6月6日(水)、「REBELS.56」(後楽園ホール)でREBELS-MUAYTHAIスーパーフライ級(52.163kg)の新王者が誕生する。
次代のキック界を担うエース候補4選手が結集し、2月大会から開幕した王座決定リーグ戦も第2戦まで終わり、2連勝した老沼隆斗(STRUGGLE)とJIRO(創心會)が最終戦で激突。勝者が第3代REBELS-MUAYTHAIスーパーフライ級チャンピオンのベルトを巻く。
リーグ戦開幕前から本命と見られ、ここまで順当に勝ってきた老沼は1998年生まれの19歳。那須川天心を筆頭に、平本蓮、石井一成ら格闘技界を席巻する脅威の十代、「天心世代」の一人である。
「天心君を見てるとジェラシーがヤバいです(苦笑)。俺も、あそこまで絶対にいってやろう、という気持ちは大きいですね」
老沼を指導するのは、90年代後半「ムエタイキラー」として名をはせた鈴木秀明会長。鈴木会長は言う。
「老沼は、天心選手に近い『感覚』を持っています。あとはどこで『覚醒』するか。この試合に期待しているんです」
次代のキック界を担うホープ、老沼隆斗のこれまでの歩みと、現在の思いを聞いた。
聞き手・撮影 茂田浩司
K-1ファンの両親の影響で正道会館入門。
「天才空手少年」として活躍
老沼が空手を始めたのは6歳。両親が大のK-1ファンで、幼い頃から地上波のK-1中継を見ており、小学校に入学するとすぐに近所の正道会館の支部に入門した。
「お母さんがアンディ・フグのファンで、がっつりその世代なんです(笑)。低学年の頃は週1ぐらいで道場に通って、小2から空手の試合に出始めました。最初は勝ったり負けたりで入賞も出来なくて、小4ぐらいから『勝ちたい!』という気持ちが強くなって毎日練習に行くようになりました。その頃からお父さんが練習を手伝ってくれて、ランニングに行く時は自転車で伴走してくれたり、家でミットを持って貰ったり。『勝てるように、少しでも力になれば』って」
そうした努力が実り、中学生になると全国規模の大会で活躍するようになった。
「各ブロックの優勝、準優勝の子が集まって、全国でやるチャンピオンクラスの大会で準優勝したり、関東大会では軽量級で相手がいなくて、重量級に出場して優勝したりもしました。軽量級でもリミットは63㎏とかで、周りはみんなデカかったですけど(苦笑)。
正道会館では『顔面ありルールの大会は高校生以上』という決まりがあったので、中学から準備して、高校生になったらフルコンタクトルールの空手をやりながら、顔面ありのグローブもやっていけたらな、と思っていました」
プロデビューは高校2年。RISEのルーキーズカップだった。
「ただ、RISEさんはその頃、55㎏が最軽量だったんです。自分は体重が全然ないのに、55㎏で試合をして負けてしまいました」
プロ3戦目までは正道会館所属で試合に出ていたが、次第に「ムエタイをやりたい」と考えるようになる。
「格闘技をどんどん知るようになって、ヒジありのムエタイルールの方が魅力があるな、そっちに進みたいな、と思うようになったんです。道場ではヒジありルールはやらないですし、首相撲の練習も多少はやったんですけど、ムエタイ的なテクニックはやらなかったので」
老沼は思い切って移籍を申し出ると、道場の支部長や指導者は快諾してくれたという。
「先生方には『君はムエタイの方でやっていくんだろうと思ってた。今しか出来ないから頑張ってこいよ』と背中を押して貰いました。本当にありがたかったですし、人柄に助けられました」
鈴木会長の指導で空手スタイルからキックボクサーへ
練習でボコられながら、少しずつ掴んだ
2016年2月、老沼は東京・押上のSTRUGGLE(ストラッグル)に移籍。鈴木秀明会長は現役時代「ムエタイキラー」の異名を取った90年代後半を代表する名キックボクサーである。
