[ファイトクラブ]TENETとウルティモ・ドラゴンは史上最高の皿回し

[週刊ファイト7月1日号]収録 [ファイトクラブ]公開中

▼TENETとウルティモ・ドラゴンは史上最高の皿回し
 text & photo by 猫山文楽拳
・永遠のプロレス少年のいま
・「史上最高の皿回し」?ウルティモ・ドラゴンは回転ドア
・反転するしゃちほこBOYとTENETニールの相似性
・順行?逆行?社会人プロレス団体の現状
・突き詰めたリアルの凄みにフェイクは勝てない


 2021年2月岡山県新倉敷にあるホテルの宴会場でドラゴンゲートを取材したときのことだ。
 ウルティモ・ドラゴン選手の入場に不思議な既視感を覚えた。

 なにもかもが変わらない。健康な男の色気がある。常にベストコンディションで臨んでいるのがわかる。レジェンドは時さえ自在に止められるのか。実際現れた瞬間から数秒間観衆は完全に彼の一連の動作に釘付けになっていたと思う。圧倒された。


 セントイン倉敷大会は、岡山県矢掛町出身のしゃちほこBOY選手の地元凱旋大会で、記者は昨年12月に岡山県民となり奇遇にもまさにこの日がプロレス記者に復帰した最初の取材だった。

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 白状するとこの撮影は内心舞い上がっていた。実は会場の片隅にめったにプロレス観戦に来ない娘が来ていた。母親のしばらくぶりの記者としての仕事、移住して初の岡山でのプロレス撮影を見守るために。2020年12月のクリスマスの夜荷造りをし翌日26日に大阪をあとにして親子ふたりで岡山県の片田舎の古民家に引っ越した。移住して3週間は、近隣住民との接触を避けひきこもって暮らした。その冬は例年になく厳しい寒波で、娘は早朝山から降りてくる暴風で自転車ごと飛ばされそうになりながら染色の仕事に通った。

 記者に復帰をして初の取材が移住してきた岡山県ゆかりの選手の興行であったことに親子で感無量の極みだった。
 移住生活のすべてが順風満帆であろうはずもなく村社会日本ではよくある余所者に対する警戒心に戸惑うこともあった。家族についてきた、そこが岡山県だったというだけのことなのに、重く受け止められてしまった。

 移住は娘の転職先。彼女が自立したければ記者だけ大阪に残っても良かった。
 誤解なきように追記しておくが村のご近所の人々はみなさん親切な人ばかりなので生活面に何も不安はない。
 今の世は本人不在のうちにどんなに丁寧に積み重ねてきた信頼も思い出も簡単にどす黒く塗り替えられ妄想が現実をも作り変えてしまう恐ろしい時代だ。コロナがなかったら起こらなかった悲喜劇は巷にいくらでも転がっている。
 現実を塗り替えるで思い出した。

 コロナ禍にロードショー公開に踏み切って世界興収360億円の記録的なヒットとなったクリストファー・ノーラン監督作品「TENET」。

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 本作品のストーリーの軸のひとつが時間の逆行で、主人公は「起きてしまったこと」の修正のために時を遡る。かつて大林宜彦監督作品に「時をかける少女」というのがあったが、あんなわかりやすい甘いストーリーであるはずもなくひたすらソリッドで難解、また心臓の鼓動と連動するかのような音楽が緊張感を皮膚感覚で煽り立てる。

本作品の肝がまさにこの「難解さ」。なぜなら一度見ただけでは疑問符だらけでもう一回確認してみたくなる。かく申す記者は本作品の沼にはまって公開中12回映画館に足を運び、うち5回をIMAXで観賞した。

 つい先ごろ、wowwowシネマで見た。臨場感がまったくなかった。特に本物のボーイング747が爆発炎上するシーン(ノーラン監督がCGより実物を使う方が安かったとコメントしているがたぶん嘘)は、たまたニールを演じたロバート・パティンソンが共演者に「スタントドライバーの方ですよね」とまで言われたとんでもなくデンジャラスなカーチェイスシーンが、気の抜けたビールみたいにぬるく感じられ、改めてつくづく本作品はIMAX上映のために作りこまれた作品なのだと痛感するとともに脳裏によぎったのが、ドラゴンゲートプロレスだった。

 ドラゴンゲートの縦横無尽に展開する選手同士のハイスピードバトルは映画のクライマックスシーンにおける敵味方入り乱れし時間軸の挟み撃ち、挟撃作戦を彷彿させる。
 しかも彼らのバトルは、取り直しのテイクを繰り返し編集作業により完成させたものでなく、リアルタイムに起きている。







 ドラゴンゲートプロレスの映像配信も確かに素晴らしい。だが彼らの手に汗握る超人の如きプレイと臨場感はやはり映像でも写真でも完全再現は不可能だ。
 プロレスラーの生身の熱を体感するには会場に足を運んで観戦するしかない。

永遠のプロレス少年のいま
 ウルティモ・ドラゴンのプロレスラー人生を「大河ドラマ」と評したのは本誌タダシ☆タナカ記者。
 確かにウルティモ・ドラゴン、浅井嘉浩=闘龍門の歴史は「国盗り物語」の如く混沌としてめまぐるしく「信長」の如く壮大かつ「花神」の如く人間味豊かでありしかして「花の乱」にも似てときに時代の大きな波に身を削られて立つ荒法師の姿を彷彿させる。

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