[Fightドキュメンタリー劇場 46]I編集長的考察~A猪木-ミスターX1979はただの凡戦ではなかった?

[週刊ファイト2月2日号]収録 [ファイトクラブ]公開中

▼[Fightドキュメンタリー劇場 46] 井上義啓の喫茶店トーク
 I編集長的考察~A猪木-ミスターX1979はただの凡戦ではなかった?
 by Favorite Cafe 管理人


 I編集長は、「ミスターX戦は、今から考えると見るべきところがあった試合。それを一方的に“凡戦”と評価してしまったマスコミにも非がある」と語る。ダメな試合、あ~だこ~だと言われる試合も、検討して分析してみると本当はそうじゃないと言う試合がたくさんある。ちょうど年末の『INOKI BOM-BA-YE×巌流島 in 両国』にて、令和のミスターXが期待通りの笑いを誘ったのは記憶に新しい。あらためて1979年のアントニオ猪木を問う。

 2022年12月28日(水)両国国技館で開催された『INOKI BOM-BA-YE×巌流島 in 両国』に謎の覆面格闘家「ミスターX」が参戦した。この大会に参戦が決まったときに週刊ファイトがミスターXを評した記事は以下の通り。
 「アントニオ猪木の異種格闘技戦史上、一番の凡戦だったと酷評されたミスターX戦! テレ朝のゴールデンでスペシャル特番まで組んでの公開スパーリング、梶原一騎原作の『四角いジャングル』での準主役的な売り出し方を見て、とんでもない空手家がやってくると思いきや、登場したのはおかしすぎるマスクを被ったタダのデブだった」・・・・さんざんな評価である。


<次鋒戦 巌流島ルール 無差別級 3分3R>
〇貴賢神(大相撲/日本)
 1R 0分44秒 一本 ※転落3回
●ジミー・アンブリッツ(ミスターX)

 『INOKI BOM-BA-YE×巌流島 in 両国』のミスターXも、大方のプロレスファンの期待を裏切ることのない「ミスターX」らしさを見せてくれた。谷川貞治プロデュース大会の常連というか、ジミー・アンブリッツだったからだ。彼の場合は覆面かぶってプロレスやったこともある戦歴なので違和感はない。しかしI編集長は、後年「猪木vs.ミスターX戦」を振り返って、独自の考え方を語っている。「ミスターX戦は、今から考えると見るべきところがあった試合。それを一方的に“凡戦”と評価してしまったマスコミにも非がある。ダメな試合、あーだ、こーだと言われる試合も、検討して分析してみると本当はそうじゃないと言う試合がたくさんある」と言うのだ。

 令和のミスターXは元大相撲の貴賢神に押し出されるだけだったが、昭和プロレスから見ているファンには大いに笑かせてくれた。これぞ『イノキ・ボンバイエ』なのだった。撮影:松橋隆樹


 一方、昭和のミスターXは、なにしろ井上譲二、タダシ☆タナカ、藤井敏之、西尾智幸と、現在の本誌・皆さんが揃って現場の大阪府立体育会館で生観戦している。

 WWFが認定する世界マーシャルアーツ・ヘビー級王座のベルトが、初めて日本のリング上でお披露目されたのもこの日である。若き日の古館アナや、倍賞リングアナに挟まれた猪木のお姿は西尾智幸さん撮影の貴重な1枚なのだ。

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 本誌はこれに先駆け、1978年12月18日、ニューヨークMSGでビンス・マクマホンSRから世界マーシャルアーツ王者に認定されたアントニオ猪木も現場取材している。サイト内検索窓を使えば沢山出てくるのみならず、ジョージ・ナポリターノ記者による1枚は表紙にもなった。

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■ 闘いのワンダーランド #062(1997.02.28放送)

(I編集長) 昭和54年の異種格闘技戦と言いますと、2月6日の大阪府立体育館「猪木vs.ミスターX戦」、4月3日の福岡スポーツセンター「猪木vs.レフトフック・デイトン戦」、この二つです。今日はまず、ミスターX戦についてお話ししましょう。

