[ファイトクラブ]猪木メモリアル、年始アジアタッグ他2023年上半期ワーストバウト5選

 プロレスを観戦する中で素晴らしい試合やベストバウト級の内容は語られるものだが、そうした試合に至るまでの間に、「金を返してほしい」と怒りを覚えるような酷い試合は避けて通る事が出来ない。2023年も半分以上が経過したタイミングだが、ここで2023年上半期に筆者が酷いと感じた試合を振り返っておきたい。酷い理由は様々あるが、どれも人を失望させるだけの個性を放っていたのである。


[週刊ファイト7月27日号]収録 [ファイトクラブ]公開中

▼猪木メモリアル、年始アジアタッグ他2023年上半期ワーストバウト5選
 photo & text by 鈴木太郎
・意外なほど語られない、年間ワーストバウト
・共通項は『金を払って見たことを後悔させる失望感』
・①唖然結末「猪木が泣いているぞ!」抑えきれぬ怒り1・4追悼闇試合
・「これは流石に猪木が泣いている」と呆れ返ったフィニッシュ
・アントニオ猪木の名を穢した追悼マッチ
・②観客洩らした「つまんねえ試合!」 王座戦線低迷決定づけた年始全日
・アジアタッグ王座戦線の元凶は大仁田や電流爆破にあらず
・【論外の思い出作り】でノアと全日が負った手痛い代償
・ベテラン選手の低いクオリティの失望と呆れ
・③団体猛pushメッキ剥がされた無残 令和のAA砲赤井沙希&荒井優希
・タッグとしての連携皆無な王者組
・団体のプッシュは実力あってこそ
・唯一評価出来た箇所は団体のマッチメイク?
・④王座移動も壮麗亜美&MIRAIリングアウト狙いに失望ゴッデス王座戦
・キャリアと実績格差をリングアウト狙いで埋める虚しさ
・強敵を陥落させようとする団体の政治的意図
・⑤攻撃受けすぎで格落とす井上京子と相手任せの外敵ウナギに失望
・野球のように攻守ハッキリ分かれる異常さ
・大ベテランが背中を向けて5分以上も攻められる哀しみ
・口だけで実力のない選手として消費される運命?



 プロレスを観戦していると、毎年のように素晴らしい試合に巡り合う。
その感動の一方で、「何故私は金を払っているのだろう」と虚しさに包まれ、哀しみを抱えたくなるような試合もそれなりに存在している。

 年間ベストバウト級の試合は各方面のプロレスファンから話題が上がり、どの試合が一番なのか喧々諤々となるものだが、反面、年間ワーストバウトについては意外なほどに語られないものだ。筆者の場合、年間ベスト級の一戦よりも、金をドブに捨てるような酷い試合の方が何年経っても忘れることが出来ない。それは、試合に対する失望や身銭を切った事への失敗、ぶつけようのない怒りが込み上げ、幾ばくかの血肉や今後の反省として繋がっているからなのかもしれない。

 そんな今回は、2023年上半期に筆者が観戦した大会の中から、とりわけ酷い試合として印象に刻み込まれている5試合を厳選してみた。筆者が酷いと判断したポイントは、試合結果や試合の決まり方、試合の内容、選手の技量など様々であるが、いずれも金を払って見たことを後悔させる失望感に包まれていた。
 こんなニッチなことを書いてウケる自信など無いが、それでも吐き出さずにはいられない魅力(?)のようなものが、これらの試合には感じられたのである。選手や団体を問わず、自らが金を出して観に行った・配信視聴したものについては、良いものは良いものだと評価し、悪いものは悪いと言う。こういった批評の積み重ねは、当人から突っ込まれたとしても揺るぐものではないし、言われた側は誹謗やデマでもない以上、批評を止める事も逃れる事も出来ないのだから・・・。

①唖然結末「猪木が泣いているぞ!」抑えきれぬ怒り1・4追悼闇試合

■新日本プロレス 『アントニオ猪木追悼大会 WRESTLE KINGDOM 17 in 東京ドーム ~闘魂よ、永遠に~』
■開催日時:2023年1月4日(水) 17:00本戦開始
■会場:東京ドーム

<第0-3試合 30分1本勝負 アントニオ猪木メモリアル6人タッグマッチ>
永田裕志 小島聡 ○真壁刀義
(9分10秒 エビ固め)
●タイガーマスク 鈴木みのる 藤波辰爾

