バカになれ! 行けばわかるさ『アントニオ猪木をさがして』

 アントニオ猪木さんが亡くなって1年、10月6日に映画『アントニオ猪木をさがして』が公開された。もちろん全国ロードショーである。
 筆者も観に行った。平日の午前中とあって客は筆者を含めてたったの5人。まあ、カップルで観に行く映画ではないだろう(笑)。休日だとどれぐらいの入りだったのか気になるところ。
 これから観に行く人のために、ネタバレにならない程度に少しだけ紹介しよう。

https://www.youtube.com/watch?v=Ci2oxAQE22E


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映画の中で数々の証言者がアントニオ猪木さんについて語る

 映画はブラジルのサンパウロから始まる。言うまでもなく、少年時代のアントニオ猪木さんが過ごした場所だ。
 当時の猪木さんを知る日本人が証言する。ご年配の方ばかりなのに、記憶は鮮明だ。

 ブラジルのコーヒー園での過酷な労働が、猪木さんにとって後のプロレスラーとしての基礎体力を育んだのは間違いない。
 陸上競技の投擲種目で頭角を現した猪木さんは、力道山にスカウトされて日本に戻り、プロレスラーとなる。

 ドキュメンタリー映画なのだから、証言が中心になるのは当然だ。ただ、猪木さんの名勝負シーンがもっとバンバン流れると思っていた。そういう場面を期待している人にとっては、ちょっと物足りないかも知れない。
 もちろん、プロレスラーの証言も数多く紹介される。猪木さんのことをよく知る藤波辰爾や藤原喜明、そして猪木さんとはあまり接点のなかったオカダ・カズチカや棚橋弘至など。
 とはいえ、坂口征二や長州力、あるいは猪木さんの片腕だった新間寿氏の証言も欲しかったところ。また、ジャイアント馬場さんとのエピソードもほんの少し触れられただけだった。これは『大人の事情』だから仕方ないか。

 面白かったのは、藤原が藤波vs.長州の『雪の札幌テロ事件』について証言したシーン。猪木さんの試合ではないのに何故この映画に?
 いかにも藤原らしい独特の言い回しで、事件の“真相”を語る。
「俺はクビにならなかった」
と言った藤原。どんな流れでこのセリフが飛び出したのか、それは映画をご覧ください。

▼藤原喜明が映画の中で『雪の札幌テロ事件』の“真相”について語った(のか?)

 個人的に嬉しかったのは、本誌でもお馴染みの写真家、原悦生氏が登場してくれたこと。俳優でプロレス・ファンの安田顕が、原氏との対談を熱望したという。
 高校生の頃から猪木さんの写真を撮り続けた原氏は、やがてプロレス中心のカメラマンに。猪木さんとはイラクや北朝鮮にも同行し、映画では当時の出来事を生々しく証言した。

ノンフィクションだけではなく、ドラマ部分もあり

 前述のように本作はドキュメンタリー映画だが、実はフィクションのドラマパートもある。ドラマパートは1980年代編、1990年代編、2000年代編の3つに分かれ、田口隆祐や後藤洋央紀も出演した。
 このドラマパート、必要か? とも思えるが、最後には一応オチもある。

 1980年代編、小学生の男の子が金曜夜8時のプロレス中継を楽しみにしていた。だが、当時は家庭にビデオデッキなど普及しておらず、テレビは一家に1台という時代。ドラマを見たいという姉とのチャンネル争いになる。
 気になったのは、この姉がどんなドラマを見たがっていたのかという点だ。この日は1984年6月14日に行われたアントニオ猪木vs.ハルク・ホーガンの試合が放送される予定だった。
 この頃は既に『金八先生シリーズ』(TBS系)は放送されていない。まさか、この女の子が『太陽にほえろ!』(日本テレビ系)を見たがっていたわけではないだろう。
 そこで、当時の『ワールドプロレスリング』(テレビ朝日系)の裏番組を調べてみると、おそらく『家族ゲームⅡ』(TBS系)だと思われる。長渕剛が主演していたドラマだ。
 ……映画の内容とは全く関係ないが。

 1990年代編、男女の高校生がファミリー・レストランに入る。このファミレスの看板がDenny’s(デニーズ)に酷似していたが、書かれていた文字は『Journey’s』。
 つまり、カタカナで書くと『ジャニーズ』で、まさか映画制作時に、現在の状態を予見していたのか? だとすれば凄い。

 2000年代編、中年男性が古いVHSビデオテープに偶然録画されていたアントニオ猪木vs.ビッグバン・ベイダーに見入ってしまう。しかし、他の男たちは無関心だ。
 当時のプロレス界は、格闘技ブームに蹂躙されて氷河期に突入していた。もし、本当に描きたかったのが主人公の中年男性以外の反応だったとすれば、ドラマパートの監督は天才だ。

 この映画では他にも、くりぃむしちゅーの有田やアクラム・ペールワンの親族でプロレスリング・ノア所属のレスリング選手アビッド・ハルーンが登場したり、神田伯山が巌流島で講談したりする。なお、ナレーションと主題歌を担当したのは福山雅治だ。
 できれば、ミスター高橋と加治将一氏にも出演していただきたかったが。

 この映画を観に行った方は、案内通りエンドロールで『猪木コール』をご唱和ください。筆者は、客がたった5人だったため、恥ずかしくてとてもできなかったので。


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