[ファイトクラブ]時代錯誤が生んだWJプロレスの悲劇~消えたプロレス団体

[週刊ファイト7月20日号]収録 [ファイトクラブ]公開中

▼時代錯誤が生んだWJプロレスの悲劇~消えたプロレス団体
 by 安威川敏樹
・恵まれた船出、WJプロレスの黄金時代
・WJプロレスに集まったのは、ビッグ・ネームという名のロートル
・旗揚げから数ヵ月でWJプロレスは事実上の経営破綻
・WJプロレスの悪あがきはまだまだ続く
・SWSが戦艦大和ならば、WJプロレスは大日本帝国
・WJプロレスにとって唯一の存在価値とは?


 せっかく旗揚げしても、資金難ですぐに破綻してしまうプロレス団体は多い。その法則に当てはまらなかった団体がSWSだ。SWSは潤沢な資金がありながら、僅か2年で崩壊してしまった。
 もう一つ、忘れてはならないのがWJプロレスだろう。だが、WJプロレスの悲劇性はSWSの比ではない。SWSが崩壊したのはマスコミの妨害などもあったのが原因だが、WJプロレスの場合はまさしく自業自得、史上最も残念なプロレス団体とさえ呼ばれるほどだった。(文中敬称略)

▼集中砲火を浴びてあっけなく沈没したSWS~消えたプロレス団体

[ファイトクラブ]集中砲火を浴びてあっけなく沈没したSWS~消えたプロレス団体

恵まれた船出、WJプロレスの黄金時代

 WJプロレスが創設されたのは2002年11月。設立の中心となったのが長州力と、“ゴマシオ”こと永島勝司だった。
 長州と永島と言えば、長州がレスラー兼現場監督、永島が企画宣伝部長として1990年代の新日本プロレスを大いに盛り上げた名コンビである。

 しかし、永島はオーナーのアントニオ猪木から新日本プロレスを追われ、ナガシマ企画を設立。さらに長州も猪木批判を行ったため新日を退社、永島と合流し社名もリキ・ナガシマ企画と変更した。2002年5月のことである。
 長州&永島コンビが目指したのはもちろん、新団体設立。新日本プロレス、そしてアントニオ猪木への恨みを晴らすためのプロレス団体だ。そういう点では、第二次UWFに似ている。

 1990年代の新日の隆盛を作り上げたコンビに、新日時代からのタニマチだった大星実業グループの福田政二社長がスポンサーに付いた。大星実業グループとは、北海道でパチンコのチェーン店や不動産業などの事業展開をしていた会社だ。長州&永島の最強タッグに、これだけのスポンサーがバックにいれば鬼に金棒である。
 リキ・ナガシマ企画は福田政二社長、永島勝司専務、吉田光雄(長州力)取締役体制でファイティング・オブ・ワールド・ジャパン、即ちWJプロレスとなって旗揚げへまっしぐらとなった。

 新団体WJプロレスに、福田社長から運営資金として1億円が用意される。とはいえ、大星実業グループからの出資のため贈与というわけにはいかず、借用書に長州と永島のサインが必要となったが、あくまでも形式上でのことと説明された。この借用書が、後に大問題となる。
 多くの新団体が旗揚げ用に必要な費用を捻出するのに四苦八苦するところを、いきなり1億円を手にするという、かなり恵まれた船出となった。

 だが、考えてみれば『たかが』1億円である。メガネスーパーがSWSに注ぎ込んだと言われる約99億円(一説には約200億円)の僅か1%だ。今年(2023年)の大谷翔平なら、5日間足らずで稼いでしまう金額である(年俸と副収入を合わせて推定約85億円)。

 まずWJは、立派な道場を用意した。これはカネがなくても道場だけは確保するという新日イズムを継承する意味でも当然だったのだが、それ以外の諸経費が掛かり過ぎたのだ。
 事務所を東京都心の一等地に構え、その家賃だけでも月120万円が消えていく。さらには選手寮や社宅(なぜ社宅まで必要だったのかは不明)、倉庫に駐車場といった諸経費もバカにならない。社長専用車に高級車のセルシオを用意し、しかも巡業用のバスやトラックまでリースではなくキャッシュで購入した。

 選手を集めるため、用意した支度金は破格となる1人500万円。長州がシリーズ前に行う恒例のサイパン合宿が384万円。極め付けは、2002年12月に行った忘年会だった。
 東京湾で屋形船を借り切って、多くの著名人を集め超豪華な宴会を行う。そもそも、旗揚げもしていないのになぜ忘年会なのか理解に苦しむが、参加者全員には1個2万円という高級夕張メロンを土産として配り、さらにウニやイクラなどの北海道高級食材をお歳暮に贈った。この忘年会による一晩で使ったカネは約500万円。昭和最後のバブル期でもなかったようなバカげた浪費を、WJは平成不況の真っ只中で行った。

 後に長州と永島は、この忘年会のことを死ぬほど後悔しただろう。というか、後悔しなければおかしい。この忘年会での出費がなければ、後楽園ホールの会場費なんて余裕で払えたし、永島が監禁されることもなかった。

 旗揚げ前に1億円はあっという間に泡のように消える。カネに苦労する他団体から見れば、羨ましいと思ったか、あるいはカネはもっと有効に使えよと他人事ながら心配したかも。
 福田社長は早くも1億円を追加投資。もちろん、長州と永島に貸し付けるという形だ。しかし、当時の長州と永島には、2億円もの多額の借金をしているという感覚はなかったのだろう。

