美城丈二の“80’S・プロレス黄金狂時代~時代の風が男達を濡らしていた頃”

Act②【超獣の煌き・ブロディーの憂憤】
 プロレス黄金狂時代にあって新日本と全日本を“往復移籍”した異人プロレスラーと言えば、思い起こされるのは“黒い呪術師”A・T・ブッチャーと“超獣”B・ブロディー、この二氏が双璧だろう。
 ブッチャーの稿は改めて書き綴らせていただくが、それにしても時のブロディーの“強さ”は特筆すべきものがあった。死後、様々な有為の場所でその“強さ”は回顧、謳われ、と共にプロレス特有の間合いを体現しており、けっしてブロディーはリアルファイトを行なえば“強く”はないだろうと揶揄する向きも無論あったが、筆者は好みは別としてブロディーの潜在的な“強さ”、敢えて相手の技を受けてやらねばならぬプロレスというジャンルに携わるものが内在している“凄み”をひしひしと感じ、その感覚には驚愕感さえ伴っていたなという、記憶がある。
 
 技術面における大男という体格差の優位性はもとより縦横無尽にリング上をところ狭しと動けるスピード感、何十分と闘えるスタミナをも有しており、リアルファイトとなればとにかく間合いなど糞喰らえ、踏み込んで相手より先に有利な展開に持ち込み、のしてしまえば“勝ち”であり、そういう視点から往時のプロレスを振り返ればブロディー後発の、あのロード・ウオリアーズ、アニマル・ホークのコンビをも思い起こされ、こうなるともうスタミナに難があっても腕っ節が強ければなんだって有りかもよ!!みたいな視点さえ鑑みられ、誠に“最強神話”という幻想を未だ身に纏っていた当時のプロレス界を論じることは愉快痛快なる判じ物だなと思われて仕方が無くなる。
 往時のあの長州力選手とのタッグ戦、下がることを知らぬブロディーの“強さ”は未だに根強いファンの語り草だ。長州力選手は言わばそれまでの勃興以来のプロレスの図式、日本人vs外国人という定番スタイルを切り崩した男であり、長州選手に“合わす”ことも出来たろうに、ブロディー、内心、思うことがあったや知れず“受ける”というスタイルを度外視している感も見てとれて、勘考が沸き立ったものだった。
 
 そんなブロディーにあって自ら宣言したところに拠る“ブロディー革命”なるものは生前の彼の思想性を窺わせるものがあり、興味をそばたたせる。
 主要な大手とされるプロモート先を選ばず、興業的に苦戦が伝えられるプロモート先を選んで参戦・転戦していく遣り方はまことに彼らしい、自尊心をくすぐる参戦方法であったと思われる。無造作に蓬髪、チェーンを振り回し、ウオッウオッと咆哮しつつ入場してくるさまは無論、計算されたギミックであるが、劣勢になるとそのチェーンを持ち出して試合を終わらせるという遣り口自体がきちんと成立していたのもやはり時代性うんぬんを飛び越えてブロディー自身が醸し出していた、リアルファイトになれば・・・!?という幻想心理をファンに起こさせる懐深さを持つ者だけに許される試合スタイル、試合の壊し方であったとも言いえよう。
 勝敗がそうそう決しないということは遺恨を長く保てる=当分はそのテリトリーで喰っていけるということでもあり、参戦テリトリーの長、トップレスラーを立てる行為でもあるのだから重宝がられて当然。こういう背景を身に纏って闘っていた者こそまさしく“超獣”B・ブロディー“革命児”特有、その独壇場であったとも思えるのだ。
 だが後年、冥土に臥されてのち検証された記事において、あのブロディーが試合前に興奮剤を投与、合わせてわざわざ多くの血が噴出する流動剤をも投与していたのではないかという告発文章にはかなたのブロディー、彼の勇姿を思い起こした際、感慨もあらたに思わせるものがあった。
 真偽、信憑性はともかくとしてあの運命のプエルトルコ・バイヤモンスタジアム決戦当日(1988・7・17)の試合前も投与の疑いがあり、つまりそれがひいては翻って死に至る間接的な原因ともされ、もしもそのような投与剤の服用が無かったとすれば、過日報道における大量の流血に拠るショック死などという事態までには至らなかったや知れず、流血するということによって更に観客をも興奮させるが為に用いた流動剤が、冥土に臥される一因であったと仮説するならばこれほど皮肉な結論も無いであろう(更に一説には痛み止めとして服用していたアスピリン剤の副作用に拠る大量出血死という報道もあった)。
 恒に観客の前では“超獣”を演じねばならなかった、
ひとりの漢(おとこ)としての憂憤
・ ・・本名、フランク・グーディッシュ(Frank Goodish)
その試合前、ドレッシング・ルームでの在り様・・・。
 薄暗いドレッシング・ルームの脇で椅子に腰掛けて瞑想に耽っているかのように静かに両の目を閉じているB・ブロディーという、
一プロレスラー。
華やかなりしスポットライトを浴びる異国人の
“光と影”・・・。
 「そんな安っぽい感慨など反吐が出る!!」
 もう一方であの往時のブロディーの特筆すべき“強さ”を鑑みながら、私はその中に潜む、もうひとつの影を慮(おもんぱか)った。
 いまでも思い起こせばあまたの会場で直接見やった蓬髪の勇姿、そして聞こえてきたあのウオッウオッという会場挙げての咆哮。私においてもB・ブロディー、あの異人プロレスラーは未だに忘れ難いプロレスラーのひとりなのである。内在する“強さ”を醸し出しつつ“プロレスした”外人トッププロレスラー。いまはただただそのグーディッシュの魂に合掌あるのみである。
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