[ファイトクラブ]『中嶋勝彦-宮原健斗』で見たプロレスの素晴らしさと負け惜しみの醜さ

 2023・7・15プロレスリング・ノア後楽園ホール大会。『中嶋勝彦vs.宮原健斗』による世紀の一戦は、中嶋の勝利という結果に終わった。
 中嶋がバックステージで発した一言から決定した一戦は、後楽園ホール超満員を埋め尽くす夢のような空間を形成したが、筆者がこの日感じたのは、プロレスが持つ「絶対はない」というメッセージ性と素晴らしさ、一部の全日ファンと健介オフィスの元後輩が見せた負け惜しみの醜さという2面性だった。目先の結果に縛られ過ぎると、身近にいる者の良さにも気付けない。今の方舟と王道で対照的な雰囲気が生む、ヒリヒリした空間と弊害について語る。


[週刊ファイト7月27日号]収録 [ファイトクラブ]公開中

▼『中嶋勝彦-宮原健斗』で見たプロレスの素晴らしさと負け惜しみの醜さ
 photo & text by 鈴木太郎
・元後輩の私怨も渦巻く因縁の一戦
・宮原の「世間が抱く健介オフィスのイメージ」発言は皮肉?
・メイン以外弱い構成も、成立させたドリームカード
・戦前予想+会場支持は宮原優勢も・・・
・健斗コールで観客が錯覚した【全日ファンの多さ】
・プロレスファンは宮原に思いを託していた?
・攻め急いだ宮原と、一手を残していた中嶋の差
・「プロレスに絶対はない」という不文律見せた中嶋の粋
・一夜の夢盛り上がり水差す一部全日本プロレスファンの負け惜しみ
・明らかになったのは2人の魂ではなく、全日ファンの面倒臭さ
・戦前には聞かなかった【結果への不満】
・試合結果に引っ張られすぎな一部の全日ファン
・全日側が長期的視座を持てないのは、厄介ファンのせい?
・結果が敗戦でもチャンスを活かせるか否か?
・勝敗以上に大きかった宮原へのニーズ
・敗戦のまま終わらせるか否かは、団体・選手・ファン次第


■プロレスリング・ノア 『One Night Dream』
■日時:2023年7月15日(土) 18:30開始
■会場:東京・後楽園ホール
■観衆:1,515人

 2023・7・15プロレスリング・ノア後楽園ホール大会。
 2020年の新型コロナウイルス禍で、同年7・18に有観客興行が再開されてから約3年を迎えようとしていたこの日、ノアの単独開催となる後楽園ホール大会ではコロナ禍以降初となるフルサイズ仕様での満員札止めとなった。

 観客のお目当ては、メインカードで組まれた『中嶋勝彦vs.宮原健斗』によるシングルマッチ。健介オフィス出身で佐々木健介の愛弟子という共通項がありながら、互いにノアと全日本で袂を分かっていた2人は、2023・2・21に行われた武藤敬司引退興行のノア東京ドーム大会まで接点が無かった。まるで、互いに遠ざかるようにしていたかのように。

 そんな因縁のカードでありながら、今回決定したのは大型ビジョンでもリング上でもなく、6・17ノア名古屋国際会議場ビッグマッチでの中嶋によるバックステージコメントと、目立たぬ場所でひっそりと決定していたのである。それでも、この因縁が引き寄せる引力は凄まじいもので、発表直後にたちまち全席完売発表。すかさず追加された立見席についても早々に完売する様子は、久しくノアの後楽園ホール大会で見かけない光景であった。

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 その引力は、元健介オフィスで宮原や中嶋の後輩、マサ北宮の先輩にあたる西川潤(現:モリオカジュンタロウ)という魑魅魍魎をもおびき寄せる事になった。今回の試合が決まるや否や、自身のTwitterで宮原や中嶋の写真を上げながら、下記のような宮原への尊敬と中嶋への私怨を隠さないツイートで一部ファンの注目を浴びはじめたのである。