 間違いなくWJの黄金時代、絶頂期は旗揚げ前だったと言える。

WJプロレスに集まったのは、ビッグ・ネームという名のロートル

 今から20年前の2003年3月1日、横浜アリーナでWJプロレスが旗揚げ。観衆は13,200人で超満員。もちろん、これは主催者発表で、人数もキッカリの数字なので実数ではない水増し数字であることは明らか。実際には半分程度しか客が埋まらなかったという。
 そもそも、水増しでもこの数字というのが問題だ。キャパシティが1万7千人の横浜アリーナで、1万3千人強にもかかわらず超満員の発表。どうせ水増しなら1万7千人と言えばいいのに。

 この日はプロレスリング・ノアが東京・日本武道館で、人気絶頂のK‐1が東京・有明コロシアムで興行を行ったため、前売り券の売り上げが悪い。しかも、大雨が降っていたので当日券も売れないという不運もあった。
 だが、本当の不運とはそういうことではない。最も不運だったのは、客足が伸びなかったのが他団体および天候のせいという言い訳ができたことだった。つまり、チケットが売れなかった本当の原因を追究しなかったのである。というか、現実から目を背けたのだろう。

 長州力ほどの有名レスラーが興したプロレス団体の旗揚げ戦なら、他団体が同じ地域で興行を行おうが、台風でもない限り天候がどうであろうが、横浜アリーナを満杯にできたはずだ。レストランでもショッピングセンターでも、開店当日は超満員になるだろう。
 ところが、WJは『開店ご祝儀』を活かすことができなかった。つまり、好条件が揃っていたとしても満員にはならなかったに違いない。資金も既に底を突き、WJの前途には暗雲が立ち込める。

 WJのキャッチフレーズは『プロレス界のド真ん中を行く』『目ン玉が飛び出るようなストロング・スタイル』。旗揚げ当初の目玉カードは、長州力vs.天龍源一郎の6連戦だった。
 他の参加レスラーは佐々木健介、馳浩、越中詩郎、大仁田厚、谷津嘉章、安生洋二、大森隆男、鈴木健想、外国人レスラーではザ・ロード・ウォリアーズやドン・フライといったビッグ・ネームばかり。このメンバーなら、長州や永島が強気になるのも判る。

 その反面、前座は別にしてこの中でフレッシュなのはせいぜい健想ぐらいで、悪く言えばロートルの集まりである。何しろメインが6回連続で長州vs.天龍だ。
 当時の長州は51歳で、しかも1回は引退した身である。相手の天龍はそれより2つ年上の53歳。しかも、過去に何度も対戦経験がある両者の激突では、夢の対決でも何でもない。ある意味、見飽きた試合を6回も連続で行うのだ。

 さらに『目ン玉が飛び出るようなストロング・スタイル』という割には、大仁田の電流爆破デスマッチが組み込まれている。言うまでもなく、ストロング・スタイルとは真逆の試合形式だ。
 また、長州は話題作りのアングルを嫌った。永島は、健介が長州を裏切るというアングルを考えたが、長州はこれを一蹴している。かつて、アントニオ猪木のハルク・ホーガンに対するリターン・マッチで、長州は無意味な乱入をさせられた苦い経験から、ヘタなアングル作りをさせなかったのかも知れない。
 だが、そのためWJはドラマの無い、つまらないファイトが続くようになった。

旗揚げから数ヵ月でWJプロレスは事実上の経営破綻

 旗揚げ戦のメインでは、長州力が天龍源一郎をリキ・ラリアットでピンフォールする。長州らしいスカッとした勝ち方でファンが喜ぶと思いきや、僅か7分53秒という試合時間に肩透かし。
 2人とも50歳超えだから仕方ないと言えばそれまでだが、ファンからカネを貰ってファイトを見せているプロなのだから、そんな言い訳は通用しないだろう。というよりも、8分足らずのファイトしかできない両者がメインを張らざるを得ないというWJプロレスに、前途多難を予感させた。

 さらに、WJをアクシデントが襲う。天龍との4戦目を前に、長州がアキレス腱を痛めたのだ。やむを得ず、天龍の負傷欠場ということにして長州のメンツを守るが、旗揚げシリーズの目玉だったはずの長州vs.天龍6連戦は半分の3連戦で頓挫した。
 長州だけではなく、参議院議員だった大仁田厚もイラク戦争の勃発により、政治活動を優先するためプロレスは欠場。大仁田の場合はやむを得ないとはいえ、WJの中で最も知名度のある長州、天龍、大仁田がいないとなれば、ファンがカネ返せと怒るのも無理はなかった。

 あれだけ潤沢だった資金は早くもオバケのQ太郎のように消え、旗揚げして2ヵ月後には福田社長および長州、永島勝司の給与はストップする。
 6月に行われる予定だった神奈川・相模原市立総合体育館大会を『諸事情』のために中止。せっかくタイトルを新設して、新チャンピオンに佐々木健介が輝いても肝心のチャンピオン・ベルトが間に合わないという珍現象。こんなプロレス団体が、信用を得られるはずがない。
 さらに、7月28日には練習生として参加していたジャイアント落合が練習中に倒れ、数日後に他界。WJはマスコミから批判され、イメージは地に落ちたものとなった。これにより、スポンサーとなる予定だった家電量販店が撤退。WJは生命線を断たれた。

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