山本ヤマモ雅俊の九州プロレス東京大会観戦記

■ 九州プロレス東京旗揚げ戦〜上京〜
日時:1月3日
会場:新宿FACE 観衆242人(満員=主催者発表)

 今年最初の生観戦は九州プロレス東京初見参。

 コロナ直前の2020年1・18に熊本でヤマモ酒が開催され、その翌日に大牟田で行われた大会を観戦。九州プロのそのハイクオリティに驚いた自分にとっては、まさに待ちに待った大会だ。

 新宿FACEに会場入りすると、アリーナからばってん×ぶらぶらのマイクの声が聞こえてくる。
 試合前の前説で会場を暖めているようだが、自分は大会開始直前に新宿FACEに着いたので数秒しか聴けず残念。

 照明が落ちてスポットライトがあたるとそこには筑前りょう太代表が。そしてこのマイクが感動的だった。

「13年の年月が流れて、やっとこの東京に来る事が出来ました!!」
 万感胸に迫るとはまさにこの事。おそらく筑前代表の脳裏にはこの時にいろいろな場面がよぎったのだと思う。
 地元での春夏秋冬の中での地道で、また地味な営業活動の数々。興行の成功に歓喜した事。そしてアクシデントや失敗に唇を噛み締めながらも、それでも前に進まなければいけなかった事。

 自分自身の体験ともオーバーラップして一瞬目頭が熱くなった。

映像に続いて第1試合は野崎広大vs.花見達也(2AW)
<上京初陣~覚醒する猛獣・東京初上陸!~シングルマッチ 15分1本勝負>
○野崎広大
 8分30秒 砲弾スピアー⇒片エビ固め
●花見達也(2AW)

 野崎はそのスーパーヘビーの体格を活かす為にあえて技の数を少なくしている。これは軽量で動き回る花見とのそのコントラストが良く出た試合。だからこそフィニッシュの砲弾スピアーは破壊力・見栄え共に満点。これから始まる興行にまさに弾みを付ける一戦となる。

 「ここでリングを消毒致します」とアナウンスが入ると、すかさず照明が落ちて映像でスポンサーのCMが流れる。しっかりと間を持たせて、興行のテンポを維持する作業を意識している事が分かる。

第2試合「ばってん×ぶらぶらvs.桜島なおき」急遽がばいじいちゃん
<純血九州産地直送!~オイは東京に行くバイ!~シングルマッチ⇒3WAYマッチ 20分1本勝負>
○桜島なおき
 6分8秒 ジャーマン・スープレックス・ホールド
●ばってん×ぶらぶら
※がばいじいちゃん急遽参戦により3wat戦に変更

 ばってんのエンタメマイクからの、がばいじいちゃんの登場。急遽3wayに変更。がばいじいちゃんが沖縄からワープする映像演出など、とにかくいろいろな事が起きた試合だが・・・。自分が最も注目したのは、この盛り沢山を試合タイムを含めて、入場から終了までしっかりと15分前後に収めて間延びさせなかった事だ。

 また、ばってん氏の「芸人としてのスキル」も以前より確実に成長していて、話芸とプロレスのバランスがちゃんと取れているので、結果観客の満足度が上がる好循環である。
 いつの間にか、ばってん氏は九州プロレスに無くてはならない存在に。恐るべし、ばってん×ぶらぶら。

 そして自分のイチ押しの桜島なおき選手は、いつものベストシェイプで登場。今回のコミカルマッチの中でも、しっかりとあのハイアングルのドロップキックと完璧なジャーマンを見せてくれたので、これはこれで大満足でした。

第3試合は佐々木日出丸vs.田中稔(GLEAT)のUWFルールマッチ
<九州東京格闘芸術~STARLANESvsLIDET UWF~ 20分1本勝負>
●佐々木日田丸[D4 E1]
 10分53秒 TKO
○田中稔(GLEAT)[D0 E4]

 お互いにしっかりとしたバックボーンを持つので、当然ながらレヴェルの高いグラップリングが展開される。
 折からのコロナ禍で観客は声を出せないが、むしろだからこそ活きる試合形式。まさに固唾を呑んで観客は見守る。
 エスケープの奪い合いで白熱する試合は稔のハイキックで決着。

