『美城丈二の“80’S・プロレス黄金狂時代 ~時代の風が男達を濡らしていた頃”』

 Act⑥【外伝・井上義啓氏について】
 《井上義啓氏『猪木は死ぬか!』に纏わる、思い出すことなど。》
 
 発売当時、貪るように読みふけった記憶がある。
 1982年、初版本。
 だがいまや筆者の手元には無い。これまで幾度となく移を転じ漸く古里に落ち着いた次第だが、どこかに収め、どこかで無くしてしまったようである。
 10代時分、筆者は井上氏のひどく文学臭に長けた文体、深い洞察力に裏打ちされた文章に魅了され、氏の編まれる記事、編集物の類いを好んで読み綴った。Y・Iと文章末尾、筆記がなされていなくとも、文体からすぐ氏の書かれたものだなという、感を察してじっと最後までそして幾度と無く読み返したものである。
 週刊ファイト内、特に氏が自身を井沢編集長に置き換え筆記なさる「ファイト・ノンフィクション劇場」はけだしお気に入りで長くストックしてきた。80年代初頭、プロレスというジャンルの人気が高まるにつれ、氏の威勢もいよいよ高まって『猪木は死ぬか!』一冊の書物となって氏名義のいまでは大変な希少本が生まれた次第である。
 ひとには打ち消し難い記憶があるように、長く留めておきたい感動・感銘の思い、胸の高まりというものが存する。田舎の新古書店で筆者は予約を入れ、氏のご本が届くのをいまかいまかと待ち焦がれたものである。
 だから、素直にDigital Remaster版は筆者にとって待望の、ひどく嬉しい、そして懐かしさを想起させる“復刊”劇であった。
  茫洋たる人の海であった。
  ある感動が、耐えられない怒涛となって押し寄せる。
  <短かったのであろうか>
  リングの下を、カラカラと風が吹き過ぎてゆく。
  その上に‐猪木はいた。
 当時、筆者のプロレスに、猪木に、そして井上氏に対する思いはとめど無く、氏にそれこそ幾度となく思いの丈を綴り、お送りさせていただいたが、田舎の寒村、一青年に過ぎぬ筆者の駄文に井上氏は毎回、返答を賜り、誠に恐縮しつつも先を争うように封を破り、拝読させていただいたものである。
 一度だけではあったが、僭越ごとながら、氏と対面させていただくという“邂逅”の時も授かり、今や亡き氏を思うとき、想い出は尽きない。
 プロレスというジャンルに、そして猪木に対する思いが誠に横溢しておられた氏の文章に出会うたび、やはり筆者も若かりし頃の群像を重ねてしまう。筆者は以前からそれら感慨を野暮に煙たがらない性質の人間であり、だから氏の文体を見やるたび、筆者はあの頃に嬉々として帰ることが出来るのである。それはまさに筆者にとって“至福”の時、なのだ。
 氏の編まれたご文を拝読させていただくことは、またあの頃の時代を知る手がかりのひとつなのであって、Digital Remaster版“復刊”劇は誠に嬉しい“誤算”でもあった。是非、ダウンロードなされ、“井上節”その世界に探求なさることをお勧めする。現代用語ばかりに“答え”が隠されていると推量するのは早計というものだろう。
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