『美城丈二の“80’S・プロレス黄金狂時代 ~時代の風が男達を濡らしていた頃”』

 『美城丈二の“80’S・プロレス黄金狂時代 ~時代の風が男達を濡らしていた頃”』
  Act④【スタン・ハンセンという“絵図”】
 私に多くのプロレスの凄み、痛み、激しさ、苛烈なる世界の凄まじさを授けてくれた“稀代の異人”プロレスラーであった。
 初来日時、1975年9月・全日本プロレス初参戦時の記憶は残念ながら曖昧であり、微かにザ・デストロイヤーとのシングル戦を謁見して「ああ、そういえば・・・」といった印象しか思い出せない。
 やはり私の中においてはその2年後、あのWWWF(現・WWE)マットにおけるB・サンマルチノとの“首折り”騒動を経ての新日本参戦時、A・猪木との死闘がいまでもこの心に強烈な印象として残っている。
 
 利き腕の左腕では無く右腕で繰り出した方が見栄えが良い、と猪木が指示したとされる、あの奇声と共に繰り出される、大きく腕を振り上げておいてからのエルボー・スタンプ、まさに万力を込めるかのように後方に反り上げるボストン・クラブ、どどぉーと館内が一瞬にして凍りつくかのような勢いで飛び出すブルドッキング・ヘッドロック、NWF戦におけるエプロン越しに猪木を場外へと葬ったウエスタン・ラリアットの破壊力、「0・X秒の逆ラリアット」と時のマスコミを騒然とさせた猪木とのラリアット合戦、NWF封印、IWGPへの試金石となったお互いのコスチュームを賭けた猪木NWF最後の防衛戦、いまでも思い起こすたびにこの両の目に焼きついた攻防の数々が判然と記憶の彼方から甦ってくる。
 
 『荒ぶる魂』私の中では最もハンセンのファイトスタイルがこの言葉に添うのではないか!?と思わずにはいられない。またリング上の佇まいが誠に映えた男であり、お馴染みのテンガロン・ハットをさも無粋に被っているさまが反って粋にさえ思えるほどよく似合っていた。
 にこやかに微笑みかけるハンセンの前では幼い時分の私にとっては“憧れ”と“羨望”のナイス・ガイでもあったし、ファン時代の私にも気さくにその会話に応じてもくれ、その活躍ぶりで時の私を一喜一憂させてくれた。
 1981年9月、今では“伝説”と化す田園コロシアムにおけるA・T・ジャイアントとの肉弾戦、H・ホーガン、D・マードックとのタッグでのコンビ・プレーも誠に懐かしい。
 時のプロレス・ファンを“唖然”とさせた1981年12月、全日本“世界最強タッグ”最終戦における“乱入転出”劇。それを受けての翌年2月、“御大”G・馬場とのPWF攻防戦、鶴田、天龍、川田、三沢、小橋と連綿と続いた死闘の数々。
 受ける側も必死、技を仕掛けるハンセンも必死、プロレスのまさに凄まじさを身を持って体現できうる、ひとによっては空前絶後と評す方もおられるほどのスーパー・スターであった。
 往年のB・ロビンソンの如くプロレスの上手さが横溢しているかのようなレスラーでは無かった。T・J・シンのような“狂気”を思わす色気を始終、発散していたかのようなレスラーでも無かった。ましてかのA・T・ジャイアントのような大男特有の威風を漂わす佇まいを前面に押し出しているかのような荘厳なレスラーでも無かった。だが、ある種、ハンセンほど時のプロレスファンのハートをまさに鷲掴みにするかのような長く時代を超え、人気を博したレスラーも他に居なかったのではなかろうか!?
 そんなハンセンの魅力はどこにあったのだろう!?
 ひとそれぞれ意見は分かれることだろうが、私はハンセンの見る者に説得力を起こさせる、あの無骨ともいうべきファイトスタイルに起因しているのではないか!?と考える。けっしてプロレスが上手い異人レスラーではなかった筈だ。だが、エルボー・スタンプひとつで受ける者の痛みを表現しうることの出来る、まさに問答無用の説得力なるものはやはり世間のプロレスファン以外の市井の人々にも「これは!?・・・」と思わすだけの威力を有していたように思う。
 絵図という言葉があって業界用語でこれはまさしく「見栄え」のことであり、技ひとつひとつの説得力はこの絵図に通じており、どんな大技であろうともこの絵図が映えねば、見る者にいわゆる“ちゃち感”を思わせてしまい、“凄み”も“強さ”も伝わらないのだ。この絵図がもっとも映えた異人プロレスラーこそ“不沈艦”スタン・ハンセンでは無かったか!? そして私の好むプロレスラーとしての条件、何十分と動けるスタミナも有していた。
 ナチュラルに鍛え上げられた肉体はけっして薬に頼らぬ馬力を感じさせたものであり、この一事においてもその前後にあまた存した“怪力レスラー”達とは一線を画す。
 
 そんなハンセンもG・馬場の3回忌追悼興行でリングから引退し、故郷である米国テキサス州ナックシティで悠々自適な日々を送られておられると聞き及ぶ。
 私は今でも往年のハンセンの試合ぶりをDVD等で振り返ることがあるが、「ウイィー」というあのハンセンの代名詞とも言うべき雄叫びを見やる度に幼い時分に胸躍らせ会場へと駆けつけた日々が思い起こされ、郷愁感をそそられる。
 願わくば、現在の私のささやかなる希望はそんなMr.ハンセンに往時を出来ればゆっくりと振り返るかのようなインタビューを試み、記事としてものすることであるが、果たしていつぞやか叶うのだろうか!?
 
 B・ブロディーや全盛時のT・J・シン、R・ボックに代表される、「どこか影を感じる」部分が漂ってこないレスラーだと否定的な見解を示す識者の方々も無論、おられたが、私はシン、アンドレと共に飽くまでも始終“荒らぶる”ファイトを繰り返すハンセンをも好み、これまでも有為の場所、そこかしこで枚数を惜しまず著してきたものである。
 目を閉じ、思い起こせば、あの雄叫びが未だに胸中、残像として深く刻まれていることを私は時代の目撃者としてはっきりと感じる。
 「ウエスタン・ラリアットは永遠なり!!」
 あの対戦者をロープに飛ばした瞬間のはらはら感を私はこの先もきっとずっと忘れぬことであろう。
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