラグビーの裏となった日本シリーズでは、福岡ソフトバンク・ホークスが4勝0敗と読売ジャイアンツをアッサリ屠ったことも相まって、関東地区で4戦中3戦が視聴率1桁台と低迷したが、プレミア12では2桁台をマークし、まずまずの滑り出し。今後、侍ジャパンの活躍次第ではもっと伸びる可能性もある。

 それ以上に、日本中を沸かせたのがボクシングだろう。フジテレビで生中継されたWBSS(ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ)バンタム級の決勝戦、井上尚弥vs.ノニト・ドネアは平均視聴率15.2%、瞬間最高視聴率20.5%を叩き出した(関東地区、以下同)。裏が世界野球(TBS系)と卓球ワールドカップ(テレビ東京系)だったのだから、かなりの高視聴率と言える。

 これらのスポーツ中継に共通しているのは、いずれも世界一を決める大会だということだ。プレミア12は必ずしも各国がベストメンバーというわけではないが、やはり『世界一』という称号に、人々の関心が集まるようである。

▼出でよ! 井上尚弥を凌ぐプロレス・格闘技界のスーパースター

出でよ! 井上尚弥を凌ぐプロレス・格闘技界のスーパースター


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▼[ファイトクラブ]井上譲二の『週刊ファイト』メモリアル第56回 不透明な点を残したまま、IWGP決勝リーグを敢行した新日プロ

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プロレス界と同じジレンマを抱えていたボクシング界

 古くからのボクシング・ファンは、現在のボクシング界にご不満のようである。昔に比べて、世界チャンピオンの価値が暴落しているというのだ。
 元々、プロボクシングの世界王者を認定するのはWBA(世界ボクシング協会)のみだった。体重別の階級も8つだけ、即ち世界チャンピオンは8人しかいなかったのである。
 ところが1960年代にWBC(世界ボクシング評議会)がWBAから分立、2団体となった。つまり、世界王者は倍の16人になったわけだが、これぐらいならまだ許せる。

 現在ではWBAとWBCの他に、IBF(国際ボクシング連盟)とWBO(世界ボクシング機構)を合わせた4団体がメジャー団体と呼ばれ、しかも階級が細分化されて17階級(男子)になってしまった。つまり、統一王者がいるとはいえ、単純計算では延べ68人もの世界チャンピオンが存在するわけである。さらに、最近ではスーパー王者というややこしい王座まであるのだ。
 8人しか世界王者がいなかった時代に比べれば、実に8倍以上。オールド・ファンが嘆くのも無理はない。

 この状況、何かに似てはいないか。そう、プロレス界だ。プロレスでは、アメリカや日本などは基本的に階級はヘビー級とジュニア・ヘビー級ぐらいしかなかったとはいえ(その体重制度もいい加減だが)、NWAやAWA、WWA、WWF(現:WWE)と団体が乱立し、他にも日本でしか通用しないようなPWF、NWF、IWA、UN、インターナショナルなどチャンピオン・ベルトだらけ。
 1980年代には、真の世界チャンピオンを決めようと新日本プロレスがIWGPを開催したが、当然IWGPベルトを『世界一』と認定したのは新日本プロレスだけだ。ライバルの全日本プロレスはもちろん、アメリカの各団体もIWGP王者は『ニュー・ジャパン・プロレスリングのローカル・チャンピオン』としか認識してなかったのである。
 一応、NWAが『最も権威のある王座』と言われていたが、それも80年代のWWF全米侵攻により、NWAやAWAは壊滅状態になってしまった。ボクシングで言えば、IBFに食われてWBAとWBCが消滅あるいはマイナー団体に転落したようなものだ。

