1年ぶりの帰国マッチ“燃える情念”石川雄規社長インタビュー

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愛弟子・華名選手のWWE入りで、石川雄規の教えの価値が世間に再認識!

カナダ・オンタリオ州ミシサガ市の総合格闘技ジム「Battle  Arts Academy」でコーチをしている石川雄規がリアルジャパン9・18後楽園ホール大会参戦のために1年ぶりに戻ってきた。カードは「情念・石川雄規凱旋試合」と銘打った6人タッグマッチ。石川はタカ・クノウ、アレクサンダー大塚と組んで、高岩竜一、関本大介、長谷川秀彦組と激突する。待ってたぜ、トーイ!
(取材・文:安田拡了)

カナダではお前たちのプロレスなんか、ぶち壊せと教えている

――お帰りなさい。今回は6人タッグですが重厚なメンバーばかりで、どんなプロレスを見せてくれるのか楽しみですよ。いまの日本のプロレスはライブプロレスというか、見ている分にはずいぶん楽しいものが増えた。それはそれで結構なことなんだけど、逆に石川さんのような生々しさを見せてくれるレスラーが希少価値。今回の対戦相手も高岩、関本という小細工が嫌いで真正面からぶつかってくるレスラー。言ってみればかつて日本人レスラーたちが築いてきた文化としてのプロレスを見られるのが楽しみでしょうがない。
石川 ありがとうございます(笑)。
――あらためて、いまカナダでプロレスのクラスを教えていますがずいぶん育ってきたんじゃないですか?
石川 プロレスの技術というのは教えられるんだけど、そこから先のあふれ出る情感というか、たたずまいというか。それは教えられないですからね。それはそのレスラーの人生ですから。僕は小さい頃から世の中がムカついてムカついてね。たとえば夢を否定する大人とか、猪木を否定する大人とかね。フラストレーション、そして怒りを抱いていたんですよ。それをベースに行動していて、そしてプロレスラーになったんですよ。でも、プロレスクラスの彼らは小さい頃から広い家に住んでいて、おもちゃに囲まれ、家族から叱られもせずに育ってきていてね。日本でゆとり教育が問題になったけど、カナダなんかは日本どころではないんですよ。
――超ゆとり教育(笑)。
石川 そうなんですよ。それくらい生ぬるい教育なんです。この間、プロレスクラスの若い子たちの試合があった。なんか伝わってくるものがない。試合のあとに「お前ら、これまで本気で怒ったことはなかったのか!」と怒鳴り散らしたんですよ。もちろん、全員がそうだったわけじゃないけど、怒りとかフラストレーション、焦り、ぶち壊したい気持ちとかそういう感情を持ったことがないのかと。そんなのは教えられないですからね。
――試合が淡々としているんですね。感情が伝わってこない。
石川 そう。カナダに最初に入植してきた第一世代は非常に苦労してきた。しかし、第二世代、第三世代になってくると考えられないくらいに広い家があって、ゲストルームが2つくらいあってね。車が2台入れられる車庫あって、その前にも広い敷地があって…。甘やかされて育っているんですね。プロレスクラスに学校の先生がいるんですが、生徒はが宿題をやってこないから親に電話をするんだけど、親はまったく子供を叱らないらしい。つまり、小さい子供たちも親に真剣に叱られたことがないわけですよ。だから最初は僕が真剣に叱っても子供たちに届かないわけですよ。「何を怒ってるんだ、この人は」と思っている。こっちが真剣に語っているのに、どうして真剣にならないんだと頭にきて拳骨で頭を殴ることもありましたからね。
――えっ、親から抗議されない?
石川 とんでもない。親からはもっとやってくれ、ですよ(笑)。「いいか、お前らがいけないから、ぶん殴るんだ。いいか、よく聞け。このままだったらお前ら人間のクズになるぞ。お前らの周りには怠け者の馬鹿な大人しかいないからわからないんだろうけど、俺を信じろ。このままだとお前らはクズだ」と言う。
――子供たちは分かるの?
石川 わかるんですよ。僕についてきますよ。
――石川雄規の情念が伝わるんですね(笑)。でもカナダのプロレスは石川さんに合わないでしょ(笑)。
石川 カナダのプロレスはファンも100年の形のままなんですよ。悪いことをやるレスラーにブーイングして、悪いことをしないレスラーを応援する。子供たちはそういう構図のなかで安心して見ている。まったく糞!ですよ。悪い役もいい役もプロレスにはないんですよ。うちのプロレスクラスの連中にはお前たちの接してきたプロレスなんかぶち壊せって言ってるんです。だから僕がカナダで試合をやるとファンは総立ちですよ。頑張れ! 立ち上がれ!って、泣いている子だっているんですよ。バトラーツ現象ですよ。

いま必要なのはディズニープロレスじゃない!