 老舗団体で今現在の団体の方針等への不満が生じた場合、時たま、既に亡くなっている創設者の名前を出す形で批判を展開する意見を見かける。

「猪木が泣いているぞ!」、「馬場が泣いているぞ!」、「三沢が泣いているぞ!」

 筆者はそうした故人を持ち出して語る、イタコ芸のような批判はロクでもないと考えているが、そんな筆者でも「これは流石に猪木が泣いているし、怒るだろう」と呆れ返った試合がある。2023・1・4新日本プロレス東京ドーム大会で行われた『アントニオ猪木メモリアルマッチ』だ。
 本戦開始前のダークマッチとして組まれた、藤波辰爾など新日時代の猪木と接点のあった6選手によるタッグマッチ。だが、試合を決したのは藤波のドラゴンスリーパーでも、鈴木みのるのゴッチ式パイルドライバーでもなく、真壁刀義がタイガーマスクに乗り掛かる体勢で押さえ込んだ場面であった。
 アクシデントではないかという格好で3カウントが入ってしまった瞬間、筆者は思わず呆気に取られてしまった。東京ドームがざわつき、しんと静まり返る様は、さながら放送事故のような雰囲気。

 団体創始者のメモリアルマッチで起きた駄々滑りな結末に、筆者は思わず「猪木が泣いてるぞ!」と叫びたくなってしまったのである。唯一の救いは、本戦の出来に影響しないダークマッチだった事か。それでも、アントニオ猪木の名を冠して行う試合や出場するメンツの名前を考えれば、こんな試合内容がどうして出来るのだろうか?

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②観客洩らした「つまんねえ試合!」 王座戦線低迷決定づけた年始全日

■全日本プロレス 『ニューイヤーウォーズ2023』
■開催日時:2023年1月3日(火) 11:30開始
■会場:東京・後楽園ホール

<第5試合 アジアタッグ選手権試合 60分1本勝負>
【第117代王者組】●大森隆男 井上雅央
(14分59秒 首固め)
【挑戦者組】○NOSAWA論外 ケンドー・カシン

 2022年末の唐突な4WAYから始まった、全日本プロレス・アジアタッグ王座戦線の低迷。
今現在ベルトを保持している大仁田厚&ヨシタツ組の電流爆破マッチ路線はファンから忌避され批判されているものの、筆者はその前に行われたニューイヤーウォーズでのアジアタッグ王座戦が、そもそもの元凶ではないかと考えている。

 2023・1・3後楽園ホール大会。毎年恒例となっている全日の『ニューイヤーウォーズ』2連戦最終日のセミファイナル前に、問題のアジアタッグ王座戦は組まれた。前年末に、全日ではまず見かけない4WAY形式のアジアタッグ王座戦を制した大森隆男&井上雅央組に、引退を発表していたプロレスリング・ノアのNOSAWA論外がケンドー・カシンを引き連れて王座挑戦するという構図。
 論外に対して「引退前の思い出作り」という意見も戦前聞かれた試合だったものの、思い出作りにしてはノアも全日も手痛い代償を払わされたように思えてならない。
 恐らく、10試合前後もあるビッグマッチのダークマッチという位置づけで組まれていたならば、大した批判も反発も起きなかったと思われる。だが、よりにもよって、この日の全7試合中5試合目に組まれる悲劇。試合内容も、和田京平レフェリーと論外やカシンとのやり取りで笑いを誘おうとするも不発。筆者の後ろに座っていた男性客は、隠すことなく不満を露にした。

「つっまんねえ試合!」

 ヤジでもない、独りごちるようにして放たれた観客の不満。加えて、内輪の飲み会の宴会芸のような、抑揚のない地獄の時間は、筆者の中でワーストバウトだと決定づける要素になった。

 2023年のアジアタッグ王座戦線を批判する上で、一番悪手だったのは大仁田厚や電流爆破ではない。まずもって、新年の闘い始めに手抜き試合をマッチメイクしてしまった、全日首脳陣にこそ大きな問題があるのではないだろうか?この箇所を批判せずして、今現在に至るアジアタッグ戦線の低迷は語ることが出来ない。それくらいベテラン選手のクオリティの低さに呆れてしまったのである。

’23年01月12日合併号猪木巌流島 GleatTDC Rizin大晦日 鷹の爪G鈴木 ノア元旦 新日Dome

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