プロレスをゴールデン・タイムに進出させる、様々な方法

 前回、筆者はプロレス界や格闘技界でも、プロボクサーの井上尚弥に負けないスーパースターが出現して欲しい、という記事を書いた。7月12日(金)には、村田諒太が鮮やかなTKO勝ちでWBA世界ミドル級チャンピオンとなり、井上尚弥や井岡一翔と共に、ボクシング界にはスターが豊富に揃っている。ところがこんな状況でも、ボクシング界では『ボクシング人気は低下している』と危惧する声が上がっているぐらいだ。理由は『世界戦の地上波中継が減ったから』。ボクシング関係者には現状に満足せず、ボクシング黄金時代を復活させたい、という意気が感じ取れる。
 それに対し、プロレス界や格闘技界はどうか。相変わらず『人気は上がっている』という楽観論が支配していると感じるのは筆者だけだろうか。この楽観論が続けば、また暗黒時代に逆戻りしてしまうような気がする。

 では現在、プロレス界と格闘技界では、どちらの方がスーパースターの生まれやすい土壌となっているのだろう。
 今ではやはり、格闘技界の方が優勢ではないか。RIZINは地上波のゴールデン・タイムで生中継されるし、那須川天心というスターも誕生した。7月9日(火)には朝日放送(ABC)系『トリニクって何の肉!?』3時間スペシャルで天心がゲスト出演し、バイきんぐ・小峠や霜降り明星・せいやの尻を蹴りまくるなど、番組を沸かせていた。

 一方のプロレス界はどうか。本誌でもお伝えしているように最近ではプロレスラーのテレビ番組への露出が増え、人気拡張に一役買っているが、プロレスの地上波ゴールデン・タイム復帰には程遠い。
 本誌を読んだのかどうかは判らないが、先日のスポーツ報知の電子版で、テレビ朝日『ワールドプロレスリング』のゴールデン・タイム復帰を熱望する記事が掲載されていた。

▼出でよ! 井上尚弥を凌ぐプロレス・格闘技界のスーパースター

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▼[ファイトクラブ]記者座談会:新日TV ゴールデンタイム復帰の可能性は・・・

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『プロレス中継が地上波ゴールデン進出に踏み切る』報道にビックリ

 昨年の3月にテレビ朝日の会長が「プロレス人気が上昇しているので新たな展開も考えられる」と記者会見で発言したことを根拠に、報知WEB版では『ワールドプロレスリングの放送時間繰り上げも検討』と報じた。
 しかし実際はご存知の通り、あれから1年半近く経った今でも、『ワールドプロレスリング』は土曜日(日付は日曜日)午前2時からの30分番組であることに変わりはないし、1時間に拡張もしていない。しかも、テレ朝がカバーする関東圏以外のほとんどの地域では遅れネットだ。

 そもそも、ほとんどの新日本プロレス・ファンは、生中継が見られる有料のテレ朝2かサムライTVに加入していると思われるので、テレ朝での現在の放送時間でも困らないはずだ。それでもファンや、この報知の執筆者、そして我々も地上波ゴールデン復帰を願うのは、プロレスがもう一度メジャーな存在になって欲しいからに他ならない。今回の報知WEBの見出しをチラ見したときには『ワールドプロレスリングがゴールデン進出に踏み切る』と見えたため「マジかよ!?」と一瞬は喜んだのだが、よく見ると『日は?』と続いていたので、単なる願望記事と判った。
 記事には『スポーツ報知は、紙面ではプロレスを報じない代わりにWEB版ではビッグ・マッチを取り上げている』と書かれていたので、筆者などは「だったら、まず報知さんが紙媒体にプロレス記事を載せてくださいよ」と思ったものだ。プロレス専門誌と違い、スポーツ報知はプロレス・ファン以外が目にする機会が多いのだから。

 昨年の報知WEB版『放送時間繰り上げ云々』の記事に対し、ファンから『つまらないバラエティー番組よりもプロレスの方が視聴率は取れる』という意見があったそうだが、これぞプロレス関係者が陥りやすい罠だ。
『バラエティー番組よりもプロレスの方が面白い』と考えるのは、コアなプロレス・ファンだけ。こういうのが、新日本プロレスの木谷高明オーナーが語る『マニアがジャンルを潰す』の典型である。『バラエティー番組よりもプロレスの方が面白い』なんて、一般論に当てはめても通用しないのだ。普通の視聴者は、プロレスよりもバラエティー番組を観る。

