[ファイトクラブ]RIZIN試合中のCM挿入と、地上波スポーツ中継のジレンマ

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[週刊ファイト6月13日号]収録 [ファイトクラブ]公開中

▼RIZIN試合中のCM挿入と、地上波スポーツ中継のジレンマ
 by 安威川敏樹
・RIZINフジテレビ生中継で、天心が奪ったダウンがCMのために放送されなかった!
・地上波生中継では難しい、CMを挿入するタイミング
・放送時間との闘い! プロレス生中継の悲喜こもごも
・『石炭をくべる』って、どういう意味?
・プロレスでは放送時間内に試合が終わっても終わらなくても批判の対象に
・ボクシングとプロ野球、地上波生中継のメリットとデメリット
・ラグビーW杯中継でもあった、劇的なトライ・シーンをカットする大失態
・テレビ離れの現代でもまだまだ大きい、地上波テレビの影響


 6月2日(日)、兵庫・神戸ワールド記念ホールで『RIZIN.16』が行われた。試合および大会の詳報については、本誌精鋭陣が昼過ぎから夜遅くまで9時間にもわたる現地取材をしているので、そちらの記事を参照されたい。
 さて、多くの読者はご存知のことと思うが、この大会は19時から21時までの2時間、フジテレビで地上波生放送された。最後の3試合のみをフルで生中継するという力の入れようである。

 その中で事件は起きた。メイン・エベントの那須川天心vs. マーティン・ブランコの試合で、天心が奪った2度のダウン・シーンがCM中のために放送されなかったのだ。幸い、KOシーンは放送されたものの、ダウン・シーンは視聴者としては見たいものである。当然のことながら、インターネットは大炎上した。

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地上波生中継では難しい、CMを挿入するタイミング

 事の発端は、2ラウンドでブランコが右目の上から出血したため、レフェリーが試合を一時中断したことだった。ドクター・チェックが始まると、フジテレビはCMに切り替えた。
 ところが、CMが終わればブランコはリングに倒れていた。しかも、これが2回目のダウンだったのである。つまり、最初のダウンは全く放送されなかったということだ。
 幸運なことに(?)、1回目と2回目のダウンでKO劇とはならなかったが、もしCM中にKOが決まっていれば、ネットはさらなる大炎上となっただろう。

 たしかに、CMを入れるタイミングは難しい。普通ならばラウンドが終わったときにCMを入れればいいのだが、ドクター・チェック等で試合が長引いた場合、予定していたCMを入れることができなくなる可能性があるからだ。もちろん、最終ラウンドまで試合がもつれたときのことも想定しなければならない。
 今回の件も、ドクター・チェックがあれば最初からCMを入れる予定だったという。過去の例から計算して、ドクター・チェックには1分以上かかると予測したのだ。
 ところが、これが裏目に出た。予想以上にドクター・チェックが早く終わり、CMが終わらない間に天心がブランコを倒してしまったのである。もちろん、天心に罪はない。

▼フジテレビでは那須川天心が2度のダウンを奪ったシーンを放送できなかった

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 民放テレビ局にとって、最も大切なのはスポンサーである。スポンサーがなければ、1秒だって番組を作れない。スポンサーとしても多額の出費をしているのだから、CMを流せなければ意味がないだろう。スポンサーが番組に金を払っているからこそ、視聴者は無料で民放を見ることができる。
 その反面、CMを挿入したために大事な場面が放送できなければ、視聴者はソッポを向くだろう。当然、視聴率も下がり、スポンサーにとってもテレビ局にとっても、オマンマの食い上げとなる。
 いかに無駄なくCMを挿入し、しかも大事な場面は逃さず、視聴者を離さないようにするのは地上波民放テレビ局にとって永遠の課題だ。

放送時間との闘い! プロレス生中継の悲喜こもごも

 かつて、ゴールデン・タイムでプロレスを定期放送していた頃はどうだったか。この頃は、生中継と録画中継がその日によって違っていた。視聴者も、今日は生中継なのか録画中継なのか、把握していない人も多かっただろう。
 現在のようにインターネットも有料テレビ放送もなかった時代、しかも一般紙にはプロレスの試合結果は載ってなかったので、毎日のように東京スポーツを読むマニアはともかく、ライトなプロレス・ファンは最新情報に疎かったのである。

 録画中継の場合は楽だ。メインから良い場面を逆算して、1時間の枠に収めればいいだけの話である。1回の放送でだいたい3試合ぐらいだったので、試合と試合の合間にCMを挿入すればよい。試合前の選手のコール後に、CMを入れることも多かった。
 もちろん、録画中継だとメインの試合終了までキッチリ放送できる。

 ところが生中継だと、放送時間に収まらない場合がある。もっとも、生放送でいつも試合時間内に終わると変に思われるので、わざと試合途中で放送時間が切れるようにしていたのだが、反対にメインの試合が早く終わり過ぎるのもマズい。放送時間が余ってしまうからだ。
 そこで、生放送がある日は時間調整が行われる。今回のRIZINで、本誌でも現地取材した記者がお伝えした通り、大会に掛かった時間は7時間、プレスは9時間も缶詰にされたわけだが、7時間もずっと試合をしていたわけではない。19時からのフジテレビ生放送に合わせて、長い休憩時間があったのだ。生放送が始まるのと同時に、最後の3試合が開始されなければならない。もっとも、最近の地上波中継では試合開始前に、選手のプロフィールなどを長々と紹介するが。

 大相撲でも、十両と幕内の取組の間に『中入り』と呼ばれる時間がある。この間に幕内力士や横綱の土俵入りを行うのだが、それとは別に休憩時間も設けられるのだ。そのため、幕内の取組のことを『中入り後』と呼ぶ。
 さらに、幕内の前半戦が終わる17時頃に、もう一度休憩が入る。こうして時間調整を行い、18時ちょっと前に結びの一番が行われるようにするのだ。そして、18時の放送時間内に全ての取組が終わる。稀に結びの一番が18時を超えることもあるが、NHKなので最後まで放送してくれる。

 プロレスの生放送でも、会場ではやはりリング調整という時間があった。テレビに合わせるため、会場の客はそれに付き合わされるのである。
 当然、会場にいるファンよりも、テレビの視聴者数の方が圧倒的に多い。そのため、主催者側もテレビに合わせる必要がある。
 そして、矛盾するが生放送がある日は試合進行を早めることも必要だ。セミ・ファイナルで放送時間が終わってしまい、メインの試合が全く流れないとなると、それも大問題である。

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