蘇る伝説の死闘「猪木VSアリ」テレビ朝日~徹底検証は週刊ファイト金曜掲載

(c)テレビ朝日
「14億人が熱狂!完全ノーカット放送」「試合の”声”解析で新事実!!」ということだが、2016年の横長液晶TV画面がやたら賑やかになり、オマケで熊本地震速報も複数出た色んな意味でプレミアム版だった。
 アリ追悼が45分、「本気で殴るつもりはない」誓約肉声テープは前回の33周年記念番組から。約一時間後からの放送で「ノーカット」謳えるのかと尺の逆算ばかりしながら、日曜午後に集英社『燃えろ!新日本プロレス』DVD予習して万全の態勢から編集頭で見ていた方なら、デジタル時代での細部の再編集テクで「世紀の大凡戦」(1976年当時)を、「世紀の対決」に変えた魔法に文句はない。
 アリは必死でお客さんと戦っていた。しょっぱい仕事しか成立しえない試合をやる嵌めになった寝転がった猪木を見ながら、ビッグマウスの声でお客さんになんとか訴える試合を作ろうとしていた。それを大きく拾うというリミックス作業は称賛しておきたい。しかし、例えば「プロレスにキックねえだろ」とイチャモンつけてるだけのことで、まず翻訳がニュアンスわかってない。また、マーク役だったカール・ゴッチ先生の英語の指示テロップ再現っても、猪木本人がまったく聞いてないもの入れて画面が賑やかにはなるが、真実から遠ざかってしまった今回の目玉「音で新事実」の歪曲の笑撃は凄まじい。白のバンテージが軸足の左にというお仕事遂行中の両雄再確認は、テロップ等にはスルーされていたからだ。
 終盤に回数集中させるCM空け、両雄の流しが始まった14R、「ゲスト:石坂浩二」の音声が出る。笑撃だ。なるほど、その手があったか。但し、お茶の間はますますわからなくなる番組構成ではあった。

 アリ猪木には数々の階層に踏み絵がある。ファンのメディア・リテラシーが試されることもそのひとつであり、すべての”権威”は疑ってかかる必要がある。1976年3月25日、ニューヨーク・プラザホテルでの調印式、BENIHANAステーキで地元名士に上り詰めたロッキー青木がMC務める顔見世回、アリは「ボクシングで一番小さいグローブは6オンスだが、さらに小さい4オンスで闘ってやる」と述べている。あまりの凡戦に、米国側の当時の記者記事などが埋もれてしまったが、「アリの次戦が日本でプロレスラーとエキシビション」は、最初からアリ本人より約束され、現地のメディアもそう報道した。ところが集英社版DVDというか当時のテレ朝、「せいぜい一番小さなクラスのボクサー6人で十分だが、それに4人の女性を加えてやる」との、史上空前の珍訳テロップで誤魔化された史実をご存じだろうか? 
 アリ猪木とは、マット界史上最大の誤解が曲解を呼び、プロレスをよくわかってない通訳さんなり、(意図的可能性も捨てきれない)誤訳テロップが絡むという伏魔殿の構造が無数の語り部を生んだ特異な伝説イベント例である。後出しじゃんけんの評論家解説が加わるたびに、さらに珍騒動が多重に歪曲化されていった、日本人ファン気質を海外目線から研究する際のケース・スタディーに違いない。

 日本武道館、6月26日。アリはテーブルに3つのグローブを置いてボクシング記者にも合図している。8オンスならガチ、4オンスの練習用ならエキシビション、サンドバック用を選べば危険シグナルで、最初からプロモーターに大恥をかかせるコメディ戦アピールだ。そして、本気で殴らないことをカセットテープ録音で誓約までした天使のアリは、だらっと広げれば大きくなる4オンスを選んでゲートに向かった。
 アリ猪木の真実は、「本当のがんじがらめ制約」を受けても国際親善試合を成立させたアリこそが神だったことに他ならない。1972年の設立もイケイケ個人商店だけだった新日本プロレスは、負債を抱えたアリ戦のマイナスから会社として眠れる獅子が覚醒していく。

 ”The Greatest”モハメド・アリが、蝶となり飛び立った。74歳だった。プロレス界とはフレッド・ブラッシーにTalkerのルーツがある実像のアリは、ケンタッキー州ルイビル出身。アフリカ系アメリカ人で徴兵拒否と「蝶のように舞い、蜂のように刺す」のタタキ文句で知られる。Wikiなどには「イングランドとアイルランドの血も引く」とあるが、そんなことを言いだせば皆が混じってるの言い分に使われるに過ぎない。ネット検索万能の罠はリテラシーの崩壊だ。黒人差別とも闘ってきた戦士であることが、伝説を不滅たらしめている。
 1974年10月30日、ジョージ・フォアマンと中部アフリカのザイール(現コンゴ)で対戦。8Rでの一発大逆転を演じた『キンシャサの奇跡』では、ライセンスはく奪3年7ヶ月間のブランクを経て7年ぶりに世界ヘビー級王者に返り咲く。翌年3月24日、無名のチャック・ウェプナーと初防衛戦を行うが、格下の当て馬に善戦され15R開始のゴングが鳴ってもウェプナーはリングに立っていた。これを見たシルヴェスター・スタローンが映画『ロッキー』の脚本を書きあげ、運命の歯車が回り始める。ジョー・フレージャーとの”The Thrilla in Manila”を制し、黒人最強、白人最強を倒して「次は東洋人か」というリップサービスに過ぎなかったいつもの煽りに、「資金の工面はあとから考える」フライング昭和プロレス組=アントニオ猪木&新間寿営業本部長の新日本プロレスが噛みつく。ドン・キホーテは見果てぬ夢を追ったのだ。
 
 一方、ヨーコ・オノが付いて装填されたジョン・レノンのように、倍賞美津子との共闘戦士と化したアントニオ猪木は、いよいよ狂い咲く1976年を迎える。今から40年前、マット界は転換点を迎えていた。異種格闘技戦とはなんであったのか? 絶望さえも光になる。

ファンタジー番組と他媒体のナンセンス徹底検証特集の電子書籍版は金曜17日発売『週刊ファイト6月23日号』に収録されます。
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