 さらに、報知WEB版では現地時間7月6日に米国ダラスで行われた、新日本プロレスのG1開幕戦が『エポックになりそうな大成功』と報じていたが、実際にはどうだったのか? それは、本誌をご覧いただきたい。


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▼[ファイトクラブ] RAW-G1-Impactダラス対決-新日WWE相関-全日社長交代-草柳和宏

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 報知WEB版の記事の最後には『せめて午前0時からの1時間番組にして欲しい』とトーンダウンしていたが、つまり1年半前と状況は何も変わっていない。テレ朝会長が言っていたのは、単なるリップサービスだったようだ。

 木谷オーナーの戦略は『プロレスが流行っている感』を出す、というものだった。この戦略が当たり『流行っているのなら、観に行こうか』というライト層が増え、新日本プロレスの人気はV字回復したと言われた。
 しかし、実態はどうか。一時の低迷期から脱却したものの、プロレスが一般的に認知されているとは言い難い。少なくとも、プロレスが地上波ゴールデンに復帰する兆しすら見えないのだ。

 とはいえ、報知執筆者の気持ちもよくわかる。ともあれプロレスを見てもらわなければ、プロレスの良さなど伝わらないので、『地上波では深夜でしか放送してくれないから、プロレス人気が盛り上がらない』と恨み節の一つも言いたくなるだろう。
 しかしテレビ局側からすれば、プロレスで視聴率を稼ぐことに疑問を持っているのだから、そう簡単にゴールデン放送に踏み切るわけにはいかない。リスクが大き過ぎるのだ。
 プロレス側の意見は、地上波ゴールデンで放送してくれないからプロレス人気が上がらない。テレビ局側の意見は、プロレスが視聴率の取れるほどの人気なら、地上波ゴールデンで放送する。
 こうなるともう『ニワトリが先かタマゴが先か』である。

プロレス中継は民放BSに活路を見出せ!

 しかし、ハードルの高い地上波だけに拘る必要はない。現在では各民放キー局も、無料視聴が可能なBSチャンネルを所有している。テレビ朝日で言えば、BS朝日がそうだ。
 以前はBS朝日で『ワールドプロレスリング・リターンズ』として深夜0時から1時間番組を放送していた。だが、約3ヵ月前の試合を放送するなど、臨場感には欠けていたのである。

 ところが、今年の4月からBS朝日でも本格的に『ワールドプロレスリング』を放送するようになった。毎週水曜日の23時30分から24時までの30分番組だが、時間は地上波よりも2時間半も早まっている。ただし、放送は地上波から1ヵ月遅れで、約2ヵ月前の試合を放送する形になった。

 しかし、逆に言えば『BSになっても』まだ深夜での30分番組である。しかも『リターンズ』の時は3ヵ月遅れとはいえ、1時間番組に練り直していたが、現在のBS朝日での『ワールドプロレスリング』は、地上波の番組をただ1ヵ月遅れで30分のまま放送しているだけだ。これではハッキリ言って、あまり意味がない。要するに『今の新日本プロレスは空前のブームとなっている』と喧伝しようが、これが現実なのだ。
 ただし、放送時間を繰り上げるためのワンステップなら評価ができる。今は種蒔きの時期で、今後のBS朝日が放送時間を改定するのか注目したい。

 やはり時間帯としては、最低でも午後10時台、最終的には午後8時を目指して欲しいものだ。曜日としては、やはりプロレス中継のイメージが強い金曜日か、野球中継の影響を受けにくい月曜日が望ましい。もちろん地上波の1ヵ月遅れなどではなく、録画中継でも1週間遅れ、場合によっては生中継も可能だ。
 他局の民放BSでは、『水戸黄門』や『笑点』など、高齢者層を狙った再放送番組をゴールデン・タイムで放送している。これらの番組に勝てないようでは、地上波ゴールデンなど夢また夢だ。

 本誌で何度も取り上げている、BSフジの『クイズ!脳ベルSHOW』では(元)プロレスラーが多数出演しているが、これは要するにレスラー達のギャラが安い割に知名度が高いからだ。同番組に出演するのは、失礼ながら「アンタ誰?」と思ってしまうタレントが多い。正直に言うと、地上波にしょっちゅう出演している一流タレントは稀だ。
 予算が少ないBSにとって、ギャラの安いレスラーは重宝するのだろう。しかも同番組は出演者がみんな40歳以上だから、昭和レスラーが主となる。人気の高い昭和レスラーは、BSフジにとって有難い存在に違いない。
 そう考えると、民放BSとプロレスは相性がいいような気がする。

