山本ヤマモ雅俊の鷹の爪大賞2020

[週刊ファイト12月31日号]収録

 まず、今年の2月19日に行われたTCW・トーキョー・チャンピオンシップ・レスリングを今年の『大賞』とさせていただきたい。

 その中でTCWは出場メンバー、試合内容の充実、またマッチメイクの着眼点なども含めて、とにかく既存のカテゴリーに収まりきれない興行で語り出すとキリが無い。同大会のリングアナウンサーという立場を抜きにして、あの現場で体感出来たプロレスがもの凄いものだったのは間違いない。

 主催のジミー鈴木・ガンダーラ鈴木の両氏はコロナ禍の中で沈黙を守らざるを得ない状況だが、当然やる気は満々。むしろ、爆発の時を今か今かと待ちながらより凄いアイデアを練っている最中だ。

▼2・19はプロレスの日! 興行戦争は断然、新木場TCWが優勝!!

2・19はプロレスの日! 興行戦争は断然、新木場TCWが優勝!!


※週刊ファイトには世界最長の全16ページにて『TCW 最高の宴となったわけ』詳細完全版収録

’20年02月27日号猪木喜寿 TakeoverNXT J鈴木TCW リアルジャパン女子 水曜生TV戦争

 そんなTCWを報じる各プロレスマスコミの記事の量には、自分は当然まだまだ不満はあるのだがあえて今回は、ヤマモ式・独自目線の強調としておそらく東京からの観戦組は自分くらいで、もしいたとしても 二人か三人くらいで、さらにメディアのリポートは皆無だったと思われる、以下の興行をこの機会にクローズアップしてみたい。

 賞のカテゴリーはなんでもいい。
 金賞でも、殊勲賞でも。

 今年の1月に熊本在住のKPB=プロレスバックアップクラブ・中島様よりオファーを頂き、熊本市内で自分のトークイベント「ヤマモ酒」を開催。
 中島さんが「ちょうど明日、熊本と隣接する大牟田で九州プロレスがある」との事で同氏のはからいで初観戦させていただいた。


■ 九州プロレス 『大牟田ば元気にするバイ!』
日時:2020年1月19日(日)
会場:福岡県大牟田市民体育館 観衆706名

①大牟田の人気者 vs 博多のお祭り男
<20分1本勝負>
〇ジャー坊(10:57秒 エビ固め)※バックドロップ ●田中純二

②2AW提供試合〜薩摩おごじょ九州凱旋〜
<30分1本勝負>
●進垣リナ(11:26秒 片エビ固め)※みかんでポン 〇藤田あかね

③大牟田ば元気にするバイ!〜新春スペシャル6人タッグマッチ〜
<60分1本勝負>
〇めんたい☆キッド & 桜島なおき & ラ・カステーラ
 16分33秒 めんたいスプラッシュ⇒片エビ固め
玄海 & ●阿蘇山 & 佐々木日田丸

 まず、体育館への入場時から違った。とにかく「お客さんを暖かくもてなそう」という気遣いが随所に感じられるスタッフの笑顔とエスコート。
 そしてリングアナウンサーの活舌が良く、場内アナウンスも的確で聞き取りやすい。

 またこの手の地方インデイーでは、地元協力者・議員らの紹介や挨拶などが延々と続くのを覚悟しなければいけないのが常なのだが、来賓の入退場やマイク渡しなどもスムーズで試合開始前のセレモニーは実にテキパキと終了。この時点で自分は「この団体はあなどれない」と直感。その後は正に思った通りの展開が続く事になった。

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 第一試合の開始前に負傷欠場中のばってん×ぶらぶらによる「ちびっこプロレス教室」。
 実は最初のサプライズはここで訪れた。

 ばってん×ぶらぶらは皆様ご存じの通り、前リングネームの「ばってん多摩川」時代に東京で活躍。お笑いプロレスの西口プロレスを始め、各インデイーやDDTなど多くの団体に出没。

 一時は新日・全日・NOAHなどのメジャーどころを除けば、新木場などの中小の会場で彼の姿を見ない興行はないと言ってもよいぐらいだった。

 ただ、これは今だから言えるのだが、当時の彼の試合やパフォーマンスは自分には全く響いて来なかった。
 それは各プロモーションでの彼の立ち位置が「便利屋」的なものに終始したのと、彼に怒られるかもしれないが、数々の興行に呼ばれる或いはあちこちを渡り歩く事で、プロレス界の顔役的な立場にいる事だけを彼が楽しんでいるように見えて、プロレスを単なるアイテムとして使っているように見えていたからだ。(ばってんさんゴメン!)