鈴木会長は老沼を見て「キックボクシングが分かっていない。空手のままで戦っている」と感じたという。
鈴木会長「子供の頃からやってきて、空手の技が出来るのが老沼の長所です。でも、それをそのままやっているので『どこが危ない、どこが大丈夫』が分かっていなかった。なので、僕はミットを受ける時に殴りましたし、蹴りました。彼に『そこが空いてるとやられるよ』と分からせるためです。先輩たちにもスパーリングでだいぶやられて『ここは危ない』というのは、自分の体で身につけてきたと思いますね」
老沼は言う。
「もう毎日、ボコられていました(苦笑)。でも、心は折れなかったです。明確に目標を決めてて、STRUGGLEにはチャンピオンが多いので『絶対に自分もチャンピオンに追いつく』と思ってました。今ボコられてもいつかやり返せばいいんだ、と」
とはいえ、長年身についた空手スタイルから、ムエタイスタイルへの対応は容易ではなかった。
「練習でボコられてた期間は、結構長かったです(苦笑)。キックの駆け引きが全然出来なかったですし、首相撲では今でも松崎さん(公則。元REBELS-MUAYTHAIフライ級、スーパーフライ級王者)にやられてしまいます。STRUGGLEに来て、半年から1年ぐらいは全然かなわなかったです。でも元々、空手の世界は『やられてナンボ』でしたから。ここでもやられながら覚えていけばいいや、と」
練習ではボコられ、試合でも上手くいかない時期が続いた。
「移籍して、1番最初に試合に出して貰ったのがREBELSさんだったんです。高3の7月で(16年7月10日、ディファ有明「REBELS.44」)。プロで負けたのは、デビュー戦と、その時にはまっこムエタイジムの選手(ギッティチャイ・タツヤ)に負けた、この2回だけですね」
高校を卒業すると、老沼はアルバイトをしながら練習に励み、少しずつ「キックボクサー」としてのスタイルを形作っていく。
「昨年、J-NETさんの新人王トーナメントに出始めたぐらいから感覚的なものは研ぎ澄まされていったと思います。最初は本当に粗削りで(苦笑)、相手の無駄な攻撃を貰ったりしていたんですけど、会長に聞いたり、自分でも研究して、ちょっとずつ掴んできたんじゃないかって。J-NETで3連続KOしたときは『倒す感覚を掴んだかな』と思ったんですけど」
天心君と見てるとジェラシーがヤバいです
俺もあそこまで絶対にいってやろう、と
今年2月からスタートしたREBELS-MUAYTHAIスーパーフライ級王座決定リーグ。老沼にとって、待望の初「後楽園ホール」だった。
「2月の試合が初の後楽園ホールで、ディファ有明とか新宿フェイスで試合してきて『やっと来れたな』という気持ちがありましたね。お客さんが一杯入ってて、緊張半分、楽しみ半分だったんですけど、後楽園ホールはリングの上からお客さんの顔がよく見えるんですね(笑)。下手な試合は出来ないな、って思いました」
リーグ戦1戦目の蓮沼拓矢戦は3-0(三者とも30―28)、2戦目の濱田巧戦も3-0(二者が30-28、一者が30-29)で勝利。
老沼は相手の攻撃をほとんど貰わず、要所で自分の攻撃を当てて確実にポイントを奪った。右ミドルは1発蹴るだけで会場を沸かせるほどのスピードとキレを見せつける一方で、試合全体としてジャッジに「老沼のペース」をしっかりと印象付ける「上手さ」も光った。
ただ、老沼自身は試合内容に満足していない。
「1戦目も、2戦目も、倒せるチャンスもあったんですけど、リーグ戦のことを考えすぎて『下手に貰うと危ないな』って。
相手の動きとか技のタイミングは映像を見て研究したりもしますけど、基本的に、相手の動きを察知する、動物的な感覚は自分でもあるのかな、と思います。ただ、そこが悪いところにつながっちゃう部分もあって、自分から攻めに行けなかったり」
