[Fightドキュメンタリー劇場⑭]猪木vs.ロビンソン、I編集長が名勝負の定説に異論を唱える!

[週刊ファイト10月21日号]収録 [ファイトクラブ]公開中

[Fightドキュメンタリー劇場⑭] 井上義啓の喫茶店トーク
▼猪木vs.ロビンソン、I編集長が名勝負の定説に異論を唱える!
by Favorite Cafe 管理人


たった1度限りの試合だったが、誰もが名勝負と認める「猪木vs.ロビンソン」戦。しかしI編集長は「名勝負として諸手を挙げて賛成しているむきには申し訳ないけれども、これまで名勝負とされている定義を鵜呑みにしたらダメですよ」と一歩踏み込んだ読み方でこの試合を語る。
今回のテーマは「猪木vs.ロビンソン」の分析だが、トークは嵐山・渡月橋へ、そして黒澤映画、川中島の戦いまで行き着く。まさに「井上ワールド」全開の喫茶店トーク。

■ 闘いのワンダーランド #018-019 (1996.12.25-26放送)「I編集長の喫茶店トーク」
1975.12.11 蔵前国技館
NWF世界ヘビー級選手権試合
アントニオ猪木vs.ビル・ロビンソン

(I編集長) これは昭和50年12月11日に行われた試合なんですよね。ところがこの日、全日系のプロモーターが全部集まりまして「力道山追善興行」という大会を打ってるんですよ。これは日本武道館で行われた力道山十三回忌の全日本プロレス系の試合で、一方の新日本プロレス側は蔵前国技館で「猪木vs.ロビンソン」戦をやるというね。場所は離れているけども同日興行なんですよね。これは非常に話題になった試合ですよ。

(I編集長) その時に力道山の奥さん、敬子未亡人あたりが「猪木は全く義理をわきまえていない。なんで力道山追善興行に出てこないんだ」ということで、猪木を力道山の弟子とはもう認めないというような非難を新聞発表などで堂々とやったんだよね。しかし、これ、そこだけを知っておられるファンの方はね、やっぱり猪木の対応はちょっとおかしい、となるんですよ。

力道山十三回忌追善特別大試合(日本武道館)、敬子さん

(I編集長) でもそうじゃないんですよね。猪木vs.ロビンソン戦の方が先に決まってたんですよ、これ。後から日本武道館の追善興行が割り込んできましたからね、これをね、いまさら変える訳にはいかなかったんですよ。だからそこらへんをハッキリ認識してもらわないと、一方的に全日さんがぶち上げたアドバルーンだけを活字なんかで読みますと、なんか猪木は非礼なやつだとなっちゃうんですけどね。だから、そこらへんをまず、頭に置いておいていただきたいというのが私からのお願いです。

週刊ファイトの回想記事より抜粋

(I編集長) 猪木の試合というのは、常に猪木が「柔」で相手レスラーが「剛」というパターンになるんですけども、この試合はその価値感が逆転してますよね。今まで「巌流島の決闘」と言われた猪木vs.小林戦にしても、本当に巌流島でやりました猪木vs.斎藤の試合にしても、世間の人たちは「どっちが武蔵なんだ、どっちが小次郎なんだ」という、当時からそういったつまらん話をしてましたよ。

(I編集長) なんで「つまらん話」なのかというと、巌流島の決闘の勝者は武蔵なんだからね。ところが猪木はキャラクター的にどうしても「柔」の小次郎なんですよ。だから猪木の闘いを「巌流島」に見立てるのは所詮ナンセンスなんですね。小次郎は負ける方ですから。まあ、このビル・ロビンソンとの試合を「巌流島の決闘」とは誰も言わないけども、あえてつまらん話を言わせてもらえれば、この時はいつもとは逆転していて、猪木がキッチリと「武蔵」を演じた非常にユニークな試合ですね。

(I編集長) この試合では、仕掛けの瞬発力はロビンソンの方が遥かに上だったんですよ。こんなことを言ったら、猪木が怒るだろうけどね、技のとっかかりというのは常にロビンソンのほうが先でしたよね。猪木はもう、なすがままに投げられたりね、バックを取られたりね。そりゃぁ、ロビンソンというと、「ビリー・ライレー・ジム」でナンバーワンの男ですからね。