▼NWAを象徴する世界ヘビー級チャンピオンだったハーリー・レイスとリック・フレアー
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 だがボクシング界では、チャンピオンが多過ぎる不満を解消するために生まれたのが前述のWBSSだ。WBA、WBC、IBF、WBOの各王者および世界ランキング15位以内のボクサーによるノックアウト式トーナメントで優勝を決める大会である。今回、ドネアを破った井上尚弥は、WBSSバンタム級の優勝のみならず、WBAスーパーおよびIBF世界バンタム級統一王者となったのだ。
 ボクサーが年に数回しか試合を行えないプロボクシングでは、トーナメントは不可能だと思われたが、WBSSでは見事にやり遂げた。

 もちろん、リアル・ファイトであるボクシングと、ショー・ビジネスのプロレスを同列に語るのは無理がある。仮にWBA王者がWBC王者に負けたとしても「WBAはWBCより劣っている」などと考えるボクシング・ファンはほとんどいない。彼らが興味を持つのは、団体間の優劣ではなく、ボクサー間の強弱だ。したがって、ボクシング団体には統一王座戦にさほど抵抗感はない。
 プロレスの場合は、Aという団体の王者がBという団体の王者に敗れると、A団体は計り知れないダメージを負い、場合によっては崩壊することもある。そのため、統一王座戦には消極的だったのだろう。ボクシング団体は協会的要素が強いが、プロレス団体はズバリ営利組織だからだ。

 ただ、WBAの前身であるNBA(全米ボクシング協会)にも、実はプロレス部門があった。そのプロレス部門が独立したのが旧NWA(National Wrestling Association=全米レスリング協会)だ。やがてプロモーターの連合体であるNWA(National Wrestling Alliance=全米レスリング同盟)がプロレス界の主流となる。その栄光も、今や見る影もないが……。
 プロレスのチャンピオンシップ制度がボクシングと似ているのも、元々は同じ組織だったからかも知れない。しかし、プロレス界で『世界一を決める大会』の開催は無理のようである。

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低視聴率に泣いたRIZIN.19、東京五輪が開催される来年が正念場

 視聴率で言えば、惨敗を喫してしまったのが10月12日(土)にエディオンアリーナ大阪で行われたRIZIN.19だ。フジテレビ系列で生中継され、当初は視聴率3%台と言われたが、後に約2倍の5.9%と発表されていささかホッとしたものの、それでもゴールデンタイムの19時からの2時間番組としてはかなり低い数字である。
 不運な面もあった。この日は那須川天心が出場せず、何よりも台風19号関連のニュースをNHKが放送し、視聴率は30%を超えた。台風で格闘技どころではない、ということもあったのだろう。

 とはいえ、そういう点を差し引いても低視聴率と言わざるを得ない。例えば関西。関東地区では近年、テレビ東京が健闘しているが、関西地区ではテレ東系列のテレビ大阪の視聴率は、常に最下位だ(NHK Eテレや独立局を除く)。
 これには理由があって、関東広域圏を放送対象地域とするテレ東と違い、テレビ大阪は元々UHF局だったので、デジタル放送となった現在でも大阪府下でしか視聴できない。他の関西各局は近畿広域圏を放送対象地域とするため、テレビ大阪にはかなりのハンディがあるのだ。

 ところが、この日の関西テレビ(フジテレビ系列)で放送されたRIZIN.19は、同時間帯に放送されたテレビ大阪の視聴率も下回り、関西地区で最下位となったのである。「関西の格闘技ファンはみんなエディオンアリーナに行ったから、テレビでRIZINを観る奴がおらへんかった」などというギャグも飛び出すぐらいだが、実は関西での視聴率は6.9%と、関東よりも1%高い。
 まあこれは、台風19号の影響が関西では少なかったからということもあるが、それでもNHKニュースの視聴率は関西でも20%を超えた。いずれにしても、台風が来る来ないにかかわらず、RIZIN.19の視聴率はテレビ大阪に敗れて関西地区最下位だっただろう。