 だがこの日の彼は明確に違った。
 子供たちに優しく、また丁寧にプロレスのルールや所作を指導する彼の眼や表情は、もちろん笑顔ではあるが明らかにに真剣なもので、またプロレスをどう観れば面白いのかを観客にマイクで語りかける彼からは「この前説でなんとしても客を乗せて、これからの試合に繋いでいくんだ」という使命感を感じた。

 特に「ちびっこプロレス教室」を単なる試合前の時間稼ぎではなく、一個のエンタメとして確立していたのは良かった。

 3カウントの抑え込み体験のコーナー。
 まずちびっこをマットに寝かせたばってんが「いいかい、上からこういう風にかぶさって・・・」と自分が抑え込んでレフリーにカウントを取らせる。
 当然、1、2で子供が肩を上げるのに合わせてばってんがキックアウトされるかと思うが、そこでばってんが子供の肩を強引に抑え込んで3を取ってしまう。

 次の瞬間、ばってんは「子供に勝ったぞー!!」と雄たけびを上げる。意表をつかれた場内は爆笑と同時に大ブーイング。

 ある意味、ベタなおちではあるのだが、遥か遠方の東京から来場した自分は、ばってんが作り出した、地方ならではの暖かい会場の雰囲気に一発でノックアウトされた。

 そして始まった第一試合は彼がJWPのファン時代からの付き合いでもある田中純二選手の登場。自分的には彼が九州に帰ってからを思うと、本当に久しぶりの再会となる。
 思えば純二君も、もうキャリア的にはベテランの域なのだが、その童顔とグッドシェイプな体形の維持で今現在でもフレッシュなイメージを維持している。
 この日は初登場(だと思う)の地元キャラのマスクマンが相手。なごやかな中にも随所にハードさを散りばめたところは、流石バチバチのバトラーツ出身。

 大会に華を添える2AWとアイスリボンの女子の試合は九州プロレスの純マッチではないので多くは書かないが、進垣リナ、藤田あかねの両選手は、その美貌と共にレスリングのスキル自体も基本がしっかりしたもので、今後の女子プロレス界はここからまだまだ上がっていけると実感した。

 メインは6人タッグマッチ。
 玄海が放つレスラーとしてのオーラの強さと、近寄り難い眼光の鋭さにまず驚く。
 そして、エースのめんたい☆キッドの立ち姿の綺麗さ、背筋を伸ばした姿勢の良さが目につく。

 試合が始まればハードヒットとハイスパートの連続の息をもつかせぬ展開に正に驚愕。

 実は自分はこの試合に出場した桜島なおき選手のことがずっと気にかかっていた。
 確か週プロのレポートだったと思うが、レジェンドの選手とタッグを組んだ試合後の彼自身の表情が感極まっていて、ここからは自分の全くの憶測だが「おそらく、この人はクラシックなプロレスをとても大事にしている人なのだろう」と興味が勝手に高まっていた。

 是非、そのファイトを一度生で観たいと思っていたので、思わぬ形で実現したこの機会に、胸が踊った。

 間近で観る桜島選手は、均整の取れた体格。彼は、やはりあえて昭和世代の技ひとつひとつにこだわり試合を組み立てていくのだが、それがこの時代にはかえって新鮮。

 ジュニア時代の藤波辰爾を思わせる真面目なファイトに加え、僅か10秒の間での打点の高いドロップキックの6連射など、期待を超える大活躍。スキンヘッドにヒゲという風貌が逆に親しみ易さを感じて、自分は完璧に彼のファンになってしまった。

 また総合格闘家としてデビューした佐々木恭介選手が、九州の地で佐々木日田丸にリングネームを改め、どこに出してもおかしくない純プロレスラーとして見事に成長・変身を遂げていたのもとても嬉しかった。

 旧知の阿蘇山選手もあのゴツゴツとした持ち味を倍加させており、玄海とのぶつかり合いは迫力満点。
 怒涛のような16分を経験した自分は、そういえばリング上の6人が6人とも個性がバラバラだった事に気づき、自分がJWP時代にマッチメイクした8人タッグでの地方のメインを思い出し胸に込み上げるものもあった。

 試合内容はもちろん、九州プロを応援する観客の思いやりと熱さ。再度書くが案内スタッフの居ふるまい。全てが素晴らしい空間。
 この日は背広姿で観客対応にあたっていた筑前りょう太代表にもご挨拶できて正に大満足。身近にこの団体がある九州の方々が本当に羨ましく思った。

 改めてとなるが、KPB・中島様のご縁でコロナ禍直前に奇跡的に体感できたあの感動は今も忘れられない。

 本音をいうと、都市部で繰り広げられている、大企業をバックボーン或いはスポンサーとする大手団体の覇権争いや映像配信戦略には、自分はあまり興味が沸かない。

 勿論、プロレスを支えてくれる企業の皆様には感謝以外の何物もないのだが、プロレスはキング・オブ・スポーツであると同時に、そこから得られる土着のエクスタシーは子供、若者、そしてお年寄りの全世代で共有できる唯一のジャンルであり、歌謡曲や演歌、またジャパニーズPOPSを含めた、どの大衆芸能と比べてもその庶民性はナンバー・ワンであると信じるからだ。

 だとしたらビジネスとしてプロレスにどれほどの価値が有るかの観点のみにこだわるのではなく、この文化を残して次世代に繋げていく為に、こうした地方の人情に根付く団体の活動に業界は再度注目し、またプロレスファンの皆様には応援の根を絶やさないで欲しいと心から願う。

TCW新木場大会に参戦したテリー・ゴーディの娘ミランダと


 
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