悪玉-憎まれる生き方-

ジャパン女子、JWPを経て、今もっとも勢いのある女子プロレス団体『OZアカデミー』を主宰する女子プロレスラー、尾崎魔弓。彼女の最新著書がデジタルリマスター作品となって「ファイト!ミルホンネット」に満を持して登場。

――尾崎魔弓の決意表明――
『今の世の中、甘ったるくて、生温かくて、薄ぼんやりだ。
 だから、おもしろくない、生きる張合いがない。「一所懸命」ぐらいはあっても、「死にもの狂い」ははやらない。
 みんな―政治家も役人も、経営者も芸能人も―周囲に憎まれることを怖がってる。
 みんな間違っている。憎まれることなど、怖くはない。周囲の人々に憎まれてるとすれば、周囲に関心を持たれているということ、つまり存在が認められている。私を憎む奴は、私のファンなのだ。誇りにこそなれ、悩むことではあるまい。
 私、尾崎魔弓は女性のプロレスラー、それも一番憎まれている美人悪玉だ。
 いつの試合でも、どこの会場でも、誰と戦っても、何をしても、観客はみな、私を罵倒し私の敵を応援する。私が敵を殴ると非難のブーイングが起こるが、私が殴り倒されると歓声が湧く。私が勝てば観客たちはがっかりして怒るのに、私が負けると大歓びする。小柄で美貌の悪玉の私が、苦しみ口惜しがるのを楽しみにしている。
 2003年4月に行われた敗者髪切りマッチで負けた私は、盟友のKAORUと共に六千人の観客が見守る中、リングの上で自慢の長髪を切り取られた。
 「敗者髪切りマッチ」は女子プロレスの決闘、これまでにも一〇回ほど行われたが、敗者が髪を切られた瞬間には、善玉悪役の別なく涙ぐみ、観客も同情した。
 だが、私は違った。私のトレードマークだった長い髪がギザギザに切られた時、大歓声が上がった。リングを囲んだ控え選手も小躍りして歓んだ。そして、私自身も心から笑った。
 これまでのどの悪役よりも憎まれ抜いていることが分かった。その憎い尾崎魔弓を見にきてくれたファンが何千人もいたのを確かめた。尾崎は憎まれてはいても、嫌われてはいない。私はそういう自信を持った。だから心から笑えた。負け惜しみでも、引かれ者の小唄でもなく、本当におかしかった。
 私は、そう十七年間も女子プロレスラーをしている。そしてそのほとんどが悪役だ。
 プロレスの悪役は、映画やテレビの悪役俳優とはまったく違う。ドラマで悪役を演じても、俳優その人が悪と思う者はいない。プロレスの悪役は本人そのものが「悪」なのだ。
 尾崎魔弓が悪役なら、私自身丸ごと憎まれる。長与千種やキューティー鈴木らの善玉を苛める尾崎には、罵声が浴びせられる。非難の手紙やメールが沢山来る。街や乗物で憎たらしそうに睨まれることもある。
 日々の暮しも尋常ではない。善玉同士は仲が良いとは限らないが、善玉と悪役は確実に仲が悪い。善玉は悪役を、悪役は善玉を、まず例外なく憎んでいる。毎回、凶器で殴り合い、血を流し合っていれば憎くもなる。
 みんなに憎まれ仲間も少ない悪役は損だ。人気は出ないし、テレビや雑誌に出る機会も少ない。もちろん、男性ファンもできにくい。
 当然、悪役になりたがる者は少ない。私もそうだった。プロレスに入った当初は美人善玉、悪役なんか厭だった。
 しかし、人生は損得で選ぶものではない。一度悪役になってみると、自由奔放な自己表現ができるおもしろさに魅せられた。悪役が好きになり、憎まれることが楽しくなった。
 悪役をやるだけではなく、姿も形も言葉も態度も、悪振った悪玉になった。そうでなければ本当の憎しみは得られない。
 私は有利よりも好きを選んだ。だから誇りをもって悪玉になれた。誰よりも憎まれているのを自慢することができる。
 おもしろいドラマには強い悪役がいる。事業を成功させるには厳しく命令し指導する憎まれ者が必要だ。職場を引き締めるのには「仕事の鬼」が欠かせない。どこの社会でも、成功の陰には同僚にも後輩にも憎まれるのを怖がらない悪役がいるはずだ。
 そのためには、損な立場の悪役を好きでやる個性を、存分に働かせるような条件を作ることだ。女子プロレスでも、それができたのは、ごく最近のことだ。
 プロレスは、世の中を映す「歪んだ鏡」だ。世間のある部分を拡大し、ある部分を削り取って、おもしろく大袈裟に見せる。本書の大部分は、私、尾崎魔弓の体験によるプロレス話だが、そこには企業の、ビジネスの参考となることが多いはずだ。
 プロレスに関心のない人、女子プロレスを知らない人も、読んで欲しい。
 そして、できれば、女子プロレスの悪玉尾崎魔弓のファンになって欲しい。』