(I編集長) これはさすがに猪木も、あの仕掛けの瞬発力には勝てないと見えましたね。先制攻撃を仕掛けていったのはロビンソンですよ。取った瞬間に「バーッ」と足払いで投げたり、「クルッ」とバックを取ったり、こう指で「クルッ」と回したり、これはまあ、あのゴッチもやりましたけどもね。そういった仕掛けの瞬発力の速さと言うか、これに猪木はついていけなかったというのが一般的な見方だし、試合を見てもありありとわかると思うんですね。 

▼ウィガンにある通称”蛇の穴”ビリー・ライレー・ジムと英国70年代後期

[ファイトクラブ]爆弾小僧ダイナマイト・キッド追悼!剃刀戦士からステロイド禍の恐怖まで

(I編集長) これまでの猪木の試合っていうのは、あくまで猪木はテクニシャンですから、必ず「柔」の立場にいる。対戦相手のジョニー・パワーズやバレンタインあたりは「剛」の立場に立つ。「柔」対「剛」というね、この図式が一般化されてましたよね。
ですが、この試合に限っては二人が同じタイプのレスラーだから、ロビンソンが「柔」で、猪木が「剛」と逆転した形と言いますか、猪木の試合としては非常に珍しいパターンの試合だということが、この試合の一つの定義なんですよ。これは皆さんもそう考えておられると思うんですよ。それはそれで間違いないですよ。

猪木vs.パワーズ、猪木vs.バレンタイン

(I編集長) ただ私が「嵐山」なんかで考えたのは、そのひとつ先ですよ。猪木がしゃかりきになって向かって行ったんだけれども、ロビンソンのテクニックに、抗いきれなかったという見方について、これはおかしいんじゃないかというのが、猪木弁護士会の会長としての私の言い分なんですよね。これから私が独自な反論を展開しますけどね、これがこの試合について私が聞いて欲しいところなんですよ。

(I編集長) ここでちょっと別の試合の話になりますけども、この試合から5年後でしたか、大阪の高槻というところがあるんですけども、そこでね、ビル・ロビンソンとドリー・ファンク・ジュニアとが30分1本勝負で闘ったんですよ。これは非常に珍しいマッチメイクなんですよね。おそらく、プロレス者と言えども記憶に無いと思うんですよ。これはもうタイトルマッチでも何でも無いし、その高槻で馬場さんとかが特別な試合をやるという事でもないので、取材に来たのも東スポさんと僕ぐらいのもんでしたか。だから思い切ったマッチメイクをやったと思うんですね。これは後で聞いたところによると、ドリーのほうが一騎打ちをやらせてくれというようなことで実現したと聞きましたけどね。だから非常に珍しいマッチメイクですよ。
するとね、誰だって、もう山あり谷ありの大技の乱舞で、すごい試合になっただろうと、皆さんそう考えると思いますけど、実はとんでもない話だったんですよ。これね、ロビンソンが仕掛けると、ドリーが必死になってカットするんですよ。全然技を掛けさせないんですよね。逆にドリーが飛び込んでいこうとする、技を仕掛けようとする。するとロビンソンがキレイにかわすんですよ。それでこんなことをやってね(人差し指を立てて横にふる)ロビンソンが「No,No,No」と、嫌な態度でね。ハッキリ言って「ノー・ノー」なんてこんなことをするのは私は嫌いだけどね。だけど試合の中で5回も6回もやってましたよ。

ドリーvs.ロビンソンは地味な試合展開に終始

(I編集長) 当然、会場はブーイングの嵐ですよ。そりゃ凄かったですよ、そりゃそうですよ、観客はあの二人だから大技が乱舞すると思っていたのに、全部カットするんだもの。ディフェンスして、大技が全然出ない。たまにロビンソンの足払いあたりが出ましたけど、その程度でね。
もうダブルアームスープレックスなんてとんでもない話で、全然出てこないし、スピニング・トー・ホールドも出てこない。ロビンソンとドリーのエルボー合戦、そのくらいだったですかね。だから、ブーイングの嵐というのは当然なんですよ。

▼武藤敬司、ドリー・ファンク・ジュニアのレスリングスクール訪問

武藤敬司、ドリー・ファンク・ジュニアのレスリングスクール訪問


記事の全文を表示するにはファイトクラブ会員登録が必要です。
会費は月払999円、年払だと2ヶ月分お得な10,000円です。
すでに会員の方はログインして続きをご覧ください。

ログイン