 そもそもRIZINは2015年12月29日からフジテレビ系列でずっと放送されているが、今まで2桁の視聴率を記録したことがない。むしろ4年間もずっと1桁台の視聴率で、フジテレビがよくゴールデンタイムで放送し続けてくれたものだ。地上波でのゴールデンタイム復活の兆しすら見えないプロレス界からすれば、羨ましい限りだろう。
 那須川天心のような一般的にも知られたスター選手がいる限り、フジテレビはずっと放送してくれるかも知れないが、それもスポンサー次第だ。フジテレビがRIZINを応援しようとしても、低視聴率が続くようならスポンサーも離れかねない。
 また、天心がいくら強くても、ライバルがいなければ盛り上がらないだろう。今回のWBSSが高視聴率を獲得したのは、対戦相手が世界5階級制覇のドネアという強敵だったからでもある。近年の井上尚弥は早いラウンドでのKO勝ちばかりだったが、ドネア相手ではさすがに大苦戦。判定勝ちで優勝を果たし、KO劇は見られなかったものの好勝負となって、視聴者を釘付けにした。
 さらに、この日は敗れたとはいえ、井上尚弥の弟である井上拓真が世界タイトル・マッチを行ったのも、高視聴率に一役買ったと思える。

 2000年代の格闘技ブームよ今いずこという感じだが、もちろん当時と現在とでは状況が違う。格闘技ブームの頃に比べると、今ではインターネットが遥かに発達しており、ネット中継で格闘技を視聴するファンも多い。
 とはいえ、地上波中継が果たす役割は今でもかなり大きいだろう。ネット中継や有料テレビはコアなファンが熱心に見るが、一般の人が目に触れることはほとんどない。つまり、今回のラグビーのような『にわかファン』が発生しにくいのだ。
 やはり、地上波でのゴールデン中継は、現在でも桁違いに影響が大きいのである。

 実はラグビー中継だって、ワールドカップが開幕する前は、高視聴率なんてとても無理とテレビ関係者の間では囁かれていた。ラグビーはルールが複雑で一般的には認知されておらず、さらにスター選手の不在により低視聴率に喘ぐだろうと言われていたのである。
 実際に、今回のラグビーW杯中継を担当した日本テレビは(今大会は、地上波ではNHKも放送)、12年前の2007年のラグビーW杯から放映しており、時差の関係で深夜枠ということもあって、低視聴率でずっと赤字を垂れ流し続けてきた。今大会でも大失敗すると予想されていたのである。
 ところがフタを開けてみると、日本代表が快進撃を続け、視聴率もウナギ登り。今年のあらゆる番組の中で、日テレは瞬間最高視聴率トップを奪取したのである(平均視聴率トップはNHKのラグビーW杯中継)。それどころか、日本戦以外でも高視聴率をマークした。12年越しの、日テレの悲願が達成されたわけだ。

 その例でもわかるように、専門家の予想なんてアテにならないもの。RIZINも、ラグビーのように大ブレイクしないとも限らない。
 そのためにも、来年のRIZINは非常に重要となる。2020年は東京オリンピックが開催されるため、五輪ブームが予想されるのでRIZINは苦戦するかも知れないが、それを逆手に取るしかないだろう。日本中がスポーツに酔いしれているに違いないから、それに便乗すればいいのだ。
 そのためには、RIZINも世界的に認知される必要がある。まだまだRIZINは、日本でのイベントというイメージが強い。実際に、今までRIZINが開催されてきたのは日本ばかりだ。
 最近の日本人は、スポーツでは世界的なイベントでないとなかなか興味を示そうとしない。ラグビーやサッカーのワールドカップがそうだし、オリンピックも世界中が注目するからこそ日本人は夢中になるのだ。RIZINが世界的にも認められ、天心を脅かす強敵が海外からもっと参加すれば、日本でも人気が爆発する可能性がある。
 そうなれば、フジテレビもRIZINを放送し続けて良かったと思うだろう。あるいは、他局も放映権の獲得に乗り出すかも知れない。

▼那須川天心にとって、世界的なライバルが現れるか!?


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’19年10月24日号RIZIN台風ONE 新日両国 水曜戦争3AEW里歩 スターダム 映画Iシーク

’19年11月14日号新日 サウジSD-RAW-AEW-NXT ノア KnockOutRiseラウェイ 坂口杏里