目次
はじめに――プロレスを知らない人も読んで欲しい!
一章 有利より好きを選んだ。だから、笑える
 (1)私の髪が切られた時、みんな大喜びだった
 (2)尾崎魔弓は「悪い奴」――憎まれてるけど、嫌われてない
 (3)私は美人で小柄だ――だから「悪玉」になれる
二章 「悪玉」に至る私の戦い
 (1)生き残るのは、強い奴でも上手な奴でもない。好きな奴だ
 (2)夢を捨てれば気楽だ、だが、その虚しさには耐えられなかった
 (3)いい子ばかりじゃつまらない、人は憎しみの対象を求めている
 (4)憎まれるのは、愛されるよりも難しい
 (5)コンセプトを通せ!「徹底した悪役」と「究極のベビーフェース」
 (6)伝説の復活・女子プロレス「好老時代」の始まり
 (7)強敵「不況」の一撃で、作家になる機会を逃した
三章 不運で幸せな日々――二十歳代の思い出
 (1)創業はカネじゃない。好きと気迫と憤りだ!
 (2)ストリート・ファイト、化け物善玉 D・関西 VS 美女悪 尾崎魔弓
 (3)一流VS三流。団体対抗戦フィーバーの残したもの奪ったもの
 (4)お父さんの急死――コマーシャル出演がフイになった
 (5)「伝説」の復活――長与千種が戻って来た!
 (6)麻里ちゃんは「心の星」になった
四章 女子プロレス「冬の時代」
 (1)好きな奴は辛くても続ける、好きじゃない奴は伸びない
 (2)「次」は育てられない、掻きわけて現われるのだ
 (3)「さすらいの女狼」――尾崎魔弓のプロレス人生第三幕
 (4)過激時代の主役たち―アジャ・コングと北斗晶
 (5)「本物の悪玉」――「無頼を貫く女」でありたい
 (6)「化け物悪役」アジャ・コングを破り、長与千種を苛め抜く
 (7)理想の「美女悪」タッグ――D-FIX
 (8)どいつもこいつもみんな敵――若手スター組との戦い
 (9)観客とも乱闘――遂に髪切りマッチに
終章 「今」を生きてこそ人生
 (1)私を憎む奴は、私のファンだ――好きに生きれば嫌われない
 (2)好きを通す危険――いじめなんか怖くない
 (3)思い出にひたるな! 将来の心配なんかするな!
 (4)大河ドラマになったプロレス――世の中を映す「歪んだ鏡」だ
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巻頭カラー16ページ “悪玉”セクシーフォト<長濱治>撮り下ろしあり

乙女半ばが読む〜悪玉・尾崎魔弓〜

悪玉-憎まれる生き方-

商品コード ozakimayum001

価格 1,050 円

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