▼船木誠勝、蝶野正洋、前田日明、渕正信が出場した『クイズ!脳ベルSHOW』
BSフジ『クイズ!脳ベルSHOW』公式サイトより

 現在の地上波で深夜2時からの放送では、何よりも子供が見られない時間帯だ。昭和プロレスの人気を支えていたのは間違いなくチビッ子ファンで、学校での遊びはプロレスごっこだった。プロレスを知らなければ仲間外れにされていたものである。
 しかし現在では、有料チャンネルではないとプロレスを見ることができない。無料視聴できるのが深夜のみなら、どうやって学校でプロレスの話題を楽しめよう。最近では『プロレス』という言葉すら知らない子供が増えているそうだが、それも当然の話だ。
 それならば、いきなりハードルの高い地上波ゴールデンを目指すよりも、無料視聴できる民放BSでのゴールデンを実現させる方が現実的である。

 今は新日本プロレスの話をしているが、もう地上波中継はしていない全日本プロレスやプロレスリング・ノアでも、せめて民放BSでの放送を目指してほしいものだ。

地上波ゴールデンで、プロレス・ドラマを制作しよう!

 昨年は棚橋弘至主演の映画『パパはわるものチャンピオン』が上映された。プロレスを題材にした映画を制作するというのも、プロレス人気を高める有効な手段となるだろう。ネットでの評判を見ると、かなり好評を得たようだ。
 ただ、この映画について論じているのは、ほとんどがプロレス・ファンである。つまり、プロレス・ファンがこの映画を観て、面白いと言っているだけ。一般の人がどれだけこの映画を見ているのか、そして面白いと感じたのかはわからない。

 筆者の知人には、月に10本以上は映画を観るという映画ファンが数人いるが、それでも『パパはわるものチャンピオン』を観たという人は1人もいなかった。つまり映画ファンにとって、わざわざお金を払って観に行きたくなる映画ではなかった、ということか。映画ファンの中には『洋画しか観ない』という人がいるが、筆者の知人は決して洋画主義者ではなく、邦画も観ている。
 そう考えれば、『パパはわるものチャンピオン』を観た人は、プロレス・ファンだけだったのか? それでは、せっかくプロレス映画を上映しても意味がない。

 それならば、無料でも視聴できるプロレスのテレビ・ドラマを制作するというのはどうだろう。それもBSなどではなく、もちろん深夜でもなく、地上波ゴールデン・タイムでのドラマだ。
 7月7日から日曜夜9時のTBS系『ノーサイド・ゲーム』という、ラグビーを題材にしたドラマが始まった。これは明らかに、今年の9月20日から日本で開催されるラグビー・ワールドカップを意識したドラマであることは間違いない。TBSはラグビーW杯の放映権がないにも関わらず(地上波の放映権があるのは、ライバルの日本テレビとNHK)、ラグビー・ドラマを放送するのだ。
 同ドラマの原作者は、大ヒットしたドラマ『半沢直樹』や『ルーズヴェルト・ゲーム』の原作も手掛けた池井戸潤。
 ならば、池井戸潤原作の、プロレスを題材にしたドラマを制作すればいい。しかし別に、池井戸潤原作に拘る必要はなく、要するにプロレスを題材にしながら、視聴者を惹き付けるような作品にすればいいわけだ。もちろん、地上波ゴールデンのドラマを。

 ただし、それには重大な副作用も伴う。プロレス・ファン以外の共感を得るためには、ケーフェイを曝け出さなければならない。今のプロレス界に、それだけの覚悟があるだろうか。
 ただ単に『プロレスは素晴らしい』という大本営発表的なドラマでは、視聴者がソッポを向くのは火を見るよりも明らかだ。それよりも、プロレスで観客を沸かせることがどれだけ難しいか、そして素晴らしいかを描く方が、より視聴者の共感を得られると思う。

 そのためには『プロレス村』の発想から、脱しなければならない。

▼『パパはわるものチャンピオン』から一歩踏み込んだプロレス・ドラマを制作できるか?


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