 特筆すべきは日出丸の終始変わらなかった激しい「敵意」だ。
 勝っても負けてもノーサイドではなく「次は殺ってやるぞ」があるからこそプロレス。ひとつ前のコミカルマッチとのコントラストを強く付けたのも効果的だったと思う。

高速タッグマッチ めんたい☆キッド&SUGI vs.のはしたろう&Kagetora
<ルチャ浪漫飛行~伏線回収・闘龍門AGAIN~ 30分1本勝負>
○めんたい☆キッド SUGI(フリー)
 12分12秒 めんたい☆スプラッシュ⇒片エビ固め
●のはしたろう(みちのく) Kagetora(DRAGON GATE)

 闘龍門をルーツに持つ四人の試合は息をも付かせぬハイスパートの連続で、これはお正月映画のスペクタクルだ。めんたいの素晴らしさは勿論、東京では比較的露出の多い他の三人も、いつもと違う華をまとって活き活きと闘う。

 極論だがプロレス界全体の世代交代は早いように見えて実は遅いと自分は思っている。団体が意識的にプッシュする作られたヒーロー以外に、彼らの様な叩き上げが注目されてからこそ、初めて新しい時代の扉が開かれる。自分はそう思う。

 試合はめんたいがめんたい☆スプラッシュをのはしに決めてフィニッシュだった。

玄海が真霜拳號を下し戴冠!GAINAと3way九州プロレス選手権試合
<『上京』九州の乱・東京上陸!~九州プロレス選手権試合 3WAYマッチ~ 60分1本勝負>
[王者]●真霜拳號(2AW)
 19分23秒 超人拳⇒エビ固め
[挑戦者/玄武會]○玄海
※もう1人はGAINA(フリー)
※真霜が2度目の防衛に失敗。玄海が第10代王者となる

 チャンピオンは真霜拳號で、玄海とGAINAがタイトルを争う3wayのメイにベント。19分を越える白熱の試合には、観客の意表を突く3wayならではの展開が散りばめられる。

 地方密着団体の、この三人の選手達の技術の確かさと迫力。激しい試合をしながらも併せ持つ彼らの場の雰囲気を読みきる力。そしてゲームメイクの発想。その豊かさはどうだ。

 新しいものや、トレンドばかりを追いかける今のプロレス界は何か大事なものを忘れていないだろうか。九州のファン達はとっくの昔にそれに気づいているゾ。

 終始スクランブルする攻防の中で、玄海の切り裂くような超人拳(ストレートパンチに近いエルボーバット)が真霜に炸裂し、玄海がタイトルを九州プロに奪還する。

筑前りょう太代表「皆さんが俺たちをここまで連れて来てくれた」

 玄海「大会の締めは俺じゃないだろう! アンタがいなかったら、ここまで来れなかったじゃろう!!」

 玄海に呼び込まれた筑前代表が再度リングに入りマイクを持つ。
「皆さんが俺たちをここまで連れて来てくれた」
「皆さんに感謝を返したい」
 ひとつひとつのワードに筑前代表の人柄が滲み出る。

 決定した10月4日の後楽園ホール進出では「今日以上の九州男児の元気をお見せします!」と、大会を見事に締めた。

ヤマモ総括 「今年初観戦が九州プロレスで良かった、本当に良かった」
会場には団体スポンサーからの横断幕。地道で堅実な営業を展開

 改めて自分が驚いたのは、選手・レフリー・リングアナは勿論、その他のスタッフとの連携の良さ。

 常時、提供されている九州のホームリングではなく、人員配置と大会演出を含めて、これをそのまま東京に持って来て披露するのは本当に大変だっただろうと思う。

 この原稿を書いている今は、明けて1月4日の昼。もう彼らは東京を離れて帰路に付いているのだろうか。また彼らの九州でのプロレスロードが始まる。

 自分は10月4日の後楽園大会は必ず観る。だがそれ以上に彼らの地元・九州での、あの唯一無二のパッケージプロレスをまた観てみたいとも思う。

 それにしても今年初のプロレスが九州プロレスで良かった。
 本当に良かった。
 本当にこれを観れて良かった。


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