[週刊ファイト2月5日期間] [ファイトクラブ]公開中
▼UFC324、ベストバウト級激闘:ジャスティン・ゲイジー暫定王座戴冠
photo: (c)Zuffa LLC/UFC by 野村友梨乃
・2026年開幕戦が非常事態:アクシデント続出のUFC324、その舞台裏
・ゲイジーvs.ピンブレット、名勝負が王者を生むファイト・オブ・ザ・ナイト
・どちらが勝っても不思議はなかった:オマリー、紙一重の攻防を制す
・“これが俺の戦い方だ”:アコスタ、ルイスを逃さず仕留め3連勝を飾る
・アクシデント続出でも揺るがない:内容で黙らせた世界最高峰の底力
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2026年開幕戦が非常事態:アクシデント続出のUFC324、その舞台裏
2026年1月24日(日本時間25日)、米国ラスベガスのT-モバイルアリーナにてUFC 324: ゲイジーvs.ピンブレットが開催された。年明け最初のビッグイベントとして注目を集めた今大会だが、振り返ってみれば「試合内容以前に、異様な空気に包まれた大会だった」と言うべき一夜だった。

本来、この大会は王者とレジェンドが交差する“華やかな開幕戦”になるはずだった。だが、その構図は開催前から大きく揺らいでいた。
ライト級正規王者のイリア・トプリアは自身のSNSで「来年の第1四半期には戦わない」と表明。家庭の事情により競技から一時距離を置く決断を下したことを明かし、「階級を停滞させるつもりはない」とUFCに判断を委ねる姿勢を示した。現地報道では、妻ジョルジーナ・バデルとの関係悪化と離婚危機が伝えられ、トプリアは2人の子どもを最優先に考えた選択だったとされている。
その結果、メインイベントに据えられたのは「UFC世界ライト級暫定タイトルマッチ」。元UFC暫定王者で元BMF王者のジャスティン・ゲイジーと、UFC7戦無敗で勢いに乗るパディ・ピンブレットが激突するカードへと急転直下で差し替えられた。スター性と危うさ、実績と勢い。あまりにもコントラストの強い二人が、王座を懸けて向き合うことになった。

さらに混乱に拍車をかけたのが、前日計量から続出したアクシデントの数々だ。本来メイン予定だった女子バンタム級タイトルマッチ、ケイラ・ハリソンvs.アマンダ・ヌネスは、ハリソンの首の負傷により延期。大会の“顔”となるカードが消滅したことで、興行全体の空気は一変した。
極めつけは、前日計量で起きたキャメロン・スマザーマンの突然の失神だ。計量をクリアした直後、数歩歩いたところで前のめりに倒れ、白目をむいたまま救急搬送されるという衝撃的な光景が、会場とSNSを凍りつかせた。本人は後に「クレイジーな減量ではなかった」と説明したものの、不安と動揺が大会全体に影を落としたのは間違いない。
加えて、マイケル・ジョンソンvs.アレクサンダー・ヘルナンデスの試合中止、デイブソン・フィゲイレードとアレックス・ペレスの体重超過など、トラブルは最後まで止まらなかった。2026年の開幕戦でありながら、UFC324は祝祭感よりも“異変”が際立つ大会として、リングに上がる前からただならぬ緊張を孕んでいた。
そんな中で発表されたのが、ダナ・ホワイトによるボーナス制度の刷新だ。今大会から「ファイト・オブ・ザ・ナイト」「パフォーマンス・オブ・ザ・ナイト」は従来の倍となる10万ドルに増額。さらにKO/TKOまたはサブミッション勝利者には、新たに2万5千ドルのフィニッシュボーナスが設けられた。混乱の只中で示された“報酬の明確化”は、選手たちの闘争心に確実に火をつける材料となった。UFC324は、リングに上がる前からすでに“物語”が始まっていた大会だった。
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ゲイジーvs.ピンブレット、名勝負が王者を生むファイト・オブ・ザ・ナイト
<UFC世界ライト級暫定王座決定戦 5分5R>
〇ジャスティン・ゲイジー(米国)
判定3-0
●パディ・ピンブレット(英国)

入場の時点で、会場の温度はすでに最高潮だった。先に姿を現したピンブレットは、いつも通りのノリの良さでオクタゴンへ。入場曲に合わせて踊り、金髪のカツラを被ったファンがそれに呼応する。会場を“自分の空間”に変えてしまう力は、やはり特別だ。
一方のゲイジーは、対照的に静かだった。煽りも演出もない。ただ、試合に向かうためだけの集中。その背中からは「相手が何をしようと、自分の戦いを貫く」という覚悟と貫禄が滲んでいた。
ゴングが鳴ると、その差はすぐに試合内容として表れる。序盤から主導権を握ったのはゲイジーだった。前進圧、打撃の重さ、距離管理――すべてでピンブレットをケージ際に追い込み、逃げ場を与えない。ピンブレットも反応は鋭く、蹴りやカウンターで応戦するが、試合の“軸”を握っていたのは明らかにゲイジーだった。
2Rには、勝負が決してもおかしくない場面も訪れる。ピンブレットが顔をしかめてダウンし、ゲイジーが一気にパウンドとエルボーを浴びせる。あのまま止まっても不思議ではなかったが、ピンブレットは耐え抜いた。ここで踏みとどまったことが、この試合を“名勝負”へ押し上げる要因になったと言っていい。

3Rに入ると、ようやくピンブレットが自分のリズムを取り戻す。中央での攻防が増え、蹴りを使って距離を作り始めると、会場の空気もわずかに変わった。このラウンドはピンブレットが取ったラウンドだと思った。
4R、このままピンブレットが勢いづくかと思ったが、前に出続けたのはゲイジーだった。終了時点で、ピンブレットの顔は鼻血で血に染まり、ピンブレット陣営からは「フィニッシュするためにはテイクダウンしかない」という明確な指示が飛ぶ。

最終5R、ピンブレットは何度も組みに行くが、決定的なテイクダウンには至らない。ゲイジーは最後までスタンド勝負を選び、気力だけで前へ出続けた。互いに限界が見える中でも、拳を止めない。その姿は、“激闘王”という異名が決して誇張ではないことを改めて証明していた。判定は3-0でゲイジー。誰もが納得する結末だった。

試合後、ゲイジーは「パディは本当にタフだった。前に出続けるのがチャンピオンだと思っている」と語りつつ、「本当はコーチに止められていたけど、こうやって戦うのが好きなんだ」と苦笑した。グラップリングよりも殴り合いを選び続けた姿勢は、彼そのものだった。
一方のピンブレットも、敗北を真正面から受け止める。「あのベルトが欲しかった。でも負けるならゲイジーでよかった。彼のパンチは本当に効いた」と潔く認め、「これは終わりじゃない。必ず強くなって戻ってくる」と前を向いた。さらに、仲間への思いとメンタルヘルスへのメッセージを添えた言葉は、会場の多くの心に残ったはずだ。

そして、この一戦はファイト・オブ・ザ・ナイトに選出。異論はない。技巧戦でも、一方的な試合でもない。意地と意地、覚悟と覚悟が正面衝突した、まさに“UFCらしい”激闘だった。2026年の幕開けにふさわしい一戦。その中心に立っていたのは、やはりジャスティン・ゲイジーだった。
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