プロレス黄金時代に放送された、数々のプロレス・ドラマ!

 前回は、プロレスがゴールデン・タイムに復帰する方策をいくつか挙げてみたが、その中に『プロレス・ドラマを作る』というものがあった。プロレスを題材にしたドラマを放送すれば、プロレスの認知度が上がると考えたからだ。
 しかし、人気があるスポーツなら、勝手にドラマ化されるものだ。新日本プロレスの木谷高明オーナーは『プロレスが流行っている感を出す』という戦略だったが、この方法に間違いはない。実態はどうであれ、流行っていると言われるものには、大衆は付いていく。特に日本人の国民性はそう言えるだろう。選挙を見てもわかるように、政策など関係なく、イメージや知名度だけで投票する人は多い。
 だが、それだけではいずれ馬脚を露す。イメージ戦略だけではなく、本物の人気を獲得することが必要だ。そのためにも、プロレス・ドラマは有効となる。

 かつて、プロレス・ドラマはいくつかあった。もちろんケーフェイに触れることなく、正義のレスラーが最後には勝つというシナリオだが、その点では映画『パパはわるものチャンピオン』は悪役にスポットを当てたという点で画期的だっただろう。
 漫画『タイガーマスク』を見てもわかるように、昔はちゃんと正義が勝ってくれた。『ルール無用の悪党に、正義のパンチをぶちかませ♪』と言って、タイガーマスクは虎の穴出身の悪役レスラーを撃退する。ひとつツッコませてもらうならば、『正義のパンチ』だって、プロレスでは反則なのだが……。

 それでは、プロレス人気が沸騰していた頃の、実写のプロレス・ドラマを見てみよう。なかなか面白いものがあります。

▼プロレスをゴールデン・タイムに進出させる、様々な方法

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アントニオ猪木は『死神酋長』になるはずだった!?

 プロレス・ドラマと言って真っ先に思い浮かぶのが『チャンピオン太』だろう。元々は梶原一騎原作の漫画だが実写ドラマ化、1962年にフジテレビ系で放送開始され、力道山が本人役で出演していた。主人公の大東太(演:遠藤恵一)という少年が力道山に弟子入りし、チャンピオンを目指すというストーリーだ。
 このドラマには力道山以外でも、吉村道明や遠藤幸吉、大木金太郎らが出演するという、日本プロレス協会が全面バックアップしていたドラマである。

 そして伝説となっているのが、力道山の敵役レスラーだった『死神酋長』だ。『死神酋長』を演じていたのは、当時は前座レスラーだった猪木寛至、即ちアントニオ猪木である。
 力道山は実際のリングでも、猪木のリング・ネームを『死神酋長』にしようとしたが、猪木は頑なに拒んだ。当時は弟子が力道山に逆らうなど絶対に有り得ないほど、力道山は強権を振るっていたが、それでも猪木が拒否していたということは、力道山に殴られるよりも『死神酋長』になる方がよっぽどイヤだったのだろう。

▼『チャンピオン太』のオープニング。クレジットも『死神酋長』となっている

▼力道山は猪木に『死神酋長』のリング・ネームを強要したが、さすがに猪木は拒否

新日本プロレス全面協力の『プロレスの星 アステカイザー』

 そんなアントニオ猪木も前座レスラーから脱し、新日本プロレスを設立して自らがエース兼社長となってからは、かつての力道山のようなカッコいい役を演じられるようになった。
 そして、新日本プロレスの協力のもとに作られたドラマが『プロレスの星 アステカイザー』である。原作は永井豪&石川賢という『ゲッターロボ』コンビで、1976年から『ワールドプロレスリング』のNETテレビ(現:テレビ朝日)で放送開始した。

 ドラマにはアントニオ猪木が本人役で出演、他にもジョージ高野や佐山聡らも出演していた。後に新日ジュニアを引っ張る佐山聡(初代タイガーマスク)とジョージ高野(ザ・コブラ)が出演していたというのも因縁めいている。
 ミスター高橋はなぜか、新日本プロレスのライバル団体と思われる『東都プロレス』のレフェリーだ。リングアナは倍賞鉄夫である。

 主人公のアステカイザーが「カイザー・イン!」と叫ぶと、実写からアニメーションに切り替わるなんて、時代を感じさせるドラマだ。今だったらCG合成するところだろうが、当時はまだそれほどの技術がなかったというところか。

 それにしても、アントニオ猪木のセリフ棒読みは酷い。演技も何も、あったもんじゃない。できれば、当時の女房だった倍賞美津子に演技指導をしてもらいたかったが……。
 もっとも、前述の『チャンピオン太』での力道山の演技も酷かったし、当時のスポーツ選手に演技力を求めるのは酷か。王貞治の演技なんて、もっと酷かった。

▼クライマックスが実写からアニメーションに切り替わる『プロレスの星 アステカイザー』

▼アントニオ猪木のセリフ棒読み、演技力は酷かった

『世にも奇妙な物語』で、獣神サンダー・ライガーが不思議体験

 平成の世になると、スポーツ選手の演技力も洗練されてきた。そして1991年、獣神サンダー・ライガーがフジテレビ系『世にも奇妙な物語』に出演したのである。タイトルは『覆面』だった。

 新日本プロレスの若手レスラーの弟が心臓手術を控えていた。そんな弟の病室に、獣神サンダー・ライガーが見舞いに来る。小学生のその弟は、ライガーの大ファンだった。手術を怖がる弟はライガーに「ライガーは試合のとき、怖くないの?」と尋ねると、ライガーは「敵はみんな強いので怖いよ。怖くてたまらなくなる時もある。だけど、絶対に逃げない」と答えた。
 弟の手術の日と、ライガーのタイトル・マッチは同じ日。ところが、ライガーは交通事故に遭い、瀕死の重傷を負った。しかし、タイトル・マッチは待ってくれない。
 そこで新日本プロレスでは、背格好がよく似た、この若手レスラーをライガーに仕立てることにした。

 試合が始まったが、実力差は如何ともし難く、ライガーに扮した若手レスラーは一方的にやられていた。ちょうど同時刻、若手レスラーの弟とライガーは、生死を賭けた手術に挑んでいる。
 遂に敵レスラーの必殺ラリアットが炸裂! もはや偽ライガーの負けは必至だった。
 ところが、ここから突如として偽ライガーが甦り、相手を圧倒して勝利を得た。その頃、弟とライガーの手術は成功した。
 しかし、勝利の歓喜に包まれる偽ライガーは倒れ、病院に運ばれるも死亡が確認された。医師の診断によると、死因は首の骨折。つまり、偽ライガーはラリアットを食らったときに、既に死亡していたのだ。
 ということは、若手レスラーが死んだあと、本物のライガーの魂が偽ライガーに乗り移り、闘っていたのである。

▼獣神サンダー・ライガーが出演した『世にも奇妙な物語』の『覆面』

 このドラマでは、『リバプールの風になった』はずの山田恵一が一瞬だけ映っていたり、田中ケロがリングアナだけでなく実況アナにもなっていたり、さらには解説がターザン山本だ。

▼獣神サンダー・ライガー! ……に見えますが、実はこの人も偽物です

 他にも、1985年にはTBS系『毎度おさわがせします』というドラマで、当時は人気絶頂だったクラッシュ・ギャルズをはじめとする全日本女子プロレスのメンバーが出演したり、やはりネーム・バリューがあるとテレビ業界が放っておかないのである。
 今後、プロレスを題材にしたドラマが地上波ゴールデンで放送されるだろうか?

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