元週刊プロレス編集長・杉山頴男氏インタビュー

「週刊プロレス」の創刊編集にして、「武道通信」の編集長、
自身も古武道に造詣の深い、杉山頴男氏にインタビューを行いました。
週刊プロレスを不動の人気を誇る雑誌へと導いたその秘訣や、戦後の日本でプロレスが人気になった理由についてお聞きしました。
杉山頴男氏プロフィール
ベース・ボールマガジン社『週刊プロレス』『格闘技通信』の創刊編集長を経て
杉山頴男事務所を設立、『武道通信』創刊。
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●雑誌を人気に押し上げた秘訣
編集者「ベースボールマガジンの増刊号として始まった”週刊プロレス”を人気の雑誌へと導いた秘訣はなんでしょうか?」
杉山氏「まずプロレスの雑誌を任された時、プロレスファンや読者自身気がついてない”プロレスの魅力”を見つけるところから始めました。”好きなところを見破る力”が大切です。」
編「何故惹き付けられるのかを探れば読者の求める記事が導きだされるということですね。」
杉山氏「そもそも、私自身プロレスに特別の思い入れがあったわけではありませんでした。ですが”好きなところを見破る力”があったからこそやってこれたのだと思います。実際、編集を始めた頃は猪木さんと馬場さんくらいしかプロレスラーの名前を知らなかったのですから。」
編「それでは、最初は手探りであったのではないですか?」
杉山氏「最初に注目したのはアメリカのプロレスでした。
アメリカのプロレスは階級社会が色濃く反映されております。
例えばアメリカにおける日本人の地位は低いですから、ブラジルのレスラーが日本人をやっつければそれで観客が喜ぶわけです。
だけど日本には階級というものがない。では何故日本においてプロレスが浸透したのかを調べたのです。それが答えへの近道でした。だからプロレスの技などはしばらく覚えなかったのですよ。」
●戦後のプロレスが見せたもの
編「ではずばり、戦後日本でプロレスが人気を博した理由はなんだったのでしょうか?」
杉山氏「日本には”武士”という侍の遺伝子があったと気がついたのです。だからアメリカのプロレスにはないメッセージが発信されておりました。
簡単に言ってしまうと、”正義は力である 力は正義である”ということです。
勝たなければ正義にはならない。戦後のプロレスにはこのメッセージが込められていたのです。
日本人は正しいと思って戦争をしましたが、しかし結果は敗戦でした。そして負けてしまえば正義ではないんだと言う事に気がついたのです。正義を語るなら力がなくてはならないのです。
戦後唯一それを語っていたのがプロレスでした。昭和プロレスは日本人に”正義”を見せていたのです。
戦後教育では”喧嘩はいけない、暴力は悪である”と言ってきましたが、では何故プロレスが人気であったのかというと、プロレスが発信する”力の正義”を、侍の遺伝子をもっている日本人は察知していたのです。」
●現在のプロレスには「正義は力」のメッセージが感じられない
編「今プロレス人気は低迷しております。八百長などといった”正義は力”に反する活動が明るみになってしまったからだと推測されますが、如何でしょうか。」
杉山氏「プロレスの原点は”正義は力、力が正義”であり、そのメッセージを侍の遺伝子を持つ日本人は汲み取っていたのですが、今現在のプロレスではそれを訴えてはいないですね。だからプロレスのブームが下火になってしまったのではないかと思うのです。
プロレスが発信していた”正義は力”のメッセージは、現在格闘技が引き継いでおります。編集者・杉山が感じた昭和プロレスのメッセージは今のプロレスには感じられません。」
●昭和プロレスの復活はない
編「昭和のプロレスブームは娯楽の少ない日本において分かりやすい娯楽文化であったから浸透したと思っておりましたが、もっと深い理由があったのですね。」
杉山氏「そうですね。日本人の”精神”に浸透したと言えるでしょう。
だから”昭和プロレス復活”などと謳っても、精神に訴える事はありませんね。
結局は過去に活躍をした人を揃えて試合をするだけで、昭和プロレスが訴えかけてきたメッセージを復活させることはできないでしょう。」
編「杉山編集長が応援されているリアルジャパンプロレスにはその心意気が残っているのでしょうか?」
杉山氏「そうですね。リアルジャパンプロレスの代表・佐山サトルさん(初代タイガーマスク)も武道に通じた方なので、佐山さんが訴えたいメッセージや心意気に共感する部分があり、協力しております。」
編「なるほど。リアルジャパンプロレスを観戦し、そのメッセージを汲み取ってみたいと思います。本日はありがとうございました。」
昭和プロレスが発信していたメッセージを敏感に察知し、「週刊プロレス」の紙面へと落とし込んだ杉山編集長。
編集の手本として、また格闘技を見る上での指針として、杉山氏の言葉は深く突き刺さるものでした。
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