――石川さんが魂を伝えようとしている。カナダのプロレスを変えようとしているんですね。面白いなあ。
石川 過去のプロレスに対する挑戦がオリジナルのバトラーツだったんですよ。プロレスの常識をぶち壊し続けてきたわけじゃないですか。ドンキホーテのように。隙あらばやっつける。シュートですよ。
――そうですよね。ファンにプロレスの可能性が伝わったし、僕ら記者たちもバトラーツ魂に共感して取材したんですよね。
石川 人生。映画とか小説とかと同じで、バトラーツの試合を見て、自分を投影させてね、自分ももっと頑張れるんじゃないのかとか思ってくれる。
――その熱い思いが伝わってくるプロレスだった。
石川 いまプロレスはどこを見てもディズニーランドになっちゃった。確かにダイナミックできれいで楽しい。それは悪くはない。ディズニーランドは必要ですよ。しかし、ディズニーランドに行っても人生を考えないでしょ。いまね、小さい団体のプロレスラーもディズニーをやって対抗しようとしているんです。でも誰もいない道端でミッキーマウスが踊ったって、なんのロマンもないですよね。
――バトラーツというのは道端であろうが、どこであろうが人の魂を揺さぶった。だから伝説になったんですよ。プロレスをみて、ハッとして、あるいはじんわりと、ものを考えさせてくれる、そして気づかせてくれるような。そんなプロレスがいまの時代に本当は必要じゃないかな。ディズニープロレスではなく…。
石川 文学ですよね。アントニオ猪木さんが持っていた文学的なプロレスですね。だけど猪木さんの文学プロレスを継いでいる者は誰もいない。
――石川雄規は?
石川 僕のプロレスは山田太一、山田洋二、倉本聡プロレス。だから視聴率をとるような人気俳優なんかいらないんです。人気はなくても本当に実力のある役者。作者はそういう実力を押し出すようなマッチマイクをする。だから、誰だれが来るから見に行くんじゃなくて、行けば何かがある。フーテンの寅さんの「男はつらいよ」を見るような感じかな。選手たちそれぞれの人生があって、僕はプロデューサーとしてマッチメイクをして化学反応をさせて、彼らの人生を紡いだしてやるわけですよ。
――単に闘うだけのプロレスじゃない。
石川 それだけじゃつまらない。自分が闘っているんだけど、もう一人の自分が冷静に闘いを見ている。まるで幽体離脱のようになってね。
――なるほど。初代タイガーマスクがわざわざ石川さんをカナダから呼ぶワケがわかった。本物のプロレスができるレスラーだからですよ。
石川 いやいや、とんでもないですよ。俺の事なんて、一年に一回顔を見せる七夕野郎ですから(笑)。ただ何かを貫き通すことって絶対に大事だと思う。小さい頃、松田聖子の「青い珊瑚礁」を聴いた時、プロレスラーになって有名になって田園調布に家を建てて、松田聖子と結婚すると真剣に思っていたんですよ。結局、そうはならなかったけど、でも、これは決して不可能なことではなかったと思う。
 人生って、そんな宝くじを手に入れるためには本当に狂気に近い思い込みと執念が必要なんですよ。それがなければ、鼻っからあり得る話はなくなってしまう。アントニオ猪木の言う「馬鹿になれ」というのは、まさにそういうことで、人生とは永遠の片恋を貫き通すことなんですよ。
――永遠の片恋を貫き通す。いい話ですね。
石川 貫き通すという根幹に気づいた時、人というのは感性が研ぎ澄まされて、縁や運を呼んでくるんですよ。