鈴木会長はこの最終戦、JIRO戦に大きな期待を寄せる。
鈴木会長「今回のリーグ戦は、老沼のためのリーグ戦になる、と思っていますけど、1戦目、2戦目とまだハマっていないですね。彼はここで覚醒する予定ですから『次だな』と思っていますし、実際に次の試合が1番良くなるんじゃないですか」
ちなみに、老沼は1998年8月4日生まれ。あの那須川天心とちょうど2週間違い。また、同じ足立区出身の同級生には平本蓮がいる。
華々しく活躍する那須川天心を見て、どう思っているのか。
「正直言っちゃうと、天心君を見てるとジェラシーがヤバいです。誕生日が近くて、身長も近くて。本当に、俺もあそこまで絶対にいってやろう、という気持ちは大きいですね。
昔から『ジュニアで凄い子がいる』って噂は聞いてて、天心君の存在は知ってました。同じ正道会館には、ケイリバー(天心や平本蓮を輩出したムエタイジム)やウィラサクレックジムにも行っている子がいて『顔面ありのルールをやらない?』と誘われたんですけど、お母さんが『子供で顔面ありはどうか』っていう考えで。僕も、その時は空手をやってるからいいか、と思って。
平本選手とは喋ったことはないんですけど、友達の友達だったりして親近感はあります(笑)。足立区は武居由樹選手のいるパワーオブドリームもありますし、今、活躍している格闘家がものすごく多いです。
僕はめちゃくちゃ負けず嫌いなので、刺激になりますね。平本選手はルールは違いますけどゲーオを倒したり、天心選手はスアキムに勝って、次はロッタンですから。
天心選手を別に見ちゃう選手もいると思うんですけど、自分は本当に負けず嫌いなので、天心選手に負けずに活躍していきたいです」
そんな老沼を、鈴木会長はこう評する。
鈴木会長「天心選手は感覚的な部分で凄いものを持ってますけど、老沼も似ている部分があるんです。本人にも『近い感覚は持っているよ』とよく話していますし、今、そこの部分の開発をしています。ただ『感覚』だけでやるのは限界がありますから、ムエタイの流れやテクニック、相手がこう来たらこう返して、こう攻める、という方法と、そのバリエーションを教えてきて、少しずつ試合で出てきています。その微調整はずっとやっていて、あとは本人の感覚が抜けてきて、試合で『うわ、すげえな!』というのが出てきたら嬉しいですね。『ここでいける!』というのが身につくと試合で倒せるようになりますし、お客さんが付いてくる。メインイベンターを務められる選手になると思います」
最後に、次戦のJIRO戦に向けて、老沼からコメントを貰った。
「1戦目、2戦目とリーグ戦を意識しすぎて倒せなかったんですけど、次は最後なので、次の日に歩けなくなってもいいぐらい、蹴りまくろうと思っています。空手の頃から蹴りが得意で、自分よりも大きな相手を蹴りで倒してきてるので、今回も蹴りで倒せたらいいですね。自分の長所は蹴りの綺麗さだと思っていて、それだけは自信があります。
JIRO選手もすごい強くて、技術も上手い選手なんで、技術面だととんとんかもしれないですけど、スピードは自分が勝ってるのかなって。あとは、気持ちの強さは絶対に負けないんで、気持ちの強さを見てほしいです。
最終戦の3戦目もしっかりと勝ち切って、必ずREBELS-MUAYTHAIスーパーフライ級のベルトを巻きます。ぜひ会場に応援に来てください」
プロフィール
老沼隆斗(おいぬま・りゅうと)
所 属:STRUGGLE
生年月日:1998年8月4日生まれ、19歳
出 身:東京都足立区
身 長:161cm
戦 績:10戦8勝(4KO)2敗
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