1979年2月6日 異種格闘技戦ポスター

(I編集長) ミスターXとの試合が決まった時に新間さんの方から、「モンスターマンとの試合は凄い試合になったけども、ミスターX戦も凄い試合になりますよ!」と言われた訳ですよ。その時に「ミスターX」って、いったいどんな格闘家なんだ?と。おそらくマーシャルアーツの選手だろうと思いましたよ。全米のプロ空手ですね。マーシャルアーツの第一人者、当時のヘビー級のチャンピオンがザ・モンスターマンでした。だから2番手に違いないと、誰だってそう思いますよ。だから新間さんに「新間さん、マスクをかぶっているけど、プロ空手の2番手だから隠してるんじゃ無いのか?」と言ったら「いやいや、本当に正体が分からないんだ」と言うんですね、コレ。新間さんが正体を知らないはずがないじゃないですか。前の年の12月にその格闘家本人と会って契約をしたんだし、猪木だってロサンゼルスで会っている筈なんですよ。ハッキリ言って「ミスターX」の名前でパスポートがとれるわけが無いですよね。だから本名で来るはずだし、新日本プロレスとしては当然知ってますよ。しかし、それにマスクを被せて「ミスターX」として異種格闘技戦を闘わせることにしたのは、あまりにも怪しいと思ったんです。それでも「正体は誰なんだ?」と聞いても教えてくれないし、経歴も一切言わないんですね。

謎のミスターXの挑戦を報じる放送席(TV放送画面より)

(I編集長) ただ、身長が198センチメートル、体重120キロの大男だと写真を見せてくれたんです。コレがハッキリ言ってふざけた写真でしたよ。大男の後ろ向きの写真なんですよ。新間氏が一緒に写っていて、新間氏は顔をこちらに向けている、それでミスターXが左手で新間氏の頭を押さえてる、そんな写真をマスコミに配ったわけですよ。私は写真を見て、これは「ストロング・ベン」だと思ったんです。

ミスターX戦について持論を展開するI編集長(TV放送画面より)

(I編集長) マーシャルアーツのヘビー級にストロング・ベンという強豪がいたんです。これもオーバーに言うわけでは無く、本当に「殺し屋」だったんですよ。戦歴を調べればわかりますよ。46戦20勝です。20勝は短時間での完璧な勝利でしてね。苦戦して勝った試合なんかは一つも無いんです。あとの26試合は、全部反則負けです。それも全部、対戦相手を病院送りにしての反則負けですよ。だからストロング・ベンも凄い殺し屋なんですよ。だからこんな推測でミスターXはチャンピオンじゃ無いけども、凄い男だと、マスコミが勝手に決めつけてしまったんですね。1m98cm、120㎏のマーシャルアーツの選手を調べて見ると、この男しかいないんですよね。私はストロング・ベンしかいないと思っていたんです。ところが、本当はストロング・ベンではなかったんです。じゃあ正体は誰だったのかと。

(I編集長) そうこうしているうちに、このミスターXが日本にやってきました。それで本人を見てみると、新間さんが配ってくれた写真とは全然違うんですね。なんかブクブクと太っていてね、柔道着なんかも変な着方をしてましたよ。「オカシイじゃ無いか、これ。全然違うじゃ無いか」と新間さんに言ったんです。公開スパーリングを大阪の新和ジムというところでやったんですけどね、「ベターッ」と両足を広げで床に付けて、いわゆる「又割り」ですね、これをやってみせたんです。それで、「寝技もOKだ」と言っているんですよね。私はこれもハッキリ言ってオカシイと思ったんですよ。だいたいね、プロ空手の選手がね、どう考えたって寝技をやっているはずが無いんですよ。猪木が寝技の条件を出したらOKだと言ったらしい。「寝技だって猪木に負けるはずが無い」と。猪木も「マスクなんか被りやがって、ふざけた野郎だ。寝技がOKならスリーパーホールドで締め落としてやる」そんなことを言っていましたよ。