マッチメーカーがあえて対戦相手に長谷川選手を選んだのは意味があるんでしょう

――そうかもしれない。さて、今回は6人タッグマッチです。パートナーはアレクサンダー大塚選手とタカ・クノウ選手ですよ。アレクはバトラーツ時代からの弟子であり盟友だから、勝手知ったるという感じですが、タカ・クノウは?
石川 IGFの最初の大会で出会ったんです。
――彼はグラップリング世界王者でテクニシャンですよね。
石川 そうですよ。IGFというエンターテーメントの中で出会って、少しアドバイスをしたんですよ。そしたらタカさんが非常に僕を意識してくれて。誰にも師事したことがなかったらしいんだけど、それから僕のことをたててくれるようになったんですけどね。そういうことでタカさんとは仲がいいですよ。アレクは兄弟分だしね。
――パートナーとすれば、最高ですね。
石川 そうなんです。実際は当たったほうが面白いかもしれないですけど、リアルジャパンさんのほうで、いろいろ考えがあるんでしょうね。
――相手がパワフルな高岩選手、関本選手、それにサンボ、柔術のエキスパート長谷川秀彦選手の強いチームですから、いったいどんな試合になるんでしょうね。
石川 高岩選手、関本選手は安定感があって僕自身、試合もやっていますから、力量はわかりますけどね。
――ですね。一方、長谷川選手は柔術系選手でDEEP王者。テクニック的には実力はありますから、タカ・クノウ選手との絡みが中心になるかもしれませんが、やっぱり石川さんとの絡みは見てみたい。長谷川選手に新しい面白さが生まれるかもしれないから。
石川 長谷川選手、興味がありますね。どんな選手なんだろう。マッチメーカーがあえて長谷川選手を僕たちのチームに当ててくるわけだから、なんか意味があるんでしょうね。
――最近、僕はよく思うんですよ。日本の文化伝統って職人が作ってきた。よく職人的な人だなんて形容する時って、褒めたたえている形容ですよね。その職人文化が日本のプロレスにもあった。力道山から引き継いで猪木さんとゴッチ、山本小鉄、そして藤原喜明という具合に技と精神の伝承をしてきた。石川さんのタッグチームも高岩、関本両選手もプロレス職人たちですよ。長谷川選手はプロレスじゃなくてサンボ、柔術がベース。彼もそっちのほうの職人かもしれない。職人たちの6人タッグマッチ、面白そうです。せっかくだから長谷川選手には是非とも情念のプロレスを堪能してもらいたいですね。
石川 いま職人がいなくなってしまいましたからね。みんな冷凍食品を手に取るようになってね。僕は何でもやりますよ。職人として、目の前に食材を出されれば、どんな料理でも作りますよ。
――職人たちの戦い(笑)。
石川 料理の鉄人的な試合ですかね。プロレスの鉄人(笑)。
――試合、面白くなりそうだなあ。プロレスの職人がこれから少なくなっていくかもしれないから。その意味でも見応えがある。
石川 確かに猪木さんのプロレスは伝承されていないし、職人はこれから少なくなっていくかもしれませんね。職人が技を伝えていくには技を単に教えても伝わっていかない。魂を伝えないと。だからカナダでの僕の教えは「覚悟と情念」なんですよ。
――覚悟とは何の覚悟?
石川 闘う覚悟ですよ。僕らにとって闘う相手というのは対戦相手だけじゃなくて、常識をぶち壊すことでもあったり、すべての何かと闘うこと。その覚悟を持ち、そして溢れんばかりの情念がなければ、プロレスはただのディズニーランドになってしまう。運動神経のいいヤツであれば、誰でもできることになってしまうようなプロレスは僕は興味はない。情念というのは人それぞれのものだから、僕は「お前らの代わりに怒るわけにはいかないし、お前らの代わりに悲しむことはできないんだ。そんなものはお前ら自身がリングの上で描くんだ」という話をするんですよ。プロレスは文学なんですよ。コンピューターグラフィックではなく、墨で描くデッサンなんですよ。
――その通り!
石川 いま、みんながいまデジタルに走っているんで僕はアナログを独占させていただきますよ。
※   ※   ※
華名もバトラーツ魂を貫き通してWWEへ

 石川雄規はいつも何かに怒っていて、それが大きなエネルギーとなっている。しかし、この日のインタビューで華名選手の話が出た時は思わず相好を崩したのがおかしかった。
 華名選手はWWE入りしたばかり。
 石川は言った。
「華名は女子プロレスに入って、たまたま全日本プロレスでミックスドマッチで試合をした。彼女は試合スタイルに迷いがあって、バトラーツスタイルに興味があった。ちょうど僕は及川千尋を女子バトラーツとして育てていたので、ちょうどいいから練習に来なよと誘ったんですよ。それでステップの一歩目からバトラーツスタイルを華名に教育した。及川vs華名で女王蜂(バトラーツ女子部門)で試合をやらせたんです。そんな華名に対して既成の女子プロレスが嫌悪感を抱いていた。華名は悩んだ。僕は『冗談じゃない。そのまま突き進んだほうがいい』と助言したら、いまWWE入団。世界が華名を必要としたじゃないですか。こんなうれしいことはないですよ」(石川)
 華名は石川のバトラーツ魂に感化されて貫き通したことでWWE入団となった。それだけに喜びもひとしおの石川だった。
 

大会概要・対戦カード
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