「今回の闘いはプロレスが大好きでプロレスラーになりたくてなった先輩とプロレスがあまり好きではない人の闘いです。」

「宮原さんから口酸っぱく言われていたのが『普段の行いがリング上に出るからな』と。『普段の練習と雑用は誰も見ていないかも知れないけど、自分のためにもしっかりやれよ』って。今日この2人の魂が明らかになります。」

 かつてブログ上で佐々木健介・北斗晶夫妻や中嶋の強烈なシゴキを告白した事のある西川が、今回の一戦をダシに恨みをぶちまけてきた格好にも見えるが、今回のメインの煽りVTRにおいて、記者会見で宮原が中嶋をビンタした理由を語った際、宮原が「世間が抱く健介オフィスのイメージはあんな感じでしょ?」と言い放つ場面は実に痛快であった。当事者は今を生きているのだ。

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 『中嶋勝彦vs.宮原健斗』の一戦が組まれた今回の後楽園ホール大会だが、参戦する所属選手も一部に絞った上で、普段は8試合程度の試合数も7試合に減らし、女子プロレスのカードも織り交ぜるなど、普段の後楽園と趣向を変えるカード編成となった。
 よく言えばコンパクト、悪く言えばメイン以外のカードが弱い構成も、強力な『中嶋勝彦vs.宮原健斗』だからこそ成立したと言えよう。失礼を承知で言えば、前月の6・22後楽園ホールメインの『拳王vs.潮崎豪』のようなカードだったならば、配信視聴で済ませる人間は少なくなかったのではないだろうか? それほどまでに、この日のメインの訴求力は絶大なものがあった。

 戦前、ABEMAで募った勝利者予想アンケートでは、ノアの主催興行にもかかわらず、宮原が54.1%の票を獲得した。現世界タッグ王者の宮原に対して、現在無冠の中嶋。これが仮に双方丸腰の状態だったならば、この投票結果も一段と拮抗していただろうが・・・。
 正直なところ、筆者も宮原が勝つと予想していた。現状のタイトル保持の状況に加え、中嶋は負けても自らの格が落ちない稀有な選手でもある。それに、つい先日まで世界タッグ王座が拳王&征矢学のノア勢に流出していた事情を加味すれば、(無粋な言い方にはなるが)「この一戦の1敗くらい、ノアが差し出さなければとても釣り合わないだろう」とも感じていた。

 それだけに、試合を制した選手が中嶋になった瞬間、筆者は思わず「よっしゃあ!」と声にならない声を上げてしまった。しかし、その声を上げた瞬間、ノアの主催興行にもかかわらず、どこかしんとした空気に居心地の悪さを感じてしまったのである。何故ならば、この一戦を支配していたのは、宮原に対する圧倒的な健斗コールだったからだ。

 煽りVTRが終わり、宮原健斗の入場曲が流れた瞬間、会場中は健斗コールに包まれる。その声量は「全日本プロレスファンがアウェーの地に訪れた」という要因だけでは考察できないほどの多さだった。試合が始まってもなお途切れることのない健斗コールを聞いて、この試合を観戦していた知人は大会終了後にこんな言葉を口にした。

「今の全日本プロレスって、結構ファンがいるんだね!」

 筆者は回答に窮した。ここ最近の全日本プロレスは、永田裕志や小島聡といった新日本プロレス勢の参戦や、国内マット界で新進気鋭の黒船・GLEATとの対抗戦を行うも、毎月行われる後楽園ホールの動員は1,000人を切っている有り様だ。仮に全日のファンがそっくりそのまま来たとしても、ノアの会場で勝彦コールがそれなりに聞こえてくるはずだ。しかし、勝彦コールがあっという間にかき消されてしまうくらい、宮原の存在感はアウェーのノアマットをたちまち飲み込んでいった。それはまるで、全日ファンだけでない、プロレスファンが宮原の勝利に思いを託していたかのような声量であった。

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