週刊ファイト(1979年2月13日号)

(I編集長) 例によって、藤原喜明がミスターXのスパーリングパートナーを努めることになって、スパーリングを新和ジムでやりました。ミスターXはボクシングスタイルでパンチとか、蹴りのデモンストレーションをやるんです。そしたら、いきないマネージャーの首を取って「ガーン」と投げ飛ばして、そして上にのしかかって圧殺したんですよね。マネージャーはホップスといいましたかね。藤原はそれを見ていて、確かにスパーリングはボクシングスタイルでやっているけども、「この男は空手マンではないな」と感じたんです。というのは、首を締め上げる力とか、投げ方、圧殺する寝技とかを見ていると、どう考えてもこれはアマレスの選手か、そうじゃなければ柔道をかじっている男だと見たんです。我々マスコミも、そういった質問を新間氏にぶつけたんですけども、例によって「よくわからないんだ」と、ノラリクラリと逃げてしまうんです。

公開スパーリングでのミスターX(TV放送画面より)

(I編集長) そして大阪大会を迎えて、ついに試合が始まりました。案の定、第一ラウンドにミスターXは、「ガーッ」と猪木の首を締め上げて投げ飛ばすわけですね。それで上からのしかかる。押さえるポイントはツボに「ピシーッ」と入っていましたよ。猪木は目を白黒させていましたね。だからあれはマーシャルアーツの選手ができる技じゃ無いですよ。そういったことで第一ラウンドは終わりました。ハッキリ言って第一ラウンドはミスターXのポイントでしたね。第一ラウンドの猪木はいつでもそうなんです。攻めさせて様子を見るんです。だから猪木が攻勢に出なかったのは分かるんです。しかし第二ラウンドは猪木が攻勢に出ました。いきなり「バーン」とやって、卍固めかなんかでやっつけてしまう。ロープ際だったので、ロープブレイクになる。そしてゴングに救われると言う展開。そして第三ラウンドに突入していきました。猪木はアリキックを「バーン」とかまして、左からの一本背負いで投げ飛ばす。それでもう、あっという間にギブアップさせてしまったんですよね。試合後には長州あたりの若手が、ぶっ倒れたミスターXを担架に乗せて運んでいきましたよ。

担架で運ばれるミスターX(週刊ファイト1979年2月20日号)

(I編集長) 当時のミスターXの評判というのは、ただ訳のわからん男にマスクを被せたね、トンデモ無い男だったということになっておったし、事実そうだったんですよ。関係者の話を聞いてもね。ですから当時我々の目から見てもあの試合は凡戦だと見えましたよ。そういえば後に大阪でやったアティサノエあたりとの試合も酷い試合でしたね。だからこれらの試合は、そういった風に「大凡戦」と言われています。しかし今から考えてみますとですね、ヤッパリそこそこの試合だったという見方もできますよ。決してあの試合はエエ加減にファンを騙したような試合じゃ無いですよ。猪木が非常に上手にミスターXの力を引き出している、これもありますしね。

ミスターXの攻撃も評価(週刊ファイト1979年2月20日号)

(I編集長) 凡戦だったのにもかかわらず、試合が終わったときに、テレ朝の舟橋アナや新間氏あたりが「ブワーッ」と控え室に駆け込んできて、「やったー」って抱き合って喜んでましたよ。何故そんなに喜んだかというと、どうにもならないしょうも無い試合になるんじゃ無いかと、ハッキリ言えば「金返せー!」と言われるような試合になるんじゃないかとビクビクしておったんですよ。ところが実際には第3ラウンドまで持って行けたんでね、「ヤレヤレ」と思ったということでしょうね。だから決してね、これまた井上が猪木を弁護して余計なことを言っているという訳では無く、これはそこまで悪い試合では無かったということなんですよ。

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